チハの背中をさすりながら、柚子は言う。
あんな出来事しでかしたチハに対する対応は破格と言える。
教会の真ん中では、会長や河島が大洗廃校についてを説明している。
1人、地面に溢した黒い液体……つまりところチハの涙を見つめている生徒がいるが、他は会長と河島に意識を向けている。
「……柚子、さん。
少し、1人にさせてください。終わったら、全部話すので……」
そう言うなり、チハは本体の中へと入ってしまった。
本体の中はいつもと同じように冷たいし、硝煙の匂いが漂っている。
———私は何がしたいんだろう
チハは考える。
———人に銃を向けてまでして、私は一体何が
答えは見つからない。
チハは戦場に生きてきた。血と硝煙が渦巻く地獄を見続けてきたのだ。
許せなかったのだろうか。戦車道という甘いスポーツに。
『信じたかったんじゃないの?』
「っ!?」
ヒョコ、と砲塔下部から顔を出したのは、弟だ。
髪新砲塔なのだろう、鉢巻きアンテナが無い。
『ねーさんは信じたかったんだよ。もう戦う必要はないってさ。
でも、ねーさんの根本にある記憶はそれを許さなかった。
その2つに板挟みにされて、こんな行動をとったんじゃないの?』
言い終わると、弟は霧のように消えた。
ライトを付けて車内を見ても、元論誰もいない。
「板挟み……」
チハは信じたかったのだろうか。戦後という現実に。
もしや、目を逸らしていたのではないだろうか。戦後という現実から。
外から何か歌のようなものが聞こえ、思考を現実に引き戻す。
空気は冷たいし、本体の中は暗い。
意識の中から戻ってくると、周りがよく見えるというのはよく聞く話だ。
「チハさん、起きていますか?」
コンコンと、外からノックされた。
「……いるよ」
返事をするチハ。
「これから攻勢に出ます。作戦を聞いてくれますか?」
「……わかった」
エンジンの回転数を上げていく。
雪の降るような極寒である。空冷エンジンである九七式中戦車にとって、かなり有利だ。
チハはM3リーの前に待機している。速度的にそちらの方がいいと言うのもあるし、この建物に入った際にM3リーよりも後だったからというのもある。
38(t)がまず最初に飛び出した。
その後に大洗の車両が続き、チハも走る。
すぐさま相手の砲撃が飛んでくるが、至近弾に収まるだけで直撃はしなかった。
さらにチハはフラッグ車である八九式の右側に展開。
M3リーは左側に展開した。
前方に敵車両が見えたので砲撃。
同じように他車両も砲撃するが、全弾外れた。
ここで38(t)が砲撃を回避したあとに1両撃破。その隙間を大洗チームはすり抜けていく。
包囲を突破したのだ。
だが前方からさらに砲撃が飛んでくる。
マズルフラッシュから推測すれば敵車両は4両。後ろからも4両来ている。
『挟まれる前に、隊形乱さないよう10時の方向に旋回してください!』
『正面の4両は引き受けたよ!上手くいったらあとで合流するね!』
と、指示と報告が聞こえた。
しばらく直進して、大洗チームは左に旋回。そして38(t)は前方の車両群へ突撃していった。
速力を上げる大洗。チハも追従しながら後方を見ると、38(t)が撹乱しているのが見えた。
しかし、合流しようとこちらに向かっている途中で撃破されてしまう。
それでも大洗は走り続けて距離を離す。
「……?
……!曳光弾!?」
直後に機銃弾が空を覆った。
暗闇の中から炙り出そうというのか。
坂を駆け上がり、さらに逃げる大洗。
Ⅲ突とIV号が駆け上った後に影へ隠れ、やり過ごして後ろに回る作戦に出た。
暗闇に紛れるために撃ち返すなと指示が出され、チハは撃つのを慌ててやめた。
注意を引こうと撃とうとしたのだ。
———相手は38(t)の撹乱に釣られていた。
———ならば、射撃した方に釣られるのではないだろうか?
チハは一度右に旋回して少し距離を取ると、砲撃を開始した。
九七式と八九式の主砲口径は同じ。
ならば、チハを八九式と誤認してこちらに砲撃し始めるのではと考えたのだ。
「うわっ」
案の定、砲撃は飛んできた。
上手く釣れたのだ。
さらに蛇行を開始し、回避率を上げながら反撃していく。
このまま上手くいくかと思いきや……。
「なっ……」
なんと、こちらではなく八九式を狙った車両がいた。
命中こそしなかったが、明らかに大口径の車両だ。おそらくIS-2とか言う車両だろう。
さらにほかの車両も八九式へ射撃を集中していく。
釣りがバレたのだ。
直後にM3リーが盾になるように八九式の後ろに付くが、砲撃されて撃破された。
さらに、ルノーB1bisも同じように撃破される。
『あなたの番だよ』
その声に突き動かされ、チハは素早く八九式の後ろに付いた。
妹や弟と同じように、盾になるつもりなのだ。
砲撃をやめ、覚悟を決める。避けないように、心を強く。
砲弾が車体後部へ命中した。
おそらくIS-2のものだが、白旗が上がるまでに一瞬のタイムラグがある。
すぐさま左履帯をロック、さらに右履帯を一瞬後退させてロック。
車体を傾けたのだ。
被 弾 面 積 が 大 き く な る よ う に 。
他の車両から砲撃が命中する。
動輪を弾き飛ばし、砲塔側面に突き刺さり、転輪を叩き潰して命中する。
最後の最後に、チハは盾となったのだ。
「……」
本隊に白旗が揚がる中、チハは思った。
こんな激痛を妹や弟は耐えてきたのか、と。
グダグダすぎる
Верный510より