【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
・吉法師の小姓として出仕を願う:2票
・家の跡取りとして吉法師との交流を続ける:5票
最多票の「家の跡取りとして吉法師との交流を続ける」を採用します。
今回は年を一つ進め、元服後の暮らしへ進みます。
「家に残って、父上のお役目を覚えたいです」
考えるように言われてから三日目に、俺は父へ答えた。
父は膝の上に手を置いたまま聞いていた。
「若様のおそばへ上がる話は、願い出なくてよいのだな」
「はい。お会いしに行くのは、続けたいですが」
「それは先方にもお伝えしよう」
思っていたより短いやり取りだった。
そのあと父は、これから俺にも同席させる話がある、と続けた。
頼まれた物を持って出て、返事を持ち帰る。
それだけで終わっていた用事の、始まる前に座るようになった。
誰をいつ出せるか。家に残す仕事は何か。
父が俺へ尋ねることも増えたが、初めから何でも任されたわけではない。分からない話は隣で聞き、家に戻ってから確かめた。
「家から通います」
「今もそうではないか」
「これからも、ということです」
吉法師は俺を見て、ふうん、と言った。
「では、帰る用が増えるのか」
「増えると思います」
「来る日も決めておけ」
そちらは気にするらしい。
俺はうなずいた。
*
年が改まり、元服の日が決まった。
俺は十五歳になる。
前世の感覚なら、まだ学校へ通っている年頃だ。この家では父の隣へ座り、外で名を告げる支度をする。
家での式は、長くはなかった。
着慣れない衣服に袖を通し、髪を整え、いつもとは違う顔ぶれの前へ座った。
自分の名が変わるところだけは、妙にはっきり覚えている。
家で決められた名だ。
前から聞かされていたのに、その名で呼ばれて返事をしたときは、少し遅れた。
竹丸、と呼ばれたらすぐ振り返れる。
藤十郎では、まだ誰かの話を聞いている気がする。
祝いの挨拶が続き、俺は何度も頭を下げた。
最後の人が帰ると、父がこちらを見る。
「藤十郎」
今度はすぐに返事をした。
「はい」
「袖が引っかかっておる」
立とうとして、膝で踏んでいた。
俺は座り直して布を引いた。
父はもう、次の用事の話をしていた。
*
数日後、柴田家へ挨拶に行った。
父と並んで口上を述べている間、庭の方からこちらを見る顔があった。
目が合うと、口元が少し動いた。
話が済んで庭へ出るなり、呼ばれた。
「藤十郎か」
「はい」
「返事は、もうできるな」
「そのくらいはできます」
先に答えてから、相手が笑っているのに気づいた。
「家では遅れたか」
「少し」
よく分かっている。
権六は俺の腰へ目を落とした。
父から持たされた刀がある。まだ歩くときの収まりを気にしてしまう。
「父上の刀は持ったそうだな」
「家に若様が来られたときに。抜いたものを、少しだけ」
権六はうなずいた。
怖かったと言っても笑われなかった。
「次は抜き納めも見てやろう。ここで勝手に試すなよ」
「頼むつもりでした」
俺が答えると、権六は庭の端へ歩き、いつもの木剣を二本取ってきた。
腰の刀は外し、置く場所を教わった。
代わりに木剣を受け取る。
向かい合えば、することは変わらない。
権六が構えるまで待ち、俺も先を上げた。
一度目は手元を押さえられた。
二度目は足を止めず、押さえられる前に横へ出た。
そこへ権六が追ってくる。
俺は受けるつもりで木剣を返したが、触れるより先に肩へ届いた。
「急いだな」
「止まると、前と同じになります」
「だから先に動かした」
息を整えながら、さっきの手を思い返した。
できる動きが増えると、その動きを出したい方へ引っ張られる。
もう一度、と頼もうとすると、先に権六が言った。
「竹丸のときより、勝ちたくなったか」
「前からです」
「ならばよい」
権六は構え直した。
その日も勝てなかった。
帰りには刀の扱いを見てもらい、次に来る日を決めた。
「藤十郎」
「はい」
「その名で呼んでも、頼みに来いよ」
俺は笑って頭を下げた。
*
若様も元服なされた、と聞いたのは、そのあとだった。
知らせが家へ届き、父と一緒に祝いを申し上げに行った。
吉法師という名で呼ばれていた人が、織田三郎信長になる。
前世で知っていた名前が、とうとう本人のものになった。
ここへ来てからずっと信長だとは思っていたのに、その知らせを聞くと、少しそわそわした。
挨拶の場では、余計なことは言えなかった。
父の隣で名を告げ、頭を下げる。
「榎並の藤十郎にございます」
若様が俺を見た。
「藤十郎」
呼び直され、はい、と答えた。
「先に変わったのだったな」
俺は顔を上げた。
先ほどまでのよそ行きの顔に、知っている笑い方が戻っている。
挨拶のあと、短く話す時間をいただいた。
父は供の者と離れたところで話し、俺は若様の前に残った。
「竹丸」
「藤十郎です」
「分かっておる」
分かっていて、呼んだらしい。
「では、若様も以前のお名で」
「言ってみよ」
言えない。
俺が黙ると、若様は肩を揺らした。
この人が元服したからといって、急に全部が変わるわけでもなかった。
「今度は何をしておる」
「父の話に、同席しています。あとは、家の者と稽古を」
「何人だ」
父は、普段一緒に動く者のうち三人と、俺にも槍の稽古をさせていた。
木剣を持つ俺一人では、家から人を出すときの役に立たないからだ。
まだ俺が教えているわけではない。
槍を扱ってきた者に交じり、どう並び、どの合図で動くかを覚えるところだった。
それを話すと、若様は少し身を乗り出した。
「では、その者らも連れてこい」
*
家に戻って話すと、父は人数と日を確かめた。
用を残して人を出すわけにはいかないが、稽古へ加えてもらえるならよい、と話は決まった。
次の約束の日、俺は三人と一緒に出た。
年上の者ばかりだ。
先頭を歩く男は
今朝、家を出る前に父が言った。
「向こうでは指図に従え。戻ったら、お前から話せ」
俺へ任されたのは、その場の稽古の差配ではなかった。
それでも、俺の誘いから決まった外出だ。道の途中で皆へ今日の話を伝えると、甚助がうなずいた。
「若様は槍もお好きだと聞きます」
「そうらしい」
「われらも、よそと合わせるのは久しぶりですな」
楽しみにしている声だった。
俺だけが気負っている気がして、少し楽になった。
*
若様のところには、もう何人か集まっていた。
「竹……藤十郎」
呼び直すのに間があった。
俺が笑うと、彦七はすぐに続けた。
「長い」
「一つしか違わないだろう」
「呼び慣れぬ」
「俺もまだ、慣れていない」
甚助たちを紹介すると、若様が皆を見渡した。
「そちらの四人と、こちらの四人で合わせる」
俺は並べられていた稽古用の棒を見た。
今日は剣での一対一ではないと聞いていた。先には布が巻かれていて、扱う前に年上の男が一人ずつ確かめた。
打ち合う場所が決まり、顔へ向けないこと、止める声があればすぐ止まることを申し渡された。
若様も、その話が済むまでは棒を取らなかった。
俺たちは横に並んだ。
隣の甚助が、棒の先を少し上げる。
「家でやったとおりに」
俺はうなずいた。
向こうの端には若様がいた。
こちらを見て、口元を曲げる。
「今日は権六ではないぞ」
その分だけ俺も勝ちたい。
先へ意識が向いた。
*
始めの声がかかる。
向こうから出てきた棒を受け、横へ流した。
その動きに合わせて踏み込むと、先が相手の脇へ届きかけた。
だが、隣から別の棒が伸びた。
俺は引いて外そうとした。
「下がるな」
甚助の声がしたが、もう足を動かしていた。
俺のいた場所へ相手が入る。
甚助が棒を向け直すと、そちらへも向こうの一人が寄った。
俺は慌てて戻ろうとして、味方の棒をよけることになった。
「止め」
声が響き、俺たちは手を止めた。
一人でなら、よけられた。
よけたあとに誰が残るかを、考えていなかった。
隣を見ると、甚助もこちらを見ていた。
「そちらへ下がると、俺が先を出せませぬ」
「すまない」
甚助は責めるより先に、自分の棒が通る場所を示した。
俺は元の位置へ戻って立つ。
若様が向こう側から顔を出した。
「見事によけたな」
笑っている。
俺はそちらを見た。
「次は、よけません」
「当てさせてくれるのか」
「そうではありません」
彦七まで笑い、俺も少し笑った。
*
二度目は、甚助の棒が通る場所を空けて並んだ。
先ほど教わった位置で構えると、隣の柄との間隔が手の動きと一緒に戻ってきた。
自分が受ければ、甚助が先を出す。
相手をよけるために動くのではなく、その一本を通すために動けばいい。
向こうの棒が伸びた。
今度は下がらず、先を外へ押し流した。腕を大きく振らなくても、相手の先だけをこちらの脇から離せた。
甚助が踏み込む。
その棒を止めようと、隣の相手がこちらへ先を寄せた。
さっきも、そこから来た。
俺は押さえていた棒から手元を返し、寄ってきたもう一本を受けた。
甚助の棒が間を通り、彦七が後ろへ退く。
今度は追いかけなかった。
空いた場所へ先を向け、甚助と並んだまま一歩出る。
相手は構え直す前に、もう一歩下がった。
横から声がした。
若様が端へ回りかけ、こちらの端の一人が迎えていた。
俺は正面へ先を向けたまま、その声を聞いた。
目の前の相手が、端へ気を取られて棒を動かす。
そこへ届く。
足を出すと、手元も迷わずついてきた。
棒の先を相手の脇へ軽く当て、すぐ引く。
「止め」
俺は構えを解いた。
最初に下がってしまった場所より、今は二歩ほど前に立っている。甚助も隣にいた。
彦七が俺の棒へ目をやり、自分の立つ場所を直した。
俺は最初の位置へ戻った。次も同じ間隔で並べるように、甚助の肩を一度見た。
そのあと何度か組を替えた。
若様と同じ側になったときは、初めの一度だけ踏み込む速さに遅れた。
次は声が来る前から、若様の棒が相手の先を払うところを見ていた。
「今だ」
俺も踏み込んだ。
若様が押さえた棒の隣を通し、相手が引くより先に届かせる。
先を引いて顔を上げると、若様はもう次の相手を見ていた。
俺もその隣へ戻り、棒を向け直した。
終わる頃には腕よりも頭が疲れていた。
棒を戻し、甚助たちと水を飲んだ。
*
「家でも、これを続けるのか」
若様が隣へ来た。
俺は水を飲み下して答える。
「はい。甚助たちに、今日の続きを見てもらいます」
「ならば、また連れてこい」
甚助が頭を下げた。
俺は日を確かめてから返事をすると伝えた。
前のように俺一人の暇で決められないが、若様はその場で今決めろとは言わなかった。
「そちらへ行ってもよいな」
「家で合わせるなら、庭だけでは狭いです」
「では、広いところでやれ」
自分も加わるつもりらしい。
甚助が俺を見て、少し笑った。
俺の家に帰れば、今日一緒に動いた人がいる。
次に若様へ会うとき、その人たちも来るかもしれない。
家に残る、と答えた日の想像より、行き来する顔は増えていた。
帰る前に、彦七が近づいてきた。
「藤十郎」
今度は詰まらずに呼ばれた。
「何だ」
「次は、俺と同じ側だ」
今日、俺が甚助の棒を通したとき、向こうで退いたのが彦七だった。
俺がその話をすると、彦七は顔をしかめた。
「次は、あの人もこちらへ入れろ」
甚助まで連れていかれる。
俺が笑うと、若様が後ろから口を挟んだ。
「こちらは竹丸だけでよい」
「藤十郎です」
「知っておる」
若様は笑いながら、俺の肩を押した。
帰り道では甚助にも、そのやり取りを真似された。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回は新しいアンケートはありません。
竹丸は元服し、通称を藤十郎、諱を直清としました。以後、普段の呼びかけは藤十郎になります。
主人公の元服、名前、柴田家への挨拶、信長との会話や合同の稽古は本作の創作です。甚助は榎並家に関わる架空人物です。
信長が1546年に古渡で元服したと伝わることは、名古屋市の解説を参照しています。本作の主人公は、その式には出席していません。