付喪神の戦車道   作:Верный510

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 夜になって、大洗チームが勝利して帰ってきたころ。
 ちょうどチハの本体も修理し終わっていた。

「いやー、エンジンだけかなと思ったんだけど、軸受けも乾式クラッチも結構すり減ってたんだよね。
 その辺一体全部交換して、履帯も錆の浮いたやつから新品に変えたから、今までよりも動かしやすいはずだよ」

 オイルやら何やらで汚れた手袋を外しながら、自動車部の人たちは言っていた。

「せっかくだし、動かしてみたらどうかな?」

 という言葉に甘えて、チハは本体を走らせた。

 だが、チハは良い気分ではなかった。
 無理なのだ。
 戦争は終わった。だが、もしかすると戦争が終わらないほうが、兵器であるチハにとって幸せだったのかもしれない。

 もうすぐ夜が降りる。
 本体を戻し、チハは寮へと帰った。


【拒絶】

「隊長、各車両の装甲データであります」

「ありがとう、チハさん」

 

 現在、チハはみほに呼ばれて作戦の手伝いをしていた。

 理由は戦術とかに詳しそうだから、だそうだ。

 実際詳しくないが、ある程度こうやったらこうなる、くらいは理解している。

 

「あっ、申し訳ありません!」

 

 渡そうとしていた紙が、チハの手から滑り落ちて床に散らばってしまった。

 慌てて拾うチハ。みほにも手伝ってもらいながら、なんとか集める。

 

「チハさん、寒くないですか?」

 

 チハの指先を見て、みほが言う。

 指先は、小刻みに震えている。

 

「あぁ、大丈夫であります。親からの遺伝で、どうしてか震えてしまうんであります」

 

 また、嘘をつくチハ。

 

「まぁそれは置いておいて……中々酷い保有車両が多いですね」

 

 話題を変えた。

 見ているのは対戦相手であるプラウダの保有車両だ。

 

「うん。でも、多分プラウダは対黒森峰を想定して、主力はT-34だと思う。でも、IS-2は確実に入れてくる」

 

 車両データを指差しながら説明するみほの横顔は、まるで歴戦の指揮官のようだとチハは捉えた。

 あの軍神と苗字も同じであるし。

 

「……隊長」

 

 チハは、みほのことを隊長と呼ぶ。

 特段意味はないが。

 

「隊長は……どう思いますか?

 その、戦車道のことを」

 

 チハの問いに、少し驚くみほ。

 

「ちょっと前までは、戦車道は嫌だった。

 でも今は、みんなとやるのが楽しい」

 

 その返しに、今度はチハが驚いた。

 

「チハさんは、どう思うますか?」

 

 さらに返しを入れられたチハ。

 少し迷って、チハは言葉を吐き出した。

 

「……私は、正直あまり楽しいとは感じません。

 いつ弾が味方を撃ち抜くか、いつ自分が撃ち抜かれるかわからない。もしかしたら仲間がいなくなるかもしれない。

 怖いんです。だから、少し……」

 

 言葉を濁し、下を向いてしまうチハ。

 良くないクセである。

 

「チハさん」

 

 そんなチハの手を、みほは握った。

 

「大丈夫です。

 これは戦車道……戦争じゃない、スポーツなんです。

 誰もケガしたり、いなくなったりしないんです」

 

 戦争ではない。

 だが、果たしてチハの中で戦争は終わったのだろうか?

 戦車道。安全なスポーツであり、乙女の嗜み。

 

 だがチハは乙女でもなければ人間ですらない。

 付喪神と名乗っているだけの、無念や恨みの塊かもしれない。

 

 そういう存在が、戦車道に参加して良いのだろうか?

 伝統的なスポーツであるのなら、そこに血塗られた戦車を入れても良いのだろうか?

 

「……そう、ですか」

 

 チハは手に感じる人の温かみを感じながら、思った。

 

 次の私は、多分取り返しのつかないことをしてしまう、と。

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