【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~   作:病んでるくらいが一番

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第18話のアンケートは、以下の結果となりました。
・信長の供として出陣する:3票
・勝家の槍の組で出陣する:1票

最多票の「信長の供として出陣する」を反映します。
今回は出陣前と帰還後のやり取りを中心に、合戦の経過は短くまとめています。


第19話「若様と帰る」

「若様の供として参ります」

 

 朝、父にそう答えた。

 俺の隣には甚助(じんすけ)も座っている。

 

「よい。権六殿にはわしからお伝えする」

「戻ってから、俺もご挨拶に参ります」

「そうせよ」

 

 父が返事のために人を出すと、俺たちも出立の支度に加わった。

 家から出る者が同じ持ち場へ揃うわけではない。父と別れるところを確かめ、当日は甚助と二人で若様の供へ加わった。

 

     *

 

 彦七(ひこしち)は俺を見つけると、槍を持ったまま片手を上げた。

 

「来たな」

「来た。先を人へ向けるなよ」

「分かっておる」

 

 俺の背後を人が通ったので、彦七が槍を立て直した。

 自分の手元を見てから、こちらへ顔を寄せる。

 

「その槍で行ったのか。前のときも」

「ああ」

「人を突いたのも、それか」

 

 俺は柄へ目を落とした。

 浅い傷は、手入れをしたあとも残っている。

 

「そうだ」

 

 彦七はそこを見たが、触ろうとはしなかった。

 

「どのくらい、近かった」

「顔が見えるくらいには」

 

 彦七が口を閉じた。

 誰を討ったのかも、名を上げたのかも聞かなかった。

 庭で向かい合ったときより、俺たちの間は狭い。それでもあのときの男の顔は、この距離から見たわけではない。

 

「離れるなよ。動くときは声をかける」

「俺も言う」

 

 彦七が答えたところへ、若様が歩いてきた。

 甚助とほかの供の者にも声をかけ、それから俺の前で足を止める。

 

「権六のところへ行くかと思うたぞ」

「迷いました」

「では、なぜこちらへ来た」

 

 若様は笑っていた。

 俺も軽く答えかけたが、やめた。

 

「これまでは、稽古や外へ出るときにご一緒しただけでした。戦では若様がどう動かれるのか、そばで見たかったのです」

「見物に来たのか」

「働きます。そのうえで見ます」

 

 彦七が俺と若様の顔を見比べた。

 若様はしばらく俺を見てから、口の端を上げた。

 

「働かぬようなら、見ておる暇もなくなるぞ」

「それは父に叱られます」

「わしに叱られる方を先に言え」

 

 今度は俺も笑った。

 若様が甚助へ顔を向ける。

 

「二人で来てもらうと、榎並の方は困らぬか」

「殿は別の方々とお出になります。留守の用も、お決めになりました」

「そうか」

 

 若様は聞き終えると、先で待っている者のところへ戻った。

 父も俺の返事を聞く前から、その辺りを確かめていた。若様が俺を借りる話は、俺が二つ返事をするだけでは済まない。

 

 門を出ると、槍を持つ者や荷を担ぐ者が道に続いていた。

 甚助は俺の後ろへ回らず、隣を歩いた。彦七は少し先にいる。

 以前なら俺を振り返っていた甚助が、今は前を見て歩いている。列が詰まると俺も止まり、また進み始めたところで、隣の歩調に合わせた。

 

     *

 

 安城(あんじょう)の方へ進み、俺たちは三河で過ごした。

 人の出入りも、飛んでくる声も、家を出たときより多くなった。

 

 若様がその場の軍勢をすべて動かすわけではなかった。

 信秀様のもとから伝えに来る者がいて、若様も行く先や待つ場所を変えた。俺と甚助は供の者とともに動き、彦七の声もその中で聞いた。

 

 小豆坂(あずきざか)で織田方と今川方が戦った。

 進んだ先から押し戻され、退く知らせが俺たちのところにも来た。

 俺は甚助と離れず、呼ばれた方へ移り、彦七とも声を交わして退いた。前から下がってくる者が通れるように道を空け、供の列に戻った。

 

 勝ったとは聞かされなかった。

 小豆坂の方を離れるとき、俺たちの背後へ同じ道を進んでくる味方が続いていた。

 

     *

 

 落ち着いて座れる場所を得たころには、日が傾いていた。

 俺と甚助は槍を脇へ置き、ほかの供の者と一緒に腰を下ろした。

 

 彦七は草履を脱ぎ、片方の足の裏を見ていた。

 親指の付け根に赤く擦れたところがある。

 

「血が出ているか」

「いや。皮がむけかけておるだけだ」

 

 本人が答えたので、俺は覗き込むのをやめた。

 甚助が布を渡すと、彦七は礼を言って足へ当てた。

 

「お前、見えたか」

 

 彦七が顔を上げずに言った。

 

「何が」

「向こうがどれだけおったか。俺には分からなかった」

「俺も全部は見えていない」

 

 退く途中で見た相手の数と、向こうにいる軍勢の数は違う。

 俺が見たのは、通らなければならない道と、近くにいる人ばかりだった。

 

「負ける前に分かるものかと思うておった」

 

 彦七は布を足に当てたまま言った。

 

「分かったら、もっと早く退くんじゃないか」

「それもそうか」

 

 俺たちの横に、若様が座った。

 供の者と顔を合わせ、まだ戻っていない者について聞いてきたところだった。

 彦七が足を隠そうとして膝を曲げる。

 

「そのままでよい。立てなくなってから言われても困る」

 

 若様は彦七へ言ってから、俺を見た。

 

「どうだ。そばで見ておったのだろう」

 

 出る前の話を、覚えていたらしい。

 俺は若様へ向き直った。

 

「思っていたより、待つことが多かったです」

「そうであろう。わしも待っておった」

 

 若様は膝の上へ手を置いた。

 

「進めと言われて進み、退けと言われて退く。戻ってから、あちらはどうであったかと聞かれる」

 

 声は低かった。

 彦七も若様へ顔を向けた。

 

「近くにおった者のことなら言える。見ておらぬところまでは言えぬ」

 

 俺はうなずいた。

 若様は道の方へ目を向けた。まだ人が行き来している。

 

「戻ったら、わしが何をしておったかも聞かれるぞ」

「父には話します」

「権六にもか」

「お会いすれば」

 

 若様がこちらへ顔を戻した。

 

「何と言う」

 

 問い方が、先ほどまでとは少し違った。

 褒めておけばよいのかと考えたが、それなら庭にいたころと何も変わらない。

 

「退く知らせのあと、彦七を二度呼ばれました。顔を確かめるまで、人の間を見ておられた。それと、待っているときは、供の者が呼ぶまで返事をされなかったことも」

 

 彦七が、あ、と小さく声を出した。

 若様は俺を見た。

 

「聞こえておらなんだ」

「そうでしたか」

「聞こえておらなんだと言うておる」

 

 俺は若様の顔を見ていた。

 その間に、甚助が俺たちの前へ飯を置いた。若様のところにも一つ置き、ほかの者へ渡しに行く。

 

「では、次は近くへ寄って呼びます」

 

 俺が言うと、若様はすぐに答えなかった。

 飯を取ってから、俺へ目を向ける。

 

「勝手に前へ回るな。用があれば横から言え」

「はい」

 

 若様が飯を口へ運んだ。

 彦七も食べ始めたので、俺は自分の分を取った。

 

 呼ばれても返事をしなかったとき、若様は進んでいく者を見ていた。俺からは横顔しか見えなかった。

 何を考えていたのかは分からない。

 ただ、今の返事はもらえた。

 

「若様」

 

 彦七が声をかけた。

 

「何だ」

「呼ばれたとき、俺は後ろにおりました。藤十郎の向こうです」

「おったなら返事をせよ」

「声は出しました」

 

 若様は彦七を見た。

 俺も見た。彦七は飯を持ったまま、二人を見返している。

 

「俺も聞きました。後ろから」

 

 俺が言うと、若様は眉を寄せた。

 

「では次は、二人とももっと大きく呼べ」

 

 彦七がうなずき、俺も返事をした。

 笑うほどの話ではなかったのに、飯を飲み込んでから、彦七の口元が少し緩んだ。

 

 食べ終えた若様は、もう一度供の者がいる方へ行った。

 俺はその背中を見送り、甚助の隣を空けて待った。

 甚助が戻ってきたとき、彦七は足に当てていた布を外して、また草履を履こうとしていた。

 

     *

 

 尾張へ戻る道でも、若様はよく黙っていた。

 途中で父たちと合流できたときは、俺と甚助から家の者がどうなったかを尋ねた。

 父も俺たちを見てから、同じことを若様の供について確かめた。

 

 家へ戻ると、俺は出立から帰り道までの話をした。

 若様が聞いていた通り、待つ間に呼ばれても返事をしなかったことも話した。

 父はその話だけで若様を褒めたり、けなしたりはしなかった。

 

「お前と甚助には、どのように申された」

「次に用があれば、横へ寄って声をかけるようにと」

「ならば、そうせよ。返事がなければ、伝わったつもりで済ませるな」

 

 父が尋ねたのは、それまでに見た若様の姿と、俺たちが何をしていたかだった。

 俺は話し終えると、甚助と一緒に家の者のところへ戻った。

 

 柴田家へ挨拶に行ったのは、その数日後だ。

 権六(ごんろく)は俺と甚助が来たのを見て、庭から屋内へ呼んだ。

 

「若様のところはどうであった」

 

 俺は同じ話をした。

 若様が彦七を探したことも、返事をしなかったことも。

 

 権六は途中で口を挟まずに聞いていた。

 

「お前たちが戻ったのは、よかった」

 

 言ってから、俺の顔を見る。

 

「稽古はできるな」

「はい。今日は、ご挨拶に参りましたが」

「ならば次に来たときだ」

 

 権六はそう答えた。

 俺たちの話を聞いて信長の見方を変えたかどうかまでは、何も言わなかった。

 

     *

 

 家の用に戻っても、若様のところへ行く日はあった。

 父の使いで行くことも、俺から人を通じて会う日を尋ねることもあった。

 今度は、庭で棒を取る前に、ほかの供の者から声をかけられる。

 彦七の足は治り、また先に走って棒を取りに行くようになった。

 

 そうして何度か通ったころ、若様から今日は話があると言われた。

 俺と彦七は縁へ座り、若様が来るのを待った。

 

 若様は腰を下ろすなり言った。

 

「嫁を迎える話がある」

 

 俺は顔を上げた。

 彦七も若様を見た。

 

「おめでとうございます」

 

 先にそう言ったのは俺だった。

 若様が鼻で笑う。

 

「まだ、来てはおらぬぞ」

「でも、お話があるのでしょう」

「父上から聞かされた。美濃の斎藤(さいとう)の娘だ」

 

 美濃から嫁。

 信長の妻なら、濃姫だ。

 頭に浮かんだ名前を、口へ出す前に止めた。

 

 結婚することは知っていた。

 何年のことかまでは覚えていなかったが、今その話が来るのか。

 桶狭間よりも前、父親の葬儀よりも前。知っている出来事の順番に、一つ目印ができた。

 

 若様はまだ、俺たちに相手の名を話していない。

 斎藤の娘だと聞いただけで、名前まで言ってしまうのはおかしい。

 

「どんな方なのですか」

 

 俺が尋ねると、若様は肩を動かした。

 

「わしに聞いても、まだ会うておらぬ」

 

 彦七が、声を落として聞いた。

 

「姫様が来ても、俺たちはこちらへ来てよいのでしょうか」

「来るなとは言うておらぬ」

 

 若様は彦七へ答え、俺を見る。

 

「藤十郎もだ。家の用があるのは知っておる。来られぬ日まで来いとは言わぬ」

「ありがとうございます」

「ただし、来ると返事をした日は来い」

「それは父にも言われます」

 

 彦七が横で笑った。

 若様も少し口元を緩めたが、すぐに庭へ顔を向けた。

 

「誰に聞けば、もう少し分かる」

「若様のお父上では」

「それは聞いた」

 

 俺は彦七を見た。

 彦七も俺を見たが、首を振った。

 

「俺たちも、今聞いたばかりです」

 

 若様は膝に肘をつき、しばらく庭を見ていた。

 それから俺へ向き直る。

 

「用が済んだら、もう少し居れ」

「今日は済んでいます」

「では居れ。嫁の話が済んでおらぬ」

「俺たちも、何も知りませんが」

「知っておったら、その方が妙だろう」

 

 彦七が笑った。

 俺は上げかけた腰を下ろし、彦七と一緒に若様へ向き直った。




お読みいただき、ありがとうございます。

藤十郎と甚助は、榎並家から出る者として信長の供へ加わりました。今回一緒に過ごした経験や、言葉を交わした関係は、今後の話にも引き継ぎます。
今回は新しいアンケートはありません。

本話は1548年の三河での織田・今川の争いと、1549年ごろの婚姻に向けた動きを背景にしています。信長と榎並家の具体的な参戦・配置・会話、彦七の初陣や縁談を聞く場面は本作の創作です。信長と斎藤氏の娘の婚姻には不明点があるため、具体的な婚礼日や儀式は確定していません。
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