【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
この話は、全3話中の1話目です。
アンケートへのご参加、ありがとうございました。
第4回は、終了操作時点で全11票となりました。
・織田方への使いや荷渡しに同行:6票
・宗吉と品物の手配や交渉を学ぶ:5票
・庄助と領内の修繕を学ぶ:0票
作者の締切操作が遅れてしまい、申し訳ありません。告知した締切時点の記録がないため、今回は終了操作時点の結果を採用します。
最多票の「織田方への使いや荷渡しに同行」を、今回から反映します。
幕間の続きから数年を進め、十二歳になった竹丸の用向きを描きます。
「織田方への用向きに、お供したいです」
父へ答えると、どこを見たい、と聞かれた。
俺は少し考えた。
「うちから運んだ物を、どんな方が受け取るのか。それと、父上がよそで何をお話ししているのかを」
信長に会ってみたい気持ちもあった。
けれど、会うための道が分からない。まずは父が出入りする先を、自分でも知りたかった。
父は俺の顔を見てから、うなずいた。
「では、次は連れていこう」
答えが決まったからといって、翌日に出かけるわけではなかった。
数日後、
「では、あちらでお会いすることもありましょうな」
宗吉はそう言って、俺へ笑いかけた。
違う仕事を選んだら、もう会わなくなるわけではない。
そのことに、少しほっとした。
*
初めての同行では、父の後ろから離れないようにするだけで忙しかった。
門で名を告げる。
誰に取り次いでほしいのかを伝え、待つように言われたら待つ。
家ではすぐに奥へ通される父も、そこでは先に来た者と並んで座った。
知らない人の前で、知っている父が、いつもと違う言葉遣いで話している。
その横顔が、妙に新鮮だった。
次には、渡す紙を持たされた。
その次には、父が隣にいるところで、俺から用向きを告げた。
足を運ぶ先は、一つではない。
顔と名前が結びつくまで、何度も父に聞いた。
地名まで似ていると、前の家と混ざりそうになる。
それでも、通えば覚える。
門を開けた男が、父の名を聞く前に俺を見て笑うようになった。
「今日は、お父上もご一緒か」
そう聞かれて、父を振り返らずに答えられる頃には、俺は十二歳になっていた。
こちらの数え方なら、十三だ。
背は伸びたし、歩ける道も増えた。
仕事へ持っていくのは刀ではなく、紙と、預かった言葉だったが。
その朝は、父が来なかった。
*
「
何度も来た門で頭を下げる。
返ってきた声は、いつもの男のものだった。
「聞いておる。裏へ回ってくれ」
荷を運んできた者たちへ、そのまま伝えた。
今日は俺が、先方と話す役だ。
父は家に残り、俺に荷渡しと返事の受け取りを任せた。
護衛も運ぶ人もつけず、一人で送り出されたわけではない。それでも、用向きを尋ねられて、隣の父に答えてもらうことはできなかった。
持ってきたのは、荷を縛る縄と、敷いたり覆ったりする筵だ。
織田方から必要な数を伝えられ、父が領内で手配した分だった。
父が織田方へ出向くのは、品を届けるときばかりではない。
領内の様子を伝え、人を出す相談をし、決まったことを家へ持ち帰る。そうした用向きの一つに、今回の荷渡しがあった。
受け取る側の男と品を広げて確かめる。
男が縄の束をほどいて長さと傷みを見る間に、俺は筵を重ねた紐を解いた。
「その束は、そちらへ」
言われたところへ移す。
急かされなくても、何を次に出せばよいかは分かる。
男が次の品へ手を伸ばす頃には、こちらも用意を終えていた。
「うむ。よい」
声を聞いて、肩の力が少し抜けた。
品も数も、頼まれたとおりに揃っている。
あとは、父への返事を受け取って帰るだけだ。
そう思ったところで、裏口に人が増えた。
*
別の荷が着いたのだった。
大きな包みを抱えた男が二人。後ろから来た者も、軒先へ荷を下ろそうとしている。
受け取りの男が、奥へ声をかけた。
「先に置いた分を運べ。そこでは通れぬ」
俺たちの縄を、さらに先の家へ送るのだという。
運び出す者も、もう来ていた。
俺の前にあった庭が、急に狭くなった気がした。
弥助たちは、空いた運び道具をまとめている。
俺は返事を待つあいだ、邪魔にならないよう端へ寄った。
目の前で、若い男が縄の束を持ち上げる。
確かめるためにほどいたままの端が、下へ垂れた。
「それ、踏みます」
声をかけるのと、男が足を止めるのが一緒だった。
俺は落ちた端を拾った。
「まとめ直します。いったん下ろしていただけますか」
男は俺を見たが、腕の中の束を置いてくれた。
端を収め、運ぶ間にばらけないよう留める。
弥助が荷を作るところを何度も見て、自分でも手を動かして覚えた結び方だ。
細い紐を通し、締める。
もう一つも、同じように。
「できました」
「早いな」
男は結んだところを引き、持ち上げた。
今度は何も垂れてこない。
ちょっと得意になった俺の前へ、隣の者が次の束を置いた。
「では、これも頼む」
褒められたと思ったら、仕事が増えた。
*
何束かまとめ直したところで、太い声が飛んだ。
「お前は、どこの者だ」
顔を上げると、袖をまくった男が立っていた。
この家では、いつも人に指図している人だ。父とは話していたが、俺から声をかけたことはない。
「
「榎並殿の」
男が俺の顔を見直した。
「今日はお一人で寄越されたか」
「弥助たちが一緒です。荷のお返事をいただいて戻るようにと」
男は弥助へ目を向け、軽くうなずいた。
それから、俺が結んだ束を見る。
「向こうで荷を組む者が足りぬ。その手を、少し借りられるか」
俺は、庭の奥を見た。
筵で包んだ荷を縛っているところだった。
品を渡したら帰る。
今日はそのつもりで来ている。
でも、返事を待っている間なら、手伝えることもありそうだった。
「弥助。今、出なければ遅くなりますか」
尋ねると、弥助は日を見た。
「この荷を済ませるほどなら。長くなるようでしたら、申し上げます」
俺は男へ向き直った。
「お手伝いします」
男は短く礼を言い、俺を連れていった。
*
そちらの荷は、縄の束とは勝手が違った。
包みが大きく、持ち上げると中身が少し動く。
勝手に締めればよいと思わず、どこへ縄を掛けるのか聞いた。
年上の男が手を止め、一本目を一緒に掛けてくれた。
「ここを押さえておれ。そうだ。こちらへ返す」
見せてもらった手順を、自分の手で追う。
一度目は男に確かめてもらい、二度目は俺から縄を回した。
強く締めるところと、荷の角に合わせて位置を変えるところ。その違いが分かれば、手はついてきた。
次の包みでは、もう止まらなかった。
「先ほどもやったことがあるのか」
「この掛け方は今、教わりました」
男の手が止まる。
俺は自分の結び目を見た。
「違いましたか」
「いや、合うておる」
男はもう一度引っ張り、それから笑った。
「ならば、次も同じだ。覚えたところで帰られては困る」
冗談めかした言い方だった。
俺も笑って、次の縄を受け取った。
重い荷を持ち上げるのは、大人たちの役目だ。
俺は縄を掛け、端を収め、持ち上げても崩れないかを一緒に確かめる。
何を、どこへ、幾つ送るかは、この家の人が決めている。
その間に、俺の手で進む仕事がある。
筆で紙を埋めるときと同じだった。
やり方を教わり、何度か試すと、その先は考えるより先に手が動く。
相手が包みの向きを変え終える前に、次の縄を用意できた。
「待て待て。こちらが追いつかぬ」
そう言われて、今度こそ少し、得意になった。
*
最後の荷が持ち上がると、弥助が近づいてきた。
「そろそろ、戻りましょう」
俺はうなずき、手についた細かな屑を払った。
指図していた男が、受け取りの返事を持ってくる。
「榎並殿には、確かに受け取ったと。こちらからも人を出すが、先にお伝えしてくれ」
「承りました」
聞いたことを確かめ、紙を懐へしまう。
男はそこで俺を帰さず、もう一つ尋ねた。
「竹丸、と申したな。次も来られるか」
俺は顔を上げた。
「同じ品を、お届けする折ですか」
「いや。使いのついででもよい。手の空く日があれば、荷を出すときに来てほしい。榎並殿へ、そう伝えてくれ」
次の品を、父に手配してほしいという話ではなかった。
俺に来てほしい、と言われていた。
すぐに、はい、と答えそうになった。
父に話すことは分かっている。それでも、先にうなずいてしまいたくなった。
「父に伝えます。俺もまた来たいです」
男は笑った。
「では、そのように」
*
門を出て、しばらく歩いてから、弥助が言った。
「今日は、よく働かれましたな」
「予定より、働きました」
手を開くと、縄を引いたところが少し赤かった。
覚えるのが早くても、手の皮まで一緒に厚くなるわけではないらしい。
でも、嫌な痛みではなかった。
父の供で来た頃は、話が終わるのを待っていた。
今日は、弥助に終わりを教えてもらうまで、自分の仕事をしていた。
道の先で、見覚えのある顔と行き合った。
宗吉だった。
「おや。今日は、もうお帰りで」
行き先を告げると、ちょうど自分もそこへ向かうところだという。
俺が荷を縛るのを手伝ったと話すと、宗吉は弥助を見た。
「ずいぶん頼りにされておいででしたよ」
弥助が言う。
俺は、少しだけ、と付け足しかけてやめた。
そこは、働いたと言ってもよい気がした。
「では、今度は私が品を持っていくと、竹丸様が受けてくださるかもしれませんな」
「それは、まだ分かりません」
「楽しみにしておきます」
宗吉は笑って、先へ歩いていった。
別の道を選んだつもりでも、こうしてまた会う。
父の知り合い、柴田家の知り合い、宗吉の届け先。
前はばらばらに覚えていた場所が、歩くほどにつながってきた。
*
家へ戻ると、父は俺の報告を最後まで聞いた。
受け取りの返事を読み、頼まれた言葉をもう一度確かめる。
「次も、お前に来てほしいと」
「はい」
父は紙を置いた。
「わしの供ではなく、お前の用向きになるな」
俺は、うなずいた。
口に出されると、うれしさのあとから緊張が来る。
父はしばらく俺を見て、それから笑った。
「では、わしからも話しておこう」
思わず、背筋が伸びた。
そのあと権六に会ったら、また、働き者、とからかわれるだろうか。
手の皮が痛いと言ったら、稽古を休む口実か、と笑われそうだ。
俺は手を握り、開いた。
けれど、織田方へ出入りする俺を、待つ人ができた。
次は父の後ろからついていくのではなく、俺自身が、あの門で用向きを告げる。
お読みいただき、ありがとうございます。
織田方への同行を選んだ竹丸が、父の使いとして顔を覚えられ、自分にも仕事を頼まれるようになるまでの話でした。
宗吉や柴田家との縁も続いています。
今回は新しいアンケートはありません。
本話の荷渡し先、用向き、人物の会話は創作です。十二歳の場面は1543年ごろを想定しています。