かぶき町結婚相談所【土方十四郎編】 〜命を捨てた男の欠けたピース〜 作:Madocca
第6話をお届けします。
2人の男の愛の形が
真っ向から激突します。
金も
権力も
天人の力も
全てを超越したものとはー。
シリアスな人間模様から、賑やかな空気感へ移行する銀魂らしさのなかで、土方さんと乙羽の凸凹ながら通い合う愛情をじっくり描きました。
「挿絵(AIイラスト)」もあわせて、この世界観を一緒にお楽しみいただければ幸いです。
※今後は【ジャンプ発売日16時頃】に更新予定です!
気に入っていただけましたら、ぜひフォローやブクマで応援よろしくお願いいたします❣️
狂乱した蛇山が、大蛇の群れをなして疾風の如く襲いかかる!
鋭い牙が、毒の息が、土方の視界を覆い尽くす。
「全隊士、身構えろ! 副長の背中を守れぇぇっ!」
近藤の叫びとともに真選組が一斉に刀を抜くが、土方の速度はその全てを置き去りにした。
バシャアッ!!
踏み込んだ足が地面の砂利を爆発させる。
一瞬の閃光。
名刀・村麻紗の刃が、紫の霧を切り裂き、
大蛇の首を容赦なく撥ね飛ばす。
『ガァァァァッ!? な、なぜだ……
天人の力が……僕の完璧な愛が……
人間ごときにぃぃっ!』
「テメェのは『愛』じゃねぇ……
ただの粘着質な『執着』だ!!」
空中で身を翻した土方が、蛇山の巨躯の頭上へと舞い上がる。
「乙羽の未来に……テメェの居場所はねぇ!!」
『放てぇぇぇぇ一撃ぃぃぃ!!』
刀が振り下ろされる。
天然理心流の重厚な一閃が、蛇山の巨躯を脳天から一直線に真っ二つへと切り裂いた。
ドォォォォォンッ!!
凄まじい衝撃波が派出所の前庭を駆け抜け、巨体は地煙を上げて崩れ去る。怪薬の効力が切れ、ただの気絶したゴロツキの男へと戻っていく蛇山。
風が吹き抜け、朝霧が晴れていく。
静寂の中、刀を納めた土方は、肩で息をしながらゆっくりと振り返った。
「……終わったぞ、乙羽」
◇
「土方さんっ……!!」
己の身を案じる余裕など微塵もなく、
乙羽は素足のまま走り出し、
土方の胸へと飛び込んだ。
その大きな胸に顔を埋め、破裂しそうだった緊張と安堵から、涙をぽろぽろと零す。
「ご無事で……
ご無事で良かった……!
あの、私……
無我夢中でお袖にしがみついて……
失礼なことを申し上げてしまって……
ごめんなさい……っ!」
「……バカ野郎」
土方は不器用な手つきで、
乙羽の背中に手を回した。
力強く、二度と離さないと言わんばかりに引き寄せる。
「謝るな。……助けられたのは、俺の方だ」
その感動的な光景の横で、沈黙を守っていた真選組の隊士たちが、一斉に爆発した。
「うおぉぉぉぉぉっ!! 副長ぉぉぉぉっ!!」
「勝ったぁぁぁ!
いや、勝った上に彼女ゲットだぁぁぁっ!!」
「『独りにしちゃダメになっちゃう』だってよ!
言われてぇぇぇ! 俺も言われてぇぇぇっ!!」
「トシぃぃぃぃぃっ!!」
近藤勲が滝のような涙を流しながら走り寄り、二人をまとめて抱きかかえんばかりの勢いで叫んだ。
「お前の幸せは、真選組の幸せだぁぁぁっ!
今日は宴だ!
江戸一番の宴を挙げるぞぉぉぉっ!!」
「ちょ、近藤さん!? まだ朝の九時ですぜ!?」
山崎の悲鳴も虚しく、隊士たちは勝ち鬨の声を上げ、太鼓を叩き、お祭り騒ぎへと突入していく。
◇
数時間後――真選組屯所・大広間。
「ささ、乙羽ちゃん! こちらへどうぞ!」
近藤にエスコートされ、大広間の上座へと通された乙羽。
だが、その目の前に広がる光景は、彼女が想像していた「優雅な祝宴」とは程遠いものであった。
ズラリと並ぶ、百人を超える汗くさい隊士たち。
壁にはなぜか『祝・副長ご成婚(仮)』と殴り書きされた半紙が貼り出され、中央には巨大な酒樽がドカンと鎮座している。
「野郎どもー!
我らが副長・土方十四郎と、
江戸一可憐な乙羽ちゃんの祝宴だぁぁぁっ!
飲めや歌えぇぇぇっ!」
近藤の開会宣言とともに、むさ苦しい男たちの叫び声が大広間に響き渡った。
「乙羽さーん! 副長のどこが良かったんですかー!?」
「マヨネーズ味のキスってどんな感じですかー!?」
「俺たちを捨てて幸せになる気ですか!副長ぉぉぉっ!」
飛んでき交う下品かつ温かい野次。
沖田は、端の方で「祝砲です」と言いながら小型のバズーカを天井に向けてぶっ放し、
山崎はなぜかあんパンを山盛りに積んだ三方を乙羽の前に捧げ持ち、
近藤はすでに上着を脱ぎ捨てて、裸踊りの準備を始めている。
「おいテメェらいい加減にしろ!!
乙羽が引いてんだろーがっ!!」
顔を真っ赤にした土方が、怒号を上げながら隊士たちを蹴り飛ばす。
しかし、その表情には隠しきれない誇らしさと、温かな喜びが満ちあふれていた。
土方は乙羽の隣にどっかりと腰を下ろすと、酒杯にトクトクと酒を注ぎ、照れくさそうに、けれど真剣な目つきで乙羽を見つめた。
「……すまねぇな、乙羽。
うちの奴らはこんなのばっかりで、
むさ苦しくて落ち着かねぇだろ」
土方は盃を掲げ、乙羽の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
「だけど……
ここにいる全員が、
あんたを歓迎してる。
……今日からここが、あんたの家だ」
周りの隊士たちが一斉に「ひゅ〜〜っ!!」「副長男前ぇぇぇっ!」と冷やかしの声を上げる中、近藤が大きな盃を手に乙羽の前へと躍り出た。
「さあさあ乙羽ちゃん!
武士の妻になる覚悟、見せてもらいましょうか!
この特大盃、一干し……
とは言わんが、一言!
我らが副長への『愛の誓い』を、
このむさ苦しい男達にぶちまけてやっておくれ!!」
百十数のむさ苦しい男たちの視線が、一斉に上座の乙羽へと集まる。
近藤の迫力と体の大きさに固まる乙羽。
「え……え……」
緊張のあまり頬を赤らめ、盃を持つ手が震えている。思わず、盃を飲み干す乙羽。
「……!!」
初めて飲む強い日本酒に、乙羽の顔はカーッとなった。
口を押さえたまま、瞬きも出来ずに固まる。
「おい近藤さん!!
乙羽に何飲ませてんだテメェはぁぁぁっ!?」
顔を真っ赤にして固まった乙羽を見るや否や、土方は座敷を蹴って立ち上がり、近藤の襟首を掴んで激しく揺さぶった。
「これは真選組特製の超辛口・鬼殺しだぞ!?
酒の味も知らねぇ女の子に
いきなり煽らせてんじゃねぇよバカ野郎が!!
山崎! すぐ水持ってこい! 氷もだ、急げ!!」
「は、はいぃぃっ! すぐ持ってきます!!」
山崎が脱兎のごとく厨房へ走り去る。
土方は焦り混じりの顔で乙羽の隣に膝をつくと、彼女の背中にそっと、けれど大きな手のひらを当てて優しく撫で下ろした。
武士の力強い手でありながら、乙羽の体調を気遣うその触れ方は、驚くほど繊細で温かい。
「乙羽、大丈夫か? 吐き気はしねぇか?
……たく、無理して飲まなくていいんだよ。
俺の隣でじっとしてりゃいいんだ」
山崎が差し出した冷たい水を急いで受け取ると、土方は自らグラスを乙羽の口元へと優しく添えた。
「ほら、ゆっくり水飲め。……すまねぇな、
うちの馬鹿大将が調子乗って変な無茶振りして。
言いたかねぇことは何も言わなくていい。
お前がここにいてくれるだけで、
俺は……俺たちは十分なんだからな」
口元を押さえてパチパチと瞬きをする乙羽。
その頭を、土方は隊士たちの前も憚らず、愛おしそうに大きな手でぽんぽんと撫でた。
「副長……過保護すぎる……」
「あの鬼の副長が、水まで飲ませてあげてる……」
「俺たちの副長が完全にデレデレの愛妻家だぁぁぁっ!」
周りの隊士たちがニヤニヤしながら殺気立つ中、土方は鬼の形相で「黙って見てろドブネズミ共!!」と一蹴する。
土方の腕のぬくもり、
背中を撫でてくれる優しい手、
そして「無理しなくていい」と
全力で守ってくれる声。
ああ、
これから始まる私の人生は、
この人の大きな愛に守られて生きていくんだ――。
冷たい水を少しずつ口に含み、喉を通る心地よさと共に、乙羽の心に広がっていた緊張がすうっと溶けていく。
ポカポカと温かくなった胸の奥から、確かな「決意」が沸き上がってきた。
土方は心配そうに乙羽の顔を覗き込み、その小さな手をそっと包み込んだ。
「……落ち着いたか? もう大丈夫だからな」
乙羽は、自分の胸をとんとんと叩いた。
「あ……あの……みなさん!」
静まり返った大広間に、乙羽のか細く、けれどまっすぐな声が透き通るように響き渡った。
「あの……今日は、本当にありがとうございます。
それから……
昨日から、お騒がせしてばかりで、ごめんなさい」
「ごめんなさい」と口にした瞬間、
乙羽はハッとして、おそるおそる隣の土方をチラリと見上げた。
土方は、怒るどころか愛おしくてたまらないというように口元をゆるめ、「いいんだよ」と伝えるように、乙羽の手に重ねた己の手へそっと力を込めた。
その無言の肯定に背中を押され、乙羽は涙ぐみながら言葉を続ける。
「みなさん、今日は私を守ってくれて、
本当にありがとうございました。
……それから近藤さん。
私を土方さんに会わせてくださり、
本当に本当にありがとうございます。
こんな日が来るなんて……」
ぽろぽろと溢れ出す温かい涙。
己の境遇を呪い、愛されることを知らずに生きてきた彼女が、
今、人生で初めて掴み取った「真実の居場所」。
「あの……本当に大したことはできないけど……
みなさんと
楽しい家族になれたら嬉しいです。
土方さんにずっとついていきます。
よろしくお願いします!」
勢いよく畳に頭を下げた乙羽。
恥ずかしさと、胸いっぱいに広がる初めての幸福感で、顔を上げることができない。
その瞬間――。
「うおおぉぉぉぉぉんっ!!
乙羽ちゃぁぁぁぁんっ!!」
静寂を破ったのは、近藤勲の大号泣だった。
「言ったぞ! 『家族になれたら嬉しい』って!
『土方さんにずっとついていきます』って言ったぞぉぉぉっ!
トシぃぃぃ!
お前、絶対に幸せにしなかったら
俺が叩き斬るからな!
覚悟しろぉぉぉっ!!」
「近藤さん鼻水出てますよ、汚ねぇな」と冷ややかに言いながらも、沖田は満足そうに口元を歪め、バズーカを置いてパンパンと惜しみない拍手を送る。
「ま、土方さんを猛獣使いみたいに扱えるのは、
乙羽さんだけですからねぃ。
これから屯所の平和は乙羽さんにかかってますぜ」
「うわぁぁぁん! 乙羽さん、ようこそ真選組へぇぇぇっ!」
「副長! 乙羽さんを泣かせたら全隊士でクーデター起こしますからね!!」
「家族だー! 今日から俺たちも乙羽さんの家族だぁぁぁっ!」
男たちの地鳴りのような歓声と、温かな拍手が大広間を包み込む。
むさ苦しく、汗臭く、けれど誰よりも情に厚い男たちの愛が、乙羽の涙を優しく拭い去っていく。
土方は、顔を上げられずにいる乙羽の肩をそっと抱き寄せると、己の胸の中へとかばうように引き寄せた。
「……見たか、乙羽」
土方は照れくさそうに、けれど誇らしげに、耳元で低く囁いた。
「もう『ごめんなさい』も
『私なんて』も言わなくていい。
ここにはな、
お前を無条件で受け入れる
馬鹿どもしか
いねぇんだよ」
乙羽を抱きしめる土方の腕に、
ぎゅっと強い力がこもる。
「……ありがとな、乙羽。俺を選んでくれて」
「ひゅ〜〜〜〜っ!!」
「副長が耳元で甘いこと言ってるぞぉぉぉっ!」
「宴だ宴だー! 酒持ってこい!!」
野郎どもの容赦ない冷やかしと、近藤のバカでかい泣き声、そして天井を突き破るような賑やかな笑い声。
大正モダンの風が吹き抜ける江戸の街で、
居場所のなかった少女と、
孤独を背負った武士は、
こうして世界で一番温かく、
むさ苦しく、
そして愛に満ちた「家族」となったのだった。