【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~   作:病んでるくらいが一番

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初陣後の暮らしと家の仕事を経て、次の出陣の話へ進みます。
今回は、出陣で誰と行動するかを選ぶアンケートがあります。


第18話「若様の供か、権六の組か」

 槍の柄には、浅い傷が残っていた。

 

 帰った翌日、父と甚助(じんすけ)に混じって武具を確かめた。刃の傷だけではなく、柄の割れや穂先の緩みも見る。俺の槍は手入れをして、また使うことになった。

 腕の痛みは数日で薄れた。夜中に目を覚ますことも、少しずつ減った。

 

 水で手を洗ったとき、不意にあの日の重さを思い出すことはある。

 けれど飯は食べるし、家の用もある。庭で槍を振る時間を戻すと、以前より長く稽古ができた。

 突いて引く動きは、疲れてきても崩れにくくなっている。足を動かしながら何度か繰り返し、最後の一本も狙った場所へ届かせた。

 

 父の代わりに外へ出る用も増えた。

 ある日は、水を借りる約束のことで、甚助と近くの田へ出向いた。

 

 手を切って戻った男の父、佐吉(さきち)が、田の畦(あぜ)を直しきれずに水を止めたままにしていた。下の田には柴田家に関わる者がおり、いつまで待たせるのかと揉めている。

 俺は約束の水を先に返し、甚助と修繕を手伝った。柴田側から見に来た権六(ごんろく)と、その供の男にも手を借りた。

 直ったあとで短いあいだ水を借り直し、畦から漏れなくなったところまで確かめた。父へ持ち帰る返事だけでなく、先方と相談して一つ用を終えた。

 

 権六には、その帰りに大浜でのことを話した。

 甚助が倒れかけたところも、俺が槍を出したところも。数を聞かれるより、二人がどう並んでいたかを確かめられた。

 

「次に来るときは、甚助も連れてこい」

 

 権六は言った。

 

「わし一人を相手にするだけでは済まぬ。こちらの者とも合わせてみたい」

 

 父に日を確かめ、二人で柴田家へ通うようになった。

 

     *

 

 甚助の声を聞いて、俺は棒の先を上げた。

 

 前にいる源八(げんぱち)が、足を踏み込んでくる。俺はその棒を外へ受け流し、甚助と並んだまま後ろへ退いた。

 右にいる権六が、甚助の棒を押さえに来る。

 俺は自分の先を源八へ向けたまま、横へ声をかけた。

 

「右、来ます」

 

 甚助が手元を引き、権六の棒が肩の前を通った。

 そのあいだに、俺たちはもう一歩退く。

 

 庭に置いた木まで戻れば終わりだ。

 ここからでは、あと三歩ほどある。

 

 源八がこちらの棒を押し下げた。

 手を返せば外せる。けれど、そこで俺だけ前へ出れば甚助との間が開く。

 俺は棒の先を横から抜き、踏み込む代わりに後ろの足を引いた。

 甚助も同じだけ退いた。源八がまた寄ってきたので、俺たちは先を相手へ向けたまま、もう二歩退いた。

 

「止め」

 

 権六が声をかけた。

 俺は棒を下げ、後ろを見る。庭の木は、もう足元にあった。

 

「今のなら、下がれる」

 

 権六が言った。

 源八は俺の棒を見て、少し笑った。

 

「前へ来るかと思いました」

「それはさっきやったので」

 

 一度目は源八を追い、甚助を置いていってしまった。

 二度目は追うのをやめ、退く歩幅を揃えた。途中で先を押さえられても、足を止めずに棒を戻せた。

 源八は、わざと隙を見せたことまで話してくれた。

 

 この人は、水口へ鍬(くわ)を担いできた、権六の供の者だ。

 庭で棒を持っていると、あのときより大きく見える。

 

「同じ手に掛からぬのは、よいことです」

 

 源八はそう言って、俺が外した辺りへ自分の棒を立てた。

 その先へ、甚助の棒が伸びる。

 

「こちらが寄ってこられましたので、追えませんでした」

 

 甚助が頭を下げた。

 俺はその横で、庭の土に残った足跡を見た。

 自分の足が先へ出ていないことより、二人が並んだまま戻れたことの方を確かめたかった。

 

 木剣を合わせる日もあれば、こうして長い棒を持つ日もあった。先には刃がない。互いを強く突きつけることはせず、止めの声で手を下げる。

 それでも、二人で動くと忙しい。

 自分の手足は教わった通りに動く。相手の先も外せるようになった。そのうえで甚助を見失わず、権六の動きまで追わねばならない。

 

 初めは甚助に声をかけられてから動いていた。

 今は相手が甚助へ踏み込もうとすれば、言われる前に棒を突き出して近づくのを止められることも増えた。

 

「もう一度、お願いします」

 

 俺が言うと、権六は庭の木を足で端へ寄せた。

 

「次は退くところまで決めぬ。源八が前に出るから、二人で止めてみよ」

 

 俺は甚助を見る。

 甚助がうなずき、隣へ立った。

 

     *

 

 年が改まり、俺は十七歳になる。

 

 柴田家へ通うあいだも、家の仕事は続いていた。

 先方へ返答できる範囲を父に確かめてから出向き、用が済むと、甚助を誘って庭で稽古をした。

 若様のところへも顔を出し、彦七たちと稽古をしたり、一緒に外を歩いたりしていた。

 

 佐吉の息子は手の傷が治り、仕事へ戻った。

 家に来たときに槍の柄を持たせると、握って開いて、まだ少しつっぱると答えた。

 俺と甚助は柴田家で教わった動きを家の庭でも合わせたが、彼を急いで加えることはしなかった。

 

 そのうち、三河へ出る話が家にも届いた。

 

 今度は、今川(いまがわ)方が動いているという。

 安城(あんじょう)の方へ人を出す。父はそう聞かされ、家から出せる者と日を確かめていた。

 

 俺もその場に座っていた。

 甚助と、手を傷めた男は出せるか。留守の用は誰が見るか。

 分かるところは俺から伝え、父が確かめ直す。

 

「お前も、また出る」

 

 父は話の最後に言った。

 

「はい」

 

 出た声は、前のときより早かった。

 平気になったわけではない。行けば何が起こるか、少しは想像できるようになった。

 それでも、稽古へ通うあいだに、そのつもりで槍を持っていた。

 

「甚助と一緒に動けるよう、話をしておく」

 

 父は続けた。

 俺は隣にいる甚助を見て、もう一度うなずいた。

 

 あとから、小豆坂(あずきざか)という名も聞いた。

 岡崎(おかざき)の方にある坂だという。

 

 小豆坂。

 聞いたことはある気がしたが、誰がどう勝ったかは思い出せない。

 信長が勝った戦を、全部まとめて桶狭間にしていたら話にならない。今の織田方を動かしているのは、まだ父親の信秀だ。

 

 父に分かっている話を聞いても、これから進む道のことばかりだった。

 俺の方には、先で役に立つほどの記憶がない。

 家から出す槍の数を書き留め、読み返してから紙を父へ渡した。

 

     *

 

 若様に呼ばれたのは、それから数日後だった。

 

 父の使いで行ったところへ、こちらの用が済むまで待てという人が来た。

 俺は持ってきた物を渡して返事を受け取り、それから甚助とともに若様のいる庭へ出た。

 

 若様は彦七(ひこしち)と話していた。

 俺を見ると、先に甚助へ目を向ける。

 

「もう歩けるか」

「はい。おかげさまで」

「では、二人とも来られるな」

 

 俺は若様を見た。

 

「どちらへ、ですか」

「三河へ出る。お前たちも話は聞いておろう」

「父から聞いています」

 

 若様がうなずいた。

 若様は甚助の足取りを見てから、俺へ顔を向けた。

 

「今度はわしのところへ来い」

 

 返事をする前に、彦七が俺へ顔を向けた。

 

「俺も出る」

 

 顔はいつもと同じだった。

 それが少し、気になった。

 

「彦七は初めてか」

「そうだ。お前だけ先に行った」

 

 遊びに出かけた話のように言ったが、腰には刀があった。

 俺の目がそこへ落ちたのに気づくと、彦七は柄へ手を置きかけ、すぐに下ろした。

 

「権六殿のところでは、甚助と退く稽古をしておるそうだな」

 

 若様が言った。

 俺は顔を上げる。

 

「誰から聞かれたのですか」

「権六から。源八もお前たちと合わせたと言うておった」

 

「ここでも合わせてみよ。出るまでに、顔と声は覚えておいた方がよい」

 

 若様が庭の端へ目を向けた。

 そこには以前から稽古で顔を見る男と、初めて会う男がいた。

 

「お前には甚助と二人で、わしの供の者と動いてもらいたい。歩く間も、呼ばれて動くときもだ」

 

 俺は甚助を見た。

 甚助は黙って聞いている。

 

 今までは稽古が済めば帰った。初陣の日も父と家の者に続き、若様を見かけたときに頭を下げた。

 次は、その近くで一緒に動く話だ。

 

「父上には、もう話を通した」

 

 若様が続けた。

 

「家へ戻って確かめて参ります」

「そうせよ。勝手に返事をしたと言われては、わしも困る」

 

 若様は笑った。

 彦七が、棒を取りに走った。

 

「今日も、少し合わせるのだろう」

 

 戻ってきた彦七は、俺へ一本差し出した。

 俺は甚助の分も持ってくるよう頼み、合わせる前に腰の刀を外した。

 刀を脇へ置いてから、彦七が差し出した棒を受け取った。

 

 今度は、こちらの庭で退く動きを合わせた。

 彦七が俺の横に立ち、甚助は向かいに立った。以前からここで合わせている男が、その隣に入った。

 

 相手に寄られたとき、彦七の足が止まった。

 俺は甚助の棒を受け、彦七が退けるだけの場所を空けた。

 

「後ろへ。俺も下がる」

 

 声をかけると、彦七が足を引いた。

 俺は相手の先を押さえたまま、隣へ戻る。

 

 甚助の隣の男が前へ出てきたので、彦七へ向いていた先を横へ外した。そのあいだに彦七の棒が相手の胸の前まで届き、止まった。

 甚助が手を下げたところで、俺たちも棒を下ろした。

 

「今のは届いた」

 

 彦七が俺へ顔を向けた。

 

「届いたな」

「次も、先に言えよ」

「彦七も声をかけろ。俺が見ていなかったら分からない」

 

 彦七は少し考えてからうなずいた。

 若様が横から近づいてきた。

 

「次はわしも入る。藤十郎、お前と同じ側だ」

 

 俺が棒を構え直すと、若様は彦七へ場所を譲らせた。

 初めてではない動きも、隣にいる相手が替わると、どこで声をかけるかが変わる。

 俺は若様の足を見てから、向かいの二人へ先を向けた。

 

     *

 

 家へ戻ると、父が二つの話を聞かせた。

 

 一つは、若様の供に付く話。

 もう一つは、柴田方に加わり、権六とともに槍を持つ組で動く話だった。

 

「権六殿からも、お前と甚助を借りたいと申されておる」

 

 父が言った。

 前の出陣では榎並家の者として父と並んだ。次は同じ織田方の中で、家から出す者の持ち場を分けることになる。

 父は別の家の者とともに動き、俺と甚助は二人一緒に、どちらかへ加わる。

 

「若様の方へ行けば、今度は家を離れてお仕えするのですか」

「いや。この出陣で供に付く話だ。帰れば家の用に戻る」

 

 父は紙を置き、俺を見た。

 

「どちらへ行くか。二つとも返事をしておいて、その場で行き来するわけにはいかぬぞ」

 

 俺はうなずいた。

 自分がいないところを、俺が来るつもりで空けて待っている人ができてしまう。

 

「お前が動きやすい方を申せ。わしが返事をする」

 

 急いで答えようとは思わなかった。

 若様と一緒に行きたい。彦七もいるし、あの庭で合わせた者も来る。

 権六と並んで出るところも、見てみたい。

 

 父は返事を明日の朝まで待つと言い、ほかの者へ用を伝えに出た。

 俺は甚助と庭に残った。

 

 軒の下に置いてあった棒を取ると、甚助がもう一本を持ってきた。

 

「俺だけで決めて、よいのですか」

 

 俺が尋ねると、甚助は少し笑った。

 

「殿がそう仰せです。私もどちらの方とも合わせましたので、藤十郎殿と参ります」

 

 気が進まぬまま連れていくことにはならないらしい。

 俺は棒を握り、まだ返事を考えていると話した。

 

     *

 

 夕方、権六が家へ来た。

 父から帰りに寄ってほしいと伝えていたらしい。

 

 俺と甚助が庭にいるのを見て、権六は木剣を持ってきたときのように声をかけた。

 

「もう決めたか」

「まだです。若様からもお声がかかりました」

「聞いておる」

 

 権六は俺の前に立った。

 若様に会ったときと同じように、また供の話をされるのかと思ったが、そうではなかった。

 

「こちらへ来れば、源八たちと並んでもらう。わしが前へ出るときも、止まるときもだ。槍の間を抜けて、お前一人で走り出すなよ」

「一人で前へ出てよいとは思っていません」

「ならば、よい」

 

 権六は俺の持つ棒を見た。

 

「二人で退くところは、使えるようになった。次はもっと人が増える。来るなら、出る前にもう一度合わせておくぞ」

 

 俺はその顔を見た。

 教わりたいから来いというだけではない。庭でできるようになった動きを、あちらの持ち場で使ってほしいと言われている。

 

「若様の方を選んだら、こちらへは」

「今回はそちらで動け。終わって戻れば、また来ればよい」

 

 権六はすぐに答えた。

 そのあとで、少し笑った。

 

「わしのところへ来たからとて、槍の届かぬ後ろで見ておれるわけでもないぞ」

「それも、分かっています」

 

 甚助も横でうなずいた。

 権六は父へ話すことがあると言って、家の中へ入った。

 

 庭に二人残ると、甚助が棒を置いた。

 明日確かめる具足の話をしながら、俺の分も軒の下へ立てかける。

 

 家の中から、父が俺を呼んだ。

 

「返事は、明日の朝でよかったのですね」

「そう言うたろう。今は飯だ」

 

 甚助が俺の横で笑った。

 俺は返事をして、先に家へ入った。

 

     *

 

 飯を食い、寝る支度を済ませて自分の部屋へ戻っても、二人に言われたことが頭に残っていた。

 横になってから、今日の話をもう一度考える。

 

 若様の供になれば、彦七たちと近いところで動く。庭で棒を合わせるだけだった頃とは違い、戦の最中に呼ばれれば応えなくてはならない。

 権六のところなら、源八たちと槍を並べる。こちらは揃って進み、止まり、退く。甚助とは、どちらへ行っても一緒だ。

 

 信長は尾張をまとめ、桶狭間で今川義元に勝つ。その後は家康と組み、京都へ上り、天下統一へ進んでいく。

 ただ、ずっと勝ち続けるわけでもなかったはずだ。

 

 家康と組んで、武田に大敗したんだったか?

 あれはどこの戦だった。長篠では勝つんだから、その前か。

 

 最後が本能寺なのは覚えている。

 けれど、そこまでの戦を一つずつ思い出せるわけではない。若様の近くなら勝つ戦ばかりだと考えるのは危ない。

 

 権六だって、後には信長の重臣になる。最後には秀吉と戦う人だ。

 だが、最初から信長の側にいたわけではなかった。

 信長の弟に味方して、兄弟の争いでは敵になった。剣を教わり始めた頃にも思い出しかけた話だ。

 弟は一度負けて許されたが、また兄を裏切り、最後には信長に殺された。そこまでは覚えている。

 何年のことだったか、権六がどこで信長の側へ移ったのかは出てこない。

 

 今回は今川方との戦で、二人とも同じ織田方にいる。若様のところへ行ったからといって、権六と敵になる話ではない。

 権六も、戻ったらまた稽古に来ればよいと言ってくれた。

 

 それでも、誰と一緒に戦うかは残る。

 若様のそばで役に立てば、次も俺を呼ぶかもしれない。権六たちと槍を並べれば、今より頼りにされることもあるだろう。

 呼ばれて行くうちに、離れにくくなることだってある。

 

 今の俺には、二人とも何度も顔を合わせてきた相手だ。権六は剣を教えてくれたし、若様もまた来いと声をかけてくれる。

 将来敵になるからと、今からどちらかを避けたいわけじゃない。

 

 寝返りを打っても、答えは出なかった。

 返事をするのは明日の朝だ。今回の選択は、きっとその先にも響く。

 

 俺は、どちらを選ぶべきなんだ?




お読みいただき、ありがとうございます。

今回のアンケートは、次の出陣で信長と勝家のどちらと行動するかを選ぶ二択です。

・信長の供として出陣する
若様の供の者たちに加わり、信長や彦七と近いところで動きます。呼びかけやその場の動きに合わせて、役目を果たすことになります。

・勝家の槍の組で出陣する
勝家や源八らと並び、まとまって戦う持ち場へ加わります。互いの槍の届く範囲や、進む・止まる・退く合図を合わせて動くことになります。

どちらを選んでも、藤十郎は榎並家の跡取りとして甚助と一緒に出陣します。甚助は榎並家に仕える年上の男で、父の外出にも付き従い、藤十郎と槍の稽古や初陣をともにしてきました。

今回は同じ出陣での持ち場を選ぶため、両方へ参加することはできません。誰と戦い、どんな経験や約束を重ねるかは、その後の関係や立場にも影響します。将来ほかの陣営へ移る場合も、それまでの信頼や義理が消えるわけではありません。

第18話の実際の公開から約24時間後の最多票を、第19話以降へ反映します。同票の場合は、最多票の候補から作者が選びます。

本話は1548年ごろを想定し、小豆坂の戦いを含む三河での織田・今川の争いを背景にしています。榎並家の参加、信長と勝家の出陣や各組の配置、人物の会話・稽古は本作の創作です。源八は架空人物です。

次の三河への出陣で、藤十郎は誰と行動するでしょうか。信長側は若様の供として、勝家側は槍を持つ組で動きます。榎並家の跡取りという立場は共通です。第18話の公開から約24時間後の最多票を第19話以降へ反映します。同票は作者が選びます。今回築く関係や経験は、将来の立場や選択にも影響します。

  • 信長の供として出陣する
  • 勝家の槍の組で出陣する
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