『姉さん』
何処からか反響して聞こえてくる。
『お姉ちゃん』
辺りは真っ暗だ。
『姉ちゃん』
何も見えない。
何も感じない。
「どこにいるの?」
チハは暗闇へと問いかける。
『こっちだよ』
声は答えるが、姿は見えない。
聞こえた方向に歩を進めても、暗闇だけが視界を染める。
『死にたくないよ、お姉ちゃん』
次の瞬間、チハは戦場にいた。
響く銃声、落ちる風切り音、人の叫び声、巻き上がる砲声。
全てが木霊し、消えていく地獄に。
「はっ!?」
チハの足元は泥濘、沈んで動かない。
その横を、何両もの
「ま、待って!……行かないで!」
叫び虚しく、チハの脚は動かない。
履帯は空回りし、あろうことか車体は沈んでいく。
藻掻けば藻掻くほど、ズブズブと、まるで意思を持っているかのようにチハの脚を掴んで離さない。
「お……置いてかないでよ!……私も、私も一緒に……!」
叫び虚しく、視界は暗闇に戻った。
ーーーー
最悪な気分で目が覚めた。
あの模擬戦から暫く経って、チハはただ寝ては起きるを繰り返していた。
たまに会長に呼び出されて書類仕事やらなんやらを押し付けられたりする以外には、特に何もしていない。
「……外、出よう」
履帯を接続し、外に出てみるチハ。日差しの明るさが目に突き刺さって痛い。
辺りの未来的な構造物がここを戦場ではないとチハに知らしめていた。
公式戦とか言うものの抽選会。
何故かチハは参加していた。
「サンダース大学附属……」
どうやら、優勝候補の1つらしい。
離れたところの席では相手の生徒だと思われる人達が喜んでいる。
その礼儀に欠ける態度を、チハは苦々しく思った。
ーーーー
場所は変わってとある喫茶店。
ルクレールとか言う店名らしい。
「世の中こんな種類の戦車がいるでありますか?」
「チハさん、それはケーキです」
メニューを見ながら、チハは困惑していた。
どうせなら一緒に行こうと誘われるがままここに来たら、何か戦車のような食べ物のような写真の載った本を渡されたからである。
「チハちゃんって結構箱入りお嬢様って感じたよね〜。浮世離れしてて、なんというか守りたくなる感じ」
と、沙織と言う人がチハに言う。
優しそうな人だな、とチハは思った。
「うーん、私は中3まで入院と勉強ばかりでありましたから、確かに箱入りなのかも……?」
まるで本当のことのように、嘘を吐くチハ。
「それは大変でしたね」
「勉強の遅れが特に大変だったであります」
「店員呼び出しますよー」
ポチッと優花里がボタンを押す。砲撃音が響いて、店員さんがやってきた。
それぞれが思い思いにメニューを言う中、チハはミルクティーだけにした。
「それでいいんですか?」
「だ……ダイエット……」
優花里が聞いてくるが、またもや華麗な嘘で回避する。
そして、話題は大会について移っていった。
だがチハにはさっぱりなので、ただ味のしないミルクティーを飲んでいる。
「副隊長?」
ふと声のした方を見ると、銀髪の人と、こげ茶の髪をした人が立っていた。
「……お姉ちゃん」
確かみほと言う人が呟く。
一瞬どっちが?と思ったが、なんとなく顔立ちに似ている焦げ茶髪のほうだろう
「まだ戦車道をしているとは思わなかった……」
焦げ茶髪は無表情でそう答える。
全く話の筋が見えない。
すると、突然秋山が立ち上がって言った。
「お言葉ですが!あの試合でのみほさんの判断は間違ってませんでした!!」
かなり大きめな声だ。
一体何があったのだろう
「部外者は口を出さないで欲しいわね」
「……すいません」
思いっきり銀髪に睨まれた挙句、消沈する優花里。
「行くぞ」
「はい」
焦げ茶髪に促され、店を出ようとする二人。
「一回戦はサンダース大学付属と当たるんでしょ?無様な戦いをして、西住流の名を汚さない事ね」
去り際、銀髪が皮肉を込めた言葉を放つ。
「何その言い方!!」
沙織が思わず抗議するが、銀髪が冷たい目をして言う。
「貴方達こそ戦車道に対して失礼じゃない?まだ無名校なのに。
この大会は戦車道のイメージダウンになるような学校は参加しないのが暗黙のルールよ」
ここで、黙って聞いていたチハが口を開いた。
「……正々堂々な試合で強いから、偉そうな口を利くのかと思ったら。なんか期待外れ感がある」
「は?」
銀髪が若干トゲのついた返事をしたが、チハは続けた。
チハの中で、恐らく察しがついた。
多分、この二人はみほと元同じチームで、今は別。西住流の名を汚さないとか言っているので、一緒にいたこの二人も強いチームか何かだったのだろうと。
「……聞こえなかった?
イメージがどうとか言ってるあたり、どうせ都合のいい相手としか当たらなかったんでしょ?」
椅子から降りて、チハは相手を見据える。
残念ながら身長のせいで見上げる形になっているのがなんとも惜しい。
「……見せてあげる。本当の戦車の戦い方を」