【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
今回は、竹丸が吉法師を迎える側になります。
話の最後に、今後の立場についてのアンケートがあります。
明後日の使いは、拍子抜けするほど早く終わった。
あの男は、俺の挨拶を聞くと、父からの書付を受け取った。
門の前での振る舞いを詫びると、うむ、とだけ答えた。
「若様とは、あれからも」
そこで言葉が切れた。
「また、お会いする約束をしております」
俺が答えると、男は書付へ目を戻した。
やめておけ、とは言われなかった。
許された、という気もしなかった。
帰りの道で、何度か後ろを振り返った。
誰も追ってこない。
それなのに、門が見えなくなってから、ようやく肩の力が抜けた。
*
次に
「叱られたか」
「父には、話しました」
「来るなとは」
「言われておりません」
吉法師は、そうか、と答えた。
それから、俺の後ろを見る。
「何か持ってきたのか」
「今日は、使いではありません」
手は空だ。
それを見せるように少し開くと、ようやく口元が緩んだ。
その日は、
水へは入らず、岸を行き来する舟を眺めた。
吉法師が、あの舟はどこへ行く、と尋ねる。俺に分かるはずもなく、そばにいた男へ聞き直した。
いつも、こちらが知らない場所へ連れていかれる。
そう思ったとき、前から少し気になっていたことが口に出た。
「若様は、俺の家の辺りへ来られたことはありますか」
吉法師が振り返った。
「お前の家か」
「はい」
「どこだ」
俺は、帰るときに使う道を挙げた。
吉法師の知っている道から先を説明すると、途中までは行ったことがあるらしかった。
「その先です」
「では、案内せよ」
早い。
「今日ではなく」
「またか」
彦七が笑った。
俺は笑えなかった。今日連れて帰ったら、家の者が何を言うか分からない。
「先に知らせます。何もない家ですが」
「何もないことはなかろう。お前がおる」
そういう意味ではなかった。
言い返そうとして、やめた。
自分の家へ友達を呼ぶ。
前世なら、それだけのことだった。
ただ、その友達の後ろには供がつき、家では父が頭を下げる。
門の前で言われたことを、少し思い出した。
それでも、口に出したのは俺だった。
「では、来ていただける日を、確かめてまいります」
*
約束の日までに、十日ほどかかった。
父が相手方へ話を通し、供の者も一緒に来ることになった。
ご馳走を用意しなければいけないのかと気を揉んだが、父は、できる支度をすればよい、と言った。
そう言いながら、人の出入りするところを掃かせ、俺にも散らかっている物を片づけさせた。
俺の家だ。
どこに何があるかは知っている。
なのに、その朝はやけに狭く見えた。
門の外を見ていると、道の先に人影が現れた。
吉法師と彦七、それに供の男たちだった。
俺は父へ知らせ、迎えに出た。
「ようこそ、お越しくださいました」
用意していた言葉を口にすると、吉法師は俺の顔を見た。
「使いのときの顔だな」
父が後ろにいる。
今、その話はやめてほしい。
俺が返事に詰まる前に、父が進み出て挨拶をした。
吉法師も、父にはきちんと返事をした。
それだけで少し安心してしまったのが、妙におかしかった。
*
挨拶を終えると、俺が家の中を案内した。
彦七もついてくる。
「ここで寝るのか」
「はい」
「ここで書くのか」
「はい。明るいうちは、紙をこちらへ寄せます」
俺が使っている場所を、吉法師は遠慮なく見た。
紙の端に残していた字をのぞき、指で示す。
「これは何だ」
「書き損じです」
「こちらは読める」
読めない方もあったらしい。
俺が紙を片づけると、彦七が肩を揺らした。
窓の外から、家の者が俺を呼んだ。
いつもの用事を言いかけ、吉法師の姿に気づくと、口を閉じて頭を下げた。
俺があとで行くと答えても、その人はすぐには動かなかった。
若様が来ている。
家じゅうが、それを気にしている。
俺だけが普段どおりでいるのも、難しかった。
「庭へ出ましょうか」
吉法師は、いいとも嫌とも言わず、先に立った。
*
庭へ出ると、脇に立ててあった槍が目についた。
今朝、父が人と見ていた物だった。
家にある武具を順に確かめ、傷んだところを直すために出したと聞いている。
客の来る前に仕舞われると思っていたが、まだ残っていた。
吉法師が足を止めた。
「これは、お前のか」
「家の物です」
「持ったことは」
「運んだことなら、あります」
俺は、立てかけてある柄を見た。
剣の稽古に使う木よりも、ずっと長い。
遊びで振り回したら、止める前に誰かへ当たる。
父が庭へ来たので、吉法師はそちらへ向き直った。
「見てもよいか」
父は供の男へも目をやり、うなずいた。
「こちらでお見せいたします」
父が一本を取り、布を外した。
日に当たった穂先が光った。
吉法師が近づく。
彦七も、俺の隣からのぞいた。
父は、柄の傷を指して、ここを直させる、と話した。
吉法師は刃よりも先に、その傷へ目を寄せた。
「これでも折れるか」
「傷み方によります。使う前に、確かめておかねばなりません」
「替えればよかろう」
「使える物まで、捨てるわけにもまいりませんので」
父は普通の声で答えた。
俺は、そのやり取りを聞いていた。
新品を買って終わり、とはいかない家だ。
ただ、それを吉法師の前で聞くと、いつもよりはっきりと分かった。
吉法師は父の顔を見たあと、もう一度、柄へ目を戻した。
「お前も、これを持って出るのか」
急に聞かれ、俺は顔を上げた。
「いずれは」
父が、俺に代わって答えた。
「その折に何を持たせ、誰と出すかは、まだ先の話でございます」
誰と出すか。
俺は槍から父へ目を移した。
初めて戦へ出る自分を考えるとき、一緒に行く者の顔までは思い浮かべたことがなかった。
*
父が槍を戻すあいだ、吉法師は俺の木剣を見つけた。
「これか」
「権六殿に、見ていただいています」
「持ちやすそうだな」
俺が取って渡すと、吉法師は握りを変えた。
俺の手に合った物なので、少し扱いにくそうだった。
「竹丸は、刀も使うか」
父に尋ねたのだった。
俺は、先に答えそうになった口を閉じた。
「まだ、木でございます」
「ならば、持たせてみればよい」
吉法師は軽く言った。
父はすぐには返事をしなかった。
俺を見たので、思わず背筋を伸ばした。
持ってみたいとは、思っていた。
何度も。
自分が剣を習っているのだから、本物だって、いつかは。
木を握ってうれしかった日のことも覚えている。
父は少し考え、俺たちを縁の方へ移らせた。
「振らせはいたしません」
「見るだけだ」
吉法師が答えた。
父が持ってきたのは、家で見覚えのある刀だった。
俺たちを離して座らせ、自分のそばだけを空ける。
「竹丸。こちらへ」
俺は、その場所へ座った。
*
刀は、父が抜いた。
鞘から離れた刃を見て、俺は口を閉じた。
いつもの木とは、光り方が違う。
当たり前のことなのに、目が離せなかった。
父の言うとおりにして、柄を受けた。
父はそばを離れなかった。
重い、とは思った。
でも、持てない重さではなかった。
むしろ、それが変だった。
もっと特別な感じがすると思っていた。
まともに持てなくて、木とは違うと笑われるくらいの方が、分かりやすかった。
手の中には、確かに握れる物がある。
権六に教わってきた手が、そのまま使えた。
俺は、少しだけ握りを直した。
「動かすなよ」
父の声に、はい、と答えた。
動かしてはいない。
けれど、頭の中には動きがあった。
権六に止められたときのこと。
吉法師の肩先へ、棒を届かせたときのこと。
あのとき、この手にあったのが、これだったら。
吉法師へ目を向けかけ、やめた。
刃から目を離すのが怖かった。
俺は、何度も同じ動きを繰り返してきた。
できるようになると、うれしかった。
早く覚えられる体でよかったと思った。
その動きが何のためのものか、知らなかったわけではない。
知らなかったわけでは、ないのだ。
「もう、よいか」
父に聞かれ、俺はうなずいた。
声を出す前に、父が刀を受け取った。
刀が鞘へ収まる。
ようやく、息を大きく吐けた。
*
「怖かったか」
庭へ戻ると、吉法師が聞いた。
俺は、自分の手を見た。
どこも切れていない。震えてもいない。
「はい」
「馬のときよりもか」
少し考えた。
「違う怖さでした」
吉法師は首をかしげた。
「持てたであろう」
「持てたので」
言ってから、うまく伝わらないだろうなと思った。
父の刀を握っても、俺の手は俺の手のままだった。
それで人へ振り下ろせるのだと気づいたことが、嫌だった。
吉法師は、しばらく黙った。
彦七も口を挟まない。
「では、もう振らぬのか」
木剣を示され、俺は顔を上げた。
稽古をやめれば、戦へ出ずに済む。
そんなはずはない。
この家に生まれた時点で、父がいずれは、と答える時代にいる。
それに、権六へもう一度挑みたい気持ちも、まだあった。
さっきまで楽しみにしていたことが、消えたわけではなかった。
「振ります」
吉法師は木剣を俺へ返した。
「ならば、次も相手をせよ」
木の重さが戻ってきた。
俺は握って、うなずいた。
人を斬る覚悟ができたわけではない。
そんなものが、刀を一度持っただけでできるとも思えなかった。
ただ、棒を当てて勝ったあとに笑っていられるのは、相手が立ち上がってくれるからだ。
そこだけは、さっきよりはっきりしていた。
*
帰る時刻になると、吉法師は庭を振り返った。
「お前の家には、いろいろあるではないか」
俺は、何もない家だと言ったことを思い出した。
立派な物を見せた覚えはなかった。
書き損じも、直す前の槍も見られた。
刀を持って黙り込むところまで。
「次は、もう少し片づけておきます」
「片づける前でもよい」
俺が困っていると、彦七が笑った。
父へ挨拶をした吉法師が、門へ向かう。
俺も外まで見送りに出た。
「また参れよ」
いつもの言葉だった。
俺は、はい、と答えてから続けた。
「若様もまたお越しください」
吉法師が足を止めた。
こちらを見て、少し笑う。
「先に知らせればよいのだな」
「お願いいたします」
供の男まで、口元を緩めた。
皆が道の先へ遠ざかるまで、俺は門のそばにいた。
家へ戻ると、父はもう槍を仕舞わせていた。
木剣だけが、庭に残っている。
俺は拾い上げ、付いた土を払った。
次に権六と会ったら、刀を持たせてもらったことを話そう。
怖かったことも、たぶん話せる。
それから、いつものように構えるのだと思う。
木剣をいつもの場所へ戻し、俺も片づけを手伝いに行った。
*
夕方、父に呼ばれた。
「若様と、この先もお付き合いしたいか」
俺はうなずいた。
昼間のことを思い出し、何か失礼があったかと考えたが、父の話は違った。
「お前の元服も、考えねばならぬ。その前に、聞いておきたい」
「これまでのように、暇のある日に参るだけとは限らなくなる」
父は、二つの道を話した。
一つは、父から願い出て、吉法師のそばへ小姓として上がること。
話を通せば必ずかなうわけではない。先方が望まなければ、それまでだ。
もう一つは、家の用をさらに引き受けながら、今の縁を続けること。
こちらも、ずっと使いだけをしていればよいわけではない。父に代わって話を聞き、返事を求められる場へ出るようになる。
「そばへ上がれば、若様の都合で動くことも増える。家へ戻りたい日に、戻れるとは限らぬ」
俺は、うなずきかけて止まった。
遊びに呼ばれるのと、仕えるのとは違う。
帰る時刻になったからと、毎回ここへ帰ってくるわけではなくなるのか。
「家に残れば、会えなくなるのですか」
「そうは申しておらぬ。ただ、お前に任せたい用も増える」
父は、すぐ答えろとは言わなかった。
「お前の考えを聞いてから、わしも話を進めたい」
吉法師は、また参れ、と言った。
俺も、また来てほしいと答えた。
その次を、どうしたいのだろう。
あの人の近くで、毎日のように過ごす。
この家に帰る暮らしを続けながら、自分から会いに行く。
どちらにも吉法師はいる。
けれど、朝起きて最初に誰から呼ばれるのかは、変わる。
俺は庭の方を見た。
昼間、皆が立っていた場所は、もう暗くなっていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回は、竹丸がこれからどの立場で吉法師と関わっていくかを選んでいただきます。
前回の「信長と行動する機会を増やす」を引き継いだうえで、そばへ仕えることを願うか、家の役目を持ちながら交流を続けるか、という選択です。
① 父を通じて、吉法師の小姓として仕えることを願う
日々の用や外出など、吉法師の近くで過ごす方向へ進みます。願い出た時点で採用が確定するわけではなく、父と先方の話も描きます。家や権六と過ごす時間は減ります。
② 榎並家の跡取りとして、家の役目と交流を続ける
父に代わって動く役目を増やしながら、吉法師に会いに行く関係を続けます。家や柴田家との縁を保ちやすい一方、吉法師の毎日の出来事すべてには立ち会えません。
どちらも吉法師との交流は続きます。将来の家督争いでどちら側につくかを、ここで確定する投票ではありません。
第15話の公開から約24時間後の最多票を、次話以降へ反映します。同票の場合は作者が選びます。
今回の訪問、刀に触れる場面、元服や出仕を巡る相談は創作です。
竹丸は元服後を見据え、どの立場で吉法師と関わることを望むでしょうか。どちらも交流は続きます。第15話の公開から約24時間後の最多票を次話以降へ反映。同票は作者が選びます。将来の家督争いの陣営は確定しません。
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吉法師の小姓として出仕を願う
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家の跡取りとして吉法師との交流を続ける