【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
台詞の受け答えや動作・位置関係、人物の経験と知識のつじつまを中心に、前後が分かりにくかった箇所を修正しています。意図した反復や人物の口調は残し、物語の大筋やアンケートで選ばれた展開は変えていません。
今回は第25話のみの投稿です。第26話はあらためて投稿します。
知らせを父へ届けると、俺たちも出ることになった。父は家から出す者を決め、俺は
俺に、鳴海城を取り戻した戦いの記憶はなかった。
信長は尾張をまとめる。いつか桶狭間で今川義元を討つ。その手前で、どこを取り、どこで負けたかまでは知らない。
出陣の支度をしながら思い浮かぶのは、鳴海という名を見たことのある地図くらいだった。
若様は出る前に、人の話を聞いた。
鳴海へ通じる道、山口方が出している人、今川から来た者について。聞き終えると、確かめたことと人づての話を分けて、もう一度尋ねた。
皆が答え終わってから立つ。
「行くぞ」
俺は槍を持ち直した。
甚助が隣でうなずいた。
*
味方の声と、向こうから上がる声が重なる。槍の先を揃えて進むうち、遠くから矢が飛んできた。
前を歩いていた男が肩を押さえて下がった。俺は空いたところへ踏み込まず、甚助と並んで前を見る。
槍の届くところまで、敵が来た。
一人が俺の穂先を打ち落とそうと、槍を振った。
俺は穂先を少し引いた。相手の槍が空を打ち、先が下へ流れる。
相手が踏み込んだところへ、俺は胸を狙って突いた。
届いた。
柄を握る手へ重さが返る。俺は槍を引き抜いて一歩下がった。
男が膝をつき、そのまま横へ倒れた。
見ている間はなかった。
別の槍が右から来る。体をひねって避け、柄で相手の穂先を外へ押す。突き返そうとすると、後ろから味方の男が前へ出た。
俺は槍を戻し、その男の横へ並び直した。
「藤十郎、左!」
甚助の声がした。
顔を向けると、向こうの男が甚助の槍を押さえ、懐へ入ろうとしていた。
俺は左へ足を運び、男の胴へ穂先を向ける。
男が俺を見て、進みかけた足を止めた。その間に甚助が柄を引き、相手の槍を払いのける。
俺は突いた。男は後ろへ下がり、穂先が届かなかった。
追わずに甚助の隣へ戻った。
「助かった」
返事をするより先に、前へ槍を出す。
いまの男が、またこちらをうかがっていた。
槍を合わせ、引き、足を動かす。
稽古で何度も繰り返した動きが、考えるより先に出た。強く握りすぎれば穂先が遅れることも、腕だけで突けば戻すのに間がかかることも、体で分かる。
相手の槍を外したあと、次に備えるところまで一続きに動けた。
それでも、相手が一人ずつ来るわけではない。
甚助が前へ出れば、その横を空けない。俺が突けば、甚助の槍が隣の相手を近づけない。
後ろから押されるたびに足を踏み直し、味方の呼ぶ声にも耳を向けた。
向かってきた若い男が、俺の槍の柄を横からつかんだ。
柄をたぐり寄せるようにして、こちらへ入ってくる。
俺は少し下がり、槍を引いた。男がその動きに合わせて追う。
後ろの足を止め、斜めに踏み直した。男の進む方向から体をずらし、柄をひねって相手の手を外す。そのまま腹へ突いた。
俺は槍を抜いた。男が前へ折れ、俺の足元へ倒れる。
その顔がこちらを向いた。
俺より若いかもしれない。
そう思ったとき、向こうからまた声が上がった。
俺は倒れた男から離れ、甚助と並び直した。
*
どれほど戦ったか、自分では分からなかった。
やがて味方が下がり、敵も追ってこなくなった。俺は槍を立てず、まだ向こうへ向けたまま歩いた。
甚助も隣にいた。
顔を合わせると、互いに大きな傷がないか確かめた。甚助の袖には血が付いていたが、本人のものではないと言った。
倒した二人のところへ戻れたのは、いったん両方が退いてからだった。
甚助とほかの味方も一緒に行き、動けなくなった仲間を探した。戻れる者は連れ帰る。
俺が突いた二人は、動かなかった。
一人目の男は横向きに倒れ、二人目は仰向けになっていた。顔へ土が付いている。
「この者か」
甚助に聞かれ、俺はうなずいた。
討ち取った相手の首を持ち帰ることは、出る前から分かっていた。
槍を甚助へ預けた。
刀を抜いて膝をつく。
相手の襟に触れたとき、指が止まった。
戦っている間は、次の相手がいた。
今は誰も俺へ槍を突き出してこない。倒れている人の首へ、自分から刃を当てる。
「俺がやる」
言ったのは、甚助に任せたくなかったからだった。
甚助は止めず、槍を持ったままそばにいた。
終わって刀を拭うと、手が少し震えた。
二つの首を包み、立ち上がる。足元の体をもう一度見そうになって、顔をそらした。
戻る途中、味方の男が俺へ声をかけた。
「よく働いたな。二つか」
「はい」
返事をした口元が、少し緩んだ。
稽古で覚えたことが役に立った。甚助を助け、自分も帰れた。褒められれば、嬉しい。
そのまま笑いかけて、止まった。
手に持った包みが重かった。
包みを持ち直すと、二人を突いたときの手応えがよみがえった。
足の運びも、槍を押し込んで引く動きも、身体に残っている。
技を覚える身体。こんなときは、女神の特典が少し恨めしかった。
*
戦いには、勝負がつかなかった。
味方にも討ち死にした者がいて、捕らえられた者もいる。向こうの者をこちらも捕らえていた。
互いに知った顔が多かったという。馬まで向こうへ走り、戻ってこなかったものがあった。
両方から人が出て、捕らえた者と馬を返す話が進んだ。
俺はそのやり取りを任されていない。首の確認を受けたあと、甚助と待っていた。
若様のところへ呼ばれると、二人を討ち取ったことは聞いていると言われた。
「甚助からも聞いた。槍がよく動いたそうだな」
「稽古のとおりに動けたところはありました」
「そうか」
若様は俺の顔を見て、それ以上は尋ねなかった。
俺も、嬉しいのか嫌なのか、自分でうまく話せそうになかった。
その夜、飯をもらった。
腹は減っていた。二口、三口と食べると、首を包むときに触れた髪を思い出した。
椀を置き、口の中の飯をのみ込む。
甚助が隣で食べていた。
「少し待ってからでよいでしょう」
俺はうなずいた。
しばらくすると、また腹が鳴った。
椀を持ち直して食べた。全部は食べられなかった。
*
鳴海城は、まだ山口方にあった。
帰って終わりにはならず、若様は道と城の様子を確かめる者を出した。
俺も父から預かった返事を持って伺ったが、その日は若様のそばで聞いている時間の方が長かった。
城へ押し寄せるべきだという意見が出た。
今川から人が増える前に攻めたい、という話だった。
若様はうなずいたが、すぐには決めなかった。
「攻めて、どれほどかかる」
相手が答えると、城の中の様子を聞いた。
外から見えることは話せても、中に誰がいて何を考えているかまでは分からない。
「山口とともに、皆が今川へ付いたのか」
若様が聞いた。
家臣たちの後ろにいた男が、膝を進めた。
「話を通せる者はおります」
鳴海に縁のある男だった。
自分の知る者は、山口父子に従って城にいる。ただ、今川へ付く話が決まる前に、相談を受けたわけではないという。
「それでも、赤塚では戦ったのであろう」
「命じられれば出ます。ですが、今川へ付くことまで、皆が望んだとは限りませぬ」
若様は男に近づくよう言った。
誰へ話を通せるか。今も行き来があるか。城の中にその人の家族はいるか。
男が答える間、ほかの家臣も聞いていた。
「身内がおるなら、その者だけ寝返らせるのは難しい」
一人が言った。
「先に、城を出る者の扱いを決めては。話を聞いたところで、その家族を置いて来いとは申せませぬ」
そこから、別の案が出た。
城の外で、山口方に従っている者へも話を通す。すでに今川へ付いたからといって、こちらへ戻る者を一律に罰しない。
その一方で、城へ人と物が入る道を押さえ、今川から援軍や物資が届かないようにする。
俺はその話を聞きながら、父が何を承知できるかを考えた。
家から出した人を、いつまでも外へ置けない。道を押さえるなら、その間の飯もいる。
若様が俺を見た。
「榎並では、何日なら出せる」
「父の返事では、今の人数のままなら――」
俺は預かった話を伝えた。
足りない分を、ほかの家がどう出すか。その相談は俺だけではできない。
若様は父へ確かめてほしいことを絞り、俺に頼んだ。
立とうとしたとき、先ほどの男へ若様が言った。
「お前の話を使う。まず、使いが戻れるようにせよ。出来ぬ約束をして、城へ入るな」
男は頭を下げた。
部屋を出ると、同じく使いに出る者が俺へ声をかけた。
「今日は、こちらの案も聞いていただけたな」
俺はうなずいた。
その人はもう一つ、城の周りの道について話してから歩き出した。
*
話は、一度でまとまらなかった。
戻ってきた使いの返事に、若様が怒った日もある。織田方へ戻るという返事があっても、城を出る時期はすぐには決まらなかった。
道を押さえる者を増やす前に、その話を確かめ直すことになった。
そのあいだ、俺は甚助と家の者を連れて外へ出た。
任された道を見張り、通る者を確かめる。城へ突き込む役ではなかった。
父からの返事を届けた帰りに、鳴海に縁のあるあの男と会った。
「城を出たい者がいるそうです」
男は、出る者が道で討たれないかを気にしていた。
俺は見張りについて受けた指図を伝え、城を出る者との話を取りまとめている家臣のところへ男を案内した。
数日あと、城の中から返事が来た。
山口方の一部が城を離れる。残る者は、こちらの使いを迎える。
城を出る者が持ち出す物と、城に残す物まで決めて、若様が承知した。
俺たちはその返事を聞いてから、鳴海へ向かった。
道を押さえていた味方も動く。向こうが約束を破れば戦うことになると、甚助からも聞いた。
城の門が開いた。
先に少人数が入り、戻ってきた者が若様へ知らせる。
そのあとで俺たちも入った。槍を持って歩いたが、突き出す相手はいなかった。
城の中にいる者の顔を見た。
こちらを見返す者も、頭を下げたままの者もいる。
赤塚に出た人もいるのだろう。俺が突いた二人を知っているかもしれない。
そう思って、足を止めかけた。後ろに甚助がいる。
俺は先へ進んだ。
山口父子は城にいなかった。
若様は城に残った者から、退去した山口父子や家臣たちの行き先を聞いた。
引き渡されたものを調べ、いなくなった者を確かめる。
若様は、鳴海城を取り戻した。
*
城の中の用が少し落ち着くと、若様に呼ばれた。
ほかにも数人がいて、城へ話を通した男も座っていた。
「よくやった」
若様が男へ言った。
「お前が申さねば、外から攻めることばかり考えておった」
男は頭を下げた。
若様は、その隣にいる家臣へも声をかけた。道を押さえる人数を揃えたこと、城を出る者との話をまとめたことを、一つずつ確かめた。
俺にも、父へ返事を届けてほしいと言った。
「ここを取れたと伝えろ。預かった人を、いつ返すかも話す」
「はい」
若様は城の中を見回した。
「さて、誰に守らせるか」
すぐに名を挙げる者はいなかった。
ここへ置く人が要る。飯も物も要る。出ていった山口方や今川が、また来ないとは限らない。
俺は父へ届ける言葉に、その話も加えた。
帰る前、城の外で甚助と飯を食べた。
今日は椀を置かずに食べられた。食べ終え、槍を取るために伸ばした手の指に、小さな傷が残っていた。
首を包んだとき、何かに擦ったものだった。
若様には、城を取ったという喜びがあった。
俺にもあった。外から攻めずに済んだことも、父の出した者を帰せることも嬉しい。
その中に、二人を討ち取ったことまで一緒に入れてよいのかは、まだ分からなかった。
「行きましょうか」
甚助が立った。
俺は槍を持ち、返事をした。
父へ伝えることは、行きより増えていた。
今回は新しいアンケートはありません。
史実の赤塚の戦いは、勝負がつかず、捕らえた者や馬を双方が返して退いたと伝えられます。本話でも野戦は引き分けとしましたが、その後の交渉による鳴海城奪還は本作の歴史改変です。城内に縁を持つ者、交渉の条件や経過、山口父子の退去、藤十郎と甚助の参戦・戦果は創作です。
技を覚える身体は、正しい動作を繰り返して身につける特典です。戦術や相手の動きを自動で知る能力ではなく、今回の戦闘も甚助や味方との連携で描いています。
城を守る人選はこの話では確定していません。次話で、奪還した鳴海をどう守るかという選択へ進む予定です。