付喪神の戦車道   作:Верный510

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『姉さん、どうしてまだ生きてるの?』


【擬態】

 轟音を上げながら九七式が走る。

 急停止、信地旋回、前進しながらの右旋回、左旋回、そして全速前進。

 無茶苦茶な軌道で九七式は走る。

 

 チハは自主訓練中だ。

 しかし、自主訓練と言うにはヤケクソ気味にただひたすら走り回っているだけのように見える。。

 修理した本体が傷むのも構わずただ走る。

 

 だがよ〜く見れば、ただ走ってるだけじゃないことがわかる。

 砲身にほとんど角度がつかず、水平のまま保たれているのだ。

 これだけ見れば、高い練度を持ち合わせているのが感じられる。

 

「……」

 

 キューポラからチハが出てきた。その顔には浮かない表情を浮かべている。

 鈍い動作で、本体から地面に降りる。

 そんなチハをほっぽいて、九七式は走り去ってしまった。

 

 遠のいていく轟音を聞きながら、チハはその場に座り込んでしまう。

 チハは小さい。座っているとさらに小さく見える。

 まるで迷子の子供。それか、群れからはぐれた仔山羊のように。

 

 

 突然だが少しばかりメタを含む話をしよう。

 この文章もだが、チハは自らのフィルター越しにでしか物事を見ることができない。

 だから自らの兵器名にしか反応しなかったし、戦車道と言っても本当の戦争のように戦術を組み立て、ただの空を不自然に思う。

 心はいつだって戦争しているのだ。そう、まるでPTSDのように。

 

「何をしてるんですか?チハ殿」

「うあっ!?」

 

 ビックリするチハ。

 振り返ると、癖っ毛が特徴的な大洗生徒がいた。どうやら本体の轟音に紛れて近づいてきたらしい。

 しかし相手は自らを呼んだが、チハは相手の名前は全く知らない。

 

「面向かって話すのは初めてですね。

 私は秋山優花里です」

 

 優花里から陸軍式の敬礼を受け、反射的に敬礼を返すチハ。

 身に染み付いた動きなので、どんな体勢でもすぐさま返すことができる。

 だが、今回ばかりその手は何故かダラリと下に落ちてしまう。

 

「え〜と、優花里さんは何をしにここへ来たでありますか?」

「たまたま私用で学校に戻ったら、九七式の駆動音が聞こえたので見に来たんです」

 

 質問に答える優花里。ここから学校まで相当距離があるのだが、それでも聞こえたというのならとても耳がいいのだろう。

 

 しかも、座り込んでいるチハを見つけて歩いてきたんだから目も良いのだろう。

 

「……私は、なんだか疲れてしまいました」

 

 つい、本音を溢してしまうチハ。

 

「そりゃまた、大丈夫ですか?」

 

 優花里は心配した声をかけるが、無視してチハは座り直し、顔を優花里から背けてしまう。

 

「私は、臆病なんです。怖い。周りが怖い。いつ何が起こるかわからないから、本当に怖いんです」

 

 チハは続ける。

 なぜ自分がこの事を話しているのかは、チハ自身も分かっていない。

 空気は少しずつ冷たくなっていく。

 

「……あっ、別に病んでたりとかはしてないでありますよ!

 私は父にもよく言われるんですが、『周りに注意を向けすぎだ』ってよく言われるので!」

 

 突然明るい声で言い、振り向いて笑うチハ。

 先程とのテンションの差が不自然だ。

 

 優花里は「何が起こるかわからない」というのに引っ掛かったが、何か悲惨なことがあったんだと解釈し、それ以上突っ込まなかった。




 寮の自室で、チハは呟く。

「Tell a lie to survive the moment, even if it ends up strangling myself.」

 この英語をチハはどこで覚えたのだろうか。
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