【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
アンケートの選択結果はまだ反映していません。
アンケート周りに関する謝罪はあとがきに記載があります。
父に返事をするまで、まだ少し間があった。
織田方への使いや荷渡しに、ついていくか。
それとも、
父は先方へ話してやると言ってくれた。
どれを頼むにしても、まず俺が決めなければならない。
庭へ下りる段に腰を掛け、俺は足元の土を見た。
拾った小枝で、丸を三つ描く。
信長。
最初の丸のそばに、その名を書きかけてやめた。
まだ会ったこともない若様の名を、土へ書いて考え込んでいる。誰かに見られたら、何をしているのか聞かれそうだ。
俺自身、うまく説明できる気がしなかった。
織田方の用向きに同行すれば、父たちの仕える先を、もう少し近くで見られる。
誰へ何を渡し、どんな返事を持ち帰るのか。今は父から聞いているだけのことを、自分でも見られるかもしれない。
その先に、信長がいる。
桶狭間。本能寺。
思い出すのは、相変わらず大きな出来事ばかりだった。
間に何十年もあるはずなのに、頭の中では、今川を倒したと思ったらもう寺が燃えている。
雑すぎるだろ、俺の日本史。
とはいえ、その信長だって、今は子供だ。
父から聞いた歳なら、俺より三つ下。用事についていったところで、都合よく会えるとは限らない。
会えたとして、何を話す。
というか、俺の知っている信長、女だったり、城だったり、ドリフな信長だったりするんだよな。
ここの信長は、そういう信長じゃないよな?
……女神に放り込まれた身で考えると、妙に不安になる。
会ってもいないのに、前世の創作で顔を決めるのはやめておこう。
将来すごくなりますよ、なんて言えるわけがない。
まして、先の戦の話を、年も場所も曖昧なまま持ち出したらどうなるか。
小枝で、丸の縁をなぞった。
俺は信長の最期を知っている。
だからといって、そばにいる者がどうやってそこまで生きたのかは、ほとんど知らない。
有名な人の近くへ行けば安心、という話ではなさそうだった。
*
二つ目の丸へ、小枝を移す。
宗吉殿についていけば、よその家との話し方を学べる。
同じ板でも、欲しい日や運ぶ人が違えば、話が変わる。
先日の食い違いだって、六枚と四枚を数えられるだけでは気づかなかった。
前世で買い物くらいはしていた。
でも、品を集めて、誰かに運んでもらい、約束の日までに届けたことはない。
店で買う側だった俺が、いきなり売る側のことまで分かるはずもなかった。
銭がどれくらい要るのか。
足りない物を、誰に頼めば手に入るのか。
そういうことが分かれば、父の仕事にも役立つだろう。
今なら、覚え書きを任せてもらえる。
書くほうに気を取られず、相手の話を聞ける。それは宗吉殿にも褒めてもらえた。
荷を包んだり、縄で結んだりする手つきも、教わって練習すれば身につけられるはずだ。
筆でできたことを、ほかの仕事でも試してみたい。
手際よく品を扱えるようになれば、任せてもらえることも増えるだろう。
もちろん、手が動くようになっても、何をどれだけ仕入れればよいかは別に覚えなければならない。
宗吉殿についていけば、そちらも一緒に学べそうだった。
ただ、会ったばかりの相手だ。
あの人が普段どんなふうに仕事をしているかは、まだ一度も見ていない。
面白そうだと思うのと、自分に合うかどうかは別だった。
最後の丸を、少し大きくする。
庄助の仕事は、出来上がった物を見られる。
直した床を踏めば、前と違うと分かる。道が傷んで荷を運びにくいなら、その場所へ行って確かめられる。
顔を知っている人たちが、何に困っているかも聞けそうだ。
何より、手を使う。
教わった技を覚える、この身体には合っているかもしれない。
大人と同じ重い物を持てなくても、小さな道具の扱いや、寸法の取り方なら、覚えられることがありそうだった。
そこで、ふと思った。
俺が新しい何かを発明しなくても、今ある仕事をちゃんと身につければ、十分役に立つのではないか。
前世の便利な物は、いくつも思い浮かぶ。
作り方となると、途端に怪しい。
それでも、何一つ覚えていないわけではない。
たとえば、火薬に使う
授業で聞いたのか、あとで何かで読んだのか。そんな話が、頭の隅に残っている。
ただ、名前を知っていることと、実際に作れることは違う。
どんな物ができれば成功なのかさえ、俺は見分けられない。
父に「火薬の材料を作れます」なんて言い切れる知識ではなかった。
いつか、その断片が役に立つことはあるかもしれない。
今は庄助に道具を借りて、目の前の仕事を覚えるほうが、早く何かできそうだった。
小枝を置いた。
どれも、行ってみたい。
全部では駄目か、と聞いたときの父の笑い顔が浮かんだ。
同じ日には行けない。けれど、一つ選んだら残りと縁が切れるわけでもない。
だったら、まず何を見たいのか。
「竹丸。そこにおったか」
声がして、顔を上げた。
*
手にしている物を見て、俺は腰を浮かせた。
いつもの、ただの棒ではない。
木を削って刀に似せた物だった。長いものと短いものを、一本ずつ持っている。
「父上と、お話では」
「済んだ。お前は土いじりか」
権六は、足元の丸を見た。
「考え事です」
「三つもあるのか」
「一つに決まらなくて」
答えながらも、目が手元へ戻ってしまう。
権六はそれに気づいたらしく、短いほうを差し出した。
「持ってみるか」
「よいのですか」
「そのつもりで持ってきた」
俺は小枝を置き、両手で受け取った。
刃はない。触れても切れない。
それでも、握るところから先へ目を走らせると、口元が緩んだ。
剣だ。
いや、木なのは分かっている。でも、剣だ。
「振り回すなよ。まだ人がおる」
「はい」
返事をして、慌てて先を下げる。
権六が笑った。
「そろそろ剣の振り方も教えてやろう。お前の父上からもお許しをいただいた」
考え事は、ひとまず丸三つと一緒に残しておくことにした。
*
庭の空いているところへ移る。
周りに誰もいないのを確かめてから、権六が向き直った。
これまでも、棒を使って権六の相手をしてもらったことはある。
握り方や、足の運び。相手の手だけを見ないこと。
けれど、剣として持つとなると、教わることが増えた。
「こちらが刃だと思え」
権六が、木の縁を指す。
「ただ当てるのではない。振る向きに、刃を沿わせる」
権六が自分の木剣をゆっくり振り下ろして見せる。
俺は握りを確かめ、その動きを追った。
手が最後に少しねじれたところで、止められた。
「そこだ。先ほどと向きが変わっておる」
言われて、自分の手元を見る。
棒なら気にせず、そのまま振っていたと思う。
もう一度、木剣を上げる。
今度は手首を余計に返さず、見せてもらった向きのまま下ろす。
「そうだ」
同じように、もう一度。
動きを覚えると、次は迷わなかった。
続けて振っても、手元はねじれずに戻ってくる。
権六が、少し口を曲げた。
「ほんに、すぐ覚える」
「もう一度よいですか」
「聞かずともよい。ただし、急ぐな」
俺はうなずき、構え直した。
楽しかった。
足を運ぶだけのときとは違う。手にした形が変わっただけで、自分が物語の中の剣士に近づいたような気がする。
権六が振れば、なおさらそれらしく見えた。
俺も、あんなふうに振ってみたい。
刃を沿わせるという言葉は、きれいに振るための教えとして頭に入った。
その刃の先に人がいるところまでは、思い浮かばなかった。
今の俺は、覚えた動きをもう一度うまくできるか、そればかり考えていた。
面倒そうな顔もせず、付き合ってくれる。
俺がうまくやると、たまに悔しそうな顔はするけれど。
前世で名前を知っていた武将が、今はうちの庭で、俺に剣の振り方を教えている。
考えてみれば、とんでもないことだ。
信長の、頼りになる家臣。
強くて、いかつくて――。
そこで、何かが引っかかった。
あれ。
この人、最初から信長の側だったか?
*
「竹丸。止まったぞ」
俺は慌てて木の剣を下ろした。
「少し、考え事を」
「振るあいだは、こちらを考えよ」
「はい」
返事をして、構え直す。
けれど、浮かんだものは消えなかった。
信長の弟。
兄弟で争って、この人は、弟のほうについていなかったか。
何かで読んだ。たぶん、読んだはずだ。
ゲームだったかもしれない。
じゃあ、どうして、そのあとの話では信長の重臣になっているんだ。
負けて、許された?
途中で味方になった?
いや、そもそも別の人の話を混ぜていないか。
肝心のところが、出てこない。
「もう一度だ」
権六が、自分の木剣を持ち直した。
俺を待っている。
この人に剣を教わることと、いつか信長に会うこと。
頭の中では、何となく同じ方向へ続いていた。
そうではない時が来るのかもしれない。
俺は柄を握り直した。
今ここで、誰につくつもりですか、なんて聞けるはずもない。
まだ何も起きていないのに、何を言い出すのかと思われるだけだ。
権六が木剣を上げる。
今度は遅れず、俺もそれを追った。
くっそ。
歴史の教科書でも、もうちょっと真面目に読んでおけばよかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
第9話のアンケートについて、作者(人間)のヒューマンエラーにより、予定より早く締め切ってしまいました。投票を考えてくださっていた皆さま、申し訳ありません。
お詫びというには厚かましいですが締切を延長し、本日(9月23日)中はアンケートを開放しておきます。本日23時59分までの投票結果を、次の本編へ反映します。早く締め切ってしまった時点の票数では、結果を確定しません。
投票がお済みでない方は、この幕間の後書きの下、または第9話か本話にあるアンケートからご回答ください。
・織田方への使いや荷渡しに同行
・宗吉と品物の手配や交渉を学ぶ
・庄助と領内の修繕を学ぶ
第9話とこの幕間に表示するのは、同じアンケートです。すでに投票してくださった方は、改めて回答する必要はありません。
前回選ばれた「父について家や土地の仕事を学ぶ」を続けたうえで、次にどの仕事・相手との関わりを深めるかを選んでいただくものです。
-
織田方への使いや荷渡しに同行
-
宗吉と品物の手配や交渉を学
-
庄助と領内の修繕を学ぶ