轟音を上げながら九七式が走る。
急停止、信地旋回、前進しながらの右旋回、左旋回、そして全速前進。
無茶苦茶な軌道で九七式は走る。
チハは自主訓練中だ。
しかし、とてもヤケクソ気味にただひたすら走り回る。
修理した本体が傷むにも構わずただ走る。
だがよ〜く見れば、ただ走ってるだけじゃないことがわかる。
砲身にほとんど角度がつかず、水平のまま保たれているのだ。
これだけ見れば、高い練度だとよくわかる。
「……」
キューポラからチハが出てきた。浮かない顔を浮かべている。
鈍い動作で、本体から地面に降りる。
そんなチハをほっぽいて、九七式は走り去ってしまった。
しかしチハは気にせず、その場に座り込んでしまう。
チハは小さい。座っているとさらに小さく見える。
突然だが少しばかりメタを含む話をしよう。
この文章もだが、チハは自らのフィルター越しにでしか物事を見ることができない。
だから自らの兵器名にしか反応しなかったし、戦車道と言っても本当の戦争のように戦術を組み立て、ただの空を不自然に思う。
心はいつだって戦争しているのだ。そう、まるでPTSDのように。
「何をしてるんですか?チハ殿」
「うあっ!?」
ビックリするチハ。
振り返ると、癖っ毛が特徴的な大洗生徒がいた。
相手は自らを呼んだが、チハは相手の名前は全く知らない。
「面向かって話すのは初めてですね。
私は秋山優花里です」
優花里から陸軍式の敬礼を受け、反射的に敬礼を返すチハ。
だが、その手は何故かダラリと下に落ちてしまう。
「え〜と、優花里さんは何をしにここへ来たでありますか?」
「たまたま私用で学校に戻ったら、九七式の駆動音が聞こえたので見に来たんです」
質問に答える優花里。ここから学校まで相当距離があるのだが、それでも聞こえたというのならとても耳がいいのだろう。
「……私は、なんだか疲れてしまいました」
つい、本音を溢してしまうチハ。
「そりゃまた、大丈夫ですか?」
チハは座り直し、顔を優花里から背けてしまう。
「私は、臆病なんです。怖い。周りが怖い。いつ何が起こるかわからないから本当に怖いんです」
チハは続ける。
なぜ自分がこの事を話しているのかは、チハ自身も分かっていない。
「あっ、別に病んでたりとかはしてないでありますよ!
私は父にもよく言われるんですが、『周りに注意を向けすぎだ』ってよく言われるので!」
突然明るい声で言い、振り向いて笑うチハ。
先程とのテンションの差が不自然だ。
優花里は何が起こるかわからないというのに引っ掛かったが、何か悲惨なことがあったんだと解釈し、それ以上突っ込まなかった。
寮の自室で、チハは呟く。
「Tell a lie to survive the moment, even if it ends up strangling myself.」
この英語をチハはどこで覚えたのだろうか。