【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~   作:病んでるくらいが一番

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本日は第20話・第21話の二話連続投稿です。
この話は、連続投稿の1話目です。第21話には今後の展開に関わるアンケートがあります。

今回は信長の婚姻と、藤十郎に持ちかけられるもう一つの縁の話です。
第19話で選ばれた信長との同行、その一方で続いている柴田家との付き合いを引き継ぎます。
新しいアンケートはありません。


第20話「若様の縁と、俺の縁」

 美濃から姫様を迎えると聞いてから、若様のところへ通っても、そのまま帰る日が増えた。

 人が出入りしている最中に押しかけても仕方がない。使いの用を済ませ、会えれば挨拶をして帰った。

 

 彦七(ひこしち)に会うと、あちらも似たようなものだった。

 

「今日はお会いできたか」

「できた。すぐ帰れと言われた」

「何かしたのか」

「しておらん。これから人が来るからだ」

 

 彦七は不満そうに答えたが、門へ戻ろうとはしなかった。

 俺たちは道の分かれるところまで一緒に歩いた。

 

 家に戻れば、父の使いがある。甚助(じんすけ)との稽古も、権六(ごんろく)のところへ行くことも続けた。

 若様に会えない日の分まで仕事を増やされたわけではない。それでも、あの庭で過ごしていた時間がなくなると、日がずいぶん長く感じた。

 

     *

 

 姫様が尾張へ来られたと聞いたのは、父からだった。

 

「ご挨拶の品をお届けする。お前も来い」

「俺も、ですか」

「若様に呼ばれれば行き、こちらの祝いには行かぬというわけにもいかぬだろう」

 

 そんなつもりで聞いたのではなかったが、父の言う通りだった。

 今度は一人で遊びに行く日ではない。父とともに支度をして出た。

 

 屋内で待つあいだ、外を通る足音が何度も聞こえた。

 俺が知っている供の者ばかりではない。見慣れない男がこちらへ目を向けたので、父に続いて頭を下げた。

 

 やがて若様が来た。

 いつものように俺だけを呼ぶのではなく、まず父の挨拶を受ける。

 

「父上にも伝える。わざわざ参ってもらった」

 

 父が祝いを述べると、若様は姿勢を崩さずに答えた。

 俺も続いて頭を下げた。

 

「おめでとうございます」

「藤十郎も来たか」

「父とご挨拶に参りました」

「見れば分かる」

 

 若様の口元が緩んだ。俺も笑いそうになったが、父の隣で顔を上げたところだったので、返事だけにした。

 

 その日は姫様には会わなかった。

 俺が婚礼の席に加わったわけでもない。祝いを届けて若様へ挨拶し、ほかの人が待っているので席を空けた。

 

 門を出てから、父に聞いた。

 

「美濃の方々も来られているのですか」

「そうだ。お前も顔を見ただろう」

「はい」

「前には、互いに兵を出した相手だ。今はこうして人が来る」

 

 父は門の方を一度見た。

 俺も振り返ると、中へ入っていく人の背中が見えた。

 

 信長と濃姫(のうひめ)の結婚。

 前世では、その二人の名前を並べて覚えていた。親同士が何を話し、何人が尾張まで来て、誰が迎えるのかまでは考えたことがなかった。

 あの見慣れない男も、ただ祝いに来た人なのか、これからここで働く人なのか、俺には分からない。

 

「お前もいずれ嫁を迎える」

 

 不意に父が言った。

 

「今、俺の話ですか」

「若様だけの話ではなかろう」

「お話があるのですか」

「まだ決めてはおらぬ」

 

 まだ、と父は言った。

 俺は門から目を離し、父に並んで歩き始めた。

 

     *

 

 若様と落ち着いて話せたのは、それからしばらくしてからだった。

 彦七も来ていて、俺が庭へ入ると手を上げた。

 

「今日は帰れと言われておらん」

「言われたら帰るだろう」

「先に言うておこうと思うたのだ」

 

 若様が縁から俺たちを見ていた。

 

「二人で何を言うておる」

 

 彦七が口を閉じたので、俺が答えた。

 

「今日はお会いできてよかったと」

「それなら最初からそう言え」

 

 俺たちは若様の前へ行って座った。

 屋内から人が来て若様に用件を伝えたが、話が済むと戻っていった。俺たちへ帰るようにという言葉はなかった。

 

「姫様とはお話しされたのですか」

 

 俺が尋ねると、若様は眉を上げた。

 

「迎えたのに話さぬわけがなかろう」

「前に、どんな方か分からないとおっしゃっていたので」

「お前はそれを聞きに来たのか」

 

 少しは聞きたかった。

 だが、歴史で名前を知っているから興味があるとは言えない。

 

「若様が気にしておられたので、どうなったかと思いまして」

「気にしていたのは、お前たちもだろう」

 

 彦七が俺の方を見た。

 あのとき、姫様が来てもここへ来てよいかと聞いたのは彦七だった。

 

「俺は、また来てよいかを聞いただけです」

「来ておるではないか」

「はい」

 

 若様が笑い、彦七も笑った。

 

「どちらへ行っていたのかと聞かれた」

 

 若様が言った。

 

「姫様にですか」

「そうだ」

「何と答えられたのです」

「出ていた場所を言うた」

 

 俺は若様を見た。

 

「それだけですか」

「ほかに何を言う」

「何をしていたかもお話しになればよいのでは」

 

 若様は俺を見返し、膝に置いていた手を上げた。

 

「お前たちと同じことを言う」

 

 俺と彦七が顔を見合わせた。

 出かける前に、どこへ行くか教えてほしいと頼んだことはある。

 

「誰が聞いても、そこは気になるのではありませんか」

「ではお前たちも、嫁を迎えたら残らず話せ」

「俺には、まだ相手も決まっていません」

「決まってからだ」

 

 父に言われた話まで、ここへ持ってくるつもりはなかった。

 俺が黙ると、彦七が横で笑った。

 

 そのあと三人で庭へ下りた。

 棒を合わせるときも、若様は婚姻の話をしなかった。俺が横から打ち込むと受け止め、間を詰めようとする。俺は棒を引きつつ足をずらし、若様の棒を外へ押してから先を胸元へ向けた。

 

「そこまで」

 

 若様の声で止めた。

 俺の棒の先を見てから、若様がこちらへ目を戻す。

 

「もう一度だ」

 

 次は同じ向きへ押しても、若様は止まらなかった。

 俺も棒を取られずに引き戻し、二人で離れたところへ、屋内から声がかかった。

 

 若様が返事をして棒を下ろす。

 

「今日はここまでにせよ」

 

 彦七が棒を受け取り、俺も手元の一本を渡した。

 若様は俺たちに帰る道を尋ねてから、屋内へ戻った。

 俺と彦七も、次に会う日を勝手に決めずに門を出た。

 

     *

 

 季節が移り、柴田家へ行くと、権六が出先から戻るのを待つことが増えた。

 父親が出る用を代わりに引き受けることもあると、本人から聞いた。俺が父の代わりに使いへ出るのとは、連れていく人数も行く先も違っていた。

 

 その日も庭で甚助と話していると、権六が門から入ってきた。

 

「待たせたか」

「それほどではありません」

「二人で稽古をしておればよかったものを」

「お戻りなら、先にご挨拶をと思いまして」

 

 権六は甚助へもうなずき、俺を屋内へ呼んだ。

 甚助は庭に残り、俺は権六と向かい合って座った。

 

「信長様のところへは、今も通っておるか」

「はい」

「婚姻のあともか」

「お会いできない日はありますが、伺っております」

 

 権六はうなずいたが、そこで話を終えなかった。

 

「弟様にもご挨拶をしてはどうだ」

 

 俺はすぐに返事をしなかった。

 権六がこちらの顔を見ている。

 

「お前は榎並(えなみ)の跡取りだ。父親と柴田の縁もある。信長様に会うだけで、ほかは知らぬというわけにもいくまい」

「弟様のところへ、権六殿が?」

「私も伺うことがある。お前の父親から話を通せば、挨拶する機会は作れるだろう」

 

 そういう用で来いと言われたのは、初めてだった。

 権六は俺へ身体を寄せることも、声を荒らげることもしなかった。

 

「弟様は話をよく聞かれる。人を待たせれば、待たせた相手にも気を配られる。会ってみよ」

「はい。ただ……」

「ただ、何だ」

 

 挨拶だけなら、断る理由はない。

 それでも信長ではなく弟の方へ、という言葉が頭から離れなかった。

 

「信長様のところへ通うことを、お気にされているのでしょうか」

 

 権六は少し黙った。

 

「気にしておる」

 

 はっきり答えた。

 

「用がある者を待たせたまま外へ出る。戻っても、なぜ待っていたのかと問われる。お前は一緒に出かけて済むこともあろうが、そうではない者もおる」

 

 俺も会えずに帰ったことはある。だが、用のある人を待たせたまま出ていくところは見ていない。

 俺と会っていない日の若様を、権六は知っている。

 

「若様には、来ると言われた日に伺っています」

「お前との約束を守るのはよい。ほかの者にはどうだ」

 

 俺は返事に詰まった。

 権六が続ける。

 

「お前に親しくしてくださるから、家をお預けする方としてもよい。そう決めてはおらぬか」

「それだけではありません」

 

 思ったより強く答えていた。

 権六は口を閉じ、俺が続きを話すのを待った。

 

「三河で退いたとき、供の者が戻ったか確かめておられました。彦七が見えなければ、呼んで探しておられた。俺たちが座ってからも、また人のところへ行かれました」

「前にも聞いた」

「はい。それは、俺と親しいからだけではないと思います」

 

 権六は俺を見ていた。

 

「それなら、戦では人を確かめられたということだ」

「それも、大事なことではありませんか」

「大事だ。そこを悪いとは言うておらぬ」

 

 権六が膝の上で両手を重ねた。

 

「だから普段のことは問わぬ、とはならぬ」

 

 俺は口を閉じた。

 分かっていて変な格好をしているだけだ。わざとうつけに見せているのだ。そう言ってしまえば、今の若様の言動を何でも説明できる。

 だが、本人からそんな話を聞いたことはない。

 

「若様にも言います。約束した人が待っているなら、出る前に伝えてほしいと」

「申せるか」

「言ったことはあります」

「その場で返事をされただけではないか」

 

 若様が返事をしなかった日と、横から呼べと言った日の顔が浮かんだ。

 

「全部変わったとは言えません。ただ、何を言っても聞かれない方だとも思っていません」

 

 権六はすぐに答えず、庭へ目を向けた。

 甚助が別の男と話している声が聞こえる。

 

「信長様のもとへ行くなとは言うておらぬ」

 

 権六が俺へ向き直った。

 

「弟様も見ておけ。お前が誰を知り、誰と話せるかは、榎並の先にも関わる」

「父に相談いたします」

「そうせよ。お前一人で決めて挨拶へ出る話ではない」

 

 そこでようやく、俺は頭を下げた。

 

     *

 

 帰り道で、甚助に権六の話をした。

 甚助は俺が話し終えるまで聞いていた。

 

「権六殿は、若様とお前が付き合うのを嫌がっておられるのかな」

「藤十郎様に弟様をお勧めになったのですね」

「そうだ」

「ならば、殿にもそのようにお話しなさいませ。まずは」

 

 甚助は権六の言葉に、俺がまだ聞いていない意味を付けなかった。

 俺も家に帰ると、最初に言われた順に父へ話した。

 

 父はしばらく考えてから、俺に尋ねた。

 

「お前は挨拶へ行きたくないのか」

「行きたくないわけではありません」

「では何が気になる」

「若様との付き合いを変えるために行くのなら、先にその話をしたいのです」

 

 父は俺の顔を見た。

 

「挨拶をして、その場で仕える先が変わるわけではない。だが、何度も顔を出せば頼まれる用もできる。お前もそこは分かるな」

「はい」

「権六殿には礼を言う。弟様へ伺う話は、わしから確かめる」

 

 父がそう答えたので、俺は頭を下げた。

 これまで柴田家と行き来してきた父が、信長の話だけを聞いて権六の勧めを断るはずもなかった。

 

 それでも、すぐに俺を弟の家臣として差し出すと言われたわけではない。

 会ったことのない相手だ。品行方正だったという記憶だけで、どんな話をする人かも分からない。

 

 権六は、いずれ弟の側について信長と戦う。

 弟は一度許され、それでもまた背いて、最後は殺される。

 その前に何があったのか。権六がいつから弟に仕え、どんなことで信頼を置いたのか。そこは覚えていない。

 

 先ほど権六の口から聞いた弟の姿は、今この人が実際に会って知っているものだった。

 将来信長が勝つから、と言えば済む相手ではない。

 

「若様には、弟様へご挨拶に行くことをお伝えしてもよいでしょうか」

 

 俺が聞くと、父はうなずいた。

 

「日が決まればな。隠れて行く用ではない」

「はい」

「相手の前で、もう一方と比べるような言い方はするなよ」

「それは言いません」

 

 父は少し眉を上げた。

 

「顔には出すな」

 

 俺は返事をしかけ、自分の頬に触れた。

 父がそれを見て、ようやく笑った。




お読みいただき、ありがとうございます。

信長との交流を続ける一方で、権六から弟との縁も勧められました。今回は新しいアンケートはありません。弟への挨拶を相談することと、仕える相手を決めることは別ですが、今後そこで得る縁や役目も物語へ引き継ぎます。

本話の前半は1549年ごろの信長と斎藤氏の娘との婚姻を背景にしています。婚礼の日付・儀式は特定せず、榎並父子の祝い、婚姻後の会話は創作です。
後半は、その後の時間経過を置いた本作の展開です。勝家自身の家督継承年は確定せず、父親に代わる用件が増えたことや、弟との縁を勧める時期・理由・会話も創作として描いています。
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