【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~   作:病んでるくらいが一番

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アンケートへのご参加、ありがとうございました。
第5回は全9票でした。

・信長と行動する機会を増やす:5票
・使いや荷渡しを軸に交流を続ける:3票
・父や柴田家との仕事を優先する:1票

最多票の「信長と行動する機会を増やす」を採用します。
今回は、竹丸が信長の連れに交じって過ごすようになる話です。



第13話「次も来いと、二人が言う」

「若様と出かける日を、増やしたいです」

 

 父の前で、そう答えた。

 袖から転がった小石は、もう懐へしまってある。

 

 父は、すぐにはうなずかなかった。

 

「引き受けた使いは、どうする」

「済ませます。そのあとで行ける日を、先に決めておきたいです」

 

 誘いが来るたび、父へ頼む。

 そのたびに、誰かが予定を動かす。

 それでは、俺も行けるかどうか分からないまま返事をすることになる。

 

 父と用向きを確かめ、空けられそうな日を探した。

 俺が父についていく予定だった一度は、留守に残る側へ回る。その代わり、別の日には自分の使いを早く済ませることになった。

 何もかも思いどおり、とはいかなかったが、次に会える日が決まった。

 

「その日は、若様のところへ参ってよい」

「ありがとうございます」

 

 頭を下げると、父が少し笑った。

 

「ただし、勝手に泊まってくるでないぞ」

 

 さすがに、それはしない。

 そう答えかけて、あの人なら帰る途中でもう一か所、と言い出しそうだと思った。

 

     *

 

 吉法師(きっぽうし)のそばには、いつも同じ者が全員揃っているわけではなかった。

 前にいた少年が来ない日もあれば、途中で誰かが加わる日もある。

 

 その中で、俺が早く顔と名前を覚えたのが、彦七(ひこしち)だった。

 俺とそう変わらない年頃で、川へ行った日にもいた。背は俺より少し低く、目が合うと、何か言いたそうに口の端を上げる。

 

「今日は何を数えに来た」

 

 二度目に会ったとき、最初に言われたのがそれだった。

 

「お前が同じことを聞いた数」

「まだ一度だ」

「よく覚えているな」

 

 横で吉法師が笑った。

 彦七は俺を見てから、ふん、と鼻を鳴らす。

 

 怒らせたかと思ったが、歩き始めると普通に話しかけてきた。

 道の先にいる犬は、近づくと吠える。あの家の裏を抜けると、老人に叱られる。

 仕事で通っただけでは知らないことを、次々に教えてくれる。

 

 俺が覚えていたのは、誰の家にどの門から入るかだ。

 彦七が覚えているのは、どこへ行けば面白く、どこで捕まるかだった。

 

「では、あちらへ行かなければよいのでは」

「近い」

 

 それで叱られていたら、結局遅くなるのではないか。

 俺がそう言うと、吉法師が先に、今日はどちらだ、と聞いた。

 

 二人とも、道を変える気はなさそうだった。

 

     *

 

 何度か一緒に出かけるうちに、俺も、挨拶を済ませるたび宗吉の顔を探すことはなくなった。

 取り次いでもらう用がなければ、宗吉は自分の仕事へ行く。

 俺は、そこから先を吉法師たちと歩く。

 

 走ることも、川べりで遊ぶこともあった。

 あれを見ろと言われ、皆で同じ方を向いたら、吉法師だけ先に駆け出していたこともある。

 追いついた彦七が文句を言うと、振り返ったのはお前だろう、と笑っていた。

 

 俺も一度やられた。

 二度目は騙されなかった。

 三度目は、向こうに本当に大きな鳥がいて、見ているうちに置いていかれた。

 

 信長と聞いて、前世の俺が想像するような会話は、あまりない。

 国をどうする、敵をどう倒す、などという話より、誰が足を滑らせたとか、誰が先に逃げたとか、そんな話のほうが多かった。

 

 それでも、俺は次に出かける日を数えるようになった。

 次はいつ行けるか。

 そう思いながら仕事を済ませると、今までより早く手が動く気さえした。

 

     *

 

「お前は、走るのも早いのか」

 

 彦七が聞いたのは、雨が上がって二日ほど経った日のことだった。

 人家を離れ、道が広くなったところで、吉法師がこちらを振り返る。

 

「権六に聞けば分かるか」

「走り比べは、あまりしません」

 

 権六と競うのは、主に木の剣だ。

 俺が答えると、彦七は待っていたように道の先を指した。

 

「あの木までだ」

 

 遠くに、道から枝を張り出した大きな木があった。

 そこまでなら、息が切れても戻れる。

 俺は隣に並んだ。

 

 吉法師が、まだか、と急かす。

 お供の男は道の先を確かめ、帰りは歩いていただきますぞ、とだけ言った。

 

「では、行くぞ」

 

 言った彦七が、行くぞ、の途中で走り出した。

 

 おい。

 

 俺は慌てて追った。

 吉法師も後ろから来る。

 踏み出す足に力を乗せると、思ったより早く、彦七の背中が近づいた。

 

 背が伸びた。

 毎日のように歩いて、稽古もしている。

 この身体をどう動かすかは、もうよく分かっていた。

 

 手が届きそうになったところで、彦七が道の端へ寄った。

 浅い水たまりを、ぎりぎりで避ける。

 俺は同じところを通ろうとして、足を一つ余計に置いた。

 

 その差が、最後まで残った。

 

 木の幹を先に叩いたのは、彦七だった。

 

「勝った」

 

 息を切らしながら、こちらを見る。

 俺は膝に手をついて、顔を上げた。

 

「出るのが早かった」

「始めると言った」

「言い終わっていない」

 

 彦七が笑う。

 遅れて着いた吉法師も、木に手をつきながら笑っていた。

 

「ならば、次はお前が言え」

 

 次があるのか。

 そう思ったが、俺はすぐにうなずいた。

 

「少し、息を整えてから」

 

 負けたまま帰るのは、面白くなかった。

 

     *

 

 二度目は、さっきの水たまりを早めに避けた。

 足の置き場所を知っていれば、そこで迷わずに済む。

 今度は彦七より先に、戻る目印にした石へ触れた。

 

 追いついてきた彦七が、その場にしゃがみ込む。

 

「覚えるのが早いのは、道までか」

「一度走ったからな」

 

 答えると、彦七はもう一度道を見た。

 唇をとがらせている。

 

 勝てたのはうれしかった。

 ただ、俺が速くなったからといって、彦七が急に遅くなったわけではない。

 さっき抜けなかった背中を思い出す。

 

「あの水たまりは、よく避けたな」

「何度も通っておる」

「次は、俺も分かっている」

 

 彦七が顔を上げた。

 

「ならば、違う道だ」

 

 その返事に笑ってしまった。

 彦七も、少し笑った。

 

 吉法師が追いつき、まだ続ける気かと言った。

 その口調が、疲れたからやめたいのか、次は自分も勝ちたいのか、よく分からない。

 俺は、今度は帰り道で、と答えた。

 

 お供の男に、帰りは歩くと申しました、と叱られた。

 

     *

 

 そこで戻るはずだった。

 

 水を飲み、息を整えていると、吉法師が川の方を見た。

 少し先の低い土地から、馬の鳴く声がしたのだ。

 

 道を行く男に尋ねると、河原で馬を走らせている者がいるという。

 それを聞いた途端、吉法師の顔が変わった。

 

「見に行く」

 

 俺は、濡れた道の先を見た。

 今いる場所から川へは、道なりに回って下りることになる。

 

「戻るのでは」

「見てから戻る」

 

 もう歩き出している。

 お供の男が、長くは見られませぬぞ、と追った。

 

 俺も立ち上がった。

 今日はすぐに戻らなければならない用事があるわけではない。

 少し遠回りをするだけなら、まだよかった。

 

 吉法師が、細い横道へ入るまでは。

 

     *

 

「そちらは、回れませぬ」

 

 お供の男が声をかけた。

 吉法師は止まらず、先にある土の高まりを指す。

 

「あそこへ出ればよい」

 

 畑の脇を通る、細い足場だった。

 踏んだ跡はあるが、雨のあとで端が崩れている。

 水の流れる溝を挟んで、向こうに道が見えた。

 

 俺は、後ろの彦七を見た。

 

「通ったことは」

「ある。乾いておれば」

 

 今は乾いていない。

 吉法師が先へ行くので、彦七も足を進めた。

 俺はそのあとに続いた。

 

 足場の広いところで、吉法師が向こうへ渡った。

 振り返り、早う来い、と手を振る。

 俺が見ている前で、彦七が踏み切ろうとした。

 

 踏んだ土が、崩れた。

 

 彦七の足が溝へ落ち、片膝まで泥につかった。

 慌てて手をついたので、顔から倒れずには済んだ。

 ただ、その手も泥だらけだ。

 

「彦七」

 

 俺は少し手前で止まり、腰を落とした。

 吉法師が向こうから腕を伸ばす。

 

「手を出せ」

「待ってください。足が」

 

 彦七が言った。

 片足を引こうとするたび、顔がしかめられる。

 

 俺は脇の固いところへ回り、腕を貸した。

 

「無理に抜くな。まず、こちらへ体を寄せろ」

 

 彦七の身体を支え、足を少しずつ動かしてもらう。

 お供の男も追いつき、彦七の足元を見た。

 泥に取られた草履を外すと、ようやく脚が抜けた。

 

 彦七は土の上に座り込み、膝をさすった。

 足を動かせるか聞かれ、うなずく。

 

 吉法師が、向こう側から言った。

 

「歩けるなら、そちらを回れ。先で待つ」

 

 俺は顔を上げた。

 

「まだ、見に行くのですか」

 

     *

 

 吉法師が俺を見た。

 

「すぐそこだ」

「彦七の足を見てからにしてください」

 

 自分でも、声が強くなったのが分かった。

 彦七が俺の袖を引く。

 

「大事ない」

「泥を落としてからだ」

 

 足を動かせても、擦りむいているかもしれない。

 それに、俺たちが抜けたところを、ほかの者まで通る必要はなかった。

 お供の男が、いったん道へ戻りましょう、と重ねて言った。

 

 吉法師は、馬の声がする方を見た。

 それから、俺たちを見た。

 

「お前も、来たではないか」

 

 そう言われて、言葉が詰まった。

 止められたわけではない。

 渡れと命じられる前に、自分でついてきた。

 

「来ました。俺も、来なければよかったです」

 

 口にすると、余計に腹が立った。

 吉法師だけでなく、まずい道だと思いながら進んだ自分にも。

 

「でも、今は一度、戻ってほしいのです」

 

 しばらく、吉法師は動かなかった。

 俺も、目をそらせなかった。

 

 やがて、吉法師が溝に沿って歩き出した。

 離れたところにある広い足場を回り、こちらへ戻ってくる。

 

「では、戻る」

 

 声は、不機嫌だった。

 俺は頭を下げたが、さっきの言葉を取り消す気にはなれなかった。

 

     *

 

 道まで戻る途中、畑にいた男から声をかけられた。

 

「そこは歩かれますな。土が落ちて、水が詰まります」

 

 お供の男が、足場を崩したことを詫びた。

 俺も頭を下げた。

 男は溝を見に行き、小さく舌打ちした。

 

 通った俺たちは帰れても、崩れた土は残る。

 その人にとっては、余計な仕事だった。

 

 道端で、持っていた水を使い、彦七の膝と手の泥を落とした。

 膝に小さな擦り傷があった。本人は曲げ伸ばしをして、これくらいなら歩けると言う。

 お供の男は、今日はもう戻ると決めた。

 

 吉法師は少し離れて立っていた。

 俺たちの方を見ていたが、何も言わなかった。

 

 後ろで、畑の男が別の者へ話している声がした。

 若様、という言葉と、困ったものだ、という声だけが聞こえた。

 

 俺は、その顔を見ないようにした。

 

 こういうことも、あるのだ。

 面白い道を見つけることと、人に迷惑をかけることが、別々になっていない。

 信長だから何か深い考えがあるのかもしれない、と探す気にはなれなかった。

 

 今日は、馬を見たかっただけだと思う。

 俺も見たかった。だから、途中まで一緒についていった。

 

 彦七の草履から泥を落としながら、次に同じ道を指されたら、先に言おうと思った。

 

     *

 

 帰りは、さっきまでのようには話さなかった。

 彦七が歩く速さに合わせると、道が長く感じられる。

 

 吉法師は先へ行きかけ、少し戻ってきた。

 

「痛むか」

「もう、それほどは」

 

 彦七が答えた。

 吉法師は、その足を見た。

 

「馬は、次にする」

 

 それだけ言って、前へ向き直った。

 謝った、とは言えない。

 けれど、そのあとは走り出さなかった。

 

 別れるところまで来ると、吉法師が俺へ言った。

 

「次も来い」

 

 俺は、少し迷った。

 もう会いたくない、とは思わなかった。

 でも、何もなかったように返事をするのも違った。

 

「次は、道を変える前に、ひと声いただけますか」

「見に行くと言うた」

「曲がる前です」

 

 吉法師の眉が寄った。

 また怒らせたかと思ったとき、隣で彦七が吹き出した。

 

「若様の足より先に言わせるのは、難しいぞ」

 

 俺も笑いそうになった。

 吉法師は彦七をにらみ、それから俺へ向き直る。

 

「次は、初めから馬を見に行く。それならよかろう」

 

 少なくとも、行き先は決まったらしい。

 俺は頭を下げた。

 

「そのつもりで参ります」

 

     *

 

 吉法師が帰ったあと、彦七が俺の袖をつまんだ。

 

「竹丸」

 

 呼び止められ、振り返る。

 彦七は、自分の膝を指した。

 

「さっきは、助かった」

「次は乾いている道にしろよ」

「お前も来た」

 

 また、それを言われた。

 俺がうなずくと、彦七は少し笑った。

 

「若様にも、ああ言うのだな」

「いつもではない」

「そうか」

 

 その返事は、妙にうれしそうだった。

 理由を聞く前に、彦七は土を払って立ち直った。

 

「足が治ったら、もう一度だ」

「何を」

「走る。一度ずつでは決まっておらぬ」

 

 覚えていたのか。

 俺も、忘れたわけではなかった。

 

「次は同時に出ろよ」

 

 彦七は、返事をせずに笑った。

 

     *

 

 父には、その日のことを話した。

 彦七が怪我をしたことも、自分も同じ道へ入ったことも。

 危ないと思ったときに言えなかった、と話すと、父は、次は先に申せ、とだけ言った。

 

 言うのが簡単なら、と少し思った。

 でも、言わずについていくと、困るのは俺だけではない。

 

 数日後、柴田家へ父の供で出向くと、権六(ごんろく)が庭にいた。

 俺を見つけると、手にしていた木の剣を少し上げる。

 

「今日は振る暇があるか」

 

 その言い方に、思わず笑った。

 

「そのつもりで早く来ました」

「では、先に挨拶を済ませてこい」

 

 父の用が終わるのを待ち、許しをもらって庭へ戻る。

 権六は俺に短い木剣を渡した。

 手に持つと、使い慣れた重さが戻ってくる。

 

 向かい合うと、さっきまでの気安さが少し薄れた。

 この人は、俺が待っていても勝手に隙を作ってはくれない。

 

 一度目は、こちらから踏み込んだ。

 横へ受け流される前に手元を返したが、権六はもう近くにいた。

 肩先へ木剣が止まる。

 

「足は、よく出るようになった」

 

 褒められたのに、負けている。

 俺は少し下がり、もう一度構えた。

 

 二度目は、さっき止められたところへは入らない。

 木剣を動かしかけ、権六が受ける向きを変えたところで足をずらした。

 

 先へ出られる。

 

 そう思った瞬間、権六の木剣が俺の木剣の先を押さえた。

 そこから動かそうとしても、もう遅かった。

 

「よいが、まだ早い」

「今のは、届くと思いました」

「思わせた」

 

 ずるい。

 顔に出たらしく、権六が笑った。

 

「若様のところでも、その顔をしておるのか」

 

 俺は木剣を下ろした。

 

「この前は、もっと困った顔をしていたと思います」

 

     *

 

 少し休むあいだに、川へ行きかけた話をした。

 権六は黙って聞き、俺たちが馬を見ずに帰ったところで、肩を揺らした。

 

「怪我をしたのですが」

「それを笑ってはおらぬ。お前が若様に、曲がる前に言えと申したところだ」

 

 そこは、笑われるところなのか。

 権六はまだ口元を緩めていた。

 

「それで、次も参るのだな」

「はい」

 

 答えてから、少し考えた。

 

「腹が立ったのに、次は何をするのかと思うと、行きたいのです」

「そうか」

 

 権六は、それ以上、吉法師を褒めも悪く言いもしなかった。

 俺の木剣へ目を向ける。

 

「こちらへ来る暇も、残しておけよ」

 

 俺は顔を上げた。

 

「もちろんです」

「先ほどの続きがある。あれで終わりでは、お前も面白くなかろう」

 

 よく分かっている。

 俺が立つと、権六も立ち上がった。

 

 この人には、負けたところからもう一度頼める。

 悔しい顔をしても、失敗した話をしても、知っている顔で笑ってくれる。

 吉法師といるときには、まだできないことだった。

 

 それでも、吉法師のところでも、少しずつ言葉が出るようになっている。

 困ったときに黙るだけだった俺が、あの日は戻ってほしいと言えた。

 

 どちらへ行く日も、楽しみにしている。

 

 ふと、信長の弟、という言葉が頭をよぎった。

 この人が、いつか別の側につくのだとして。

 そのとき、自分はどこにいるのだろう。

 

「竹丸」

 

 呼ばれて、目の前を見る。

 権六が構えて待っていた。

 

「若様のことを考えながら、わしに勝つつもりか」

「今は、権六殿のことを考えています」

「ならば、来い」

 

 俺は木剣を上げた。

 さっき押さえられた先を、今度こそ抜いてみたかった。




お読みいただき、ありがとうございます。
今回は新しいアンケートはありません。

吉法師との行動を増やしたことで、新しい仲間との縁も育ち始めました。一方で、権六との稽古や付き合いも続いています。

彦七は本作の架空人物です。今回の外出、競争、怪我、稽古などは創作で、信長や柴田勝家の実際の逸話を再現したものではありません。
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