付喪神の戦車道   作:Верный510

20 / 21
「……」

 車両回収車に運ばれている。
 左頬と左足がジンジンと痛い。

 チハは本体とリンクしている。つまり、被弾すると痛みなどのフィードバックが来るのだ。

『話すんでしょ?全部』

「……」

『楽になれるの?それで。

 散々人に暴言吐いたくせに』


【懺悔】

「失礼します」

 

 生徒会室の扉を開けて入ってきたのは、みほだった。

 

「ごめんね〜みほちゃん。呼び出しちゃって」

「いえいえ大丈夫です。

 それよりも、大事な話って何ですか?」

 

 そこで会長は、視線をチハに向けた。

 チハは下を見つめてしまっているが、視線を察知したかのように顔を上げた。

 

「……言いたいこと、が、あります」

 

 歯切れの悪い始め方だが、チハは続ける。

 

「私は……その……」

 

 中々言い出せず、言葉に詰まるチハ。

 少し言葉を止めて、深呼吸するかのように落ち着かせる。

 

「…………私……私は人じゃ、ないんです」

 

「? それってどういうこと?」

 

 会長が質問する。だがチハは、そんなこと耳に入らないかのようにそのまま続けた。

 

「私が乗ってる九七式は……本体です、私の。

 そして、本当の、戦争経験車……」

 

 段々とチハの視線が下がっていく。

 まるで撃破された戦車の砲身のように。

 

「だからといって、だからといって何でもしていいわけじゃないってわかってます。

 でも、でもです。

 

 ずっと、聞こえるんです。妹や弟たちの声が」

 

 チハは初めて、幻聴のことを打ち明けた。

 なおもチハは言葉を続けていく。

 

「私は英雄なんかじゃない……。

 なのにみんな私の前に飛び出して、撃たれて、燃やされて、潰されて……。

 

 みんな盾になって、死んだ。こんな私(ゴミ)のために」

「なっ……」

 

 この言葉に反応したのは、河島だ。

 彼女には何人もの妹や弟がいる。何か思うところがあったのかもしれない。

 

「何度も、何度も、目の前で弟妹達が殺されて……」

 

 ボタ、と黒い液体が床に落ちた。

 零れ落ちるそれは数を増やして、カーペットを濡らしていく。

 

「妹も、弟も私を恨んでる。

 そんなのもう、わかりきってる。でも、私はもうそれを止められない」

 

 チハの口調がだんだんと冷たくなっていく。

 冷酷さではない。まるで体温が下がっていくかのような冷たさだ。

 

「みんな私を置いてった、みんな私を勝手に祭り上げて、私のことなんかそっちのけにしたくせに、今更私に言うの。

『どうして生きてるの?』って

 

 でもそれは本当のこと。みんな私に託して行ったのに、私はそれに応えることができなかった……」

 

 ついには膝をつけてしまい、頭を抱え始めた。

 チハの長い髪が、床の黒い液体と混ざってどす黒い。

 

 嗚咽のような機械的な音が生徒会室に響く。

 

 

「チハちゃん」

 

 呼ばれたチハは、顔を上げた。

 

「チハちゃんは苦しいんだってよく分かった。

 私は直してあげることはできないけど、軽減することはできるかもしれない」

 

 会長はチハの肩に手を置く。

 

「何してるときが楽とかあったら、教えてほしいな」

 

 そう言うと会長は柔らかく、少しだけ笑ってみせた。

 その笑顔が、まるで聖母のようにチハには見えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。