【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~   作:病んでるくらいが一番

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第10〜12話の連続投稿です。
この話は、全3話中の3話目、今回の連続投稿の最後です。

初対面のあと、父の許しを得て吉法師と出かける話です。後書きの下に、今後の付き合い方を選ぶアンケートを設けています。



第12話「次も来い、と言われても」

 吉法師と棒を合わせた日の夕方、使いを済ませて家へ戻ると、父に呼び止められた。

 

「那古野の若様に、お会いしたそうだな」

 

 俺がうなずくと、父は手にしていた紙を脇へ置いた。

 

「宗吉殿が先に寄ってな。若様と稽古をしたと聞いた」

 

 知らせは俺より早く着いていたらしい。

 俺は父の前に座り、背筋を伸ばした。

 

「お怪我をさせてはおらぬな」

 

 父の目が、俺の顔から手元へ移った。

 

「はい。お供の方が見ておられて、危ないところでは止めてくださいました」

「お前は」

「俺も大丈夫です」

 

 父が息を吐いた。

 俺は、使いで通っている家に若様が来たこと、権六の話を聞かれていたこと、棒を合わせたことを順に話した。

 

 途中で父が口を挟んだのは、帰るときの話だけだった。

 

「用を済ませるために、先に戻ったのだな」

「はい」

 

 そこでは、少し顔が緩んだ。

 けれど、次も来いと言われたことを伝えると、父は膝に置いた手を動かした。

 

「それは、宗吉殿から聞いた」

 

 俺は返事を待った。

 父は、俺が思っていたより長く考えた。

 

     *

 

「若様のなされることを、危ぶむ声もある」

 

 父は静かに言った。

 

 うつけ。

 前世の知識から、その言葉が浮かんだ。

 

 俺は信長がどうなるかを知っている。

 だが、父は知らない。

 今、近くで見聞きしたことから、息子を行かせてよいか考えているのだ。

 

「一度、お目にかかっただけでは分かりません」

 

 俺が言うと、父はこちらを見た。

 

「ただ、帰ると言ったら帰してくださいました」

「そうか」

 

 それしか材料がない、というのも心細い。

 俺は続けた。

 

「もう一度、お会いしてみたいです」

 

 未来の天下人だから、と言うわけにはいかない。

 でも、それだけで会いたいのかと聞かれたら、今は違うと答えられた。

 

 棒を引いたあとの、あの顔を思い出す。

 もう一度。

 そう言われて、俺も続けたかったのだ。

 

 父は、ようやくうなずいた。

 

「まず、一度だ。先に家の用を済ませておけ。帰る時刻も、こちらから伝える」

「はい」

「それで何もかも、お前に任せたわけではないぞ」

 

 分かっている。

 頭を下げると、父は俺の肩に手を置いた。

 

「楽しんで来いとは、言ってやりたいがな」

 

 俺は、その手を見た。

 父の気苦労は、俺が外へ行けるようになるほど増えている気がした。

 

     *

 

 父と、すでに引き受けている用向きを確かめた。

 先に済ませられる使いを済ませ、出かける日を一日空ける。

 先方との取り次ぎには、宗吉(そうきち)も手を貸してくれた。

 

「明後日でしたら、若様にもお伝えできます」

「お願いします」

「それにしても、こういうお使いまで増えるとは」

 

 宗吉は笑って言った。

 俺が頭を下げると、若様の前では今日くらい静かになさってください、と付け足す。

 

「俺から始めたのではありませんよ」

「存じております。それで、困っているのです」

 

 いつもの調子で話せる相手がいて、少し気が楽になった。

 

 権六(ごんろく)にも、出かける前に会えた。

 俺が話をすると、少し眉を上げる。

 

「わしの話をされたか」

「権六殿にも負けないそうだ、と」

 

 権六は一瞬黙り、それから笑った。

 

「あれにはかなわぬ、と申したのは、覚える早さのことだぞ」

「そうお伝えしました」

「それで、納得なされたか」

「棒を渡されました」

 

 今度は、声を上げて笑われた。

 俺が笑い事ではないと言うと、権六はようやく顔を戻した。

 

「できることは、そのまま見せればよい。できぬことまで、できると申すな」

「はい」

「わしに何度も勝っておるなどと言えば、帰ってから確かめるぞ」

 

 それは、困る。

 俺が首を振ると、権六は満足そうにうなずいた。

 

     *

 

 吉法師(きっぽうし)は、俺を待っていた。

 

 今日は、前にいた者たちのほかに、もう一人、年の近そうな少年がいる。

 俺が挨拶を終える前に、吉法師は歩き出した。

 

「遅い」

 

 待ち合わせた時刻には、間に合っているはずだった。

 横の少年が、口元を押さえる。

 

「若様が早う出てこられたのです」

「待ったことに変わりはない」

 

 どうやら、そういうことらしい。

 

 俺は足を速めた。

 

「今日は、どちらへ」

「川だ」

 

 それ以上の説明はなかった。

 後ろには前と同じ年上の男がついていて、俺の姿を見ると軽くうなずいた。

 帰る時刻の話は、伝わっているようだった。

 

 道を歩く速さは、一定ではない。

 吉法師が何かを見つければ止まり、先の者を追おうと思えば、急に走る。

 俺もつられて足を速めた。

 

 荷を持たず、届ける紙もない。

 今日は、着いた先で何を言うか考えなくてよかった。

 

 それが妙に落ち着かなくて、それから、少し楽しくなった。

 

     *

 

 川べりへ着くと、吉法師は石を拾った。

 川面へ低く投げると、二度、三度と跳ねて沈む。

 

 懐かしい遊びだった。

 俺も前世でやったことがある。

 

「やってみよ」

 

 石を渡され、手の中で重さを確かめる。

 最初の一つは、一度跳ねて沈んだ。

 次は角度を変え、手首を返すところを少し早める。

 

 三度跳ねた。

 

 指から離れた感触が残っている。

 似た形の石を選んで、もう一度。

 今度は、さらに先まで水面を走った。

 

 横の少年が声を上げた。

 

「今のは、幾つだ」

「数えていませんでした」

 

 言うと、吉法師が俺の顔を見た。

 

「数を数えるのが仕事ではないのか」

 

 そんな仕事ばかりしていると思われているらしい。

 

「今日は休みです」

 

 答えると、少年たちが笑った。

 吉法師も笑い、別の石を探し始める。

 

 俺は、相手の顔色を見てから投げるのをやめた。

 よい石を探し、よいと思ったところへ投げた。

 

 吉法師は、俺より先へ飛ばすまでやめなかった。

 俺も、自分の一番よい投げ方を、もう一度試したかった。

 

     *

 

 近くには、小さな舟が留めてあった。

 

 石投げに飽きた吉法師が、今度はそちらへ歩いていく。

 舟の男が顔を上げた。

 

「乗せよ」

 

 俺は一瞬、足を止めた。

 仕事で来ていたら、先に都合を聞くところだ。

 

 男は笠を取り、困ったように頭を下げた。

 

「ただいま、荷を待っておりまして」

「いつ来る」

「間もなくかと」

 

 吉法師は川を見た。

 男も、荷が来るはずの道へ目を向ける。

 

「竹丸」

 

 急に呼ばれ、俺は返事をした。

 

「間もなくとは、いつだ」

 

 俺に聞かれても分からない。

 ただ、ここで舟を出させれば、荷を持ってきた者が待つことになるのは分かった。

 

「荷を積み終えてからでは、いけませんか」

 

 吉法師がこちらを見る。

 

「待つのか」

「この人も、もう待っていますから」

 

 舟の男が、俺を見た。

 俺は言い過ぎたかと思ったが、吉法師はまた川へ目を戻した。

 

「荷を積むところから見る」

 

 乗ると言ったのを、やめたわけではないらしい。

 後ろの年上の男が舟の男と話し、邪魔にならないところを確かめた。

 

 俺たちは少し離れて座った。

 

「お前は、よう待てるな」

 

 吉法師が言った。

 

「待たせるほうになったことも、ありますから」

「荷を作るときか」

「はい。誰かの手が空かなければ、こちらだけ急いでも進みません」

 

 吉法師は道を見た。

 まだ、荷は来ない。

 

「今日は用を済ませて来たのだろう」

「はい」

「では、お前は働かずともよい」

 

 それは、そのとおりだった。

 俺が黙ると、吉法師は足元の石を一つ拾った。

 

「権六も、遊びに来た相手へ用を言いつけるか」

「棒は渡してきます」

「それは用か」

 

 俺は笑った。

 

「俺も、やりたいので」

 

 吉法師がこちらへ顔を向けた。

 

「ならば、わしともそうせよ」

 

 石が投げられた。

 一度跳ねて沈む。

 

「今日、来たいと思ったのは、お前だろう」

 

 すぐに返事が出なかった。

 父が許してくれたから。先の用事が空いたから。

 ここへ来られた理由ばかり考えて、自分が来たかったことを、また隅へ追いやっていた。

 

 俺は石を拾った。

 

「次は、数えておいてください」

 

 今度の石は、五度跳ねた。

 吉法師がすぐ立ち上がり、平たい石を探し始めた。

 

     *

 

 荷が来ると、吉法師は石を置いて歩き出した。

 

 男たちが舟へ物を運ぶのを、さっきまでの石投げと同じ目で見ている。

 どこへ置くのか、なぜ片側へ寄せないのか。矢継ぎ早に尋ねられ、舟の男は手を動かしながら答えていた。

 

 そのうち、吉法師も軽い荷を持とうとした。

 

「そちらは、まだ」

 

 男の声に、吉法師の手が止まる。

 持てる物から積めばよい、というわけではないらしかった。

 

 吉法師は口を尖らせたが、荷を戻した。

 そして、順番が来るまでそのそばにいた。

 

 俺は、縄が足元へ落ちると拾って渡した。

 いつもの仕事で身についた癖だった。

 吉法師がそれを見て、先ほど言ったばかりだぞ、という顔をする。

 

「これくらいは」

「ならば、それはお前に任せる」

 

 吉法師は舟の男のそばへしゃがみ、流れの向こうを指した。

 あそこまで出たら、戻るときはどうするのかと聞いている。

 男が答えると、今度はさらに先を指す。

 

 俺も、いつの間にかその横にいた。

 陸から見れば、ただ流れているだけの川だ。舟を動かす人には、通りやすいところと、寄りたくないところがあるらしい。

 

 荷を積み終える頃、吉法師がまた言った。

 

「少しだけ、乗れぬか」

 

 後ろにいた年上の男が、行き先と戻るまでのことを確かめた。

 遠くへは行けない。川岸近くを少し回るだけなら、という話になり、舟の男にも礼を渡していた。

 

「一度に乗られますな」

 

 俺は先に入った者が座るのを待った。

 足を移すと、底が傾く。

 腰を低くして縁へ手を添えたところで、吉法師が笑った。

 

「陸とは違うな」

 

 言った本人も、次の揺れで手をついた。

 横の少年が笑いかけ、慌てて口を押さえる。

 俺まで下を向いた。

 

「笑うなら、石で勝ってからにせよ」

「俺は、先ほど勝ちました」

 

 口に出してから、しまったと思った。

 吉法師は俺を見た。

 

「では、帰ったらもう一度だ」

 

 舟が岸を離れる。

 乗るまで触れられそうだった草が、すっと遠ざかった。

 俺は返事を忘れ、川面を見た。

 

 今日は、運ぶ荷の心配をしなくていい。

 ただ、面白かった。

 

     *

 

 帰り道で、吉法師は何度か川を振り返った。

 

「次は、早う来る」

 

 誰にともなく言ってから、俺へ顔を向ける。

 

「お前もだ」

 

 返事が、すぐには出なかった。

 

 今日一日だけなら、父も用向きの先も、都合をつけてくれた。

 けれど、誘われるたびに同じことはできない。

 

 明日は、織田方の家へ届ける物がある。

 父からも、数日後には一緒に出ると言われている。

 

「明日は、仕事があります」

「では、いつなら空く」

 

 吉法師は、嫌そうな顔をした。

 ただ、来いと言ったのだから来い、とは言わなかった。

 

「家へ戻って、確かめます」

「また、それか」

 

 俺は一度、口を閉じた。

 

 この人と歩けば面白い。

 それは今日、よく分かった。

 だが、面白いからと明日の約束を捨てれば、俺を信用して仕事を渡した人が困る。

 

「今日は、来てよかったと思っています」

 

 吉法師がこちらを見た。

 

「では、また来ればよい」

「だから、次も来られるように、話しておきたいのです」

 

 少しの間、吉法師は黙った。

 

 やがて、先を歩いていた少年へ声をかけた。

 それから俺に、家にいる日が分かったら宗吉を通して知らせよ、と言った。

 

 俺はうなずいた。

 今日の返事は、それで終わった。

 

     *

 

 父は、約束した時刻までに戻った俺を見て、肩の力を抜いた。

 

 川へ行ったこと、石を投げたこと、少し舟に乗せてもらったことを話す。

 父は眉を上げたが、お供の男が話をつけ、岸近くを回っただけだと聞くと息を吐いた。荷を積むところまで見ていたと言うと、今度は少し笑った。

 

「お前は、出先でも仕事を見ておるのだな」

 

 俺も笑った。

 今日は見ようとしていたわけではない。

 たまたま、面白そうだったのだ。

 

 もう一度誘われたことを伝えると、父は真面目な顔に戻った。

 

「お前は、どうしたい」

 

 その問いに、今度はすぐ答えられなかった。

 

 もっと一緒に歩きたい。

 使いや荷渡しを続けながら、ときどき会うくらいがよいのかもしれない。

 あるいは、今は家と柴田家の用向きを優先し、もう少し様子を見るべきなのか。

 

 信長がこの先どうなるかは知っている。

 でも、それを知っているだけで、今ある約束の重さが消えるわけではない。

 

 父は俺を待ち、それから言った。

 

「近しくなれば、家のことも変わる。お前一人の遊びでは済まぬこともあろう」

 

 俺はうなずいた。

 だからこそ、父に話したい。

 

 膝へ手を置くと、川べりで拾った小石が袖から転がった。

 形がよいからと、次に投げるつもりで残した物だった。

 

 父がそれを見て、少し笑う。

 俺は小石を拾い、掌に載せた。

 

 次も行きたいと思っている。

 その気持ちは、もう、ごまかせなかった。




お読みいただき、ありがとうございます。
今回の連続投稿は、この第12話で一区切りです。

今後、竹丸が信長とどう付き合っていくかをアンケートで選んでいただきます。

・信長と行動する機会を増やす
 家や使いの用向きを調整し、信長とその周囲の者たちと過ごす時間を増やします。
・使いや荷渡しを軸に交流を続ける
 これまでの仕事を主軸に、都合の合う日に信長と会う関係を育てます。
・父や柴田家との仕事を優先する
 身近な家々との用向きを優先し、信長との交流は控えめに続けます。

どの選択でも、すでに引き受けた約束は守り、父や関係する人と調整します。次の数話で主に誰と過ごし、どんな出来事に関わるかへ反映する投票です。将来の家督争いや合戦での立場まで、今回で確定するわけではありません。

この第12話の公開から約24時間後の最多票を、第13話以降へ反映します。同票の場合は最多票の候補から作者が選びます。
投票は下のアンケートからお願いいたします。

川での遊びや舟、人物の言動は創作です。

吉法師(のちの信長)に再び誘われた竹丸は、今後どのように付き合うことを望むでしょうか。この第12話の公開から約24時間後の最多票を第13話以降へ反映します。同票の場合は最多票の候補から作者が選びます。すでに引き受けた約束は守る前提です

  • 信長と行動する機会を増やす
  • 使いや荷渡しを軸に交流を続
  • 父や柴田家との仕事を優先す
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