【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~   作:病んでるくらいが一番

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第6回アンケートへのご参加、ありがとうございました。

・吉法師の小姓として出仕を願う:2票
・家の跡取りとして吉法師との交流を続ける:5票

最多票の「家の跡取りとして吉法師との交流を続ける」を採用します。
今回は年を一つ進め、元服後の暮らしへ進みます。


第16話「竹丸では、ありません」

「家に残って、父上のお役目を覚えたいです」

 

 考えるように言われてから三日目に、俺は父へ答えた。

 父は膝の上に手を置いたまま聞いていた。

 

「若様のおそばへ上がる話は、願い出なくてよいのだな」

「はい。お会いしに行くのは、続けたいですが」

「それは先方にもお伝えしよう」

 

 思っていたより短いやり取りだった。

 そのあと父は、これから俺にも同席させる話がある、と続けた。

 

 頼まれた物を持って出て、返事を持ち帰る。

 それだけで終わっていた用事の、始まる前に座るようになった。

 

 誰をいつ出せるか。家に残す仕事は何か。

 父が俺へ尋ねることも増えたが、初めから何でも任されたわけではない。分からない話は隣で聞き、家に戻ってから確かめた。

 

 吉法師(きっぽうし)には、次に会った日に話した。

 

「家から通います」

「今もそうではないか」

「これからも、ということです」

 

 吉法師は俺を見て、ふうん、と言った。

 

「では、帰る用が増えるのか」

「増えると思います」

「来る日も決めておけ」

 

 そちらは気にするらしい。

 俺はうなずいた。

 

     *

 

 年が改まり、元服の日が決まった。

 

 俺は十五歳になる。

 前世の感覚なら、まだ学校へ通っている年頃だ。この家では父の隣へ座り、外で名を告げる支度をする。

 

 家での式は、長くはなかった。

 着慣れない衣服に袖を通し、髪を整え、いつもとは違う顔ぶれの前へ座った。

 

 自分の名が変わるところだけは、妙にはっきり覚えている。

 

 榎並(えなみ)藤十郎(とうじゅうろう)。

 諱(いみな)は直清(なおきよ)。

 

 家で決められた名だ。

 前から聞かされていたのに、その名で呼ばれて返事をしたときは、少し遅れた。

 

 竹丸、と呼ばれたらすぐ振り返れる。

 藤十郎では、まだ誰かの話を聞いている気がする。

 

 祝いの挨拶が続き、俺は何度も頭を下げた。

 最後の人が帰ると、父がこちらを見る。

 

「藤十郎」

 

 今度はすぐに返事をした。

 

「はい」

「袖が引っかかっておる」

 

 立とうとして、膝で踏んでいた。

 俺は座り直して布を引いた。

 

 父はもう、次の用事の話をしていた。

 

     *

 

 数日後、柴田家へ挨拶に行った。

 

 父と並んで口上を述べている間、庭の方からこちらを見る顔があった。

 権六(ごんろく)だ。

 目が合うと、口元が少し動いた。

 

 話が済んで庭へ出るなり、呼ばれた。

 

「藤十郎か」

「はい」

「返事は、もうできるな」

「そのくらいはできます」

 

 先に答えてから、相手が笑っているのに気づいた。

 

「家では遅れたか」

「少し」

 

 よく分かっている。

 

 権六は俺の腰へ目を落とした。

 父から持たされた刀がある。まだ歩くときの収まりを気にしてしまう。

 

「父上の刀は持ったそうだな」

「家に若様が来られたときに。抜いたものを、少しだけ」

 

 権六はうなずいた。

 怖かったと言っても笑われなかった。

 

「次は抜き納めも見てやろう。ここで勝手に試すなよ」

「頼むつもりでした」

 

 俺が答えると、権六は庭の端へ歩き、いつもの木剣を二本取ってきた。

 

 腰の刀は外し、置く場所を教わった。

 代わりに木剣を受け取る。

 

 向かい合えば、することは変わらない。

 権六が構えるまで待ち、俺も先を上げた。

 

 一度目は手元を押さえられた。

 二度目は足を止めず、押さえられる前に横へ出た。

 

 そこへ権六が追ってくる。

 俺は受けるつもりで木剣を返したが、触れるより先に肩へ届いた。

 

「急いだな」

「止まると、前と同じになります」

「だから先に動かした」

 

 息を整えながら、さっきの手を思い返した。

 できる動きが増えると、その動きを出したい方へ引っ張られる。

 

 もう一度、と頼もうとすると、先に権六が言った。

 

「竹丸のときより、勝ちたくなったか」

「前からです」

「ならばよい」

 

 権六は構え直した。

 

 その日も勝てなかった。

 帰りには刀の扱いを見てもらい、次に来る日を決めた。

 

「藤十郎」

「はい」

「その名で呼んでも、頼みに来いよ」

 

 俺は笑って頭を下げた。

 

     *

 

 若様も元服なされた、と聞いたのは、そのあとだった。

 

 古渡(ふるわたり)での式には、俺は出ていない。

 知らせが家へ届き、父と一緒に祝いを申し上げに行った。

 

 吉法師という名で呼ばれていた人が、織田三郎信長になる。

 前世で知っていた名前が、とうとう本人のものになった。

 

 ここへ来てからずっと信長だとは思っていたのに、その知らせを聞くと、少しそわそわした。

 

 挨拶の場では、余計なことは言えなかった。

 父の隣で名を告げ、頭を下げる。

 

「榎並の藤十郎にございます」

 

 若様が俺を見た。

 

「藤十郎」

 

 呼び直され、はい、と答えた。

 

「先に変わったのだったな」

 

 俺は顔を上げた。

 先ほどまでのよそ行きの顔に、知っている笑い方が戻っている。

 

 挨拶のあと、短く話す時間をいただいた。

 父は供の者と離れたところで話し、俺は若様の前に残った。

 

「竹丸」

「藤十郎です」

「分かっておる」

 

 分かっていて、呼んだらしい。

 

「では、若様も以前のお名で」

「言ってみよ」

 

 言えない。

 俺が黙ると、若様は肩を揺らした。

 

 この人が元服したからといって、急に全部が変わるわけでもなかった。

 

「今度は何をしておる」

「父の話に、同席しています。あとは、家の者と稽古を」

「何人だ」

 

 父は、普段一緒に動く者のうち三人と、俺にも槍の稽古をさせていた。

 木剣を持つ俺一人では、家から人を出すときの役に立たないからだ。

 

 まだ俺が教えているわけではない。

 槍を扱ってきた者に交じり、どう並び、どの合図で動くかを覚えるところだった。

 

 それを話すと、若様は少し身を乗り出した。

 

「では、その者らも連れてこい」

 

     *

 

 家に戻って話すと、父は人数と日を確かめた。

 用を残して人を出すわけにはいかないが、稽古へ加えてもらえるならよい、と話は決まった。

 

 次の約束の日、俺は三人と一緒に出た。

 

 年上の者ばかりだ。

 先頭を歩く男は甚助(じんすけ)といい、父と外へ出た経験もあった。

 

 今朝、家を出る前に父が言った。

 

「向こうでは指図に従え。戻ったら、お前から話せ」

 

 俺へ任されたのは、その場の稽古の差配ではなかった。

 それでも、俺の誘いから決まった外出だ。道の途中で皆へ今日の話を伝えると、甚助がうなずいた。

 

「若様は槍もお好きだと聞きます」

「そうらしい」

「われらも、よそと合わせるのは久しぶりですな」

 

 楽しみにしている声だった。

 俺だけが気負っている気がして、少し楽になった。

 

     *

 

 若様のところには、もう何人か集まっていた。

 彦七(ひこしち)もいる。

 

「竹……藤十郎」

 

 呼び直すのに間があった。

 俺が笑うと、彦七はすぐに続けた。

 

「長い」

「一つしか違わないだろう」

「呼び慣れぬ」

「俺もまだ、慣れていない」

 

 甚助たちを紹介すると、若様が皆を見渡した。

 

「そちらの四人と、こちらの四人で合わせる」

 

 俺は並べられていた稽古用の棒を見た。

 今日は剣での一対一ではないと聞いていた。先には布が巻かれていて、扱う前に年上の男が一人ずつ確かめた。

 

 打ち合う場所が決まり、顔へ向けないこと、止める声があればすぐ止まることを申し渡された。

 若様も、その話が済むまでは棒を取らなかった。

 

 俺たちは横に並んだ。

 隣の甚助が、棒の先を少し上げる。

 

「家でやったとおりに」

 

 俺はうなずいた。

 

 向こうの端には若様がいた。

 こちらを見て、口元を曲げる。

 

「今日は権六ではないぞ」

 

 その分だけ俺も勝ちたい。

 先へ意識が向いた。

 

     *

 

 始めの声がかかる。

 

 向こうから出てきた棒を受け、横へ流した。

 その動きに合わせて踏み込むと、先が相手の脇へ届きかけた。

 

 だが、隣から別の棒が伸びた。

 俺は引いて外そうとした。

 

「下がるな」

 

 甚助の声がしたが、もう足を動かしていた。

 俺のいた場所へ相手が入る。

 

 甚助が棒を向け直すと、そちらへも向こうの一人が寄った。

 俺は慌てて戻ろうとして、味方の棒をよけることになった。

 

「止め」

 

 声が響き、俺たちは手を止めた。

 

 一人でなら、よけられた。

 よけたあとに誰が残るかを、考えていなかった。

 

 隣を見ると、甚助もこちらを見ていた。

 

「そちらへ下がると、俺が先を出せませぬ」

「すまない」

 

 甚助は責めるより先に、自分の棒が通る場所を示した。

 俺は元の位置へ戻って立つ。

 

 若様が向こう側から顔を出した。

 

「見事によけたな」

 

 笑っている。

 俺はそちらを見た。

 

「次は、よけません」

「当てさせてくれるのか」

「そうではありません」

 

 彦七まで笑い、俺も少し笑った。

 

     *

 

 二度目は、甚助の棒が通る場所を空けて並んだ。

 先ほど教わった位置で構えると、隣の柄との間隔が手の動きと一緒に戻ってきた。

 

 自分が受ければ、甚助が先を出す。

 相手をよけるために動くのではなく、その一本を通すために動けばいい。

 

 向こうの棒が伸びた。

 今度は下がらず、先を外へ押し流した。腕を大きく振らなくても、相手の先だけをこちらの脇から離せた。

 

 甚助が踏み込む。

 その棒を止めようと、隣の相手がこちらへ先を寄せた。

 

 さっきも、そこから来た。

 

 俺は押さえていた棒から手元を返し、寄ってきたもう一本を受けた。

 甚助の棒が間を通り、彦七が後ろへ退く。

 

 今度は追いかけなかった。

 空いた場所へ先を向け、甚助と並んだまま一歩出る。

 相手は構え直す前に、もう一歩下がった。

 

 横から声がした。

 若様が端へ回りかけ、こちらの端の一人が迎えていた。

 

 俺は正面へ先を向けたまま、その声を聞いた。

 目の前の相手が、端へ気を取られて棒を動かす。

 

 そこへ届く。

 

 足を出すと、手元も迷わずついてきた。

 棒の先を相手の脇へ軽く当て、すぐ引く。

 

「止め」

 

 俺は構えを解いた。

 最初に下がってしまった場所より、今は二歩ほど前に立っている。甚助も隣にいた。

 

 彦七が俺の棒へ目をやり、自分の立つ場所を直した。

 俺は最初の位置へ戻った。次も同じ間隔で並べるように、甚助の肩を一度見た。

 

 そのあと何度か組を替えた。

 若様と同じ側になったときは、初めの一度だけ踏み込む速さに遅れた。

 

 次は声が来る前から、若様の棒が相手の先を払うところを見ていた。

 

「今だ」

 

 俺も踏み込んだ。

 若様が押さえた棒の隣を通し、相手が引くより先に届かせる。

 

 先を引いて顔を上げると、若様はもう次の相手を見ていた。

 俺もその隣へ戻り、棒を向け直した。

 

 終わる頃には腕よりも頭が疲れていた。

 棒を戻し、甚助たちと水を飲んだ。

 

     *

 

「家でも、これを続けるのか」

 

 若様が隣へ来た。

 俺は水を飲み下して答える。

 

「はい。甚助たちに、今日の続きを見てもらいます」

「ならば、また連れてこい」

 

 甚助が頭を下げた。

 

 俺は日を確かめてから返事をすると伝えた。

 前のように俺一人の暇で決められないが、若様はその場で今決めろとは言わなかった。

 

「そちらへ行ってもよいな」

「家で合わせるなら、庭だけでは狭いです」

「では、広いところでやれ」

 

 自分も加わるつもりらしい。

 甚助が俺を見て、少し笑った。

 

 俺の家に帰れば、今日一緒に動いた人がいる。

 次に若様へ会うとき、その人たちも来るかもしれない。

 

 家に残る、と答えた日の想像より、行き来する顔は増えていた。

 

 帰る前に、彦七が近づいてきた。

 

「藤十郎」

 

 今度は詰まらずに呼ばれた。

 

「何だ」

「次は、俺と同じ側だ」

 

 今日、俺が甚助の棒を通したとき、向こうで退いたのが彦七だった。

 俺がその話をすると、彦七は顔をしかめた。

 

「次は、あの人もこちらへ入れろ」

 

 甚助まで連れていかれる。

 俺が笑うと、若様が後ろから口を挟んだ。

 

「こちらは竹丸だけでよい」

「藤十郎です」

「知っておる」

 

 若様は笑いながら、俺の肩を押した。

 帰り道では甚助にも、そのやり取りを真似された。




お読みいただき、ありがとうございます。
今回は新しいアンケートはありません。

竹丸は元服し、通称を藤十郎、諱を直清としました。以後、普段の呼びかけは藤十郎になります。
主人公の元服、名前、柴田家への挨拶、信長との会話や合同の稽古は本作の創作です。甚助は榎並家に関わる架空人物です。

信長が1546年に古渡で元服したと伝わることは、名古屋市の解説を参照しています。本作の主人公は、その式には出席していません。
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