【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
投稿から約24時間の結果は、次のとおりです。
・織田家(尾張):5票
・松平家・のちの徳川家(三河):0票
・武田家(甲斐):4票
・上杉謙信につながる勢力(越後):0票
・毛利家(安芸):1票
全10票のうち、最多票の「織田家(尾張)」を採用しました。
今回から、その土地での暮らしが少しずつ見えてきます。
※実在の人物・土地を題材にしていますが、榎並家や人物同士の関係などには創作を含みます。
「織田の
織田。
父の膝の上で、俺は息を止めた。
その名字なら知っている。歴史の授業で何度も聞いたし、顔も、例の肖像画が浮かぶ。
織田信長。
桶狭間で勝って、天下統一の途中で、本能寺。
創作では女になったり、動物や神になったりする、あの織田信長だ。
……待て。
今、信長って言ったか?
父は俺の握った指を軽く揺らしている。
「柴田殿にも、お前が歩いたとお伝えせねばな。いつまでも抱かれてばかりでは、笑われるぞ」
柴田。
それも知っている。
勝家だ。たぶん。
強くて、怖そうで、最後は秀吉と戦う人。
ただ、今の父の口ぶりで本人だと決めつけていいのかは分からない。親戚かもしれないし、同じ名字の別人かもしれない。
それより、さっきの名前。
のぶひで。
信秀って、信長の父親じゃなかったか。
「あ、あう」
口を開いても、確認の一つさえできなかった。
父は俺が喜んでいると思ったらしく、目尻を下げる。
「うむ。よい返事だ」
違う。
できればもう一回、ゆっくり説明してほしい。
*
尾張。
それが今いる国の名前だと分かったのは、父と世話の女の話を聞いてからだった。
織田で尾張なら、俺の知っているあの家だろう。
愛知県の、名古屋があるほう。
三河も愛知県だったはずだから、同じ県の中に信長と家康がいることになる。
……今は県じゃないけど。
頭の中に日本地図を広げようとした。
だが、出てきたのは、真ん中辺りに愛知と書いてある程度のものだった。名古屋の位置に丸を打つことはできても、そこから先が続かない。
北が美濃。
斎藤道三。油を売っていたとか、そんな話を聞いた覚えがある。
東が三河で、その先に今川。
武田はもっと山のほうだったか。上杉は……新潟だよな。今は越後か。
名前だけなら出てくる。
しかし、どの家がどの道を通って攻めてくるのかと聞かれたら、何も答えられない。
ましてや、信長の父親が生きている頃だ。
尾張はもう全部、織田のものなのか。それとも、まだ取り合っている最中なのか。
ゲームなら色を塗った地図が出るのに。
俺の目の前にあるのは、父の着物と、自分の短い脚だった。
「眠くなったか」
父の声で、まぶたが落ちかけていたことに気づいた。
まだだ。
土地と年代くらいは押さえないと、今後の方針が――。
背中を撫でられた。
大きな手のひらが、ゆっくりと上下する。
……今後の。
父の胸に、頬がくっついた。
着物には、外の土と、人の汗の匂いがした。
方針は、起きてからでいい気がした。
*
翌日、俺は庭の石を食べようとして叱られた。
正確には、拾った石を眺めていたら、いつの間にか口元へ運んでいた。
「それは食べられませんよ、竹丸様」
世話の女に手をつかまれ、小石を取り上げられる。
知っている。
石が食べられないことくらい、知っているのだ。
なのに、手が先に動いた。
考えるより前に何かをつかみ、触り、口へ持っていこうとする。この身体には、この身体なりの確かめ方があるらしい。
中身が大人なら子供のふりなど簡単だと思っていた。
実際には、ふりをする前に子供になっている。
高い所に抱き上げられると怖い。
腹が減ると、ほかのことを考える余裕がなくなる。
そして、眠気だけはどうにもならなかった。
それでも、起きている間に少しずつ家の様子を覚えた。
庭には土のついた草履が並び、軒の下には縄で束ねた薪が積んである。朝になると、戸の向こうから煙の匂いが流れてきた。
父を訪ねて男が来る日もあれば、父が朝からいない日もある。
ある日には、田へ水を引く溝が崩れたという話をしていた。
「下の田へ水が届かぬと、また揉めます」
「見てこよう。人手が要るなら声をかけよ」
父はそう言って、男と出ていった。
武家の当主というから、もっと刀の話ばかりしているのかと思った。
実際には、水や田や、人手の話もするらしい。
俺は女の膝につかまりながら、その背中を見送った。
あの父が刀を抜いて戦うところは、まだ想像できなかった。
近くの地名も、幾つか耳に入った。
大森。
それから、
父たちの会話からすると、うちは大森より東、新居よりは南西の辺りにあるらしい。
下社へは父が用事で出向くことがあるようだった。
さっぱり分からない。
尾張だと聞いたときには、少し安心したのだ。
信長なら知っている。知らない土地の、知らない大名よりは何とかなる。
何ともならなかった。
観光地の名前を幾つか知っていても、知らない住宅街で道に迷うのと同じだった。
しかも、今何年かも分からない。
年を聞こうにも、「今年は西暦何年ですか」と言える口ではないし、言えたところで通じる気がしない。
ひとまず、分かった言葉を頭の中で繰り返した。
尾張。織田信秀。柴田。
大森。新居。下社。
忘れないようにしたいのに、女が椀を持ってくると、粥のほうへ目が向いてしまう。
「はい。慌てずに」
口元に運ばれた粥を飲み込む。
うまい。腹が空いていた。
次の一口を待ちながら、さっきまで何を考えていたのか思い返した。
……何だっけ。
*
特典。
そうだ、特典だ。
何度目かの昼寝から目覚めたとき、ようやく思い出した。
あの神様は、身体に意識が馴染んでから説明すると言っていたはずだ。
最初に目覚めてから、もう何日か経っている。
正確な日数は怪しい。昼にも寝るので、寝て起きるたびに一日として数えるわけにはいかなかった。
俺は敷物の上に座り、両手を開いてみた。
何も出ない。
壁を見つめる。
透けない。
蓋付きの木箱に向けて手を伸ばす。
動かない。
なら、定番のあれだ。
ステータス、と言ってみる。
「あ、た、う」
言えていない。
画面を出す前に、まず言葉を出すところからだった。
念のため、頭の中でも唱えてみた。
ステータス。
目の前には、相変わらず木箱があるだけだった。
「取ってほしいのですか」
女が箱の上の布を寄せてくれた。
ありがとうございます。
違うけど。
畳まれた布を膝に置いてもらい、俺はその端を握った。
まさか、忘れていないだろうな。
あっちは「少し便利」とか言っていたが、こっちは人生が懸かっている。
せめて説明くらい、ちゃんとしてくれ。
『はい。お待たせいたしました』
布を落とした。
声は耳元ではなく、頭の中で響いた。
白い部屋にいた、あの女の声だった。
『お身体への意識の定着を確認いたしましたので、補償内容をご案内いたします。なお、こちらは録音です。ご質問にはお答えできません』
録音。
その言い方だけで、急に腹が立ってきた。
戦国時代に置き去りにした相手へ、自動音声で済ませるつもりか。
女を見ると、俺が落とした布を拾っている。
この声は聞こえていないらしい。
『まず、ご転生に際して、通常より丈夫なお身体をご用意しております』
丈夫な身体。
俺は自分の腕を見た。
短くて、丸い。強そうではない。
『病にかかりにくく、疲労や軽い傷からも回復しやすい身体です。ただし、病気にも怪我にも無縁というわけではありません。食事と休息は、きちんと取ってくださいね』
それは、ありがたい。
医者を呼べば何とかなる時代ではないのだろうし、薬だって前世と同じものはない。
寝込まずに済むだけでも、相当助かる。
けれど。
これが、転生特典か。
剣を振ったら山が割れるとか、触るだけで怪我が治るとか、そういうのを少しだけ期待していた。
いや、山までは割れなくていい。毎回その被害を出していたら住む場所がなくなる。
でも、丈夫。
ずいぶん堅実だ。
『刃物で刺されれば傷つきますし、水の中で息ができるようにもなりません。無茶はなさらないでください』
分かりました。
健康に気をつけて暮らします。
……戦国に送り込んでおいて?
『こちらは、特典とは別のお詫びです』
ん?
『関係者が大変ご迷惑をおかけしましたので。それに、せっかく新しい人生を始めたのに、すぐ終わってしまっては』
神様の声が、少しだけ柔らかくなった。
『私も、つまらないでしょう?』
俺への気遣いかと思った分を返せ。
隣では、女が替えの布を畳んでいる。
乾いた布の擦れる音と、頭の中の声が、妙にちぐはぐだった。
この人には聞こえていない。
俺の人生について、今、本人抜きみたいな説明が行われていることも。
せめて、もう少し景気のいいお詫びはないのか。
最強の武器とか。俺を守ってくれる女神様とか。
『では、丈夫なお身体も不要ということで』
いる。
いります。
大変ありがたく頂戴します。
『よろしい』
待て。
今、返事しただろ。
『なお、こちらは録音です』
無理がある。
問い詰めたかったが、声に出せば女を驚かせるだけだ。
代わりに心の中で文句を並べようとして、先にあくびが出た。
女が手を止め、俺の顔を覗き込む。
「もうお眠いのですか」
違う。
いや、眠いけど。
今から大事な話なんだ。
ようやく説明が始まったところなんだ。
抱き寄せられ、背中をさすられる。
布を握る指から、少しずつ力が抜けていった。
丈夫な身体なのに、どうしてこんなに眠い。
『育ち盛りですから』
やっぱり聞こえてるじゃねえか。
今度こそ、神様は答えなかった。
俺は女の肩に顎を乗せたまま、必死に目を開けた。
丈夫な身体は別枠。それなら、案内の冊子に書かれていた力が、まだ一つ残っている。
それを聞くまでは眠れない。
頭の中で、紙をめくる音がした。
『さて。それでは本題です』
声が、やけに楽しそうだった。
『あなたに差し上げる、もう一つの特典は――』
お読みいただき、ありがとうございます。
今回説明された「丈夫な身体」は、全候補に共通するお詫びの恩恵です。
病気にかかりにくく、疲労や軽い傷から回復しやすい身体ですが、不死身ではありません。
アンケートでは、それとは別に与えられる特典を一つ選んでいただきます。
① 大器の身体
食事・休息・鍛錬を重ねることで、常人を明らかに上回る筋力へ成長できます。
ただし、栄養や休息が不足すると伸びは鈍くなります。赤子のうちから怪力になるわけではなく、武芸の技術も別に学ぶ必要があります。
② 記憶の書庫
転生後に自分が見聞きしたことを、意識して暗記していなくても、必要に応じて探し出して正確に思い返せます。一度通った道、聞いた会話、目にした帳面などが対象です。
ただし、見落とした情報や知らない歴史、前世で忘れていた知識は取り出せません。内容の理解や、情報の真偽の判断は本人次第です。
③ 技を覚える身体
手本を見て自分で試した動きのコツをつかみやすく、練習で身につけた動きを正確に再現できます。筆遣いや工作から、弓や槍の扱いまで役立ちます。
ただし、見ただけで達人の技を使えるわけではなく、練習は必要です。筋力・体格・道具の制約は受け、作り方の知識や戦場での判断力も別に身につける必要があります。
④ 小さな収納
背負い袋一つ分ほどの物を、目に見えない場所へしまえます。直接触れた、自力で持ち上げられる物が対象です。
ただし、生き物は入れられず、中でも時間が経つので食べ物は傷みます。
⑤ 危機の予感
自分に危険が迫ると、その直前に違和感を覚えます。不意打ちや落下物のほか、口にしようとする有害な飲食物にも反応します。
ただし、危険の正体や安全な逃げ道までは分かりません。察知しても回避が間に合うとは限らず、遠い未来や他人だけに迫る危険は対象外です。
投稿から約24時間が経過した時点の最多票を、第3話へ反映します。同票の場合は、最多票の候補から作者が選びます。
投票欄が開いていても、集計後の票は今回の結果には反映しませんのでご了承ください。
主人公はアンケートの存在を知りません。結果は、神様から与えられる力として物語に反映されます。
気になる特典に、ぜひ一票をお願いします!
竹丸に与えられる、もう一つの特典はどれでしょうか。各能力の効果と限界は後書きをご覧ください。投稿から約24時間後の最多票を第3話へ反映します。同票の場合は最多票の候補から作者が選びます。
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大器の身体
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記憶の書庫
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技を覚える身体
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小さな収納
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危機の予感