かぶき町結婚相談所【土方十四郎編】 〜命を捨てた男の欠けたピース〜 作:Madocca
第4話をお届けします。
乙羽を追い詰める闇の正体が、監察/山崎によって暴かれる。
近藤勲の独特なテンションと土方の覚悟が、朝を迎えたばかりの屯所を包み込みー
銀魂らしい空気感の中で、真選組の男気と土方の繊細な心理描写をじっくり描きました。
「挿絵(AIイラスト)」もあわせて、二人の世界観を一緒にお楽しみいただければ幸いです。
※今後は【ジャンプ発売日】に更新予定です!
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朝の光が真選組屯所の広い庭を白く染め上げていた。
竹刀を振る隊士たちの掛け声が爽やかに響き渡る一方、大広間には重苦しくもどこか滑稽な緊張感が漂っている。
畳の上にドカリと胡座をかいているのは、
局長・近藤勲。
その前には、欠伸を噛み殺しながらバズーカの整備をする一番隊隊長・沖田総悟と、帳簿を手にして眉をひそめる監察・山崎退が控えていた。
「よし、集まったな。
……トシが離れで『大仕事』をしておる最中だが、
俺たちも遊んでいるわけにはいかん」
近藤は腕を組み、真剣な眼差しで二人を見据えた。
威厳に満ちたその佇まい――
だが、頭にはなぜか「乙羽絶対護衛」と達筆で書かれた鉢巻が固く結ばれている。
「局長……その鉢巻は何なんですか。
あと、朝っぱらからなんですか『作戦会議』って。
俺ァてっきり、土方さんを罠にはめて切腹させる作戦かと思って
楽しみにしてたんですがねぃ」
沖田が心底つまらなさそうにバズーカの砲身を覗き込む。
「総悟! 滅多なことを言うもんじゃない!
今回の敵は、江戸の闇資産家と、
それに目を眩ませた母親だぞ!?
乙羽ちゃんという一人の乙女の尊厳と、
我が真選組副長・土方十四郎の初恋(仮)が
かかっているんだ!」
「初恋って歳でもねぇでしょう。
つーか山崎、お前なんか情報掴んでんのか」
振られた山崎は、焦ったように帳簿をパラパラとめくった。
「は、はい!
監察の調べによりますと、
乙羽さんを追い詰めている相手は、
かぶき町の闇金&不動産ブローカー『大蛇組』の
ボス・蛇山(へびやま)です。
母親に莫大な結納金をチラつかせ、強引に婚姻届を出させようと裏で画策しています。
今朝も手下のゴロツキどもが、屯所の周囲をウロウロと窺っていました」
「ふむ……大蛇組か。
名前にゴリラが入っていないのが気に食わんが、
やっておることは下衆の極みだな」
近藤は重々しく頷くと、バシッと畳を叩いた。
「いいかお前たち!
乙羽ちゃんはな、
トシが初めてその『欠けた心』を預けようとしている
大事な存在だ!
トシの幸せは真選組の幸せ!
よって本作戦を
『こちら江戸城前派出所・乙羽ちゃん絶対防衛&大蛇討伐大作戦』と命名する!」
「名前が無駄に長い上に他局の看板アニメのパクりですね。
著作権で消されますよ」
山崎が冷静に突っ込んだその時――。
バシィッ!!
大広間の襖が豪快に開かれ、朝の冷気が室内になだれ込んだ。
そこに立っていたのは、隊服の袖を軽く捲り上げ、口に火のついた煙草をくわえた土方十四郎だった。
一晩中の看病で目は少し血走っているが、その佇まいから放たれる圧倒的な殺気と気迫は、部屋の空気を一瞬で凍りつかせた。
「……おいゴリラ。誰の初恋(仮)だコラ」
「ト、トシ……!? 乙羽ちゃんは……!?」
近藤が慌てて鉢巻を隠そうとするが、土方は無視して部屋の中央へと歩み寄り、ドカリと腰を下ろした。
紫煙を静かに天井へ吹き上げる。
「寝たよ。……長年の憑き物が落ちたみたいにな」
「……へぇ」
沖田が少しだけ目を細め、口元に意地悪な笑みを浮かべた。
「あの土方さんが、
女一人守るために一晩中付きっきりですかぃ。
手ぇ出さなかったんですか? 手ぇ。
男失格ですねぃ」
「叩き斬るぞテメェ」
土方は低く吐き捨てると、眼光を鋭くして山崎を見た。
「山崎。さっきの『大蛇組』の話、詳しく聞かせろ」
「は、はい!
大蛇組は今市中の役人を買収し、
強引に書類をでっち上げて
乙羽さんを連れ去る構えです。
早ければ今日にも、
正式な『祝言』と称して
屯所に乗り込んでくる可能性があります!」
それを聞いた土方の目から、静かな、けれど苛烈な炎が立ち上った。
「そうかよ……。
自分たちの都合で人の人生を踏みにじるのが、
そんなに楽しいかねぇ」
土方はゆっくりと立ち上がると、腰の村麻紗の柄に手をかけた。
カチリ、と硬質な音が響く。
「近藤さん。作戦もクソもねぇ」
「トシ……?」
「あの女は……
乙羽は、自分の命と引き換えにしてでも
『好きな男』以外には下らねぇって決めて
生き抜いてきた奴だ。
……そんな奴の覚悟を、
汚ぇ金や権力で泥塗ろうとする奴らを、
俺は絶対に許さねぇ」
土方は振り返り、近藤、沖田、山崎を順番に見据えた。
その瞳には、かつて武州で茨の道を歩むと誓った時と同じ、一切の迷いのない武士(もののふ)の光が宿っていた。
「真選組副長・土方十四郎として命じる。
……大蛇組が
指一本でも屯所の敷地に踏み入れやがったら、
公務執行妨害及び真選組に対する反逆罪とみなす」
土方は口の端をニリと吊り上げ、不敵に言い放った。
「――全隊員、斬り捨て御免だ」
その言葉に、部屋の空気が一変した。
沖田は満足そうにバズーカを肩に担ぎ直し、「へいへい、そうこなくっちゃあね」と凶悪な笑みを浮かべる。
山崎もまた、腹を括ったように深く頷いた。
そして近藤勲は、豪快にハッハッハと笑い声を上げると、ドスンと己の膝を叩いた。
「聞いたかお前たち!
うちの副長が、
ベタ惚れの女のために腹を括ったぞ!!」
「ベタ惚れとか言うんじゃねぇ!!」
「いいじゃねぇかトシ!
男が命をかけて女を守る!
これ以上の真選組の仕事がどこにある!!」
近藤は立ち上がり、屯所の庭に向かって大声を張り上げた。
「全隊士に通達! 今日は祝い酒の準備だ!
寄ってくる虫ケラは残らず叩き潰せぇぇぇ!!」
「「「オーーッ!!」」」
庭から響き渡る、百人の隊士たちの雄叫び。
朝日が屯所を眩しく照らし出す中、乙羽を守るための、そして土方十四郎の「覚悟」を示した戦いの火蓋が、静かに落とされようとしていた。