意外と近いので、すぐ到着する。まぁ、塀を乗り越えているからなのだが。
「千春さん、大丈夫ですか?」
「顔色悪い」
戦車の倉庫へ着くなり、みほと……カチューシャをつけた身長が低めな人が声をかけてくれた。
麻子とか言う人らしい。
「あ、そうだ。千春さんはチーム名どうしますか?」
見れば、ちょうど本体である九七式が鎮座する倉庫の前の扉だけ、開いていた。
多分何かすることがあるので空けているのだろう。
チーム名。チハの他に誰も載っていないのに。
「鴉がいいであります!」
と、言うことで鴉になった。
砲塔側面に大洗のエンブレムと、車体側面にシルエットだけの鴉のエンブレムがペイントされた。
何故これにしたんだろうな、とチハは思った。
『当てつけかな』
大会第一回戦。
相手はサンダース大学付属。
『パンツァー・フォー』
無線から聞こえた合図と同時に、チハは進み始めた。
ルールは特定の車両を守り、相手の特定の車両を撃破するフラッグ戦。
さっきまでルールブックを読みふけっていたので、その点などは大丈夫だ。
そのまま大洗チームは森へと入り、M3リーと八九式が偵察のために離れていった。
チハに与えられた役目は無いが、この特定の車両、つまりフラッグ車を守ることが最優先なので、その付近を走っている。
「……砲撃?」
周りのエンジン音の合間から、遠くから僅かに聞こえる。
果たしてそれが本当に砲撃音なのか確証は持てず、耳を澄ませてみるチハ。
どうしても聞こえない。
だがだんだんと近づいてきている気がする。
M3リーと八九式が戻ってきた。
最悪な敵を引き連れて。
前方に、2両の敵車両がいた。
シャーマンが。
『 』
無線が何か言っているが、チハの耳には入らない。
身体が一切動かない。
何も反応できない。
視野が狭まる。
『千春さん!ついてきてください!』
停止してしまった直後、みほからの無線で我に返り、慌てて追いかけるチハ。
進路を塞ごうとシャーマンが動くが、チハはフェイントを入れてそれを躱して裏へと抜ける。
砲塔の振り向きざまに砲弾をお見舞いするも、残念なことに不貫通だった。
『そのまま撃たれれば良かったのに』
包囲を抜けたが、チハは底冷えするような気分を味わっていた。
腹部が以上に冷えて、頭が凝縮されるように痛い。
手先が震えている。
シャーマン。
日本戦車の天敵。数多の車両を撃破した、鉄壁の戦車。
それが、シャーマンに対するチハの評価だ。
トラウマでもある。
「あの、チハさん」
みほが呼びかけてきた。
車両同士の距離が近いので、なんとか声が聞こえる。
「こちらの無線が盗聴されています。
それを逆手に使うので、128高地に移動してください。敵が多く来るかもしれませんが、とにかく時間稼ぎを」
他のみんなは携帯で会話をしているようだが、チハは持っていない。
そのため、口頭で伝えたのだ。
「わかりましたであります!」
陸軍式敬礼をして、チハは大洗チームから離れて高地へと移動する。
地図は全て覚えているので問題ない。
たとえ任務が嫌でも、全ては戦いに勝つ為。
高地へと到達するチハ。
早速地面へと榴弾を発射、地面を吹き飛ばし、柔らかくなった土に本体を埋める。
少しでも周りから見にくくしようとしたのだ。
さらに手で土を押しのけ、さらに本体を埋めていく。どかした土は穴の縁へと盛り上げ、ほぼ意味の無い壁を作る。
シャベルを持ってくればよかったと、チハは少し後悔した。
急ぎ足で本当に済まない。