付喪神の戦車道   作:Верный510

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「えっ……」

 まず最初に気づいたのは、プラウダ生徒だ。
 その反応を見て、河島、みほも振り向く。
 そして言葉を失った。

 チハが手に持っていた“それ”の正体。

 旧日本軍が開発し、アメリカ軍には自殺拳銃とも呼ばれた拳銃。
 その名も、九四式拳銃。

「……」

 チハは拳銃を構えたまま、プラウダの生徒へと歩み寄る。
 拳銃の銃口には、棒が無い。つまりモデルガンでも何でもないとプラウダの2人は気付いてしまった。

 チハは固まる2人を見て、言った。

「……戻って相手の隊長に伝えて。
 『降伏を選ぶくらいだったら弾が尽きるまで戦う』って」

 グイ、とチハは拳銃を相手の眉間に近寄らせた。

「『お前の生徒を戦車にくくりつけて肉壁にしてもよかった』とも伝えて」

 だが、それを止めた人物がいる。

 西住みほだ。


【強迫】

「待ってくださいチハさん!」

 

「……隊長」

 

 拳銃を突きつけたまま、チハは反応する。

 

「チハさん、とりあえずその拳銃をしまってください。

 人に向けると危険ですから」

 

 その言葉に、チハはゆっくりと拳銃を下ろした。

 だが完全に狙いを外しておらず、照準は相手の足に向けている。

 

「チハさん、諦めたくない気持ちもわかります。

 ですがこれほどの数に囲まれて、一斉に攻撃されたら怪我人が出るかも知れないんです……」

 

「……隊長、昨日言いませんでした?

『これは戦車道……戦争じゃない、スポーツなんです。誰も怪我したり、いなくなったりしないんです』 って。

 

 怪我をしないんでしょう?」

 

「ッ……!」

 

 チハの言葉は、いつもと違って酷く無機質だ。

 

「答えてよっ!!!」

 

 チハは怒鳴ると、みほの方へと向き直った。

 その隙を見てプラウダ生徒は逃げるように走り去っていくが、チハは気にしない。

 

「隊長が言ったじゃないですか……誰も怪我しないしいなくならないって!

 ならば徹底抗戦するべきです!

 これは戦車道なんでしょ!?戦争じゃない、スポーツだって!

 だったら最後まで戦って、勝利を掴むのが大切じゃないんですか!?」

 

 チハは詰め寄る。詰め寄ると言っても身長的に見上げる形になるが、気迫は大きい。

 

「降伏したらみんな殺される、それだけは嫌だ!」

 

「誰も死にません!戦車道はスポーツなんです!

 お願いですチハさん、どうか落ち着いて……」

 

 ピタ、とチハは止まる。

 少し距離をとると、チハは言った。

 無機質な、黒い目で。

 

「……誰も死なないなら、どうして隊長は黒森峰の時、水没した戦車を助けに行ったんですか?

 優花里さんが言ってましたよね。選択は間違ってなかったって。

 

 じゃあ、死ぬ可能性があったということですか?」

 

『———そうだよ』

『戦車道も戦争と同じ』『まだ戦争は終わっていない』

『殺される前に殺せ』『ここは戦場なんだ』

『———最後まで戦えよ、姉さん』

 

 幻聴が、チハの精神を揺さぶる

 

「どうして!どうして!

 これ以上私に、どうしろと言うの……!」

 

 頭を抱え、膝を付いてしまうチハ。

 大洗の誰もチハにどうしろとも言っていない。幻聴の言葉に対する答えにもなっていない。

 周りからすれば、完全に頭のおかしい人だ。

 

「どうして産んだの……?

 お父さん、どうして私なんかを……」

 

 ボタボタと両目からどす黒い液体を零すチハ。

 涙のようなものだ。

 

「廃校になるくらいなら、せめて私が最後まで……!」

 

 だがチハは立ち上がる。

 いくら支離滅裂な事を言おうとも、行動をしようとも、その奥底にある目的は残っている。

 

「チハちゃん……」

 

 見れば、会長がチハを見つめている。

 そしてチハは思い出した。廃校の件は口に出すなと。そしてそれを約束したことを。

 

 反射的に、チハは拳銃で自らのこめかみを撃ち抜こうとした。

 だが、何故か弾は出なかった。

 

「いいよ、チハちゃん。

 もう全部話そう」






「申し訳……ありませんでした」

 チハは頭を下げた。
 深々と、そして丁寧に。
 勿論相手はみほだ。

「自分の主張だけをして、言っていいことと悪いことの区別もつけられず、隊長を傷つけてしまいました。
 本当に、本当に申し訳ございませんでした」

 陣羽織の裾を握りしめるチハ。
 あるのは怒りではない。後悔だ。
 

 返事が来るまで、ずっと頭を下げ下げ続けていたチハ。
 永遠に続くような沈黙の時間。
 
 だがそれは、ついに破られた。


「私こそチハさんの思いを汲み取ってあげれず、ごめんなさい。

 そして一緒に、頑張りましょう。チハさん」
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