【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
・信長の供として出陣する:3票
・勝家の槍の組で出陣する:1票
最多票の「信長の供として出陣する」を反映します。
今回は出陣前と帰還後のやり取りを中心に、合戦の経過は短くまとめています。
「若様の供として参ります」
朝、父にそう答えた。
俺の隣には
「よい。権六殿にはわしからお伝えする」
「戻ってから、俺もご挨拶に参ります」
「そうせよ」
父が返事のために人を出すと、俺たちも出立の支度に加わった。
家から出る者が同じ持ち場へ揃うわけではない。父と別れるところを確かめ、当日は甚助と二人で若様の供へ加わった。
*
「来たな」
「来た。先を人へ向けるなよ」
「分かっておる」
俺の背後を人が通ったので、彦七が槍を立て直した。
自分の手元を見てから、こちらへ顔を寄せる。
「その槍で行ったのか。前のときも」
「ああ」
「人を突いたのも、それか」
俺は柄へ目を落とした。
浅い傷は、手入れをしたあとも残っている。
「そうだ」
彦七はそこを見たが、触ろうとはしなかった。
「どのくらい、近かった」
「顔が見えるくらいには」
彦七が口を閉じた。
誰を討ったのかも、名を上げたのかも聞かなかった。
庭で向かい合ったときより、俺たちの間は狭い。それでもあのときの男の顔は、この距離から見たわけではない。
「離れるなよ。動くときは声をかける」
「俺も言う」
彦七が答えたところへ、若様が歩いてきた。
甚助とほかの供の者にも声をかけ、それから俺の前で足を止める。
「権六のところへ行くかと思うたぞ」
「迷いました」
「では、なぜこちらへ来た」
若様は笑っていた。
俺も軽く答えかけたが、やめた。
「これまでは、稽古や外へ出るときにご一緒しただけでした。戦では若様がどう動かれるのか、そばで見たかったのです」
「見物に来たのか」
「働きます。そのうえで見ます」
彦七が俺と若様の顔を見比べた。
若様はしばらく俺を見てから、口の端を上げた。
「働かぬようなら、見ておる暇もなくなるぞ」
「それは父に叱られます」
「わしに叱られる方を先に言え」
今度は俺も笑った。
若様が甚助へ顔を向ける。
「二人で来てもらうと、榎並の方は困らぬか」
「殿は別の方々とお出になります。留守の用も、お決めになりました」
「そうか」
若様は聞き終えると、先で待っている者のところへ戻った。
父も俺の返事を聞く前から、その辺りを確かめていた。若様が俺を借りる話は、俺が二つ返事をするだけでは済まない。
門を出ると、槍を持つ者や荷を担ぐ者が道に続いていた。
甚助は俺の後ろへ回らず、隣を歩いた。彦七は少し先にいる。
以前なら俺を振り返っていた甚助が、今は前を見て歩いている。列が詰まると俺も止まり、また進み始めたところで、隣の歩調に合わせた。
*
人の出入りも、飛んでくる声も、家を出たときより多くなった。
若様がその場の軍勢をすべて動かすわけではなかった。
信秀様のもとから伝えに来る者がいて、若様も行く先や待つ場所を変えた。俺と甚助は供の者とともに動き、彦七の声もその中で聞いた。
進んだ先から押し戻され、退く知らせが俺たちのところにも来た。
俺は甚助と離れず、呼ばれた方へ移り、彦七とも声を交わして退いた。前から下がってくる者が通れるように道を空け、供の列に戻った。
勝ったとは聞かされなかった。
小豆坂の方を離れるとき、俺たちの背後へ同じ道を進んでくる味方が続いていた。
*
落ち着いて座れる場所を得たころには、日が傾いていた。
俺と甚助は槍を脇へ置き、ほかの供の者と一緒に腰を下ろした。
彦七は草履を脱ぎ、片方の足の裏を見ていた。
親指の付け根に赤く擦れたところがある。
「血が出ているか」
「いや。皮がむけかけておるだけだ」
本人が答えたので、俺は覗き込むのをやめた。
甚助が布を渡すと、彦七は礼を言って足へ当てた。
「お前、見えたか」
彦七が顔を上げずに言った。
「何が」
「向こうがどれだけおったか。俺には分からなかった」
「俺も全部は見えていない」
退く途中で見た相手の数と、向こうにいる軍勢の数は違う。
俺が見たのは、通らなければならない道と、近くにいる人ばかりだった。
「負ける前に分かるものかと思うておった」
彦七は布を足に当てたまま言った。
「分かったら、もっと早く退くんじゃないか」
「それもそうか」
俺たちの横に、若様が座った。
供の者と顔を合わせ、まだ戻っていない者について聞いてきたところだった。
彦七が足を隠そうとして膝を曲げる。
「そのままでよい。立てなくなってから言われても困る」
若様は彦七へ言ってから、俺を見た。
「どうだ。そばで見ておったのだろう」
出る前の話を、覚えていたらしい。
俺は若様へ向き直った。
「思っていたより、待つことが多かったです」
「そうであろう。わしも待っておった」
若様は膝の上へ手を置いた。
「進めと言われて進み、退けと言われて退く。戻ってから、あちらはどうであったかと聞かれる」
声は低かった。
彦七も若様へ顔を向けた。
「近くにおった者のことなら言える。見ておらぬところまでは言えぬ」
俺はうなずいた。
若様は道の方へ目を向けた。まだ人が行き来している。
「戻ったら、わしが何をしておったかも聞かれるぞ」
「父には話します」
「権六にもか」
「お会いすれば」
若様がこちらへ顔を戻した。
「何と言う」
問い方が、先ほどまでとは少し違った。
褒めておけばよいのかと考えたが、それなら庭にいたころと何も変わらない。
「退く知らせのあと、彦七を二度呼ばれました。顔を確かめるまで、人の間を見ておられた。それと、待っているときは、供の者が呼ぶまで返事をされなかったことも」
彦七が、あ、と小さく声を出した。
若様は俺を見た。
「聞こえておらなんだ」
「そうでしたか」
「聞こえておらなんだと言うておる」
俺は若様の顔を見ていた。
その間に、甚助が俺たちの前へ飯を置いた。若様のところにも一つ置き、ほかの者へ渡しに行く。
「では、次は近くへ寄って呼びます」
俺が言うと、若様はすぐに答えなかった。
飯を取ってから、俺へ目を向ける。
「勝手に前へ回るな。用があれば横から言え」
「はい」
若様が飯を口へ運んだ。
彦七も食べ始めたので、俺は自分の分を取った。
呼ばれても返事をしなかったとき、若様は進んでいく者を見ていた。俺からは横顔しか見えなかった。
何を考えていたのかは分からない。
ただ、今の返事はもらえた。
「若様」
彦七が声をかけた。
「何だ」
「呼ばれたとき、俺は後ろにおりました。藤十郎の向こうです」
「おったなら返事をせよ」
「声は出しました」
若様は彦七を見た。
俺も見た。彦七は飯を持ったまま、二人を見返している。
「俺も聞きました。後ろから」
俺が言うと、若様は眉を寄せた。
「では次は、二人とももっと大きく呼べ」
彦七がうなずき、俺も返事をした。
笑うほどの話ではなかったのに、飯を飲み込んでから、彦七の口元が少し緩んだ。
食べ終えた若様は、もう一度供の者がいる方へ行った。
俺はその背中を見送り、甚助の隣を空けて待った。
甚助が戻ってきたとき、彦七は足に当てていた布を外して、また草履を履こうとしていた。
*
尾張へ戻る道でも、若様はよく黙っていた。
途中で父たちと合流できたときは、俺と甚助から家の者がどうなったかを尋ねた。
父も俺たちを見てから、同じことを若様の供について確かめた。
家へ戻ると、俺は出立から帰り道までの話をした。
若様が聞いていた通り、待つ間に呼ばれても返事をしなかったことも話した。
父はその話だけで若様を褒めたり、けなしたりはしなかった。
「お前と甚助には、どのように申された」
「次に用があれば、横へ寄って声をかけるようにと」
「ならば、そうせよ。返事がなければ、伝わったつもりで済ませるな」
父が尋ねたのは、それまでに見た若様の姿と、俺たちが何をしていたかだった。
俺は話し終えると、甚助と一緒に家の者のところへ戻った。
柴田家へ挨拶に行ったのは、その数日後だ。
「若様のところはどうであった」
俺は同じ話をした。
若様が彦七を探したことも、返事をしなかったことも。
権六は途中で口を挟まずに聞いていた。
「お前たちが戻ったのは、よかった」
言ってから、俺の顔を見る。
「稽古はできるな」
「はい。今日は、ご挨拶に参りましたが」
「ならば次に来たときだ」
権六はそう答えた。
俺たちの話を聞いて信長の見方を変えたかどうかまでは、何も言わなかった。
*
家の用に戻っても、若様のところへ行く日はあった。
父の使いで行くことも、俺から人を通じて会う日を尋ねることもあった。
今度は、庭で棒を取る前に、ほかの供の者から声をかけられる。
彦七の足は治り、また先に走って棒を取りに行くようになった。
そうして何度か通ったころ、若様から今日は話があると言われた。
俺と彦七は縁へ座り、若様が来るのを待った。
若様は腰を下ろすなり言った。
「嫁を迎える話がある」
俺は顔を上げた。
彦七も若様を見た。
「おめでとうございます」
先にそう言ったのは俺だった。
若様が鼻で笑う。
「まだ、来てはおらぬぞ」
「でも、お話があるのでしょう」
「父上から聞かされた。美濃の
美濃から嫁。
信長の妻なら、濃姫だ。
頭に浮かんだ名前を、口へ出す前に止めた。
結婚することは知っていた。
何年のことかまでは覚えていなかったが、今その話が来るのか。
桶狭間よりも前、父親の葬儀よりも前。知っている出来事の順番に、一つ目印ができた。
若様はまだ、俺たちに相手の名を話していない。
斎藤の娘だと聞いただけで、名前まで言ってしまうのはおかしい。
「どんな方なのですか」
俺が尋ねると、若様は肩を動かした。
「わしに聞いても、まだ会うておらぬ」
彦七が、声を落として聞いた。
「姫様が来ても、俺たちはこちらへ来てよいのでしょうか」
「来るなとは言うておらぬ」
若様は彦七へ答え、俺を見る。
「藤十郎もだ。家の用があるのは知っておる。来られぬ日まで来いとは言わぬ」
「ありがとうございます」
「ただし、来ると返事をした日は来い」
「それは父にも言われます」
彦七が横で笑った。
若様も少し口元を緩めたが、すぐに庭へ顔を向けた。
「誰に聞けば、もう少し分かる」
「若様のお父上では」
「それは聞いた」
俺は彦七を見た。
彦七も俺を見たが、首を振った。
「俺たちも、今聞いたばかりです」
若様は膝に肘をつき、しばらく庭を見ていた。
それから俺へ向き直る。
「用が済んだら、もう少し居れ」
「今日は済んでいます」
「では居れ。嫁の話が済んでおらぬ」
「俺たちも、何も知りませんが」
「知っておったら、その方が妙だろう」
彦七が笑った。
俺は上げかけた腰を下ろし、彦七と一緒に若様へ向き直った。
お読みいただき、ありがとうございます。
藤十郎と甚助は、榎並家から出る者として信長の供へ加わりました。今回一緒に過ごした経験や、言葉を交わした関係は、今後の話にも引き継ぎます。
今回は新しいアンケートはありません。
本話は1548年の三河での織田・今川の争いと、1549年ごろの婚姻に向けた動きを背景にしています。信長と榎並家の具体的な参戦・配置・会話、彦七の初陣や縁談を聞く場面は本作の創作です。信長と斎藤氏の娘の婚姻には不明点があるため、具体的な婚礼日や儀式は確定していません。