【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~   作:病んでるくらいが一番

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第9話のあと、次に誰の仕事を見せてもらうか考えている竹丸の、短い幕間です。
アンケートの選択結果はまだ反映していません。
アンケート周りに関する謝罪はあとがきに記載があります。


幕間1「知っている名前、知らない道」

 父に返事をするまで、まだ少し間があった。

 

 宗吉(そうきち)殿と、品を集めるところを見に行くか。

 織田方への使いや荷渡しに、ついていくか。

 それとも、庄助(しょうすけ)について、家や道を直す仕事を見せてもらうか。

 

 父は先方へ話してやると言ってくれた。

 どれを頼むにしても、まず俺が決めなければならない。

 

 庭へ下りる段に腰を掛け、俺は足元の土を見た。

 拾った小枝で、丸を三つ描く。

 

 信長。

 

 最初の丸のそばに、その名を書きかけてやめた。

 まだ会ったこともない若様の名を、土へ書いて考え込んでいる。誰かに見られたら、何をしているのか聞かれそうだ。

 俺自身、うまく説明できる気がしなかった。

 

 織田方の用向きに同行すれば、父たちの仕える先を、もう少し近くで見られる。

 誰へ何を渡し、どんな返事を持ち帰るのか。今は父から聞いているだけのことを、自分でも見られるかもしれない。

 

 その先に、信長がいる。

 

 桶狭間。本能寺。

 思い出すのは、相変わらず大きな出来事ばかりだった。

 間に何十年もあるはずなのに、頭の中では、今川を倒したと思ったらもう寺が燃えている。

 雑すぎるだろ、俺の日本史。

 

 とはいえ、その信長だって、今は子供だ。

 父から聞いた歳なら、俺より三つ下。用事についていったところで、都合よく会えるとは限らない。

 会えたとして、何を話す。

 

 というか、俺の知っている信長、女だったり、城だったり、ドリフな信長だったりするんだよな。

 ここの信長は、そういう信長じゃないよな?

 

 ……女神に放り込まれた身で考えると、妙に不安になる。

 会ってもいないのに、前世の創作で顔を決めるのはやめておこう。

 

 将来すごくなりますよ、なんて言えるわけがない。

 まして、先の戦の話を、年も場所も曖昧なまま持ち出したらどうなるか。

 

 小枝で、丸の縁をなぞった。

 

 俺は信長の最期を知っている。

 だからといって、そばにいる者がどうやってそこまで生きたのかは、ほとんど知らない。

 有名な人の近くへ行けば安心、という話ではなさそうだった。

 

     *

 

 二つ目の丸へ、小枝を移す。

 

 宗吉殿についていけば、よその家との話し方を学べる。

 同じ板でも、欲しい日や運ぶ人が違えば、話が変わる。

 先日の食い違いだって、六枚と四枚を数えられるだけでは気づかなかった。

 

 前世で買い物くらいはしていた。

 でも、品を集めて、誰かに運んでもらい、約束の日までに届けたことはない。

 店で買う側だった俺が、いきなり売る側のことまで分かるはずもなかった。

 

 銭がどれくらい要るのか。

 足りない物を、誰に頼めば手に入るのか。

 そういうことが分かれば、父の仕事にも役立つだろう。

 

 今なら、覚え書きを任せてもらえる。

 書くほうに気を取られず、相手の話を聞ける。それは宗吉殿にも褒めてもらえた。

 

 荷を包んだり、縄で結んだりする手つきも、教わって練習すれば身につけられるはずだ。

 筆でできたことを、ほかの仕事でも試してみたい。

 手際よく品を扱えるようになれば、任せてもらえることも増えるだろう。

 

 もちろん、手が動くようになっても、何をどれだけ仕入れればよいかは別に覚えなければならない。

 宗吉殿についていけば、そちらも一緒に学べそうだった。

 

 ただ、会ったばかりの相手だ。

 あの人が普段どんなふうに仕事をしているかは、まだ一度も見ていない。

 面白そうだと思うのと、自分に合うかどうかは別だった。

 

 最後の丸を、少し大きくする。

 

 庄助の仕事は、出来上がった物を見られる。

 直した床を踏めば、前と違うと分かる。道が傷んで荷を運びにくいなら、その場所へ行って確かめられる。

 顔を知っている人たちが、何に困っているかも聞けそうだ。

 

 何より、手を使う。

 

 教わった技を覚える、この身体には合っているかもしれない。

 大人と同じ重い物を持てなくても、小さな道具の扱いや、寸法の取り方なら、覚えられることがありそうだった。

 

 そこで、ふと思った。

 俺が新しい何かを発明しなくても、今ある仕事をちゃんと身につければ、十分役に立つのではないか。

 

 前世の便利な物は、いくつも思い浮かぶ。

 作り方となると、途端に怪しい。

 

 それでも、何一つ覚えていないわけではない。

 たとえば、火薬に使う硝石(しょうせき)。日本では天然のものが手に入りにくく、人の手で作る方法もあったはずだ。

 授業で聞いたのか、あとで何かで読んだのか。そんな話が、頭の隅に残っている。

 

 ただ、名前を知っていることと、実際に作れることは違う。

 どんな物ができれば成功なのかさえ、俺は見分けられない。

 父に「火薬の材料を作れます」なんて言い切れる知識ではなかった。

 

 いつか、その断片が役に立つことはあるかもしれない。

 今は庄助に道具を借りて、目の前の仕事を覚えるほうが、早く何かできそうだった。

 

 小枝を置いた。

 

 どれも、行ってみたい。

 全部では駄目か、と聞いたときの父の笑い顔が浮かんだ。

 同じ日には行けない。けれど、一つ選んだら残りと縁が切れるわけでもない。

 

 だったら、まず何を見たいのか。

 

「竹丸。そこにおったか」

 

 声がして、顔を上げた。

 

     *

 

 権六(ごんろく)が庭へ入ってきた。

 手にしている物を見て、俺は腰を浮かせた。

 

 いつもの、ただの棒ではない。

 木を削って刀に似せた物だった。長いものと短いものを、一本ずつ持っている。

 

「父上と、お話では」

「済んだ。お前は土いじりか」

 

 権六は、足元の丸を見た。

 

「考え事です」

「三つもあるのか」

「一つに決まらなくて」

 

 答えながらも、目が手元へ戻ってしまう。

 権六はそれに気づいたらしく、短いほうを差し出した。

 

「持ってみるか」

「よいのですか」

「そのつもりで持ってきた」

 

 俺は小枝を置き、両手で受け取った。

 刃はない。触れても切れない。

 それでも、握るところから先へ目を走らせると、口元が緩んだ。

 

 剣だ。

 いや、木なのは分かっている。でも、剣だ。

 

「振り回すなよ。まだ人がおる」

「はい」

 

 返事をして、慌てて先を下げる。

 権六が笑った。

 

「そろそろ剣の振り方も教えてやろう。お前の父上からもお許しをいただいた」

 

 考え事は、ひとまず丸三つと一緒に残しておくことにした。

 

     *

 

 庭の空いているところへ移る。

 周りに誰もいないのを確かめてから、権六が向き直った。

 

 これまでも、棒を使って権六の相手をしてもらったことはある。

 握り方や、足の運び。相手の手だけを見ないこと。

 けれど、剣として持つとなると、教わることが増えた。

 

「こちらが刃だと思え」

 

 権六が、木の縁を指す。

 

「ただ当てるのではない。振る向きに、刃を沿わせる」

 

 権六が自分の木剣をゆっくり振り下ろして見せる。

 俺は握りを確かめ、その動きを追った。

 手が最後に少しねじれたところで、止められた。

 

「そこだ。先ほどと向きが変わっておる」

 

 言われて、自分の手元を見る。

 棒なら気にせず、そのまま振っていたと思う。

 

 もう一度、木剣を上げる。

 今度は手首を余計に返さず、見せてもらった向きのまま下ろす。

 

「そうだ」

 

 同じように、もう一度。

 動きを覚えると、次は迷わなかった。

 続けて振っても、手元はねじれずに戻ってくる。

 

 権六が、少し口を曲げた。

 

「ほんに、すぐ覚える」

「もう一度よいですか」

「聞かずともよい。ただし、急ぐな」

 

 俺はうなずき、構え直した。

 

 楽しかった。

 足を運ぶだけのときとは違う。手にした形が変わっただけで、自分が物語の中の剣士に近づいたような気がする。

 権六が振れば、なおさらそれらしく見えた。

 俺も、あんなふうに振ってみたい。

 

 刃を沿わせるという言葉は、きれいに振るための教えとして頭に入った。

 その刃の先に人がいるところまでは、思い浮かばなかった。

 

 今の俺は、覚えた動きをもう一度うまくできるか、そればかり考えていた。

 

 面倒そうな顔もせず、付き合ってくれる。

 俺がうまくやると、たまに悔しそうな顔はするけれど。

 

 柴田勝家(しばたかついえ)。

 

 前世で名前を知っていた武将が、今はうちの庭で、俺に剣の振り方を教えている。

 考えてみれば、とんでもないことだ。

 

 信長の、頼りになる家臣。

 強くて、いかつくて――。

 

 そこで、何かが引っかかった。

 

 あれ。

 

 この人、最初から信長の側だったか?

 

     *

 

「竹丸。止まったぞ」

 

 俺は慌てて木の剣を下ろした。

 

「少し、考え事を」

「振るあいだは、こちらを考えよ」

「はい」

 

 返事をして、構え直す。

 けれど、浮かんだものは消えなかった。

 

 信長の弟。

 兄弟で争って、この人は、弟のほうについていなかったか。

 

 何かで読んだ。たぶん、読んだはずだ。

 ゲームだったかもしれない。

 

 じゃあ、どうして、そのあとの話では信長の重臣になっているんだ。

 

 負けて、許された?

 途中で味方になった?

 いや、そもそも別の人の話を混ぜていないか。

 

 肝心のところが、出てこない。

 

「もう一度だ」

 

 権六が、自分の木剣を持ち直した。

 俺を待っている。

 

 この人に剣を教わることと、いつか信長に会うこと。

 頭の中では、何となく同じ方向へ続いていた。

 

 そうではない時が来るのかもしれない。

 

 俺は柄を握り直した。

 今ここで、誰につくつもりですか、なんて聞けるはずもない。

 まだ何も起きていないのに、何を言い出すのかと思われるだけだ。

 

 権六が木剣を上げる。

 今度は遅れず、俺もそれを追った。

 

 くっそ。

 歴史の教科書でも、もうちょっと真面目に読んでおけばよかった。




お読みいただき、ありがとうございます。

第9話のアンケートについて、作者(人間)のヒューマンエラーにより、予定より早く締め切ってしまいました。投票を考えてくださっていた皆さま、申し訳ありません。

お詫びというには厚かましいですが締切を延長し、本日(9月23日)中はアンケートを開放しておきます。本日23時59分までの投票結果を、次の本編へ反映します。早く締め切ってしまった時点の票数では、結果を確定しません。

投票がお済みでない方は、この幕間の後書きの下、または第9話か本話にあるアンケートからご回答ください。
・織田方への使いや荷渡しに同行
・宗吉と品物の手配や交渉を学ぶ
・庄助と領内の修繕を学ぶ

第9話とこの幕間に表示するのは、同じアンケートです。すでに投票してくださった方は、改めて回答する必要はありません。

前回選ばれた「父について家や土地の仕事を学ぶ」を続けたうえで、次にどの仕事・相手との関わりを深めるかを選んでいただくものです。

  • 織田方への使いや荷渡しに同行
  • 宗吉と品物の手配や交渉を学
  • 庄助と領内の修繕を学ぶ
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