【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
帰ってからも父に話を聞かれたが、寺で済んだ話を繰り返すことはなかった。
「若様が皆の前で暴れるのを止めた。それは、よくやった」
父はそう言ってから、俺の顔を見た。
「次は、殴らずに済ませろ」
「俺も、そうしたいです」
父が小さく息を吐いた。
母は殴り合った相手を聞いて黙り、そのあと俺の傷を確かめた。その晩の飯は柔らかくしてくれたが、それでも唇にしみた。
権六と顔を合わせたときには、葬儀での若様の話になった。
「腹を立てても、あそこに残って人の返事を聞いた。お前が止めたからだろうな」
言われて、俺は権六を見た。
「殴ったことまで褒めてはおらぬぞ」
「分かっています」
権六は俺の顔を見て、口元を緩めた。
「次の稽古までに、その顔を治してこい」
腫れが引くまで数日かかった。
唇の傷が残っているうちに、若様から父へ使いが来た。次に藤十郎を寄越すときは、返事を届けたあとも少し残れるようにしてほしいという。
父は俺にも予定を確かめてから、その日を決めた。
*
次に若様の屋敷へ伺ったときには、頬の色がまだ少し違っていた。
こちらも唇の傷が残っている。
若様は俺を見ると、自分の頬を指した。
「治ったか」
「まだ少し」
「わしもだ」
それだけ言って、部屋の方へ歩き出した。
庭の脇を通って屋内へ入ると、部屋には数人の家臣がいた。
俺は入口で止まった。
「父からの返事をお持ちしました」
「聞く。お前も座れ」
末席へ座り、父から預かった返事を伝えた。
使いに出せる者と、その支度についての話だった。若様は聞き終えると、部屋にいた家臣の一人へ続きを促した。
「鳴海の話を、こやつにも聞かせよ」
俺はその名を頭の中で繰り返した。聞いたことはある。だが、どんな戦いが起きるのかは思い浮かばなかった。
「今川から兵が増える前に、討つべきかと存じます」
家臣の一人が言った。
「待てば、ほかにも今川へ付こうとする者が出ましょう。山口の動きを見ながら、どちらへ付くか決めようとしている者もおりましょうから」
別の者は、城へ攻め寄せる前に、鳴海の様子をもっと確かめたいと言った。
「山口に従っていた者が、どこまでともに動くか分かりませぬ。城へ入った今川方の人数も、知らせによって違います」
「確かめているうちに、また増えるのではないか」
「だからこそ、何を相手にするか分からぬまま城を攻めるのは危ういかと」
若様は二人の話を聞いた。
早く動かなければ、山口が兵を揃える時間を与える。急いで攻めて退けば、それを見て今川へ付く者もいるかもしれない。
どちらの話にも、うなずけた。
「藤十郎。お前はどう思う」
家臣たちが俺を見た。
「俺に、ですか」
「三河にも出たであろう。申してみよ」
若様が問い返した。
以前に戦のあとで話したときは、彦七と俺がそばにいるだけだった。今日は、先ほどまで相談していた者たちが聞いている。
「早く動く必要はあると思います。ただ、鳴海へ出ることと、そのまま城を攻めることは、分けて考えたいです」
「出てから待つのか」
「向こうが城から出てくるなら、そこで戦うこともあるでしょう。でも、退いた相手を追って城まで行くかは、そのときの様子を見て決めていただきたいです」
俺は一度、言葉を切った。
小豆坂で退いたときの道が浮かぶ。仲間を探す声、疲れた足、こちらを追うかもしれない敵。
「三河では、退く途中で周りにいる者を確かめるだけでも大変でした。俺には、今の鳴海を落とせるかまでは分かりません。出たのだから攻め切ろうとなって、帰れなくなるのは怖いです」
「城を攻めるかは別に決める。それなら、先に道を確かめる者を出せます」
慎重に調べたいと話していた家臣が言った。
早く討つべきだと言った方も、うなずいた。
「人数を集めているあいだに調べさせましょう。山口へは、こちらが黙って待っておると思わせずに済みます」
若様は、誰にどこを確かめさせるかを尋ねた。
家臣たちが答え、話が具体的に進んでいく。俺も父へ伝えることを聞いた。
榎並から出す者については、父が知らせを聞いて決める。俺はその返事を持って、また来ることになった。
部屋を出るとき、若様が呼び止めた。
「皆の前でも、今のように申せ」
「詳しくないこともあります」
「分かることを言えばよい。それと、わしに言いにくいと思うことほど、黙るな」
若様は俺の顔を見た。
「皆、わしに遠慮して申さぬこともあろう。お前が先に口にすれば、同じことを考えていた者も続ける」
「俺なら、遠慮しないと?」
「わしを殴った奴だぞ。今さら口で何を申すのをためらう」
俺は返す言葉に詰まった。
「お前が言うて、筋が通っておれば、ほかの者もそうだと言いやすかろう。おかしければ、その場で違うと申せる」
「俺が先に馬鹿を言うこともあるわけですね」
「いつも言うておる」
「若様にだけは、言われたくありません」
若様が笑った。
「それを、皆の前でもやれと言うておるのだ」
若様は部屋へ戻った。
俺は廊下で待っていた甚助へ、鳴海の話をした。
甚助はすぐに立った。
「では、早く戻りましょう」
俺たちは門へ向かった。
父に伝える言葉を頭の中で確かめ、歩く速さを上げた。
今回は新しいアンケートはありません。
葬儀後の使いや相談、家臣の前で藤十郎へ意見を求める場面は本作の創作です。藤十郎の考えと榎並家の返答を分け、信長の親しい相手になったことだけで家の判断権まで得る描写にはしていません。