世界で一番不幸なのは自分だとでも思ってる?
姉さんのために死ぬことになった私たちのほうがよっぽど不幸なんだよ
自覚して』
試合当日。
辺りは暗く、寒い。
周りの大洗生徒はリラックスしている様子なのが、声でわかる。
「大丈夫?チハちゃん」
そう声をかけたのは柚子だ。
ずっと地面を見つめていたチハは、現実に引き戻されて顔を上げた。
「あぁ、柚子さん。
大丈夫であります。ちょっと眠たくて」
いつもと変わらない笑顔でチハは答える。
本当に眠たいのは事実だが、大丈夫と言うのは嘘だ。
「無理しないでね、チハちゃん」
向けられる笑顔は優しい。
ちゃんと心配して言ってくれているのだ。
なのに、チハは嘘で誤魔化している。
全てを。
ーーーー
どうやら一気に攻め入ることにしたらしい。いわゆるマレー電撃戦のような事をするってわけだ。
昨日の作戦はどうするのだろうか。
いや、隊長が決めたことに異論は出さないのがチハなのだが、少し気になる。
「……?」
何か遠くの方から視線を察知したチハ。
だがあまりにもそれは一瞬で、さらに小さかった。
「……何今の」
正面を向き直るチハだが、敵戦車が視界内にいた。
Tー34ー76だ。それが3両。
ほかの車両はもう狙いをつけ始めているが、自らの身体であるチハの本体は一瞬で狙いをつけ砲撃、つまり一番乗りで砲撃したことになる。
だが、チハの砲撃は跳弾。しかしほかの車両が2両を撃破した。
たまらず残った1両は逃げ出し、そして大洗チームは追撃を開始。
暫く走っていると、相手車両群をチハは視認した。
フラッグ車の姿も。
「こちらチハ、砲撃を敢行します」
一応連絡を入れ、チハも砲撃する。
砲弾の補給はしてあるので、弾数に余裕があるのだ。
しかしチハの弾は弾かれるばかり。
徹甲弾は全く貫通できず、榴弾を撃ち込んでもダメージが入った様子はない。
後退を始めるプラウダチーム。
それを見た大洗チームはみほの命令を聞かず、追いかけ始める。
そうやって、戦場は村へ。
「……あれ」
振り向くチハ。
なんとプラウダの車両に背後を取られていた。
「隊長!後ろを取られています!」
反射的に、チハは八九式中戦車を守る位置へと移動する。
そして気づいた。包囲されていると。
全方位から砲撃音が響き、雪煙が上がって視界が悪い。
どうにか目を凝らすと、M3リーが被弾している。
そして砲身が見えなくなった。多分折れたのだろう。
移動し始める大洗チームについて行きながら、チハも反撃しようと砲塔を回す。
だが大きな建物内に入っていくのを素早く確認したチハは砲撃を中断、続いて自分も入った。
さらにⅢ突とIV号が入ってくる。どうやらⅢは履帯が切れたらしい。
暫く砲撃が続く。
だが、突然止んだ。
外を見ると、2人の人物が歩いてくる。白旗を持って。
プラウダの生徒だ。
みほと河島が出た。
同じくチハも本体から降りる。とりあえず話は聞いておいたほうがいいと思ったのだ。
「『降伏しなさい、全員土下座すれば許してやる』だそうです」
「なんだと!NUTS!」
河島が馬鹿め!と返した。
多分、馬鹿なのはまんまと罠に入った自分達だろうとチハは思う。
「隊長は心が広いので3時間待ってやると仰っています。それと『降伏しなければ今度は容赦しない』と」
その言葉に、何かがチハの中で切れた。
陣羽織の裏からとある物を素早く引き抜くと、迷わず“それ”をプラウダの生徒に向けた。
「……動かないで。私、引き金は軽い方だから」