【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
この話は、全3話中の3話目、今回の連続投稿の最後です。
初対面のあと、父の許しを得て吉法師と出かける話です。後書きの下に、今後の付き合い方を選ぶアンケートを設けています。
吉法師と棒を合わせた日の夕方、使いを済ませて家へ戻ると、父に呼び止められた。
「那古野の若様に、お会いしたそうだな」
俺がうなずくと、父は手にしていた紙を脇へ置いた。
「宗吉殿が先に寄ってな。若様と稽古をしたと聞いた」
知らせは俺より早く着いていたらしい。
俺は父の前に座り、背筋を伸ばした。
「お怪我をさせてはおらぬな」
父の目が、俺の顔から手元へ移った。
「はい。お供の方が見ておられて、危ないところでは止めてくださいました」
「お前は」
「俺も大丈夫です」
父が息を吐いた。
俺は、使いで通っている家に若様が来たこと、権六の話を聞かれていたこと、棒を合わせたことを順に話した。
途中で父が口を挟んだのは、帰るときの話だけだった。
「用を済ませるために、先に戻ったのだな」
「はい」
そこでは、少し顔が緩んだ。
けれど、次も来いと言われたことを伝えると、父は膝に置いた手を動かした。
「それは、宗吉殿から聞いた」
俺は返事を待った。
父は、俺が思っていたより長く考えた。
*
「若様のなされることを、危ぶむ声もある」
父は静かに言った。
うつけ。
前世の知識から、その言葉が浮かんだ。
俺は信長がどうなるかを知っている。
だが、父は知らない。
今、近くで見聞きしたことから、息子を行かせてよいか考えているのだ。
「一度、お目にかかっただけでは分かりません」
俺が言うと、父はこちらを見た。
「ただ、帰ると言ったら帰してくださいました」
「そうか」
それしか材料がない、というのも心細い。
俺は続けた。
「もう一度、お会いしてみたいです」
未来の天下人だから、と言うわけにはいかない。
でも、それだけで会いたいのかと聞かれたら、今は違うと答えられた。
棒を引いたあとの、あの顔を思い出す。
もう一度。
そう言われて、俺も続けたかったのだ。
父は、ようやくうなずいた。
「まず、一度だ。先に家の用を済ませておけ。帰る時刻も、こちらから伝える」
「はい」
「それで何もかも、お前に任せたわけではないぞ」
分かっている。
頭を下げると、父は俺の肩に手を置いた。
「楽しんで来いとは、言ってやりたいがな」
俺は、その手を見た。
父の気苦労は、俺が外へ行けるようになるほど増えている気がした。
*
父と、すでに引き受けている用向きを確かめた。
先に済ませられる使いを済ませ、出かける日を一日空ける。
先方との取り次ぎには、
「明後日でしたら、若様にもお伝えできます」
「お願いします」
「それにしても、こういうお使いまで増えるとは」
宗吉は笑って言った。
俺が頭を下げると、若様の前では今日くらい静かになさってください、と付け足す。
「俺から始めたのではありませんよ」
「存じております。それで、困っているのです」
いつもの調子で話せる相手がいて、少し気が楽になった。
俺が話をすると、少し眉を上げる。
「わしの話をされたか」
「権六殿にも負けないそうだ、と」
権六は一瞬黙り、それから笑った。
「あれにはかなわぬ、と申したのは、覚える早さのことだぞ」
「そうお伝えしました」
「それで、納得なされたか」
「棒を渡されました」
今度は、声を上げて笑われた。
俺が笑い事ではないと言うと、権六はようやく顔を戻した。
「できることは、そのまま見せればよい。できぬことまで、できると申すな」
「はい」
「わしに何度も勝っておるなどと言えば、帰ってから確かめるぞ」
それは、困る。
俺が首を振ると、権六は満足そうにうなずいた。
*
今日は、前にいた者たちのほかに、もう一人、年の近そうな少年がいる。
俺が挨拶を終える前に、吉法師は歩き出した。
「遅い」
待ち合わせた時刻には、間に合っているはずだった。
横の少年が、口元を押さえる。
「若様が早う出てこられたのです」
「待ったことに変わりはない」
どうやら、そういうことらしい。
俺は足を速めた。
「今日は、どちらへ」
「川だ」
それ以上の説明はなかった。
後ろには前と同じ年上の男がついていて、俺の姿を見ると軽くうなずいた。
帰る時刻の話は、伝わっているようだった。
道を歩く速さは、一定ではない。
吉法師が何かを見つければ止まり、先の者を追おうと思えば、急に走る。
俺もつられて足を速めた。
荷を持たず、届ける紙もない。
今日は、着いた先で何を言うか考えなくてよかった。
それが妙に落ち着かなくて、それから、少し楽しくなった。
*
川べりへ着くと、吉法師は石を拾った。
川面へ低く投げると、二度、三度と跳ねて沈む。
懐かしい遊びだった。
俺も前世でやったことがある。
「やってみよ」
石を渡され、手の中で重さを確かめる。
最初の一つは、一度跳ねて沈んだ。
次は角度を変え、手首を返すところを少し早める。
三度跳ねた。
指から離れた感触が残っている。
似た形の石を選んで、もう一度。
今度は、さらに先まで水面を走った。
横の少年が声を上げた。
「今のは、幾つだ」
「数えていませんでした」
言うと、吉法師が俺の顔を見た。
「数を数えるのが仕事ではないのか」
そんな仕事ばかりしていると思われているらしい。
「今日は休みです」
答えると、少年たちが笑った。
吉法師も笑い、別の石を探し始める。
俺は、相手の顔色を見てから投げるのをやめた。
よい石を探し、よいと思ったところへ投げた。
吉法師は、俺より先へ飛ばすまでやめなかった。
俺も、自分の一番よい投げ方を、もう一度試したかった。
*
近くには、小さな舟が留めてあった。
石投げに飽きた吉法師が、今度はそちらへ歩いていく。
舟の男が顔を上げた。
「乗せよ」
俺は一瞬、足を止めた。
仕事で来ていたら、先に都合を聞くところだ。
男は笠を取り、困ったように頭を下げた。
「ただいま、荷を待っておりまして」
「いつ来る」
「間もなくかと」
吉法師は川を見た。
男も、荷が来るはずの道へ目を向ける。
「竹丸」
急に呼ばれ、俺は返事をした。
「間もなくとは、いつだ」
俺に聞かれても分からない。
ただ、ここで舟を出させれば、荷を持ってきた者が待つことになるのは分かった。
「荷を積み終えてからでは、いけませんか」
吉法師がこちらを見る。
「待つのか」
「この人も、もう待っていますから」
舟の男が、俺を見た。
俺は言い過ぎたかと思ったが、吉法師はまた川へ目を戻した。
「荷を積むところから見る」
乗ると言ったのを、やめたわけではないらしい。
後ろの年上の男が舟の男と話し、邪魔にならないところを確かめた。
俺たちは少し離れて座った。
「お前は、よう待てるな」
吉法師が言った。
「待たせるほうになったことも、ありますから」
「荷を作るときか」
「はい。誰かの手が空かなければ、こちらだけ急いでも進みません」
吉法師は道を見た。
まだ、荷は来ない。
「今日は用を済ませて来たのだろう」
「はい」
「では、お前は働かずともよい」
それは、そのとおりだった。
俺が黙ると、吉法師は足元の石を一つ拾った。
「権六も、遊びに来た相手へ用を言いつけるか」
「棒は渡してきます」
「それは用か」
俺は笑った。
「俺も、やりたいので」
吉法師がこちらへ顔を向けた。
「ならば、わしともそうせよ」
石が投げられた。
一度跳ねて沈む。
「今日、来たいと思ったのは、お前だろう」
すぐに返事が出なかった。
父が許してくれたから。先の用事が空いたから。
ここへ来られた理由ばかり考えて、自分が来たかったことを、また隅へ追いやっていた。
俺は石を拾った。
「次は、数えておいてください」
今度の石は、五度跳ねた。
吉法師がすぐ立ち上がり、平たい石を探し始めた。
*
荷が来ると、吉法師は石を置いて歩き出した。
男たちが舟へ物を運ぶのを、さっきまでの石投げと同じ目で見ている。
どこへ置くのか、なぜ片側へ寄せないのか。矢継ぎ早に尋ねられ、舟の男は手を動かしながら答えていた。
そのうち、吉法師も軽い荷を持とうとした。
「そちらは、まだ」
男の声に、吉法師の手が止まる。
持てる物から積めばよい、というわけではないらしかった。
吉法師は口を尖らせたが、荷を戻した。
そして、順番が来るまでそのそばにいた。
俺は、縄が足元へ落ちると拾って渡した。
いつもの仕事で身についた癖だった。
吉法師がそれを見て、先ほど言ったばかりだぞ、という顔をする。
「これくらいは」
「ならば、それはお前に任せる」
吉法師は舟の男のそばへしゃがみ、流れの向こうを指した。
あそこまで出たら、戻るときはどうするのかと聞いている。
男が答えると、今度はさらに先を指す。
俺も、いつの間にかその横にいた。
陸から見れば、ただ流れているだけの川だ。舟を動かす人には、通りやすいところと、寄りたくないところがあるらしい。
荷を積み終える頃、吉法師がまた言った。
「少しだけ、乗れぬか」
後ろにいた年上の男が、行き先と戻るまでのことを確かめた。
遠くへは行けない。川岸近くを少し回るだけなら、という話になり、舟の男にも礼を渡していた。
「一度に乗られますな」
俺は先に入った者が座るのを待った。
足を移すと、底が傾く。
腰を低くして縁へ手を添えたところで、吉法師が笑った。
「陸とは違うな」
言った本人も、次の揺れで手をついた。
横の少年が笑いかけ、慌てて口を押さえる。
俺まで下を向いた。
「笑うなら、石で勝ってからにせよ」
「俺は、先ほど勝ちました」
口に出してから、しまったと思った。
吉法師は俺を見た。
「では、帰ったらもう一度だ」
舟が岸を離れる。
乗るまで触れられそうだった草が、すっと遠ざかった。
俺は返事を忘れ、川面を見た。
今日は、運ぶ荷の心配をしなくていい。
ただ、面白かった。
*
帰り道で、吉法師は何度か川を振り返った。
「次は、早う来る」
誰にともなく言ってから、俺へ顔を向ける。
「お前もだ」
返事が、すぐには出なかった。
今日一日だけなら、父も用向きの先も、都合をつけてくれた。
けれど、誘われるたびに同じことはできない。
明日は、織田方の家へ届ける物がある。
父からも、数日後には一緒に出ると言われている。
「明日は、仕事があります」
「では、いつなら空く」
吉法師は、嫌そうな顔をした。
ただ、来いと言ったのだから来い、とは言わなかった。
「家へ戻って、確かめます」
「また、それか」
俺は一度、口を閉じた。
この人と歩けば面白い。
それは今日、よく分かった。
だが、面白いからと明日の約束を捨てれば、俺を信用して仕事を渡した人が困る。
「今日は、来てよかったと思っています」
吉法師がこちらを見た。
「では、また来ればよい」
「だから、次も来られるように、話しておきたいのです」
少しの間、吉法師は黙った。
やがて、先を歩いていた少年へ声をかけた。
それから俺に、家にいる日が分かったら宗吉を通して知らせよ、と言った。
俺はうなずいた。
今日の返事は、それで終わった。
*
父は、約束した時刻までに戻った俺を見て、肩の力を抜いた。
川へ行ったこと、石を投げたこと、少し舟に乗せてもらったことを話す。
父は眉を上げたが、お供の男が話をつけ、岸近くを回っただけだと聞くと息を吐いた。荷を積むところまで見ていたと言うと、今度は少し笑った。
「お前は、出先でも仕事を見ておるのだな」
俺も笑った。
今日は見ようとしていたわけではない。
たまたま、面白そうだったのだ。
もう一度誘われたことを伝えると、父は真面目な顔に戻った。
「お前は、どうしたい」
その問いに、今度はすぐ答えられなかった。
もっと一緒に歩きたい。
使いや荷渡しを続けながら、ときどき会うくらいがよいのかもしれない。
あるいは、今は家と柴田家の用向きを優先し、もう少し様子を見るべきなのか。
信長がこの先どうなるかは知っている。
でも、それを知っているだけで、今ある約束の重さが消えるわけではない。
父は俺を待ち、それから言った。
「近しくなれば、家のことも変わる。お前一人の遊びでは済まぬこともあろう」
俺はうなずいた。
だからこそ、父に話したい。
膝へ手を置くと、川べりで拾った小石が袖から転がった。
形がよいからと、次に投げるつもりで残した物だった。
父がそれを見て、少し笑う。
俺は小石を拾い、掌に載せた。
次も行きたいと思っている。
その気持ちは、もう、ごまかせなかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回の連続投稿は、この第12話で一区切りです。
今後、竹丸が信長とどう付き合っていくかをアンケートで選んでいただきます。
・信長と行動する機会を増やす
家や使いの用向きを調整し、信長とその周囲の者たちと過ごす時間を増やします。
・使いや荷渡しを軸に交流を続ける
これまでの仕事を主軸に、都合の合う日に信長と会う関係を育てます。
・父や柴田家との仕事を優先する
身近な家々との用向きを優先し、信長との交流は控えめに続けます。
どの選択でも、すでに引き受けた約束は守り、父や関係する人と調整します。次の数話で主に誰と過ごし、どんな出来事に関わるかへ反映する投票です。将来の家督争いや合戦での立場まで、今回で確定するわけではありません。
この第12話の公開から約24時間後の最多票を、第13話以降へ反映します。同票の場合は最多票の候補から作者が選びます。
投票は下のアンケートからお願いいたします。
川での遊びや舟、人物の言動は創作です。
吉法師(のちの信長)に再び誘われた竹丸は、今後どのように付き合うことを望むでしょうか。この第12話の公開から約24時間後の最多票を第13話以降へ反映します。同票の場合は最多票の候補から作者が選びます。すでに引き受けた約束は守る前提です
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信長と行動する機会を増やす
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使いや荷渡しを軸に交流を続
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父や柴田家との仕事を優先す