平民、佇まいが優雅すぎて「身分を隠してる皇子では……」と勘違いされてしまう   作:訳者ヒロト

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6話 説教……っ!

 夜遅く。

 

 僕は図書室にいた。明け方までここで本とにらめっこするのがルーティーンと化そうとしている。

 

 故郷にいたころ、僕は魔術書を読むため違法なものを除いてあらゆる手段を試みたが、それでも魔術知識の入手は困難を極めた。

 

 そこで、ないなら自分で作っちゃえばいいじゃないの精神で、オリジナル魔術を編み出そうと昔から試行錯誤していたのだが。

 

 そう簡単なものでもなく、故郷では結局ひとつも作ることはできなかった。

 

 しかしこの場所なら――

 

 魔術に関するあらゆる知恵が結集している。僕がどこかで壁に当たれば、かつて同じ壁にぶつかった先人たちが助言をくれるのだ。

 

 今まで蓄えてきたアイデアと先人たちの知恵が融合し、ぼんやりと想像していた新魔術が明確な輪郭を持ち始めている。

 

 作れる、新魔術っ!

 

 僕は人目を気にせず没頭していた。

 

 制服はだらしなく着崩しているし、何度も頭をガシガシしたせいで髪は乱れているし、目は充血して血走っているだろう。お貴族さまには不快かもしれないが許してほしい。

 

 

「あれが一年の……」

「夜でもなんて優雅!」

「あの席だけ皇宮の一角のように見えるわ……!」

 

 

 ひそひそ話している人たちもいる。

 

 だがこの時間まで図書室にいる人間の多くはすごく勉強熱心研究熱心で、会話せずとも不思議な連帯を感じられる。

 

 僕は時間の経過を忘れるほど集中していたのだが、ふと顔を上げると、向かいに見知った顔を見つけた。

 

 

「あれ、ニナさま」

 

「やっと気づいたわね。ぜんぜん気づいてくれなくて、寝ちゃいそうだったのよ」

 

「お気遣いは嬉しいですが、声をかけてくださってよかったですよ」

 

「かけたわよっ! でもぜんぜん返事なくて、怒ってるのかなと思ったわよ!」

 

「ごめんなさい。僕、集中してると周りの音が耳に入らなくなっちゃう悪癖がありまして。頭をしばらくぶっ叩いてくれたら気付きますから」

 

「しばらくぶっ叩くって……せめて一度で気付きなさいよ」

 

 

 ニナさまは机の上にぐでーと上体を投げ出していた。

 

 

「で、どうなされたので? ニナさまも魔術の面白さに目覚めて図書室にお越しになった?」

 

「ざんねん違います。私にとって文字は読むものでなく、読み聞かされるものなのよ」

 

 

 箱入りすぎる……。

 

 

「ユリウスはこんな時間まで勉強?」

 

「新魔術を作ってるんです」

 

「ほーう。ならピッタリだったわ」

 

「何がですか?」

 

「ふっふっふ。ちょっと外に来なさいよ」

 

 

 

 

 

 僕たちは図書室の外にあるベンチへ移動した。

 

 もう時計の針は頂点を回りつつある。暗いので灯りの魔術を唱えると、宙に小さな光の玉が浮かぶ。

 

 

「私が練習中のやつだ。まだぜんぜんできる気がしないけど」

 

 

 灯りの魔術――『光あれ』は世界最古とも言われている魔術で、僕が今作ろうとしている魔術もこれの発展系だったりする。

 

 

「すぐできるようになりますよ。筋は悪くないみたいですし」

 

「悪くないってなによ。どうせ褒めるならとってもいいって褒めなさいよ」

 

「はあ」

 

「それで本題なんだけど――ユリウスは普段から私のお供としてよく仕えてくれているわ」

 

 

 といっても昼食を一緒に食べたり、授業でペアを組んだりしてるだけだが。

 

 

「特に、ユリウスのおかげで魔術が使えるようになりました。《火弾》は安定して発動するようになってきたの。感謝してあげてもいいくらいよ」

 

「感謝はしてください」

 

「あなた、日ごとに遠慮がなくなってくるわね。まあいいんだけど」

 

 

 ニナさまは懐から包みを取り出す。

 

 

「そこで贈り物を用意しました。これ。開けてみなさい」

 

 

 薄紙で包まれた四角い形状の物体。紙をめくってみると、それは本だった。

 

 紙質も装丁(そうてい)も最高級だ。相当に金のかかる代物だろう。表紙の右隅には皇室の印章――太陽に吼える獅子が刻まれている。

 

 しかしタイトルも著者名も書かれていない。開いてみても、すべてのページがまっさらだ。

 

 

「これは……?」

 

「白紙の本よ。皇室御用達の職人に仕立てさせるやつ。ユリウスは前途ある魔術師だそうだからふさわしいかなと思って。歴史に名を残す魔術師はみんな、二十歳頃までには一つくらい魔術書を記しているものらしいわ。ユリウスも頑張りなさい」

 

「……! ありがとうございます……!」

 

 

 読むばかりに気が向いていたが、しかし魔術師として生きていくならそう遠くないうちに書く側にまわるのだ。

 

 

「大事に使います」

 

「いいのよ。私、お金はあるからね。本くらい何冊でもあげるわ。教えてもらいっぱなしは具合が悪いから」

 

 

 あ、それから、とニナさまは手を叩いた。顎をつんと反らして言う。

 

 

「魔術だけでなくて、ちょっと礼儀作法も教えなさいよ」

 

「礼儀作法ですか?」

 

「そう。あなた得意でしょ。私のお辞儀を見て意見を言ってみて」

 

「得意ではありませんが……。僕は少し練習しただけの素人ですし。それに女性の作法は勉強したことがないので参考になる意見は言えませんよ。ニナさまにはちゃんとした先生がいらっしゃるでしょう」

 

「いるけど、マナーにうるさいから苦手なのよね」

 

「それが仕事なんでしょうよ……」

 

「じゃあ最上位のお辞儀やってみせるから。よく見ておくこと」

 

 

 ニナは立ち上がり、僕の正面に回った。

 

 スカートの裾を両手の指でちょこんとつまみ、ほんの軽く持ち上げる。

 

 口元ではにかみ、背筋をピンと伸ばしたまま片足を後ろに大きく引く。クラウチングスタートにも近い姿勢。膝を深く曲げて腰を地面すれすれまで落としていく。

 

 すでにふらついている。

 

 この数日で幾度か目にしたが、女性の最上位のお辞儀は片足立ちでスクワットするようなもので、かなりの習熟と筋力を必要とされるのだ。

 

 腰を落としきると同時に上体がぷるぷる震え出し、案の定、片足が体重を支えきれなくなってバランスが崩壊した。

 

 ニナさまは地面に手をつき、そのままぺたんと尻もちをつき、女の子座りになってしまう。

 

 

「どうよ?」

 

「ふむ……。ひとつ、ニナさまがお気付きになっていないであろう、そして劇的に改善するポイントがあります」

 

「さっすがユリウス! そういうのを待ってたのよ! なになに、聞かせなさい!」

 

「最後に転ばないようにしましょう」

 

「それは分かってるに決まってるでしょ! 馬鹿にしてんの!?」

 

 

 不満げに小さな唇をとがらせるニナさま。

 

 

「まあ、まずは筋力トレーニングからじゃないでしょうか。転んでいては話になりません。礼儀作法の稽古は昔からやっていなかったのですか?」

 

「つまんないからサボってたわ。メイドたちとお喋りする方が楽しかったもの」

 

「自業自得ですね……」

 

「今は練習してるんだからいいでしょ! つべこべ言わずに手伝いなさい!」

 

 

 小さな手を伸ばしてくるので手を貸すと、ニナさまは必要以上にぐいっと強く引っ張って立ち上がる。

 

 

「スカート」

 

「え?」

 

「スカートが汚れた」

 

 

 皇族という生物は自分で自分のスカートを払うこともできないのか。僕はため息をつきつつ土汚れをはたき落とす。

 

 

「結局こういうのは反復ですよ。お手本を見ながら何度もやって体に染み込ませるしかないかと思います。僕もそうしましたし」

 

「ふーん。じゃあもう一回やるから。私がコケそうになったらユリウスが支えてちょーだい」

 

「かしこまりましたよ……」

 

 

 立ち上がり、ニナさまの隣につく。

 

 

「どうぞ。これは想像ですが――体の真ん中に固い棒の芯を通すイメージです。その棒をまっすぐ降ろす。そしたら転びにくくなりますよ」

 

「いいアドバイスをするじゃない。やってみるわ」

 

 

 ニナさまは再びトライしたが、同じく体勢を崩して僕の方へと倒れ込んでくる。

 

 すぐさま腕を伸ばして支える。小柄なので腕の力だけで充分だ。脇の下に手を突っ込み、立ち上がらせる。

 

 

「ありがと……っ」

 

 

 そう囁くニナさまの整った顔立ちがすぐそこにあって驚く。

 

 僕は慌てて距離を取った。咄嗟に咳払いで誤魔化す。深夜に皇女と密着するのはマズイのではなかろうか。

 

 だがニナさまは特に気にしていないようだった。この程度の触れ合い、奉仕される側としては当然のことなのかもしれない。

 

 しかし周囲を視線で探ると、視界の端の木陰にニナさまの護衛の――サヤカさんが隠れていた。元々鋭い目つきがいっそう鋭くなっている。

 

 平民が皇女にベタベタするのは重罪だろうな……。

 

 

「ニナさま、コケないよう頑張ってください! 僕は応援します!」

 

「急にやる気をだすじゃない。いいわ、応えてみせましょう!」

 

 

 もちろんニナさまはコケまくり、その度、僕が支える羽目になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ぜんぜん出てこないじゃないか……!」

 

 

 スモーカーは隠れ家で項垂れていた。灰皿は煙草でいっぱいになっている。

 

 誘拐作戦を立てて十日。ユリウス少年が学園から出てくる気配はなかった。授業以外の時間はほとんど図書室にこもり切りとのことだ。

 

 

「なぜ? なぜだ? 身分を隠しているのは街で気楽に遊びたいからではないのか?」

 

「皇族の考えることは分かりませんね……」

 

 

 部下が困り果てたように眉を下げる。スモーカーは新たな煙草を噛んだ。

 

 

「こうなれば――発想を変えるしかない」

 

「といいますと?」

 

「簡単な話だ。向こうが勝手に出てきてくれないなら、誘い出すまで」

 

「なるほど……しかし、あの学園に密偵を送り込むのは至難の業ですよ。ほとんど不可能といってもいいほどです」

 

「そうだな――なら手紙だ。手紙ならばそれほど検査も厳しくない。きっと手元に届く」

 

 

 笑みを深め、美味しそうに煙草を吸う。

 

 

「かの皇子は無類の本好きらしい。本を餌にして誘き出せば出てくるかもな。貴重な魔術書を譲りたいとか、古書店でセールをするとか……そういう内容でどうだ」

 

「……どうでしょう。そんな手にかかるのは世間知らずの田舎者だけでは? 皇族が引っかかるとは思えません」

 

「まァ、やるだけタダだ。やってみよう。うまくいかなければまた案を考えればいい」

 

 

 スモーカーは背もたれに背を預け、煙草を右手の人差し指と中指で挟み持ち、窓の外に視線を投げる。

 

 

「やはり帝都の煙草はうまい。どうなるにしろ、この味の煙草を吸えるのも今だけかもな……」

 

「――スモーカーさん」

 

 

 部下が言いづらそうに口を開く。

 

 

「煙草、火がついてません」

 

「……ああ。ちょっと疲れてるようだ………」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 土曜日。

 

 生徒たちは金曜の放課後から友人同士で連れ立って街へ遊びに出たり、趣味にいそしんだりするのに、図書室にこもりきりの非リアもいるそうだ。僕のことである。

 

 寮の自室には戻らず、睡眠は椅子の上で二、三時間取っただけ。僕は新魔術の開発にのめり込んでいるのであった。

 

 そして夕方、僕はついに新魔術を完成させた。

 

 完成とはいっても最低限使える形に出来上がっただけで、改良の余地はまだまだある。むしろここからが本番だ。

 

 立ち上がり、伸びをして思い出す。そういえば手紙が届いてたな。

 

 ポケットに突っ込んでいたそれを取り出し、封筒を開いて目を通す。

 

 

==========

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==========

 

 

「無料でもらえる魔術書なんて偽物に決まってる。こんな杜撰(ずさん)な手口に騙されるわけないじゃないか」

 

 

 子供の頃から数えて、僕がいったい何冊のニセ魔術書をつかまされたと思っているんだ?

 

 やれやれ……。僕は席を立って外出の準備をする。

 

 ではあくどい商人あるいは詐欺師の顔を拝みに行くとするか。

 

 万が一にも、億が一にも本物かもしれないし。本物を本物と見分けられないおバカ商人はごくまれにいる。どんな魔術書であっても、借り物ではなく自分の所有物としてコレクションできるのは嬉しいのだ。

 

 場所はそう遠くないし、この時間でも営業しているようだ。

 

 僕は図書室を出た。

 寮に戻ってシャワーを浴び校門へと向かう。

 

 本を読んでいないとかなりの眠気に襲われる。睡眠は昔から僕の天敵だった。ショートスリーパーになりたいなあ。眠らなくてよくなる魔術とかないだろうか。

 

 ……作るか。

 

 決めた。次は眠らなくてよくなる魔術を作ってみよう。寝なくてよくなるなんてすごく体に良い魔術だ。

 

 校門が見えてきたあたりで、

 

 

「ユー、リー、ウー、スー!!」

 

 

 という呼び声が聞こえてきた。

 僕を呼び捨てにするのはこの学園に一人しかいない。

 

 寮のベランダから部屋着姿のニナさまがこちらに大きく手を振っている。

 

 

「そこで待ってなさい!! すぐ降りてくからね! 動いたら半額罪よ!」

 

 

 ……反逆罪と言いたかったのだろうか。ずいぶん財布に優しい刑罰になってしまっている。

 

 一分とかからずニナさまは地上へ降りてきて、大慌てでぱたぱた駆けてきた。制服をひっかけてきただけの姿だ。ボタンは外れてるし髪は乱れてるしで、気品とはほど遠い。

 

 

「どこ行くのよ! 外に出るならちゃんと私に言ってからにしなさい!」

 

「いつから許可制になったのやら……。街へ魔術書を買いに行くんです」

 

「へー! じゃあ私も行くわ。ついにお供を連れて街ぶらりよ。世直しするんだから」

 

「僕とですか? 僕以外にもお供の役をしてくれる人はいるでしょうに……」

 

「スケさんのいないミト・コーモンなんてありえないでしょ?」

 

「おっしゃる通り。ところで、カクさんが見当たりませんが」

 

「ユリウスが二役やんのよ!」

 

 

 ニナさまがペシリと僕の腕を叩く。

 

 

「ほら、エスコートして。私、街を歩いた経験なんてゼロといっていいくらいだから。きちんと守って案内してね」

 

「……魔術書を買って帰るだけですよ? 世直しってつまり揉め事でしょう。面倒なことには首を突っ込みません」

 

「いーのいーの! なんでもいーの!」

 

 

 左腕を軽く曲げると、隙間に腕を通してひっついてくる。

 

 恋愛関係でなくてもエスコートするのは普通のことだが、しかしやや距離が近い。だが天真爛漫な笑顔に離れろとも言えない。

 

 と、そのときである。

 

 

「ニナさま」

 

 

 ニナさまの後ろをひっそりとついてきていたメイド姿の護衛――サヤカさんがぬるりと現れた。

 

 

「学園の外に出るのはお止めさせていただきます。前にも説明したと思いますが」

 

「今日だけ! すぐ帰ってくるから! 一回くらいいいでしょ!」

 

「……外出したいなら籠に乗り、それなりの数の護衛を連れていただきます」

 

「それじゃあ意味ないの! 私は身分を隠してお忍びしたいんだから!」

 

「そういうわけにはいきません。どうかご理解ください」

 

「い、や!! 理解しないったら理解しない! 外に行くの!!」

 

 

 僕の腕に強くしがみつき、胸を押し当ててくるニナさま。小ぶりだが確かな柔らかさが当たっている。

 

 

「ニナさま……ちょっと……」

 

 

 瞬間、サヤカさんが僕とニナさまの接触面に視線を止め、絶対零度のオーラを放った。脊髄が凍るようだ。

 

 僕はすぐさま言う。

 

 

「ニナさま、また今度にしましょう。事前に計画を立ててルートなどを相談すれば、許してくれるかもしれませんよ」

 

「えー!! ユリウスまで!」

 

 

 ニナさまは鼻の頭にシワを作った。サヤカさんを不満げに見やる。

 

 

「じゃあサヤカ、約束してくれる? 近いうちにお忍びで街に出る機会を作ってくれるって」

 

「……どうしてもですか?」

 

「どうしてもよ! 許してくれないならユリウスと脱走するんだから!」

 

 

 脱走しません。簀巻きにして引き渡します。

 

 サヤカさんが息を吐いた。

 

 

「……私の判断だけで決められることではありませんが、上を説得するために全力をつくすとお約束します」

 

「ふんっ、じゃあ今日は我慢するわ」

 

 

 ニナさまは僕の腕をほどく。

 

 

「じゃあユリウス、私の分も魔術書を買ってきてね。それと、図書室にこもりきりなのはやめなさい。声かけにくいから」

 

「おおせのままに、マイレディ」

 

「あなたが言うといちいちサマになっててむかつくわ……。まあいいわ。楽しんできなさい。じゃーねー」

 

 

 手をひらひら振りながら残念そうに寮へと戻っていくニナさまを見送る。

 

 

「ユリウスさまからもご説得いただき、ありがとうございました」

 

 

 サヤカさんも僕に一礼し、主人について帰っていく。しかし僕を見る眼差しは氷のようだった――警戒されているという感じだ。

 

 それに、四方八方から刺すような視線を感じる。皇女の護衛は彼女だけではない。そこら中に隠れているのだ。

 

 平民ごときがうちの皇女さまと仲良くしやがって、というところだろうか。

 

 でも僕は言いたい。悪気はまったくないのだ。深夜にちょっと体を支えたり、昼間に公衆の面前でちょっと腕組んだりしてるだけじゃないですか。

 

 

「………………」

 

 

 ……完全アウトじゃなかろうか?

 

 まずいなあ。これは怒られて当然なのかもしれない。

 

 護衛さんたちからすれば、僕がニナさまにえろえろな意味で手を出すようなことは絶対に許せないだろう(もちろんありえないが)。

 

 とにかく僕は曖昧に微笑み、逃げるようにその場を離れることにした。うやむやにしてしまえ!

 

 校門には生徒の外出を管理する職員――門番さんが立っていて、彼に外出申請を出して校外へ。

 

 アルンハイム魔術学園は帝都の真ん中にあるので、少し歩けばすぐに繁華街だ。

 

 夕方の帝都はまだまだ賑わっていて、ここからが盛り上がりというところか。

 

 特殊な鉱物を利用した街灯のおかげで夕方でも暗くない。僕の故郷の街とはぜんぜん違う。

 

 さて、古書店への道は、と。

 

 細い路地に入ったところで――

 

 気付いた。前から男二人、後ろからも男二人、屋上にも妙な人影がある。ただならぬ雰囲気である。

 

 正面から迫る男は特に体格が良く、そしてタバコの匂いがする。

 

 みな筋肉質な体だ。目つきも剣呑で、戦うことを生業とする人間だろう。髪質や肌の清潔さからして、庶民ではない。騎士階級といったところか。

 

 きっと――ニナさまの護衛さんたちだ。さっそくお説教のようだ……。よほど腹に据えかねたらしく、かなり殺気立っている。

 

 タバコくさい男が口を開きかけたが、僕はその前に先手を打って牽制することにした。

 

 

「ご苦労さま、です。お話はもちろん伺いますよ。抵抗するつもりはありません。ですから、手荒な真似は控えていただけませんか?」

 

「!?!?」

 

 

 微笑みながら言うと、タバコくさい男は口をパクパクさせた。体を固くしている。

 

 

「……抵抗、しないのですか?」

 

「しませんよ。そんなつもり、みじんもありません。むしろ、前々からご挨拶したいと思っていました。ですが僕から探して話しかけるわけにもいきませんでしたし。ともかく、こうしてお話しできて嬉しいです」

 

「! ………………つまり、我々との接触を望んでいたと?」

 

 

 仰々しい言い方だが間違ってはいない。僕は微笑みを浮かべ、ゆっくり頷いた。

 

 

「ええ、まあ。お話したいと考えていましたよ。()に行くにはみなさんの協力が必須なわけですし――?」

 

「!!!!」

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