【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
今回は、出陣で誰と行動するかを選ぶアンケートがあります。
槍の柄には、浅い傷が残っていた。
帰った翌日、父と
腕の痛みは数日で薄れた。夜中に目を覚ますことも、少しずつ減った。
水で手を洗ったとき、不意にあの日の重さを思い出すことはある。
けれど飯は食べるし、家の用もある。庭で槍を振る時間を戻すと、以前より長く稽古ができた。
突いて引く動きは、疲れてきても崩れにくくなっている。足を動かしながら何度か繰り返し、最後の一本も狙った場所へ届かせた。
父の代わりに外へ出る用も増えた。
ある日は、水を借りる約束のことで、甚助と近くの田へ出向いた。
手を切って戻った男の父、
俺は約束の水を先に返し、甚助と修繕を手伝った。柴田側から見に来た
直ったあとで短いあいだ水を借り直し、畦から漏れなくなったところまで確かめた。父へ持ち帰る返事だけでなく、先方と相談して一つ用を終えた。
権六には、その帰りに大浜でのことを話した。
甚助が倒れかけたところも、俺が槍を出したところも。数を聞かれるより、二人がどう並んでいたかを確かめられた。
「次に来るときは、甚助も連れてこい」
権六は言った。
「わし一人を相手にするだけでは済まぬ。こちらの者とも合わせてみたい」
父に日を確かめ、二人で柴田家へ通うようになった。
*
甚助の声を聞いて、俺は棒の先を上げた。
前にいる
右にいる権六が、甚助の棒を押さえに来る。
俺は自分の先を源八へ向けたまま、横へ声をかけた。
「右、来ます」
甚助が手元を引き、権六の棒が肩の前を通った。
そのあいだに、俺たちはもう一歩退く。
庭に置いた木まで戻れば終わりだ。
ここからでは、あと三歩ほどある。
源八がこちらの棒を押し下げた。
手を返せば外せる。けれど、そこで俺だけ前へ出れば甚助との間が開く。
俺は棒の先を横から抜き、踏み込む代わりに後ろの足を引いた。
甚助も同じだけ退いた。源八がまた寄ってきたので、俺たちは先を相手へ向けたまま、もう二歩退いた。
「止め」
権六が声をかけた。
俺は棒を下げ、後ろを見る。庭の木は、もう足元にあった。
「今のなら、下がれる」
権六が言った。
源八は俺の棒を見て、少し笑った。
「前へ来るかと思いました」
「それはさっきやったので」
一度目は源八を追い、甚助を置いていってしまった。
二度目は追うのをやめ、退く歩幅を揃えた。途中で先を押さえられても、足を止めずに棒を戻せた。
源八は、わざと隙を見せたことまで話してくれた。
この人は、水口へ
庭で棒を持っていると、あのときより大きく見える。
「同じ手に掛からぬのは、よいことです」
源八はそう言って、俺が外した辺りへ自分の棒を立てた。
その先へ、甚助の棒が伸びる。
「こちらが寄ってこられましたので、追えませんでした」
甚助が頭を下げた。
俺はその横で、庭の土に残った足跡を見た。
自分の足が先へ出ていないことより、二人が並んだまま戻れたことの方を確かめたかった。
木剣を合わせる日もあれば、こうして長い棒を持つ日もあった。先には刃がない。互いを強く突きつけることはせず、止めの声で手を下げる。
それでも、二人で動くと忙しい。
自分の手足は教わった通りに動く。相手の先も外せるようになった。そのうえで甚助を見失わず、権六の動きまで追わねばならない。
初めは甚助に声をかけられてから動いていた。
今は相手が甚助へ踏み込もうとすれば、言われる前に棒を突き出して近づくのを止められることも増えた。
「もう一度、お願いします」
俺が言うと、権六は庭の木を足で端へ寄せた。
「次は退くところまで決めぬ。源八が前に出るから、二人で止めてみよ」
俺は甚助を見る。
甚助がうなずき、隣へ立った。
*
年が改まり、俺は十七歳になる。
柴田家へ通うあいだも、家の仕事は続いていた。
先方へ返答できる範囲を父に確かめてから出向き、用が済むと、甚助を誘って庭で稽古をした。
若様のところへも顔を出し、彦七たちと稽古をしたり、一緒に外を歩いたりしていた。
佐吉の息子は手の傷が治り、仕事へ戻った。
家に来たときに槍の柄を持たせると、握って開いて、まだ少しつっぱると答えた。
俺と甚助は柴田家で教わった動きを家の庭でも合わせたが、彼を急いで加えることはしなかった。
そのうち、三河へ出る話が家にも届いた。
今度は、
俺もその場に座っていた。
甚助と、手を傷めた男は出せるか。留守の用は誰が見るか。
分かるところは俺から伝え、父が確かめ直す。
「お前も、また出る」
父は話の最後に言った。
「はい」
出た声は、前のときより早かった。
平気になったわけではない。行けば何が起こるか、少しは想像できるようになった。
それでも、稽古へ通うあいだに、そのつもりで槍を持っていた。
「甚助と一緒に動けるよう、話をしておく」
父は続けた。
俺は隣にいる甚助を見て、もう一度うなずいた。
あとから、
小豆坂。
聞いたことはある気がしたが、誰がどう勝ったかは思い出せない。
信長が勝った戦を、全部まとめて桶狭間にしていたら話にならない。今の織田方を動かしているのは、まだ父親の信秀だ。
父に分かっている話を聞いても、これから進む道のことばかりだった。
俺の方には、先で役に立つほどの記憶がない。
家から出す槍の数を書き留め、読み返してから紙を父へ渡した。
*
若様に呼ばれたのは、それから数日後だった。
父の使いで行ったところへ、こちらの用が済むまで待てという人が来た。
俺は持ってきた物を渡して返事を受け取り、それから甚助とともに若様のいる庭へ出た。
若様は
俺を見ると、先に甚助へ目を向ける。
「もう歩けるか」
「はい。おかげさまで」
「では、二人とも来られるな」
俺は若様を見た。
「どちらへ、ですか」
「三河へ出る。お前たちも話は聞いておろう」
「父から聞いています」
若様がうなずいた。
若様は甚助の足取りを見てから、俺へ顔を向けた。
「今度はわしのところへ来い」
返事をする前に、彦七が俺へ顔を向けた。
「俺も出る」
顔はいつもと同じだった。
それが少し、気になった。
「彦七は初めてか」
「そうだ。お前だけ先に行った」
遊びに出かけた話のように言ったが、腰には刀があった。
俺の目がそこへ落ちたのに気づくと、彦七は柄へ手を置きかけ、すぐに下ろした。
「権六殿のところでは、甚助と退く稽古をしておるそうだな」
若様が言った。
俺は顔を上げる。
「誰から聞かれたのですか」
「権六から。源八もお前たちと合わせたと言うておった」
「ここでも合わせてみよ。出るまでに、顔と声は覚えておいた方がよい」
若様が庭の端へ目を向けた。
そこには以前から稽古で顔を見る男と、初めて会う男がいた。
「お前には甚助と二人で、わしの供の者と動いてもらいたい。歩く間も、呼ばれて動くときもだ」
俺は甚助を見た。
甚助は黙って聞いている。
今までは稽古が済めば帰った。初陣の日も父と家の者に続き、若様を見かけたときに頭を下げた。
次は、その近くで一緒に動く話だ。
「父上には、もう話を通した」
若様が続けた。
「家へ戻って確かめて参ります」
「そうせよ。勝手に返事をしたと言われては、わしも困る」
若様は笑った。
彦七が、棒を取りに走った。
「今日も、少し合わせるのだろう」
戻ってきた彦七は、俺へ一本差し出した。
俺は甚助の分も持ってくるよう頼み、合わせる前に腰の刀を外した。
刀を脇へ置いてから、彦七が差し出した棒を受け取った。
今度は、こちらの庭で退く動きを合わせた。
彦七が俺の横に立ち、甚助は向かいに立った。以前からここで合わせている男が、その隣に入った。
相手に寄られたとき、彦七の足が止まった。
俺は甚助の棒を受け、彦七が退けるだけの場所を空けた。
「後ろへ。俺も下がる」
声をかけると、彦七が足を引いた。
俺は相手の先を押さえたまま、隣へ戻る。
甚助の隣の男が前へ出てきたので、彦七へ向いていた先を横へ外した。そのあいだに彦七の棒が相手の胸の前まで届き、止まった。
甚助が手を下げたところで、俺たちも棒を下ろした。
「今のは届いた」
彦七が俺へ顔を向けた。
「届いたな」
「次も、先に言えよ」
「彦七も声をかけろ。俺が見ていなかったら分からない」
彦七は少し考えてからうなずいた。
若様が横から近づいてきた。
「次はわしも入る。藤十郎、お前と同じ側だ」
俺が棒を構え直すと、若様は彦七へ場所を譲らせた。
初めてではない動きも、隣にいる相手が替わると、どこで声をかけるかが変わる。
俺は若様の足を見てから、向かいの二人へ先を向けた。
*
家へ戻ると、父が二つの話を聞かせた。
一つは、若様の供に付く話。
もう一つは、柴田方に加わり、権六とともに槍を持つ組で動く話だった。
「権六殿からも、お前と甚助を借りたいと申されておる」
父が言った。
前の出陣では榎並家の者として父と並んだ。次は同じ織田方の中で、家から出す者の持ち場を分けることになる。
父は別の家の者とともに動き、俺と甚助は二人一緒に、どちらかへ加わる。
「若様の方へ行けば、今度は家を離れてお仕えするのですか」
「いや。この出陣で供に付く話だ。帰れば家の用に戻る」
父は紙を置き、俺を見た。
「どちらへ行くか。二つとも返事をしておいて、その場で行き来するわけにはいかぬぞ」
俺はうなずいた。
自分がいないところを、俺が来るつもりで空けて待っている人ができてしまう。
「お前が動きやすい方を申せ。わしが返事をする」
急いで答えようとは思わなかった。
若様と一緒に行きたい。彦七もいるし、あの庭で合わせた者も来る。
権六と並んで出るところも、見てみたい。
父は返事を明日の朝まで待つと言い、ほかの者へ用を伝えに出た。
俺は甚助と庭に残った。
軒の下に置いてあった棒を取ると、甚助がもう一本を持ってきた。
「俺だけで決めて、よいのですか」
俺が尋ねると、甚助は少し笑った。
「殿がそう仰せです。私もどちらの方とも合わせましたので、藤十郎殿と参ります」
気が進まぬまま連れていくことにはならないらしい。
俺は棒を握り、まだ返事を考えていると話した。
*
夕方、権六が家へ来た。
父から帰りに寄ってほしいと伝えていたらしい。
俺と甚助が庭にいるのを見て、権六は木剣を持ってきたときのように声をかけた。
「もう決めたか」
「まだです。若様からもお声がかかりました」
「聞いておる」
権六は俺の前に立った。
若様に会ったときと同じように、また供の話をされるのかと思ったが、そうではなかった。
「こちらへ来れば、源八たちと並んでもらう。わしが前へ出るときも、止まるときもだ。槍の間を抜けて、お前一人で走り出すなよ」
「一人で前へ出てよいとは思っていません」
「ならば、よい」
権六は俺の持つ棒を見た。
「二人で退くところは、使えるようになった。次はもっと人が増える。来るなら、出る前にもう一度合わせておくぞ」
俺はその顔を見た。
教わりたいから来いというだけではない。庭でできるようになった動きを、あちらの持ち場で使ってほしいと言われている。
「若様の方を選んだら、こちらへは」
「今回はそちらで動け。終わって戻れば、また来ればよい」
権六はすぐに答えた。
そのあとで、少し笑った。
「わしのところへ来たからとて、槍の届かぬ後ろで見ておれるわけでもないぞ」
「それも、分かっています」
甚助も横でうなずいた。
権六は父へ話すことがあると言って、家の中へ入った。
庭に二人残ると、甚助が棒を置いた。
明日確かめる具足の話をしながら、俺の分も軒の下へ立てかける。
家の中から、父が俺を呼んだ。
「返事は、明日の朝でよかったのですね」
「そう言うたろう。今は飯だ」
甚助が俺の横で笑った。
俺は返事をして、先に家へ入った。
*
飯を食い、寝る支度を済ませて自分の部屋へ戻っても、二人に言われたことが頭に残っていた。
横になってから、今日の話をもう一度考える。
若様の供になれば、彦七たちと近いところで動く。庭で棒を合わせるだけだった頃とは違い、戦の最中に呼ばれれば応えなくてはならない。
権六のところなら、源八たちと槍を並べる。こちらは揃って進み、止まり、退く。甚助とは、どちらへ行っても一緒だ。
信長は尾張をまとめ、桶狭間で今川義元に勝つ。その後は家康と組み、京都へ上り、天下統一へ進んでいく。
ただ、ずっと勝ち続けるわけでもなかったはずだ。
家康と組んで、武田に大敗したんだったか?
あれはどこの戦だった。長篠では勝つんだから、その前か。
最後が本能寺なのは覚えている。
けれど、そこまでの戦を一つずつ思い出せるわけではない。若様の近くなら勝つ戦ばかりだと考えるのは危ない。
権六だって、後には信長の重臣になる。最後には秀吉と戦う人だ。
だが、最初から信長の側にいたわけではなかった。
信長の弟に味方して、兄弟の争いでは敵になった。剣を教わり始めた頃にも思い出しかけた話だ。
弟は一度負けて許されたが、また兄を裏切り、最後には信長に殺された。そこまでは覚えている。
何年のことだったか、権六がどこで信長の側へ移ったのかは出てこない。
今回は今川方との戦で、二人とも同じ織田方にいる。若様のところへ行ったからといって、権六と敵になる話ではない。
権六も、戻ったらまた稽古に来ればよいと言ってくれた。
それでも、誰と一緒に戦うかは残る。
若様のそばで役に立てば、次も俺を呼ぶかもしれない。権六たちと槍を並べれば、今より頼りにされることもあるだろう。
呼ばれて行くうちに、離れにくくなることだってある。
今の俺には、二人とも何度も顔を合わせてきた相手だ。権六は剣を教えてくれたし、若様もまた来いと声をかけてくれる。
将来敵になるからと、今からどちらかを避けたいわけじゃない。
寝返りを打っても、答えは出なかった。
返事をするのは明日の朝だ。今回の選択は、きっとその先にも響く。
俺は、どちらを選ぶべきなんだ?
お読みいただき、ありがとうございます。
今回のアンケートは、次の出陣で信長と勝家のどちらと行動するかを選ぶ二択です。
・信長の供として出陣する
若様の供の者たちに加わり、信長や彦七と近いところで動きます。呼びかけやその場の動きに合わせて、役目を果たすことになります。
・勝家の槍の組で出陣する
勝家や源八らと並び、まとまって戦う持ち場へ加わります。互いの槍の届く範囲や、進む・止まる・退く合図を合わせて動くことになります。
どちらを選んでも、藤十郎は榎並家の跡取りとして甚助と一緒に出陣します。甚助は榎並家に仕える年上の男で、父の外出にも付き従い、藤十郎と槍の稽古や初陣をともにしてきました。
今回は同じ出陣での持ち場を選ぶため、両方へ参加することはできません。誰と戦い、どんな経験や約束を重ねるかは、その後の関係や立場にも影響します。将来ほかの陣営へ移る場合も、それまでの信頼や義理が消えるわけではありません。
第18話の実際の公開から約24時間後の最多票を、第19話以降へ反映します。同票の場合は、最多票の候補から作者が選びます。
本話は1548年ごろを想定し、小豆坂の戦いを含む三河での織田・今川の争いを背景にしています。榎並家の参加、信長と勝家の出陣や各組の配置、人物の会話・稽古は本作の創作です。源八は架空人物です。
次の三河への出陣で、藤十郎は誰と行動するでしょうか。信長側は若様の供として、勝家側は槍を持つ組で動きます。榎並家の跡取りという立場は共通です。第18話の公開から約24時間後の最多票を第19話以降へ反映します。同票は作者が選びます。今回築く関係や経験は、将来の立場や選択にも影響します。
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信長の供として出陣する
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勝家の槍の組で出陣する