付喪神の戦車道   作:Верный510

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「なかなかいい提案じゃない?どう見たって君ワケありだしさ」

 会長はチハの脚を見ながら言う。
 機械のようにゴツゴツとした、膝まであるブーツである。
 まぁ、チハにとってこれは脚なのだが。
 もしかすると義足のように見えたのかもしれない。

「ほんじゃよろしく〜。あ、みんなにもあいさつしといてね〜」

 そう言って会長と言う人は出て行ってしまう。
 と、同時に片眼鏡の人から制服を渡された。

「えぇ……」
「あ、刀は没収だよ」
「へっ?」


【始動】

 渡された制服を着てみる。

 とりあえず、ダボダボだがなんとかなった。

 しかしスカートはどうしてもずり落ちるので、最初身につけていた半ズボンでどうにかすることにした。

 幸いにも、上の裾が長いので特段違和感はない。

 

「あ……。こんにちは!急遽戦車道をやることになった久奈 千春であります!チハとお呼びください!」

 

 口角を上げ、トーンを上げ、できる限りの笑顔で挨拶をするチハ。

 チハは身長がとても低いので、かなり年下に見える。

 

「よろしく〜」

「ちっちゃくて可愛い」

「よろしく頼む」

「制服ブカブカだけど大丈夫そう?」 

「1年生?同じだ!」

 

 どうやら好意的に受け止められている様子。中には手を振ってくれている生徒もいた。

 チハは安堵したのか、軽く息を吐いた。

 

「早速だけど……これ使ってね」

 

 ポン、とブラシを渡された。

 正直誰が誰だか分かっていないので、突然渡されたチハは混乱する。

 何だ何だと辺りを見渡してみれば、どうやら洗車をしているらしい。

 

 

 チハは自分の本体である九七式のそばに立った。 

 生まれた時のように、何故か旧砲塔だけは傷も汚れもほとんど無いが、車体はあの時(終戦時)のように汚れも傷も目立っている。

 

 そもそも自分はこの姿ではなかったじゃないか。途中から変わったのだから、元に戻るはずなんて無い。

 そう思いながら、チハは自らの車体(カラダ)に触れた。

 冷たい。無機質な鉄の感触。そして伝わる細かな砂の感触。

 

 水はあのヤケにはしゃいでる女の子たちが使っているので、チハはブラシで砂を落とすことにした。

 ザリザリと、ガサガサと。

 一度やってみると面白いもので、見る見る汚れが落ちていく。

 

 チハはすっかり夢中になり、時間が立つのも忘れてブラシを動かす。

 途中で水を使わせてもらい、自由に水が使えることに感激しながら丁寧に洗う。

 最後に雑巾で至る所を拭き取れば、まるで生まれたてのように艶々で、新車のように輝いている。

 

 

 

 あの怖めな片眼鏡の人が解散を告げる。

 すると、それぞれが各々友人たちと会話しながらバラけて帰っていく。

 

「君は帰らないのか?」

 

 金髪で軍服みたいなものを羽織っている人が声をかけてきた。

 あとで知ったが、エルヴィンと言う人らしい。

 

「あ、大丈夫であります!もう少し細かい所を拭いたら帰るので!」

 

 元気よく返事をし、いつもの笑顔を作るチハ。

 

「そうか。気を付けて帰るんだぞ」

 

 笑顔の甲斐あってか、その人もおそらく友人の三人組と帰っていく。

 

 ちなみに、チハが言った帰るというのは嘘だ。

 チハに帰る場所など無い。ただの出任せである。




 誰も居なくなったグラウンド。
 チハは本体の上に、夕日を背にして座っていた。


「……はは、笑えたかな」

 グイ、と指で口角を押し上げる。無理やり作り上げるかのように。
 その瞳は何一つ感じない、まるで機械のような、無機質で無気力な色をしている。
 夕暮れの仄暗さと暗い表情と合わさり、影が一つ濃くなる。

 チハは九七式中戦車の第1号車。
 全てのチハの長女であり、付喪神。
 妹や弟を盾にして生き残ってきた卑怯者。

「……何があったのか分からないけど、頑張ろうね」

 と、チハは自らの本体に語りかけた。
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