かぶき町結婚相談所【土方十四郎編】 〜命を捨てた男の欠けたピース〜   作:Madocca

17 / 17
お越しいただきありがとうございます!

『かぶき町結婚相談所・土方十四郎編』
第14話です。

土方十四郎という男の本能…

とくとご覧あれ。

最悪(!?)の出会いから始まる二人の関係や、真選組のドタバタな日常、そして互いの傷を優しく癒やしていく愛の軌跡を、挿絵(AIイラスト)と共にお届けします。

※今後は【ジャンプ発売日】に更新予定です!
少しでも楽しんでいただけましたら、いいね、ブクマ、評価やコメントをいただけますと大変励みになります❣️


#14 キレる大捜査線 土方を封鎖せよ!

幾多の修羅場をくぐり抜けてきた真選組屯所が、

 

今やかつてない

大混乱の渦に叩き落とされていた。

 

「おい待てぇぇぇ!

 

脱走患者

捕まえろぉぉぉ!

 

点滴ブチ抜いて走る奴があるか!

バカ野郎がぁぁぁ!」

 

「副長! 頼むからベッドに戻ってください!

 

病院の医師が、

包帯巻いたまま

 

白目剥いて追っかけてきてますって!

 

このままだと

俺の首がリアルに飛ぶんですよぉぉぉ!」

 

救命病院の看護師たちが

悲鳴を上げ、

 

山崎が

胃を痛めて叫び散らす中、

 

当の本人はどこ吹く風。

 

胸に痛々しいほどの包帯を巻き、

 

そこから滲み出る

赤黒い血など意にも介さず、

 

土方十四郎は

臨月の妻・乙羽の肩を抱き寄せたまま、

 

屯所の畳にドカリと腰を下ろしていた。

 

銃弾は

 

左胸上部を深く抉り、

 

摩擦熱と凄まじい衝撃波によって

肉は裂け、

 

肋骨には亀裂が入っている。

 

本来であれば

麻酔を打たれ、

 

集中治療室のベッドに

厳重に縫い付けられていなければおかしいレベルの

 

「重傷」である。

 

ひとたび動けば

傷口は開き、

 

激痛が

 

全身を締め上げるはずであった。

 

だが、病院のベッドで

「乙羽が屯所から姿を消した」と聞いた瞬間、

 

土方の脳内で

 

何かが力強く弾けた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

(……乙羽がいねぇ……?

 臨月のあいつが、一人で外に……!?)

 

その瞬間の記憶は、

土方にとって

 

もはや

 

断片的な残像でしかない。

 

自分を止めようと

飛びついてきた医者を

 

肘打ちで薙ぎ払い、

 

腕に刺さっていた点滴針を

 

問答無用で

引き抜き、

 

病院の窓ガラスを突き破る勢いで

 

跳び出した。

 

激痛で視界が赤く染まろうが、

血を吐こうが関係ない。

 

頭にあったのは

 

「乙羽を抱きしめ、無事を確認する」という

 

猛烈な本能だけだった。

 

「土方さん……頼むから

 

一旦横になってくだせぇ。

 

あんたが

乙羽さんの横で

 

血を流しながら

仁王立ちしてるおかげで、

 

乙羽さんが

余計に息絶え絶えになってまさぁ」

 

沖田がやれやれと首を振りながら、

 

屯所の入口を封鎖するように

隊士たちを配置していく。

 

その背後では、

駆けつけた万事屋の面々が

 

呆れ果てた顔で

壁に寄りかかっていた。

 

「たく……

 

『踊る大捜査線』気取りで

『屯所を封鎖せよ!』とか

 

言ってる場合じゃねぇんだよ。

 

封鎖されるべきは

 

お前のその開いた傷口と、

バカすぎる脱走癖だっつーの。

 

マヨネーズの摂りすぎで

脳みそまで油膜で覆われてんのか?」

 

「そうネ! この脱走マヨブタ!

 

乙羽ちゃんは

臨月でただでさえ大変なのに、

 

血みどろの旦那が

病院から走ってきたら

 

ショックでプレッシャー破水しちゃうアル!」

 

「神楽ちゃん、変な単語作らないで!

 

……でも土方さん、

 

本当に

少しは横になって手当てを受けてください!

 

乙羽さんも

心配そうな顔で

 

固まっちゃってますから!」

 

大騒ぎする周りの声など、

土方の耳には一切入っていなかった。

 

彼は

血の混じった荒い息を吐き出しながら、

 

自分の隣に座る乙羽の小さな手を、

骨が軋むほどの力で握りしめている。

 

離せば、

 

二度と会えなくなってしまうかのように。

 

「……黙ってろ……。

 

俺は、乙羽のそばから動かねぇ。

 

病院なんぞに

転がってるヒマがあったら、

 

ここで

乙羽とこの子の呼吸を聞いてる方が……

 

万倍マシだ」

 

低く、しかし絶対に譲らない頑なな声。

 

土方は

激痛に歪む顔を強引に引き締め、

 

乙羽のお腹にそっと、

 

包帯の巻かれていない左手を重ねた。

 

手のひらを通じて伝わる、

力強く温かな生命の脈動。

 

それだけが、

今の彼を現世に繋ぎ止める

 

唯一の錨であった。

 

「なあ、乙羽……。

 

すまねぇな、

騒がしくして。

 

……痛むか? 苦しくねぇか……?」

 

周りの大騒ぎなど

一切目に入っていないかのように、

 

ただ二人だけの世界に没入し、

 

愛おしそうに

乙羽の顔を覗き込む土方。

 

その刹那、

土方の脳裏に、

 

あの銃撃を受けた瞬間の

 

凄絶な光景が

 

フラッシュバックする。

 

――雨の降る小久保大臣の警護現場。

 

闇から解き放たれた

刺客の銃弾が、

 

空気を切り裂いて

 

土方の胸を穿った瞬間。

 

(ガアアアアッ……!!)

 

肉が焼き切れる音と、

 

全身の神経が焼き焦げるような

灼熱の激痛。

 

視界が暗転し、

 

膝が崩れ落ちそうになった

そのコンマ一秒の狭間で、

 

土方の胸を支配したのは

 

死の恐怖などではなかった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

(……こんなところで……死ねるかよ……!!)

 

脳裏に浮かんだのは、

 

自宅の布団で

愛おしそうにお腹を撫でながら

 

自分を待つ、

 

妻の微笑みだった。

 

自分は侍だ。

真選組副長だ。

 

だがそれ以上に――

 

俺は、

あの女の夫で、

 

これから生まれてくる子の

 

父親なんだ。

 

『死に場所』を探して、

刀を振り回していた

 

過去の自分は、

 

もうどこにもいない。

 

今の自分には、

 

泥を啜ってでも

生きて帰らなければならない

 

「帰る場所」がある。

 

「ナメんじゃねぇぞぉぉぉぉ!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

胸から

鮮血を撒き散らしながら、

 

土方は咆哮した。

 

銃弾の衝撃で

激痛に狂う体を

 

野獣のような執念でねじ伏せ、

 

腰の村麻紗を一閃。

 

血を吐きながらも踏み込み、

 

刺客の刀ごと

敵の体を切り伏せた

 

あの圧倒的な執念。

 

それは男のプライドなどという

綺麗な言葉では収まらない、

 

泥臭く、

無骨で、

 

けれど何よりも重い

 

「妻と子への執着」そのものであった。

 

「……あの時な……

 

弾が撃ち込まれた瞬間……

 

不思議と、

痛みより先に

 

お前たちの顔が浮かんだんだ」

 

土方はゆっくりと視線を落とし、

 

乙羽の手を握る力に

そっと愛を込めた。

 

「俺はもう、

 

お前たちを置いて

死ねる体じゃねぇんだよ。

 

だから……

頼むから、

 

俺の目のとどく場所にいてくれ。

 

……離れるな」

 

不器用で、

命がけで、

 

あまりにも愛が重すぎる鬼の副長。

 

血の匂いと

煙草の香りが混ざりあう

 

屯所の一室で、

 

周囲の呆れ顔と

温かな空気に包まれながら、

 

土方は

乙羽の返事を待つように、

 

じっとその瞳を見つめた。

 

「十四郎さん……」

 

大きく潤んだ瞳が、

しっかりと土方を捉えた。

 

「私は……どこへも行きません。

 

ずっと

十四郎さんのそばにいます。

 

だから……

 

私が、十四郎さんの病室に行きます。

 

それなら、

十四郎さんも、

 

病院のベッドで過ごせますよね。」

 

乙羽は、

土方の目を覗き込み、クスッと微笑んだ。

 

十四郎の病室で、産気づいても構わない。

 

それは、

これまでの乙羽とは違う、

 

侍の妻の姿だった。

 

「……っ、乙羽……」

 

土方は絶句した。

 

自分を安心させるためなら、

 

病院のベッドの隣に付き添うことすら

迷わず受け入れる。

 

臨月という、

 

いつ何が起きてもおかしくない

自身の体を差し置いてでも、

 

夫の命と

怪我を

 

第一に案じて

 

微笑む妻の姿。

 

そこには、

かつて屯所で小さくなっていた

 

守られるだけの

 

儚い少女の面影はない。

 

どんな嵐が来ようとも、

夫の手を固く握りしめて

 

共に立ち向かう――

 

紛れもない「侍の妻」としての

 

強さと

覚悟が

 

宿っていた。

 

「……たく、冗談じゃねぇぞ……」

 

土方は

目元を拳でゴシゴシと力任せに拭うと

 

苦笑交じりに吐き捨てた。

 

「病院のベッドで、

 

旦那が胸から血ぃ流しながら

カミさんの出産に立ち会うとか……

 

どんな前代未聞のコントだよ。

 

お前のおかげで、

俺の面目は丸潰れだ」

 

そう軽口を叩きながらも、

 

その瞳には、

溢れんばかりの愛おしさと、

 

妻への深い感謝が滲んでいた。

 

土方は握りしめた乙羽の手に、

額をゆっくりと押し当てる。

 

その感動的な光景を、

部屋の外で、固唾を飲んで見守っていた一同から、

 

一斉に脱力したような声が漏れた。

 

「……ううっ!

 

トシぃぃぃ!

乙羽ちゃんんん!

 

なんて素晴らしい

夫婦愛なんだぁぁぁ!

 

俺も……

俺もこんな素敵な奥さんに

 

『病室まで付き添うわ』って

 

言われたいぃぃぃ!」

 

「おい近藤、

 

泣いてる暇があったら

救命救急の担架持ってこい、担架。

 

このバカ副長、

感動で誤魔化してるけど、

 

胸の包帯から

リアルに血がダダ漏れてんだよ。

 

乙羽ちゃんの神対応に

甘えてんじゃねぇぞ!

 

マヨラ―」

 

「へぇ、乙羽さんが病室まで来てくれるなら

 

安心ですねぇ。

 

じゃあ土方さん、

さっさと麻酔打たれて

 

ベッドに括り付けられてくだせぇ。

 

あ、

ついでに足を滑らせたフリして

 

点滴の針をもう三本くらい

深めに刺しておきますね」

 

「総悟ぉぉぉ!

 

お前

どさくさに紛れて

 

殺そうとしてんじゃねぇぇぇ!」

 

「ああっ! 副長!

 

叫んだら

また傷が開きますって!

 

ほら、

医師団が麻酔銃持って

 

廊下の角まで追い詰めてきてます!

 

乙羽さん、

すみません!

 

副長をお借りしますからねぇぇぇ!」

 

顔面蒼白の山崎。

 

屯所中に響き渡る怒号と悲鳴。

 

大騒ぎのなか、

隊士たちと万事屋の手によって

 

(半ば強制的に)担架へと押し込められていく

土方だったが、

 

その視線は

ずっと

 

優しく微笑む乙羽から

 

離れることはなかった。

 

「……乙羽。

 

病室で待ってるからな。

 

……絶対に、

すぐ来いよ」

 

不器用で、

けれど

 

世界で一番温かい約束を残して、

 

血まみれの鬼副長は

 

再び病院へと送還されていくのだった。

 

 

【挿絵表示】

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。