その中に寝転がる少女が一人。
チハである。
最初、本体のなかで寝ようとしたのだが、なにやら作業員みたいな服を着た人が来たので場所を変えてここで寝ることにしたのだ。
湿気や夜の寒さなどチハは気にしない。制服が汚れるかもと思ったが、上から陣羽織を着ているのだ。何も問題は無い。
目を擦ることも、伸びをすることも無く、チハは身を起こした。
眠ることは、特段必要ではない。
だが、寝れば現実から少しだけ目を離せる。だから寝るのだ。
力強く
そばにあった赤い車を轢き潰すと、さらにもう一度念入りに轢き潰す。
一体なぜそんなことしたのか分からないが、10式はこちらまでやってくると、中の人物は出てくるなり挨拶をした。
よく通る声だった。
生徒それぞれに挨拶する姿も、まるで1つの絵のような雰囲気を纏っている。
とても素敵な人だ、と素直に思った。
「あら?
あなた、1人?」
なんて思ってたら話しかけられた。
まさか話しかけられるとは思っていなかったが、チハはいつも通りの笑顔を浮かべて答えた。
「いえ!先程操縦を担当する人が新しく見つかったのであります!
とても恥ずかしがり屋なので、ここにはいませんが……」
これは、教官が航空機っぽいものから10式と共に振ってくる前から考えてあったものだ。
チハは本体である九七式中戦車を、何も触らずに動かすことができる。
だが、ここは戦車道。「一人しか乗ってませんが行進射撃できます!」なんてあったら自分が普通じゃないとわかってしまう。
「勿論!九七式中戦車は4人乗りだということを重ね重ね理解してありますが、私が射手、装填手、車長を兼任すれば戦闘は可能であります!」
と、言って誤魔化した。
ーーーー
軽やかな鳥の声。
力強く、青々とした緑。
不自然に何も飛ばない空。
「……」
チハは本体に乗って森の中にいる。
練習とか聞いていたから、てっきりもっと砲撃とかそういうものだと思っていたが、まさかの実戦だとは。
そう考えながら耳を澄ます。
鳥の声などに混ざって、爆発音が響いている。
どっかで交戦しているらしい。
力強い音を立て、エンジンに火が灯る。
砲弾を装填し、キューポラから上半身を出しながら進む。
何故か知らないが、ここだととても身軽に動ける。
あの重い身体がここまで軽くなる理由は分からない。だが、今はただそれに感謝をするしかない。
「……砲撃音」
確実に耳で音を捉えながら、おおよその位置を追いかけていくチハ。
どうやら移動しているようで、かなり走り続けている。
少し引っかかるのは、デスマッチ形式なのに同じところで移動しながら撃ち合っている点である。
「……」
見つけた。
吊り橋にIV号戦車がいて、それをほかの車両が集中砲火している。
チハは本体内部を移動し、車体前部の機銃弾を確認する。十分に弾はあった。
もう一度移動し、キューポラから頭を出す。無論、狙いをつけるためである。
「……あれ?」
チハは目を瞬いた。
絶体絶命だと思っていたIV号戦車が、なんと反撃をし始めているではないか。
どうやらとても腕の立つ人が乗り込んでいるらしい。
チハも狙いをつける。
狙うのはM3リー中戦車の吸気口だ。ここだけはどんな車両だろうと装甲は薄くなる。
風向き、角度を考慮して、チハは必殺の一撃を放った。
チハってなんか意味不明だなぁ。