【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~   作:病んでるくらいが一番

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第10〜12話を連続投稿します。
この話は、全3話中の1話目です。

アンケートへのご参加、ありがとうございました。
第4回は、終了操作時点で全11票となりました。

・織田方への使いや荷渡しに同行:6票
・宗吉と品物の手配や交渉を学ぶ:5票
・庄助と領内の修繕を学ぶ:0票

作者の締切操作が遅れてしまい、申し訳ありません。告知した締切時点の記録がないため、今回は終了操作時点の結果を採用します。
最多票の「織田方への使いや荷渡しに同行」を、今回から反映します。
幕間の続きから数年を進め、十二歳になった竹丸の用向きを描きます。



第10話「次は、お前に頼みたい」

「織田方への用向きに、お供したいです」

 

 父へ答えると、どこを見たい、と聞かれた。

 俺は少し考えた。

 

「うちから運んだ物を、どんな方が受け取るのか。それと、父上がよそで何をお話ししているのかを」

 

 信長に会ってみたい気持ちもあった。

 けれど、会うための道が分からない。まずは父が出入りする先を、自分でも知りたかった。

 

 父は俺の顔を見てから、うなずいた。

 

「では、次は連れていこう」

 

 答えが決まったからといって、翌日に出かけるわけではなかった。

 数日後、宗吉(そうきち)殿が来たとき、父がその話をした。

 

「では、あちらでお会いすることもありましょうな」

 

 宗吉はそう言って、俺へ笑いかけた。

 違う仕事を選んだら、もう会わなくなるわけではない。

 そのことに、少しほっとした。

 

     *

 

 初めての同行では、父の後ろから離れないようにするだけで忙しかった。

 

 門で名を告げる。

 誰に取り次いでほしいのかを伝え、待つように言われたら待つ。

 家ではすぐに奥へ通される父も、そこでは先に来た者と並んで座った。

 

 知らない人の前で、知っている父が、いつもと違う言葉遣いで話している。

 その横顔が、妙に新鮮だった。

 

 次には、渡す紙を持たされた。

 その次には、父が隣にいるところで、俺から用向きを告げた。

 

 足を運ぶ先は、一つではない。

 那古野(なごや)の近くの家もあれば、別の用事で途中に寄る家もある。

 顔と名前が結びつくまで、何度も父に聞いた。

 地名まで似ていると、前の家と混ざりそうになる。

 

 それでも、通えば覚える。

 門を開けた男が、父の名を聞く前に俺を見て笑うようになった。

 

「今日は、お父上もご一緒か」

 

 そう聞かれて、父を振り返らずに答えられる頃には、俺は十二歳になっていた。

 こちらの数え方なら、十三だ。

 

 背は伸びたし、歩ける道も増えた。

 権六(ごんろく)に教わる稽古は続けている。木の剣を手にするたびに浮かれていた頃より、振る速さも、思ったところで止める確かさも増した。

 仕事へ持っていくのは刀ではなく、紙と、預かった言葉だったが。

 

 その朝は、父が来なかった。

 

     *

 

「榎並(えなみ)の竹丸にございます。お約束の縄と、筵(むしろ)をお持ちしました」

 

 何度も来た門で頭を下げる。

 返ってきた声は、いつもの男のものだった。

 

「聞いておる。裏へ回ってくれ」

 

 荷を運んできた者たちへ、そのまま伝えた。

 弥助(やすけ)がうなずく。

 

 今日は俺が、先方と話す役だ。

 父は家に残り、俺に荷渡しと返事の受け取りを任せた。

 護衛も運ぶ人もつけず、一人で送り出されたわけではない。それでも、用向きを尋ねられて、隣の父に答えてもらうことはできなかった。

 

 持ってきたのは、荷を縛る縄と、敷いたり覆ったりする筵だ。

 織田方から必要な数を伝えられ、父が領内で手配した分だった。

 

 父が織田方へ出向くのは、品を届けるときばかりではない。

 領内の様子を伝え、人を出す相談をし、決まったことを家へ持ち帰る。そうした用向きの一つに、今回の荷渡しがあった。

 受け取る側の男と品を広げて確かめる。

 男が縄の束をほどいて長さと傷みを見る間に、俺は筵を重ねた紐を解いた。

 

「その束は、そちらへ」

 

 言われたところへ移す。

 急かされなくても、何を次に出せばよいかは分かる。

 男が次の品へ手を伸ばす頃には、こちらも用意を終えていた。

 

「うむ。よい」

 

 声を聞いて、肩の力が少し抜けた。

 品も数も、頼まれたとおりに揃っている。

 

 あとは、父への返事を受け取って帰るだけだ。

 

 そう思ったところで、裏口に人が増えた。

 

     *

 

 別の荷が着いたのだった。

 大きな包みを抱えた男が二人。後ろから来た者も、軒先へ荷を下ろそうとしている。

 

 受け取りの男が、奥へ声をかけた。

 

「先に置いた分を運べ。そこでは通れぬ」

 

 俺たちの縄を、さらに先の家へ送るのだという。

 運び出す者も、もう来ていた。

 俺の前にあった庭が、急に狭くなった気がした。

 

 弥助たちは、空いた運び道具をまとめている。

 俺は返事を待つあいだ、邪魔にならないよう端へ寄った。

 

 目の前で、若い男が縄の束を持ち上げる。

 確かめるためにほどいたままの端が、下へ垂れた。

 

「それ、踏みます」

 

 声をかけるのと、男が足を止めるのが一緒だった。

 俺は落ちた端を拾った。

 

「まとめ直します。いったん下ろしていただけますか」

 

 男は俺を見たが、腕の中の束を置いてくれた。

 端を収め、運ぶ間にばらけないよう留める。

 弥助が荷を作るところを何度も見て、自分でも手を動かして覚えた結び方だ。

 

 細い紐を通し、締める。

 もう一つも、同じように。

 

「できました」

「早いな」

 

 男は結んだところを引き、持ち上げた。

 今度は何も垂れてこない。

 

 ちょっと得意になった俺の前へ、隣の者が次の束を置いた。

 

「では、これも頼む」

 

 褒められたと思ったら、仕事が増えた。

 

     *

 

 何束かまとめ直したところで、太い声が飛んだ。

 

「お前は、どこの者だ」

 

 顔を上げると、袖をまくった男が立っていた。

 この家では、いつも人に指図している人だ。父とは話していたが、俺から声をかけたことはない。

 

「榎並(えなみ)の竹丸でございます」

「榎並殿の」

 

 男が俺の顔を見直した。

 

「今日はお一人で寄越されたか」

「弥助たちが一緒です。荷のお返事をいただいて戻るようにと」

 

 男は弥助へ目を向け、軽くうなずいた。

 それから、俺が結んだ束を見る。

 

「向こうで荷を組む者が足りぬ。その手を、少し借りられるか」

 

 俺は、庭の奥を見た。

 筵で包んだ荷を縛っているところだった。

 

 品を渡したら帰る。

 今日はそのつもりで来ている。

 でも、返事を待っている間なら、手伝えることもありそうだった。

 

「弥助。今、出なければ遅くなりますか」

 

 尋ねると、弥助は日を見た。

 

「この荷を済ませるほどなら。長くなるようでしたら、申し上げます」

 

 俺は男へ向き直った。

 

「お手伝いします」

 

 男は短く礼を言い、俺を連れていった。

 

     *

 

 そちらの荷は、縄の束とは勝手が違った。

 包みが大きく、持ち上げると中身が少し動く。

 

 勝手に締めればよいと思わず、どこへ縄を掛けるのか聞いた。

 年上の男が手を止め、一本目を一緒に掛けてくれた。

 

「ここを押さえておれ。そうだ。こちらへ返す」

 

 見せてもらった手順を、自分の手で追う。

 一度目は男に確かめてもらい、二度目は俺から縄を回した。

 強く締めるところと、荷の角に合わせて位置を変えるところ。その違いが分かれば、手はついてきた。

 

 次の包みでは、もう止まらなかった。

 

「先ほどもやったことがあるのか」

「この掛け方は今、教わりました」

 

 男の手が止まる。

 俺は自分の結び目を見た。

 

「違いましたか」

「いや、合うておる」

 

 男はもう一度引っ張り、それから笑った。

 

「ならば、次も同じだ。覚えたところで帰られては困る」

 

 冗談めかした言い方だった。

 俺も笑って、次の縄を受け取った。

 

 重い荷を持ち上げるのは、大人たちの役目だ。

 俺は縄を掛け、端を収め、持ち上げても崩れないかを一緒に確かめる。

 何を、どこへ、幾つ送るかは、この家の人が決めている。

 

 その間に、俺の手で進む仕事がある。

 

 筆で紙を埋めるときと同じだった。

 やり方を教わり、何度か試すと、その先は考えるより先に手が動く。

 相手が包みの向きを変え終える前に、次の縄を用意できた。

 

「待て待て。こちらが追いつかぬ」

 

 そう言われて、今度こそ少し、得意になった。

 

     *

 

 最後の荷が持ち上がると、弥助が近づいてきた。

 

「そろそろ、戻りましょう」

 

 俺はうなずき、手についた細かな屑を払った。

 指図していた男が、受け取りの返事を持ってくる。

 

「榎並殿には、確かに受け取ったと。こちらからも人を出すが、先にお伝えしてくれ」

「承りました」

 

 聞いたことを確かめ、紙を懐へしまう。

 男はそこで俺を帰さず、もう一つ尋ねた。

 

「竹丸、と申したな。次も来られるか」

 

 俺は顔を上げた。

 

「同じ品を、お届けする折ですか」

「いや。使いのついででもよい。手の空く日があれば、荷を出すときに来てほしい。榎並殿へ、そう伝えてくれ」

 

 次の品を、父に手配してほしいという話ではなかった。

 俺に来てほしい、と言われていた。

 

 すぐに、はい、と答えそうになった。

 父に話すことは分かっている。それでも、先にうなずいてしまいたくなった。

 

「父に伝えます。俺もまた来たいです」

 

 男は笑った。

 

「では、そのように」

 

     *

 

 門を出て、しばらく歩いてから、弥助が言った。

 

「今日は、よく働かれましたな」

「予定より、働きました」

 

 手を開くと、縄を引いたところが少し赤かった。

 覚えるのが早くても、手の皮まで一緒に厚くなるわけではないらしい。

 でも、嫌な痛みではなかった。

 

 父の供で来た頃は、話が終わるのを待っていた。

 今日は、弥助に終わりを教えてもらうまで、自分の仕事をしていた。

 

 道の先で、見覚えのある顔と行き合った。

 宗吉だった。

 

「おや。今日は、もうお帰りで」

 

 行き先を告げると、ちょうど自分もそこへ向かうところだという。

 俺が荷を縛るのを手伝ったと話すと、宗吉は弥助を見た。

 

「ずいぶん頼りにされておいででしたよ」

 

 弥助が言う。

 俺は、少しだけ、と付け足しかけてやめた。

 そこは、働いたと言ってもよい気がした。

 

「では、今度は私が品を持っていくと、竹丸様が受けてくださるかもしれませんな」

「それは、まだ分かりません」

「楽しみにしておきます」

 

 宗吉は笑って、先へ歩いていった。

 

 別の道を選んだつもりでも、こうしてまた会う。

 父の知り合い、柴田家の知り合い、宗吉の届け先。

 前はばらばらに覚えていた場所が、歩くほどにつながってきた。

 

     *

 

 家へ戻ると、父は俺の報告を最後まで聞いた。

 受け取りの返事を読み、頼まれた言葉をもう一度確かめる。

 

「次も、お前に来てほしいと」

「はい」

 

 父は紙を置いた。

 

「わしの供ではなく、お前の用向きになるな」

 

 俺は、うなずいた。

 口に出されると、うれしさのあとから緊張が来る。

 

 父はしばらく俺を見て、それから笑った。

 

「では、わしからも話しておこう」

 

 思わず、背筋が伸びた。

 

 そのあと権六に会ったら、また、働き者、とからかわれるだろうか。

 手の皮が痛いと言ったら、稽古を休む口実か、と笑われそうだ。

 

 俺は手を握り、開いた。

 

 織田信長(おだのぶなが)には、まだ会っていない。

 けれど、織田方へ出入りする俺を、待つ人ができた。

 

 次は父の後ろからついていくのではなく、俺自身が、あの門で用向きを告げる。




お読みいただき、ありがとうございます。

織田方への同行を選んだ竹丸が、父の使いとして顔を覚えられ、自分にも仕事を頼まれるようになるまでの話でした。
宗吉や柴田家との縁も続いています。

今回は新しいアンケートはありません。
本話の荷渡し先、用向き、人物の会話は創作です。十二歳の場面は1543年ごろを想定しています。
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