【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~   作:病んでるくらいが一番

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第10〜12話の連続投稿です。
この話は、全3話中の2話目です。ひとつ前の第10話からお読みください。

十四歳になった竹丸。織田方へ通う日々の中で、思いがけない相手から声をかけられます。



第11話「権六にも聞いたぞ」

「お前が、権六に負けぬという奴か」

 

 初めて会った相手にそう言われて、俺は手にしていた縄を落としかけた。

 

 俺より、少し年下だろう。

 袖をまくり、歩きやすいよう裾を上げている。後ろには、同じくらいの年頃の者と、年上の男が一人ずついた。

 

 こちらを見ている目に、遠慮がない。

 かといって、ただ喧嘩を売りに来たようにも見えなかった。

 

「誰から、そのような話を」

 

 尋ねた俺の横で、宗吉(そうきち)が頭を下げた。

 

「吉法師(きっぽうし)様。こちらが、榎並の竹丸でございます」

 

 吉法師。

 

 その名前には、覚えがあった。

 

     *

 

 十四歳になっていた。

 

 父の代わりに荷を届け、また来てほしいと言われたあの日から、織田方へ通う用事が増えた。

 品を受け渡すだけでなく、次の使いへ返事を預けたり、人の出入りに合わせて荷をまとめたりする。

 父から教わった相手に、今度は俺自身の名前で呼ばれる。知らない家へ行くときも、その家へ通う人が間に入ってくれるようになった。

 

 その日は那古野(なごや)の近くまで来ていた。

 何度か荷造りを手伝っている家で、持ち帰る返事を待っていたところだ。

 宗吉もちょうど品を納めに来ていて、二人で、運び出す荷の仕上がりを見ていた。

 

 最後の結び目を確かめていたところへ、彼が来た。

 

 織田信長(おだのぶなが)。

 桶狭間で勝ち、本能寺で死ぬ。前世の俺にも名前を知られていた男。

 

 けれど、目の前にいるのは、まだ少年だった。

 父に聞いた年齢からすれば、俺より三つ下。元服もまだだと聞いている。

 俺の知っている絵や映像の顔とは、当然ながら違った。

 

 少し遅れて、自分が立ったままだと気づいた。

 縄を置き、頭を下げる。

 

「榎並(えなみ)竹丸でございます」

「それは今、聞いた」

 

 返事が早い。

 俺が次に何を言うか迷う間に、少年は荷を見た。

 

「まだ終わらぬか」

「これで最後です」

「なら、終わらせよ」

 

 俺は結び目を締め直した。

 自分の手だけが普段どおりに動いているのが、妙な感じだった。

 

     *

 

 仕事の話をしたのは、宗吉だったらしい。

 

 品を届けた折、年の近い者がよく働いている、と話した。

 榎並家や柴田家へも出入りする宗吉は、俺が父の供で座っていた頃から知っている。今は織田方の家で、大人に交じって荷を受けたり、使いに立ったりしている、と話したのだという。

 

 それだけなら、手の早い働き者がいるという話だった。

 

「権六に聞いたら、知っておった」

 

 吉法師が言った。

 

「そう申しておりましたか」

「手本を見せると、すぐ覚える。次に会うても忘れぬ。あれにはかなわぬ、と」

 

 俺は顔を上げた。

 

 その話と、権六に負けないという話は、だいぶ違う。

 

「それは覚える早さのことかと」

「勝ったことはないのか」

 

 答えに詰まった。

 決められた動きだけの稽古なら、権六より早く終えたことはある。

 相手をしてもらい、一本取れたこともある。

 だが、勝てる相手になったかと聞かれれば、まだ違った。

 

「取れたことはあります。取られた数のほうが、ずっと多いですが」

 

 吉法師は、声を出して笑った。

 

「権六も、そう言うておった」

 

 知っていたのか。

 

「では、なぜ」

「お前が、何と答えるか聞きたかった」

 

 初対面から、随分な試し方をする。

 俺が黙ると、吉法師はまた笑った。

 

「宗吉の話だけでは、面白うなかった。よう働く、間違えぬ、返事を忘れぬ。年寄りの話を聞いておるようだ」

 

 横で宗吉が咳払いをした。

 

「お褒めしたつもりなのですが」

「だから権六にも聞いたのだ」

 

 俺は、庭へ目を向けた。

 宗吉の褒め言葉と、権六の稽古話。

 別々の場所でしたことが、ここで一つにつながっていた。

 

 信長は、俺の顔を見に来たらしい。

 話に出てきた奴が本当に面白いか、確かめたかったのだろう。

 

     *

 

「棒はあるか」

 

 吉法師が家の者へ尋ねた。

 俺は思わず、宗吉を見た。

 

 宗吉も、少し困った顔をしている。

 

「若様。お怪我などなさいませぬよう」

「ならば、当てる前に止めればよい」

 

 後ろにいた年上の男が、庭へ出てきた。

 

「それならば、私が見ております。危うければお止めします」

 

 これで、断りにくくなった。

 俺は荷のそばから離れ、渡された棒を確かめた。

 重さは、普段使っているものと少し違う。

 

 手の中で持つ位置を変え、短く振って止める。

 もう一度。

 先の重さが分かると、止めるところを決めやすくなった。

 

 吉法師は、それを黙って見ていた。

 

「何度も振らずとも、よいのか」

「これで、だいたい分かります」

「そうか」

 

 構えたと思ったら、すぐ来た。

 

 速い。

 俺は棒を合わせ、横へ退いた。

 止まった先へ、また打ち込んでくる。

 

 権六とは違う。

 あちらは俺が何をしようとするか、待ってから潰してくることがある。

 この人は、こちらが決める前に、次を出してくる。

 

 身体は動いた。

 習った受け方で相手の棒を外し、足を運ぶ。

 だが、受けるばかりでは庭の端へ追われる。

 

「逃げるだけか」

 

 声が飛んできた。

 

 俺は一瞬、相手の肩を見る。

 踏み込む向きが、少し大きい。

 

 次を外せば、横が空く。

 そう思ったのに、手が遅れた。

 相手が誰かを考えてしまったのだ。

 

 棒の先が、俺の袖をかすめた。

 

「そこまで」

 

 見ていた男が言った。

 

 吉法師が棒を下ろす。

 

「今、止めたな」

「……はい」

「打てると思うたか」

 

 嘘をつけば、また顔に出る気がした。

 

「横へ出られるかと」

「なら、出よ」

 

 もう一度、棒が上がった。

 

     *

 

 二度目は、相手の顔を見ないようにした。

 肩と足を見る。

 打たれれば痛いのは、誰が相手でも同じだ。

 

 吉法師は、先ほどと違うほうへ踏み込んだ。

 俺も動きを変える。

 

 相手の棒を受けても押し合わず、先を外す。

 重さのかかる向きが変わったところで、足を出した。

 吉法師の肩へ届く寸前に、俺の棒を止める。

 

 吉法師が棒を返そうとした。だが、その先がこちらへ向くより、俺が止めるほうが早かった。

 

「止め」

 

 男の声で、二人とも動きを止めた。

 今度は先を取れた。相手に触れずに止めた棒を、俺はゆっくり引いた。

 

 吉法師は、すぐには何も言わなかった。

 俺の足元を見て、棒を見た。

 口を結び、次の言葉を飲み込むようにしてから、少し悔しそうに笑った。

 

「そちらのほうがよい」

 

 怒ってはいない。

 そのことに安心してから、俺は初めて、自分が息を詰めていたと気づいた。

 

「もう一度」

 

 今度は俺が、宗吉を振り返った。

 

 日が、さっきより傾いている。

 このあと届ける紙が、まだ一つあった。

 

「今日は戻らねばなりません」

 

 吉法師の眉が寄った。

 

「まだ使いがあるのか」

「はい。こちらのお返事を届けるよう、父から言われております」

「明日ではいかぬか」

 

 明日でもよいかどうかを、俺が決めてよい話ではなかった。

 

「今日戻ると、伝えてあります」

 

 少しの間、誰も口を開かなかった。

 宗吉が何か言いかけたとき、吉法師が棒を下ろした。

 

「なら、次は用を済ませてから来い」

 

 俺は、顔を上げた。

 

「次、ですか」

「今日だけでは、分からぬ」

 

 何が、と聞きそうになった。

 権六に勝てるかどうかだろうか。

 俺がどんな奴か、という話だろうか。

 

 吉法師は、俺の返事を待たず宗吉へ向き直った。

 

「父親に伝えよ。次は少し、借りたいとな」

 

 宗吉が頭を下げる。

 俺も慌てて、それにならった。

 

     *

 

 帰り道、宗吉が大きく息を吐いた。

 

「お疲れになりましたか」

 

 尋ねると、横目で見られた。

 

「竹丸様が、若様の棒を受けている間は」

 

 俺は、謝るべきか迷った。

 受けなければ、こちらが打たれていたと思う。

 

 宗吉は少し歩いてから、言った。

 

「働きぶりを聞かれたので、見たままをお答えしたのです。権六殿のお話まで、ご自分で聞いておいでとは」

 

「何か、まずかったでしょうか」

「そこが、私にも分かりません」

 

 正直な返事だった。

 

 俺は、縄を結んでいたときのことを思い出した。

 いきなりこちらへ来た少年の目。

 構える前から、何かを試したくて仕方がないという顔。

 

 俺が知っている信長は、物語の中で笑うか、怒るか、誰かを焼くかしていた。

 今日の信長は、棒の持ち方を変え、もう一度やれと言い、約束を理由に帰ろうとする俺を、少し不満そうに見た。

 

 未来の天下人だ。

 そう思えば、何をしても特別に見えてしまう。

 

 けれど、棒を合わせている間に見えたのは、負けたくない同年代の顔だった。

 

 俺は、預かった返事の紙を確かめた。

 まず、これを届ける。

 父へ今日のことを話すのは、それからだ。

 

 その日の仕事を全部済ませて家へ戻ると、父は俺の顔を見るなり尋ねた。

 

「那古野の若様に、お会いしたそうだな」

 

 宗吉のほうが、話を通すのは早かったらしい。

 

 俺は、その場で背筋を伸ばした。




お読みいただき、ありがとうございます。
続く第12話まで連続投稿しています。

本話は1545年ごろを想定し、信長は元服前の幼名「吉法師」で登場しています。宗吉が見てきた働きぶりと、権六本人の稽古の話がつながる初対面です。出会い、伝聞の経路、稽古や会話は本作の創作です。
今回は新しいアンケートはありません。
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