【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
読者の皆さまのアンケートへの参加をもとに、続きを作っていきます。気軽に参加していただけるとうれしいです。
トラックに撥ねられた。
横断歩道を渡っていたところまでは覚えている。
歩行者信号は青だった。スマホも見ていなかった。
それなのに、曲がってきたトラックの運転席と目が合った。
運転手は、ものすごく楽しそうに笑っていた。
*
「申し訳ありませんでした」
白い部屋で、白い服の女が頭を下げている。
机の上には湯呑みが二つ。俺の前の茶には、茶柱が立っていた。
「……俺、死んだんですか」
「はい」
「そうですか」
茶柱を見た。
今さら縁起がよくても困る。
「こちらの関係者による不手際でして」
「あの運転手?」
「私の同僚の倅の孫のいとこの、そのお隣にお住まいの神が」
「途中から他人ですよね?」
「神同士の関係は、人の世より少々複雑で」
女は顔を上げ、言いにくそうに指を組んだ。
「トラックを運転する遊戯をご存じでしょうか」
「ゲームの?」
「ええ。あちらで大変お気に召されたようで、一度、本物にも乗ってみたいと」
あの笑顔を思い出した。
「それで俺を?」
「ブレーキとアクセルを」
「神なのに?」
「免許は持っていなかったそうです」
「取ってから乗れよ!」
机を叩いた。湯呑みが跳ねた。
女は「ごもっともです」と深くうなずいた。
「元に戻してください」
「申し訳ありません。それはできません」
即答だった。
喉まで出かかった文句が止まる。
帰れない。
さっきまで歩いていた道にも、その先にあったはずの生活にも。
湯呑みに手を伸ばした。持ち上げたものの、飲む気にはなれなかった。
「……じゃあ、どうなるんですか」
「別の人生をご用意いたします。お詫びとして、少し便利な力も」
「少し」
「暮らしに役立つ程度のものです。お選びいただけますよ」
差し出された手に、薄い冊子が現れた。
表紙には『特典のご案内』。
旅行のオプションみたいに言われても困る。
「それで許していただければ、と」
「まだ許してませんけど。……どこに行くんですか」
「日本です」
少しだけ、肩の力が抜けた。
「戦国の」
戻った。
「なんで?」
「私が好きなので」
「俺の人生ですよね?」
女がにっこりと笑った。
足元の白い床が、透け始めていた。
「詳しいご説明は、お身体に意識が馴染んでから。特典も、その際に」
「ちょっと待って、まだ話が」
「では、どうぞ私を楽しませてくださいね」
椅子ごと落ちた。
最後の一言、お詫びする側の台詞じゃないだろ。
*
目が覚めると、知らない女の人に尻を拭かれていた。
「…………」
俺は天井を見た。
黒っぽい梁が見えた。
もう一度、足元を見た。
知らない女の人に、尻を拭かれていた。
「おや。今日はおとなしいこと」
若い女だった。袖を邪魔にならないようにまとめ、俺の尻の下から汚れた布を抜き取っている。
俺の脚を片手で持ち上げられるくらいには、力がある。
いや。
俺が小さいのか。
「あ、う」
説明を求めたかった。
口から出たのは、それだけだった。
目の前に両手を持ってくる。
小さい。指が短い。手首に妙なくびれがある。
握って、開く。ちゃんと動く。
俺の手だ。
「はい、できましたよ」
清潔な布を当て直され、まくってあった裾を下ろされた。
俺にも、袖のある小さな着物が着せてある。腹の前で布が重なり、細い紐で留まっていた。
柄はないが、汚れてはいない。
そのまま抱き上げられた。
視界が急に高くなる。反射的に、女の襟元をつかんだ。
「どうしました。怖い夢でも見ましたか」
背中を軽く叩かれる。
恥ずかしい。
ものすごく恥ずかしいが、降ろしてもらったところで、自分でどうにかできる気がしない。
ひとまず、先ほどの件は考えないことにした。
自力でできるようになるまで、たぶん何度でも続く。
部屋の中を見回す。
広くはない。板の床の一部に敷物があり、隅には蓋の付いた木の箱が置かれていた。替えの布も、畳んで用意されている。
テレビも時計も、照明のスイッチもない。
開いた戸の向こうから、鳥の声がした。
例の神様の言葉を、少しずつ思い出す。
戦国。
本当に?
撮影なら、そろそろ誰かが止めに来てほしい。
もっとも、撮影で俺の手足が縮むわけもない。
女の肩越しに外を見る。
庭の先に柵があった。向こうで男が何かを運んでいる。女が呼びかけると、男は荷物を下ろして、こちらに頭を下げた。
誰に?
俺か?
少なくとも、豪華な城ではなさそうだ。
俺の着替えも、世話をする人もいる。暮らしに困っている様子はない。
ただ、これだけで何の家か分かるほど、昔の生活には詳しくない。
世話をしてくれているこの人が母親なのか、それすら分からない。
「腹が空きましたか。さあ、召し上がれ」
女が小さな椀を寄せた。
返事より先に腹が鳴った。
*
食事の後、床に降ろしてもらった。
立てた。
二歩進んだ。
三歩目で転んだ。
「まあ、お上手」
褒められた。
今のどこに褒める要素があったのかと思ったが、身体のほうは満足したらしい。思わず笑いそうになって、妙な気分になった。
一歳くらいだろうか。
子供の成長に詳しくないので、自信はない。
その後も何度か歩き、疲れて座り、外を眺めた。
分かったことは少ない。
大人の話は分かる。
こちらからは、まともに話せない。
神様は出てこない。
特典の説明も、まだだ。
せめて場所くらい聞いておけばよかった。
戦国時代の日本、と言われても広すぎる。
信長。秀吉。家康。
桶狭間。本能寺。関ヶ原。
思いつく名前を並べてみる。
知っているつもりだったのに、今いる場所を判断する役には、何一つ立たなかった。
そもそも、今何年だ。
数時間は経ったと思う。
差し込む光の位置が変わった頃、廊下から足音がした。
女が姿勢を正す。
「お帰りなさいませ」
戸口に男が立っていた。
若い。二十代か、三十代か。日焼けした顔に、疲れが出ている。
腰には刀があった。
本物だろうか。
確かめたいような、確かめたくないような。
「今日はどうだ」
「先ほどから、よくお歩きになります」
「そうか」
男の顔が、急に緩んだ。
俺の前に座り、両手を差し出してくる。
世話の女が背中を支えたので、仕方なく立った。
一歩。
二歩。
転ぶ前に、大きな手が脇の下に入った。
「よし。よく来た」
抱き上げられた。
さっきより高い。怖いので服を握る。
男はそれを見て、うれしそうに笑った。
たぶん、父親だ。
「父が戻っても泣かんとは。今日は機嫌がよいな、竹丸」
竹丸。
それが俺の名前らしい。
「この分なら、じきに庭も歩けましょう」
「目が離せなくなるな」
男は俺を膝に座らせた。
着ているものに派手な飾りはないが、破れも汚れも目につかない。
俺の着物の襟がずれているのに気づくと、男は指先でそっと直した。
「早く大きくなれよ。お前は我が
榎並、竹丸。
聞き覚えは、まるでなかった。
有名人かどうかも分からない。俺の知らない武家なんて、いくらでもあるだろう。
父親の親指が、俺の手に触れる。
つかむと、硬かった。
「小さな家だが、守るものはある。いずれは父とともに、お仕えせねばならん」
誰に。
思わず顔を上げた。
父親は、言葉が通じたと思ったのかもしれない。少し誇らしげに胸を張った。
「よいか、竹丸。我らがお仕えするのはな――」
その続きに、俺は耳を澄ませた。
今回のアンケートは、第1話の投稿から24時間後(9月14日23時)の投票結果をもとに、第2話の転生先を決定します。
集計後の投票は、第2話には反映されません。気になる転生先に、ぜひ一票をお願いします!
主人公・竹丸が生まれた榎並家は、どの勢力のもとにある小さな武家でしょうか? 最多票の候補を転生先として採用し、第2話から反映します。いずれも架空の弱小武家で、有名武将の直臣とは限りません。
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織田家(尾張)
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松平家・のちの徳川家(三河)
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武田家(甲斐)
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上杉謙信につながる勢力(越後)
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毛利家(安芸)