ちょうどチハの本体も修理し終わっていた。
「いやー、エンジンだけかなと思ったんだけど、軸受けも乾式クラッチも結構すり減ってたんだよね。
その辺一体全部交換して、履帯も錆の浮いたやつから新品に変えたから、今までよりも動かしやすいはずだよ」
オイルやら何やらで汚れた手袋を外しながら、自動車部の人たちは言っていた。
「せっかくだし、動かしてみたらどうかな?」
という言葉に甘えて、チハは本体を走らせた。
だが、チハは良い気分ではなかった。
無理なのだ。
戦争は終わった。だが、もしかすると戦争が終わらないほうが、兵器であるチハにとって幸せだったのかもしれない。
もうすぐ夜が降りる。
本体を戻し、チハは寮へと帰った。
「隊長、各車両の装甲データであります」
「ありがとう、チハさん」
現在、チハはみほに呼ばれて作戦の手伝いをしていた。
理由は戦術とかに詳しそうだから、だそうだ。
実際詳しくないが、ある程度こうやったらこうなる、くらいは理解している。
「あっ、申し訳ありません!」
渡そうとしていた紙が、チハの手から滑り落ちて床に散らばってしまった。
慌てて拾うチハ。みほにも手伝ってもらいながら、なんとか集める。
「チハさん、寒くないですか?」
チハの指先を見て、みほが言う。
指先は、小刻みに震えている。
「あぁ、大丈夫であります。親からの遺伝で、どうしてか震えてしまうんであります」
また、嘘をつくチハ。
「まぁそれは置いておいて……中々酷い保有車両が多いですね」
話題を変えた。
見ているのは対戦相手であるプラウダの保有車両だ。
「うん。でも、多分プラウダは対黒森峰を想定して、主力はT-34だと思う。でも、IS-2は確実に入れてくる」
車両データを指差しながら説明するみほの横顔は、まるで歴戦の指揮官のようだとチハは捉えた。
あの軍神と苗字も同じであるし。
「……隊長」
チハは、みほのことを隊長と呼ぶ。
特段意味はないが。
「隊長は……どう思いますか?
その、戦車道のことを」
チハの問いに、少し驚くみほ。
「ちょっと前までは、戦車道は嫌だった。
でも今は、みんなとやるのが楽しい」
その返しに、今度はチハが驚いた。
「チハさんは、どう思うますか?」
さらに返しを入れられたチハ。
少し迷って、チハは言葉を吐き出した。
「……私は、正直あまり楽しいとは感じません。
いつ弾が味方を撃ち抜くか、いつ自分が撃ち抜かれるかわからない。もしかしたら仲間がいなくなるかもしれない。
怖いんです。だから、少し……」
言葉を濁し、下を向いてしまうチハ。
良くないクセである。
「チハさん」
そんなチハの手を、みほは握った。
「大丈夫です。
これは戦車道……戦争じゃない、スポーツなんです。
誰もケガしたり、いなくなったりしないんです」
戦争ではない。
だが、果たしてチハの中で戦争は終わったのだろうか?
戦車道。安全なスポーツであり、乙女の嗜み。
だがチハは乙女でもなければ人間ですらない。
付喪神と名乗っているだけの、無念や恨みの塊かもしれない。
そういう存在が、戦車道に参加して良いのだろうか?
伝統的なスポーツであるのなら、そこに血塗られた戦車を入れても良いのだろうか?
「……そう、ですか」
チハは手に感じる人の温かみを感じながら、思った。
次の私は、多分取り返しのつかないことをしてしまう、と。