【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
締め切り後の採用結果は、次のとおりです。
・大器の身体:1票
・記憶の書庫:0票
・技を覚える身体:3票
・小さな収納:0票
・危機の予感:2票
全6票のうち、最多票の「技を覚える身体」を採用しました。
今回は特典の説明と、竹丸の小さな一歩のお話です。
『――技を覚える身体、です』
眠気の向こうから、その言葉だけは拾えた。
技。
剣術とか、槍とか。
そういうものが使えるようになるのか。
『手本を見て、ご自身で試す。そのとき、動きのコツをつかみやすくなります。練習で身につけた動きを、繰り返し正確に行うのも得意になりますよ』
女の肩に預けていた頭を、少し持ち上げた。
つまり、武術の才能をもらったということか。
それなら、かなり助かる。
『筆を扱うにも、木を削るにも、お役に立つでしょうね』
そっちもか。
刀を振り回す姿を想像していた頭に、急に机と筆が割り込んだ。
なるほど。手先の細かい作業も、身体の動かし方には違いない。
ただ、気になることがある。
……選べるって、言ってなかった?
白い部屋で冊子を差し出され、「お選びいただけますよ」と言われた覚えがある。
表紙しか見ていないのに、いつの間に決まったんだ。
『ええ。迷われないよう、こちらでお選びしておきました』
選ぶ人が変わっている。
最初から決まっていたなら、あの冊子は何だったんだ。
『ご案内です』
説明になっていない。
だが、ここで文句を重ねると、また「では不要ということで」と言われそうだった。
俺は女の襟を握り直した。
力そのものは、悪くない。
むしろ、使い方によっては相当いい。
戦国の武士なら、身体を使うことはいくらでもあるだろう。何より、練習しても一向に上達しない、という苦労が減るのはありがたい。
達人の動きを一度見れば、それだけで――。
『できません』
まだ最後まで考えていない。
『見るだけでは駄目です。ご自身で動いて、覚えてください。それに、今のお身体で大人の槍を持てますか?』
俺は自分の腕を見た。
女の着物にぶら下がっている、丸くて短い腕だった。
無理ですね。
『力が足りなければ持てませんし、腕の長さが違えば、同じようには届きません。お身体が育てば、それに合わせた稽古も必要です』
なるほど。
手本を見た瞬間、剣豪になるわけではないらしい。
では、物作りならどうだ。
この時代にない道具を作って、それを売れば――。
『作り方をご存じなら、よろしいのでは?』
そこで止まった。
前世で使っていた道具を、幾つか思い浮かべる。
外側の形なら描けそうなものはある。けれど中身や材料の作り方まで説明しろと言われたら、途端に怪しくなる。
便利だったことと、自分で作れることは別だった。
『何を学ぶかは、あなた次第です。よい手本を探して、よく見て、ご自身で確かめてくださいね』
剣も、筆も、道具も。
目の前に並べられたわけでもないのに、少し迷った。
強くなれれば身を守れる。
何か作れれば、家の役に立てるかもしれない。
字だって読めるだけでなく、ちゃんと書けたほうがいいだろう。
全部、今すぐ始めたい気がした。
その俺の口から、大きなあくびが出た。
『まずは、よくお眠りになることです』
そこだけは、この身体も賛成らしい。
*
『最後に、もう一つ』
まだあるのか。
『私をお祀りしてくださっても構いませんよ』
追加の特典かと思ったら、勧誘だった。
『祈りが集まれば、私がそちらへ働きかけられることも増えます。あなたにも、私を信じる方々にも、よいことがあるかもしれません』
どんなことだ。
『それは、いずれ』
急に説明が雑になった。
今の話だと、俺が一人で手を合わせるだけでもいいのか。
それとも、村の人を集めて、何か大きな建物でも建てないといけないのか。
『まずは、あなたお一人でも。感謝をお忘れなく』
感謝。
知らない時代へ落とされた件については、まだ納得していないのだが。
身体と特典の分だけ、と考えるべきだろうか。
それに、祀るとしても名前を知らない。
『
結良。
思ったより短い。
『可愛らしいでしょう?』
自分で言うのか。
俺は、白い部屋の女を思い出した。
確かに、顔立ちは整っていたと思う。ただ、あのときは死んだ直後で、それどころではなかった。
茶柱と、免許を持っていない神の話のほうが、よほど鮮明に残っている。
『小さなお社を設けて、私を知る人が増えていくのも楽しそうですね』
神様を広める。
武士として戦う以外にも、そういう生き方があるのかもしれない。
祈りで何かが起こるなら、俺が刀を振るうより役に立つことだって――。
『まあ、すでに信仰を集めている方々とは、信者や土地やお金の取り合いになることもありますけれど』
思い浮かべかけた平和な暮らしが、引っ込んだ。
その辺を、もう少し詳しく。
『お付き合いは大切になさってくださいね』
さっきまで頼んでもいないことに答えていたくせに。
戦で名を上げるより安全だと考えるのは、早そうだった。
そもそも、俺は近所にどんな寺や社があるのかさえ知らない。
勝手に誰かの土地へ社を建てていいわけがないし、父が何と言うかも分からない。
神様に勧められたから、で納得してくれるだろうか。
……まず、神様の声が聞こえる子供だと思われるほうを心配すべきか。
『焦ることはありません。大きくなるまで、考える時間はありますから』
そこは同意する。
祈るにせよ、何かを学ぶにせよ、この身体でできることは限られている。
まずは、できることからだ。
『それでは、また。何か面白いことを成し遂げた頃にでも、お会いしましょう』
毎日、説明に来るわけではないらしい。
少しほっとして、それから一つ思い出した。
待って。
今が何年なのかだけ、教えてくれ。
『こちらは録音です。ご質問にはお答えできません』
最後まで、それで通すのかよ。
紙を閉じるような音がして、声が途切れた。
耳に戻ってきたのは、庭で誰かが呼び交わす声だった。
女の肩越しに見える戸口の明るさが、ゆっくり滲んでいく。
結良。
技を覚える身体。
祈ると、何かあるかもしれない。
忘れないよう、三つだけ繰り返した。
四つ目を考える前に、目が閉じた。
*
次に起きたとき、俺は剣豪にはなっていなかった。
いつもの敷物と、いつもの天井。
両手を見ても、やはり短い。
試しに指を一本ずつ曲げようとしたが、隣の指までついてくる。
急に何もかも自在になる力ではないらしい。
だったら、何から試すか。
庭へ出たい。
まず、そう思った。
昨日は柵の向こうへ、荷を背負った男が通った。
家の中からでは、どこから来て、どちらへ帰るのかもよく見えない。
もっと外を見られれば、この家のことも分かるだろう。
そのためには、誰かに抱かれて運ばれるだけでは困る。
俺は世話の女の膝につかまり、腰を上げた。
「あら。起きたばかりなのに」
立てる。
これは前からできた。
問題は、その先だった。
足を出そうとして身体まで前へ倒れ、慌てて袖をつかむ。
女は俺の脇に手を添えたが、すぐには抱き上げなかった。
「ゆっくり。そう、こちらへ」
差し出された手を頼りに、一歩進む。
思ったよりも小さな一歩だった。
歩くことなら、前世で毎日やっていた。
そのつもりで足を出すと、今の身体では大きく踏み出しすぎる。
足の長さも、身体を支える力も違うのだ。
今はこのくらいでいい。
うまく進めた一歩の感覚が、さっきまでより、はっきり残っていた。
もう一度。
急いで足を出すと、ついていけない。
女の手を握り直し、今度はゆっくり試した。
片足。
次の足。
膝が曲がって、その場に座り込んだ。
「よくできましたね」
頭を撫でられた。
まだ三歩にも届かないが、今の感じは覚えている。
もう一度やりたくなって、女の膝へ手を伸ばした。
*
それから何日か、起きている間に同じことを繰り返した。
できたと思った翌朝に転ぶこともあった。
廊下から声がすると、そちらを向いた拍子に尻餅をついた。
疲れれば足は言うことを聞かないし、腹が減れば稽古どころではない。
それでも、一度うまくいった動きを、次に探しやすくなった気がする。
足を出す前に、急がない。
身体を預ける。
次の一歩を出す。
転んだら、少し休んでからやり直す。
女は、俺が立ち上がるたびに手を止めるようになった。
考えてみれば、俺の練習はそのまま、この人の仕事を増やしている。
申し訳ない。
だが、もう少しだけ付き合ってほしい。
その日の夕方、帰ってきた父が戸口で足を止めた。
「竹丸」
俺は女の袖につかまって立っていた。
顔を上げると、父が少し離れた所に腰を下ろし、両手を広げる。
この前と同じだった。
「来てみよ」
女が背後へ回った。
俺は足元を確かめてから、手を離した。
一歩。
二歩。
三歩目で、父のほうへ倒れかけた。
慌てて踏み出した足が床を踏む。
四歩。
そこで脚がもつれた。
父の手が伸び、胸元へ抱き留められる。
「おお。そこから来たか」
頭の上で、父が笑った。
「この間は、すぐに転んでおったのにな」
「この頃は、ご自分から何度もお立ちになるのですよ」
俺は父の着物をつかんだまま、振り返った。
さっきまでいた敷物が、少し遠くに見える。
四歩。
たった、それだけだ。
剣も振っていない。
便利な道具も作っていない。
誰にも、特別な力だとは思われていない。
それでも、自分の足で進めた距離だった。
顔が緩むのを、今度は止めなかった。
「うれしいか」
「あい」
返事らしい音が出た。
父はますますうれしそうにして、俺を膝へ座らせた。
その手が、背中を支えている。
父の掌にも、女の袖にも、今日は何度も助けられた。
俺が転ばないように、二人とも手を伸ばしてくれる。
神様とは違って、面白い転び方を期待しているわけではない。
まずは、この家で大きくなろう。
字でも、槍でも、その先に教えてもらうものは、きっとたくさんある。
父の肩越しに、庭の柵が見えた。
明日は、もう一歩。
『お読みいただき、ありがとうございます。
本日の後書きは、作者に代わって私がお届けいたします』
白い部屋に、あの女神が座っている。
腰まで届く黒髪をゆるく束ね、金の髪飾りを一つ。少し垂れた目の中で、金色の瞳が笑っていた。
人間なら二十代半ばほどに見える、背の高い女性だ。
『結良、とお呼びください。ゆら、です。
何を司る神なのか? 初対面で何もかも知ってしまっては、次にお会いする楽しみがなくなるでしょう』
白を基調に、淡い朱色と金の縁取りを添えた装束。首元にはわずかなゆとりがあり、袖はゆったりと垂れている。
茶を注ごうと立ち上がると、布越しに腰から豊かで大きな臀部へ続く丸みが見えた。本人は視線など気にした様子もなく、丁寧な手つきで湯呑みを差し出す。
『好きなものは、お茶と、思いがけない出来事。それから、懸命に生きる人を見ること。
得意なことは、見守ることです』
助けること、とは言わなかった。
『嫌ですね。あの子にも、丈夫な身体と便利な力を差し上げたでしょう?
すぐに終わってしまっては、せっかくの人生がもったいないですもの』
『もともとは、丈夫な身体のおまけすら付けるつもりはなかったのですよ。ずいぶん気前よくして差し上げたと思いません?』
女神は湯呑みを口元へ運んだ。
優しい笑みは隠れたが、楽しそうな瞳は隠れていない。
『皆さまのお選びになった力で、あの子が何を覚えるのか。私も楽しみにしております。
武功を立てるのも、家を栄えさせるのも結構です。けれど、私のために小さなお社を建てるところから始まる人生も、素敵だと思いません?』
金色の瞳が、少しだけ輝いた。爛々と、燦々と。
『もっとも、お祈りのたびに私が出向くわけではありませんよ。しばらくは、あの子の暮らしを見守るつもりです。
皆さまも、どうぞお付き合いくださいませ』
――ここから作者です。
第3話では、選ばれた特典を竹丸が初めて試しました。
「技を覚える身体」は、練習を通じた習得と再現を助ける力です。身体の成長や筋力を飛び越えたり、見ただけであらゆる技を使えたりするものではありません。
女神を祀り、信仰を広めていく道も、この作品で選び得る進路の一つです。今すぐその道へ進むと決まったわけではなく、暮らしや人間関係を描きながら、節目のアンケートで選んでいただく予定です。
今回、新しいアンケートはありません。
なお、女神と読者のやり取りは後書きだけのものです。竹丸はアンケートの存在を知りません。
最後に、女神の紹介へ一言だけ補足を。
容姿と物腰は麗しいですが、人の一生を自分の楽しみのために扱っています。一般的な人間からすれば、ただの邪神です。