【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
この話は、連続投稿の2話目です。先に第20話をお読みください。
弟への挨拶を経て、信秀の病状と、その後の知らせへ進みます。
今回は、知らせを受けた藤十郎がどう向かうかを選ぶアンケートがあります。
弟様への挨拶に伺う日が決まると、俺は先に若様へ伝えた。
用を済ませて庭へ出るところだった若様に声をかける。
「今度、父と一緒に弟様へご挨拶に伺います」
若様は足を止め、俺へ向き直った。
「権六が言うたのか」
「はい。父からお話を通していただきました」
「そうか」
若様はそれ以上聞かなかった。
俺が言葉を探していると、こちらを見る。
「まだ何かあるか」
「ご挨拶に参るのであって、こちらへ伺わなくなるわけではありません」
「そんなことは聞いておらぬ」
先回りして説明したのが、かえって妙だったかもしれない。
若様は庭へ下り、俺を振り返った。
「会ってから、どんな話をしたか聞かせろ」
「はい」
棒を取ってこちらへ投げようとしたので、俺は近づいて手で受け取った。
「今日は投げないでください」
「取れたではないか」
「受け取りに来たのです」
若様が笑った。
俺も一本を持って庭へ出た。その日は、弟の話はそこで終わった。
*
父と伺った先には、
弟様は父の挨拶を受け、俺が名乗ると、聞いているというようにうなずいた。
「
俺は頭を下げた。
弟様は俺より若い。だが、父と向かい合っている姿を見ていると、俺の方が座り直したくなった。
そうならないよう、膝に置いた手を動かさずに返事をした。
「父に代わって外へ出ることもあるそうだな」
「はい。まだ父に確かめることも多くございます」
「家のことを覚えるにはよい。権六も、お前はよく働くと言うておった」
俺が権六を見ると、本人は弟様の斜め後ろで黙っていた。
「信長のところにも参っておるか」
弟様が聞いた。
「はい。使いで伺うことも、ご一緒に稽古をさせていただくこともあります」
「そうか。あちらはよく外へ出るだろう」
「はい」
「今日はここへ来るので、待たせてはおらぬな」
俺は一瞬、顔を上げた。
弟様の口元が緩んでいる。
「今日は約束をしておりません。先に、ご挨拶に参ることをお伝えしました」
「それならよい」
兄を悪く言ったわけでも、俺を責めたわけでもなかった。
父もすぐに別の話を続けたので、俺は横で聞いていた。
父が話を終えると、弟様は俺にも目を向けた。
「お前も、用があれば父親とともに参れ」
「ありがとうございます」
その日は新しい用を申し付けられなかった。
挨拶をして帰るだけの訪問が終わると、門まで送ってきた権六が俺へ聞いた。
「どうだった」
「お話ししやすい方でした」
「そうだろう」
俺もそれにはうなずけた。
権六の言っていたことを、何でも否定するつもりで来たわけではない。
「また伺うこともあろう。今日は父親に付いて帰れ」
権六は父にも挨拶をして、屋内へ戻った。
帰り道では、俺から弟様の話をした。父は聞きながらうなずいていた。
*
そのあとも、俺が出向く先は一つに決まらなかった。
父の使いで弟様のところへ伺うことがあり、権六とも顔を合わせた。若様のところでは
帰宅すれば、受けた返事を父へ伝える。家の者に頼む用も増え、父と予定を相談するときには、先々の使いや留守を任される日まで決めるようになった。
若様には、弟様と何を話したかも伝えた。
「父と家の用についてのお話が多かったです。俺には、よく働くと権六殿から聞いていると」
「権六が言うなら、お前は喜ぶだろう」
「喜びます」
「わしが言うたらどうだ」
「それも喜びます」
若様は笑って棒を取り、今度は投げずに俺へ差し出した。俺が握ると、その手を離した。
そのあとで聞かれたのは、来週も来られるかということだった。父の用を確かめてから返事をすると言うと、若様はそれでよいと答えた。
季節が移った。
俺は父の後ろへ付いて出るより、一人で返事を預かってくることが増えた。甚助とともに出る日もあり、父が家にいないあいだの用を任されることもあった。
いつまでも、権六に抱え上げられていた竹丸のままではない。
それでも若様のところへ行くと、名前を呼ばれる声は変わらなかった。
*
信秀様がご病気だと聞いたのは、父が出先から戻った日のことだった。
父は家の者に用を伝え終えると、俺も呼んで座らせた。
「お加減がよくないそうだ」
「若様は、ご存じなのですか」
「ご存じだ。お前が先に知らせることではない」
父に答えられて、俺はうなずいた。
見舞いのために押しかけてもよいのか尋ねたが、父は先方の都合を確かめると言った。
その夜、寝る前に信長の父親のことを考えた。
病気で亡くなる。それから葬儀で、信長が何かを投げる。
線香だったか、香の粉だったか。位牌に投げつけた、という場面だけは覚えていた。
何年か。あとどれくらいあるのか。
濃姫との結婚よりあとだったことは分かる。だからといって、今この病気で亡くなるのかは分からなかった。
薬の名前も、治し方も思い浮かばない。病の名すら聞いていないのに、父へ何を言えばよいというのだ。
数日後、若様に会った。
いつもの庭に彦七はおらず、俺は屋内で返事を預かってから出ようとしていた。そこへ若様が来たので、ご挨拶をした。
「父上から聞いたか」
「はい。信秀様のお加減のことを」
若様はうなずいた。
俺は励まそうとして口を開きかけたが、どういう病気なのかも知らなかった。
「何か、俺にできることはありますか」
「今日は、お前の父親へ返事を届けろ」
「はい」
預かった返事は、家の用に関わるものだった。
若様は俺の手にあるものを見て、庭の方へ目を向けた。
「また来い。今日は出る」
誰に会いに行くかは言わなかった。
俺も行き先を尋ねず、門へ向かった。
その後も、よくなったと聞く日と、まだお休みになっていると聞く日があった。
その間に三河の
翌年には、今川の兵が尾張の南へ入ってきた。
俺に前線へ出る命は来ず、家に残った。父に言われて家の者と見張りの手配を確かめ、急に人を出すことになっても困らないように支度を保った。使いへ出るときも、先方と道の様子を確かめてからにした。
知多にまだ今川の兵がいると聞き、見張りも出立の備えも続けた。
やがて和睦の話が伝わり、ひとまず兵を動かす争いは収まったと聞いた。それでも、信秀様のお加減まで戻ったという知らせはなかった。
若様に会える日もあれば会えない日もあったが、俺の前で父親の病について長く話すことはなかった。
*
その朝、
俺たちは家の用で出向き、先方に二晩泊まってから帰ってきたところだった。まだ朝の飯も食べていない。
門の近くで父を見つけて挨拶をすると、父は用の報告より先に言った。
「信秀様が亡くなられた」
俺は甚助を見た。
甚助も足を止めていた。
「昨日、知らせが来た。お前たちのところへも人を出したが、入れ違いになったようだ」
父が俺たちを屋内へ呼んだ。
俺は脇に荷を置き、父の前へ座った。
「葬儀は、今日のことだ。万松寺へ伺う」
「今日……ですか」
「そうだ。お前も戻れば連れていくつもりでおった」
父の葬儀で、信長が位牌へ香を投げつける。
前世で聞いた話がよみがえった。あれが起きるのは、今日の葬儀なのか。
「若様は、今どちらにおられるのですか」
「今朝はお屋敷におられると聞いた。あちらから寺へ出られるのだろう」
まだ、葬儀は始まっていない。
今から向かえば、若様が寺へ入る前に会えるかもしれない。
信秀様が亡くなった。
俺が何度も使いで往復しているあいだも、父が知らせを待っているあいだも、あの人の病は進んでいたのだ。
若様はもう知っている。昨夜は何をしていたのだろう。誰かと話したのか。眠れたのか。
「父上。先に若様のところへ伺ってもよいでしょうか」
父はすぐに答えず、俺の顔を見た。
「何のために」
「お会いしたいのです。葬儀へ出られる前に」
葬儀で無法をするかもしれないから、とは言えなかった。
だが、止めたいだけでもない。俺が帰り道を歩いているとき、若様は父親を亡くしていた。
その知らせを聞いて、会わずに人の列へ加わるだけでよいとは思えなかった。
「挨拶に伺うだけなら、寺でお会いできよう」
「その前に、お話をしたいのです」
父は俺の着物へ目を落とした。
裾には土が付き、帯の下には歩いたときの皺が寄っている。
「支度をして出るか」
俺も自分の裾を見た。
この格好のまま葬儀へ出れば、若様の振る舞いを言う前に俺が注意されるかもしれない。
顔を洗って着替え、父が用意したものを受け取ってから出れば、榎並の者として挨拶ができる。
その分だけ、若様に会うのは遅くなる。
着いてから屋敷におられなければ、寺へ行くことになる。人が揃い、葬儀が始まってからでは、話しかける機会があるとは限らない。
「俺だけ先に行くなら、父上は」
「あとから寺へ行く。甚助はお前とともに出してもよい」
甚助へ顔を向けると、本人もうなずいた。
勝手に走り出して、父に行き先も伝わらない出立にはせずに済む。
「わしと出るなら、支度を整え、権六殿たちと合流する」
父が続けた。
「向こうでのことは、道々聞けるだろう。弟様のご様子もな」
権六なら、俺がいなかったあいだのことも知っているかもしれない。
父と行けば、榎並家の者として葬儀へ入る。若様へ会うことだけを考えて、家の挨拶を置き去りにはできない。
けれど、そこで若様が香を投げつけたら。
権六はどう見る。父は何と言う。
弟様がきちんと焼香をする横で、兄がそんな振る舞いをしたら、誰に家を任せたいかという話は、今よりずっとはっきりしたものになる。
俺が覚えている葬儀の信長は、教科書や物語の中の人だった。
今は会えば名前を呼ばれる。三河から一緒に帰り、嫁を迎える話も聞いた。
あの人を遠くから見て、ああ本当にやったのか、と思うだけにはしたくなかった。
荷を置いたまま立てば、すぐに出られる。
部屋へ戻れば、着物を替えられる。
父の支度が済むのを待てば、一緒に行ける。
父は俺を急かさず、返事を待っていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回は、信秀の死去と葬儀の知らせを受けた藤十郎の行動を選んでいただきます。
・すぐ信長のもとへ向かう
旅から戻った身なりのまま、甚助と先に出ます。葬儀前に信長と話す機会を優先します。
・支度を整えて信長に会いに行く
身なりと弔問の支度を整えてから、甚助と出ます。家の者としての準備はできますが、先に出る場合より到着は遅くなります。
・父とともに弔問へ向かう
父と出発を合わせ、権六らと合流して向かいます。榎並家として参列し、父や柴田側から事情を聞くことになります。
会うタイミングや相手、その場で話せる内容が変わる選択です。すぐ向かえば必ず信長を諫められる、という保証はありません。今回の経験や言葉も、その後の関係へ引き継ぎます。
今回は、その後の展開に大きく関わる選択のため、アンケート期間を通常より長く取ります。第21話の実際の公開から約48時間後の最多票を、第22話以降へ反映します。同票の場合は最多票の候補から作者が選びます。
本作では信秀の死去を1551年として進めますが、没年には1552年説などもあります。葬儀での信長の振る舞いは『信長公記』に伝わる逸話を背景としています。弟への訪問、信秀の病状を知る会話、藤十郎が知らせを受ける時点と出立の支度、合流の約束は本作の創作です。葬儀の具体日程や時刻を史実として復元したものではありません。
信秀の死と葬儀の知らせを受けた藤十郎は、どう向かいますか。会う時機・相手と、その後の関係が変わります。第21話の公開から約48時間後の最多票を次話へ反映。同票は最多票候補から作者が選びます。
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すぐ信長のもとへ向かう
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支度を整えて信長に会いに行く
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父とともに弔問へ向かう