【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~   作:病んでるくらいが一番

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第29話から続く稲生の戦いです。今回は新しいアンケートはありません。


第30話「稲生で向ける槍」

 名塚(なづか)の砦(とりで)へ兵を置いた翌日は雨だった。

 川の水が増え、向こうへ渡った者が泥をつけて帰ってきた。若様の前で、砦の備えがまだ整っていないと話す。

 そこへ弟様の兵が動いたという知らせが来た。

 

 権六(ごんろく)と林美作守(はやしみまさかのかみ)。二つの名を聞くと、若様は集めた家臣に道と人数を確かめた。

 俺は父の隣で、甚助(じんすけ)と一緒にそれを聞いた。

 

 鳴海(なるみ)からも使いが来ていた。清兵衛はこちらへ兵を出す支度があると申し出ていたが、若様は門と道の守りを続けるよう返事をさせた。

 

「今川まで来ればわしが手を分けねばならぬ。鳴海はあれに守らせる」

 

 使いが頭を下げて退出した。

 

「藤十郎」

 

 若様が俺を呼んだ。

 

「榎並の人数を連れて来い。父親にも一緒に動いてもらう」

 

「承知いたしました」

 

 父が答え、俺も頭を下げた。

 揃って部屋を出ると、父が俺の顔を見た。

 

「具合はどうだ」

「動けます」

「うむ」

 

 父は俺の肩を一度叩き、家の者が待つところへ歩き出した。

 

 出る前に槍の柄を拭いた。

 手を滑らせたときに引っかかる箇所を確かめ、濡れた布を甚助へ渡す。

 甚助は自分の槍も拭いてから、布を荷へ戻した。

 

「権六殿と向かい合うかもしれませんな」

「ああ」

「私もあの方には稽古をつけていただきました。敵として槍を向けるとなると、どうにもやりづらいですな」

 

 俺は槍の柄を握り直し、自分にも言い聞かせるように答えた。

 

「……それでも、迷うな」

 

 甚助がうなずき、槍を持ち上げた。

 俺も続いて、若様のいる方へ向かった。

 

     *

 

 翌朝、稲生(いのう)の村外れで敵の槍が見えた。

 道に沿って来る者と田の方から近づく者がいる。敵の旗は離れた二か所で揺れていた。

 若様は兵を下げ、藪の近くで並び直させた。

 

 俺たちはその前へ出る組に加わった。

 父は後ろに残る家の者を集めていた。俺がそばを通ると、こちらへ顔を向けた。

 

「前は任せた。後ろはわしが引き受ける」

「はい。行ってまいります」

 

 父がうなずいた。

 俺は自分の組へ戻り、集まっていた者の顔を見渡した。

 

「甚助、左を見てくれ。俺は右にも目を配る」

「承知しました」

 

 甚助を左側に置き、俺は中央で家の者と槍を並べた。前の組が進むのを見て歩き出し、間が詰まれば手で合図して止める。

 道の向こうから声が飛んできた。

 

 権六の声だった。

 

 言っていることまでは聞き取れない。それでも、誰かを呼ぶときに最後の音が低くなるところで分かった。

 俺は向こうの男たちの顔を見た。

 先頭にいる者の肩越しに、槍を持つ腕が上がった。

 

 相手の顔ばかり見るな。

 

 俺は目を下げ、こちらへ向いた穂先を見た。

 

「来るぞ」

 

 甚助の声と一緒に、前が動いた。

 味方の槍のあいだから先を出す。向こうの槍がぶつかり、柄を握る指へ衝撃が伝わった。

 

 一人が大きく振りかぶる。

 俺は相手の柄が下りてくる前に、穂先を外側へずらした。槍を打ち合わせ、横へ流れた柄に沿って突き出す。

 先が男の肩へ入った。

 

 引き抜くと男は槍を落とし、後ろへ下がった。

 すぐ脇から別の男が出てくる。俺はそちらへ先を向け、近づく足を止めた。

 

「左、頼む」

 

 甚助が間を詰めて俺の左へ並んだ。

 俺が突き出した槍を相手に打たせ、その槍を甚助が横から押した。俺は空いた胸元へ突いた。

 男が倒れ、後ろの兵が足を止める。

 

「前へ出すぎるな。列を揃えろ」

 

 振り返らずに声を出した。

 右にいた家の者が一歩戻り、俺たちと槍を並べる。

 

 息を吐くたびに喉が乾いた。

 腕はまだ動く。繰り返してきた突き戻しは、相手の槍がぶつかっても狙ったところへ戻せた。

 その向こうで倒れた男を別の男が引きずっている。

 俺は次の穂先へ目を移した。

 

 敵の後ろから大きな声が上がった。

 

「押せ。下がるな」

 

 権六だった。

 人のあいだから一瞬だけ顔が見えた。

 額の下の目がこちらを向いていた。

 

 俺の前にいた敵兵が槍を突き出した。

 柄を両手で回し、相手の穂先を右へ弾く。体の前が空いた男の喉元へ俺の先が向いた。

 

 相手が俺の穂先を左手で払おうとし、槍を持つ右手を引いた。

 その手が戻る前に、俺は胸へ突いた。穂先が沈み、男の体重が槍へかかる。

 柄を引き戻すと男が膝をついた。俺は一歩下がり、甚助の隣へ槍を戻した。

 

「右、寄らせるな」

 

 俺の右にいた者が槍を出し、倒れた男の脇から入ろうとしていた敵を押し返した。

 手のひらには今の重さが残っていた。息を吐き、隣の槍が揃うのを見て先を出した。

 

 権六の姿はもう見えなかった。

 

     *

 

 味方の列が左の方から崩れた。

 血のついた顔で走ってくる者がいる。その後ろから敵が押し寄せ、槍を下げたまま逃げる味方へ追いつこうとしていた。

 

「戻れ。若様のところへ戻るぞ」

 

 前の組から声が来た。

 俺は甚助へうなずき、家の者にも聞こえるよう叫んだ。

 

「甚助、後ろの道を見てくれ。皆、槍を向けたまま下がれ」

 

 甚助が列の後ろへ回り、逃げてくる味方のあいだに戻る道を探した。

 俺は追ってくる敵へ槍を向け、左右の者と足を合わせて下がった。隣の男が先に下がれば、その前へ穂先を出す。男の槍が戻るのを待って、今度は俺が足を引く。

 背中の方から男がぶつかってきた。俺の肩をつかみかけたので、甚助がその腕を取って横へ通した。

 

「後ろへ行け。ここを空けろ」

 

 俺たちは左右にいる味方と一緒に、追ってくる敵へ穂先を揃えた。

 一本が近づけば二本で押し返す。俺の右の男が足を取られたときは、俺がその前へ槍を出し、甚助が男の腕を引いた。

 

 後ろから父の声がした。

 

「藤十郎、こちらだ」

 

 振り向くと父がいた。

 その奥に若様が見えた。まだ逃げてくる者の方へ顔を向けている。

 

 父のいる列まで下がり、俺は隣へ入った。

 権六の兵が近づいてくる。

 向こうの一人が俺たちを見て、何か叫んだ。

 

「下がるな!」

 

 若様の声が、すぐ後ろから響いた。

 俺は槍を握り直した。

 若様が前へ出る。逃げてきた兵の一人を呼び止め、槍を持つ手を指さした。

 

「持っておるなら向けろ。わしの横へ立て」

 

 呼ばれた男が振り向いた。

 後ろにいた二人も足を止める。若様は俺たちの方を見た。

 

「藤十郎。そこを空けるな」

「はい」

 

「甚助、左を揃えてくれ。右は俺についてこい」

 

 甚助が左の者へ声をかけ、俺は右にいた二人へ間を詰めるよう手で示した。

 父が俺の隣へ入り、前へ穂先を向けた。俺も槍を出すと、甚助の方から順に家の者の槍が並んだ。

 

 敵の先頭が止まった。

 後ろから来た者と肩がぶつかり、横へずれる。そこへこちらの槍が届いた。

 若様に呼び戻された男が突き、隣へ戻った仲間も続いた。

 

 押し返せる。

 

「揃えて出ろ」

 

 俺は右の男へ声をかけた。

 穂先を並べて進むと、向こうの兵が一人下がった。その隣が槍を引き、さらに後ろの男が背を向けた。

 

 権六が怒鳴る声がした。

 俺は前の槍を払い、顔を上げた。

 

 味方と敵のあいだに権六がいた。

 一人を肩で押し戻し、こちらへ槍を向けている。頬の横から血が流れていた。

 権六の目が俺の顔で止まった。

 

「権六殿」

 

 口から名が出た。

 俺の右で味方の男が踏み込む。

 権六はその槍を打ち上げた。男がよろめいたところへ、俺は槍の柄を横にして、権六の突きを受けた。

 

 重い。

 俺は右足を引き、押し込まれる柄を斜めに滑らせた。権六の穂先が脇を抜けるのに合わせ、先を返して胸元へ突き出す。

 権六が身をひねり、槍の柄で弾いた。返ってきた先を外へ払い、俺も足を踏み替えて向き直る。

 

「甚助、左から」

 

 横から甚助の槍が入った。

 権六がそれを避けて間を取ると、俺は穂先を向けたまま、甚助とのあいだを詰めた。

 敵の男が二人駆け寄った。

 

「権六様、退いてくだされ」

 

 一人が権六の腕を引いた。

 権六はその男を押しのけかけ、向こうで走り出した兵を見た。それから槍をこちらへ向けたまま、足を引いた。

 

 俺も先を下げずに見送った。

 敵の男が間へ入り、権六の顔が隠れる。

 

「藤十郎、右だ。林の兵が残っておる」

 

 父の声で、俺は右へ向き直った。

 味方の兵が南へ走っている。離れたところでは、まだ林の兵と槍を合わせていた。

 若様がそちらへ向かった。

 

「甚助、皆を右へ。俺が前へ出る」

 

 俺は近くにいた家の者を連れて若様の進む方へ回った。甚助が残る者を呼んで続き、父の組もその後ろへついた。

 

     *

 

 林美作守が討たれたと、前から声が来た。

 そのあとも逃げる者を追う声は続いたが、俺たちが戻れと言われた頃には、まとまって槍を向けてくる敵はいなくなっていた。

 

 槍を持ったまま人の集まるところへ戻った。

 甚助が家の者の名を呼んだ。一人ずつ返事があり、最後の一人は父に肩を借りて歩いてきた。

 足を捻ったという。甚助へ引き渡すと、父は俺の顔を覗き込んだ。

 

「どこかやられたか」

「腕を打ちました。動きます」

 

 左手で柄を握り直して見せた。

 父は俺の袖を持ち上げ、血がにじんでいないか確かめた。

 

「権六殿の槍を受けました」

「見ておった」

 

 父が袖を下ろした。

 俺は槍へ目を落とした。

 柄についた新しい傷に爪が引っかかった。

 

 さっき権六の喉も胸も見えた。

 俺の前へ出ればこの槍で突く場所にあった。

 

「藤十郎」

 

 父に呼ばれ、顔を上げた。

 若様が歩いてきた。

 

「人数は」

 

 俺は家の者が全員戻ったことと、足を痛めた者が一人いることを答えた。

 若様は座っている男へ近づき、帰りは人をつけるよう父へ言った。

 それから俺を見る。

 

「権六を見たか」

「はい。退いていかれました」

「どちらへ」

 

 俺は権六が消えた方を示した。

 若様はそちらを見て、そばの者へ行く先を確かめるよう命じた。

 

「林美作は討った」

 

 俺は若様へ向き直った。

 

「弟様は」

「まだ分からぬ。城へ戻る者を見ておる」

 

 若様はそこまで言って、俺の槍へ目を落とした。

 

「権六と合わせたか」

「一度槍を受けました」

「そうか」

 

 若様は俺の隣に立ち、敵の退いた方を見た。

 俺は聞きかけた。

 

 このあと弟を許しますか。

 

 前世で聞いた話では一度許して、そのあとまた裏切られる。

 けれど、権六が俺へ向けた槍の重さは知っていた話のどこにもなかった。

 打たれた腕がまだ痛む。あの穂先を避け損ねていたら、俺はここで死んでいたかもしれない。

 

 俺にとっては、これが現実だ。

 知っている歴史から外れるのを怖がるには、もう今更だろう。若様を殴って葬儀まで変えたくせに、ここで記憶どおりに進むのを待ってどうする。

 

 弟様がまた兵を挙げると知っているなら、その前にできることを探そう。

 

 ただ、そこを変えた先が気になった。

 俺の覚えている信長は、生まれや家柄にかかわらず、働く者を取り立てる人だった。身内に二度裏切られて弟を殺したことも、そういう人の見方につながったんじゃないか。前世では、そんなふうに考えていた。

 もし弟様との決別を止めたら、後に取り立てられるはずの誰かまで埋もれるのか。

 

 弟を殺さずに済んでも、人の働きを見て取り立てることはできるはずだ。清兵衛殿を城に置くときも、若様は話を聞いて、ご自分で任せると決めた。

 ああいう相談には、これからも口を出そう。家柄のよい者が並ぶ席でも、使える案なら出してもらう。俺だけが重宝されて終わるのでは、皆の前で意見を言えと頼まれた役目も果たせない。

 

「……何だ」

 

 若様が俺を見た。

 俺は顔を上げ、その目を見返した。

 

「弟様をお許しになるおつもりですか」

「まだ何も申してきておらぬ」

「一度お許しになっても、もう一度裏切られますよ」

 

 若様の目が細くなった。

 

「ずいぶんとはっきり申すな。弟がそう話しておったか」

「いいえ」

「では、なぜ分かる」

 

 槍の柄を握る手に力が入った。

 いつものように、聞いた話だと言って済ませることもできた。だが、若様は俺から目を離さなかった。

 

「……そうなると、覚えています」

「覚えておる?」

「はい。弟様は一度許されても、また若様に背きます。そのときは、若様も弟様を殺すことになります」

 

 若様は黙った。

 近くで誰かが人を呼んでいた。足音が通り過ぎるまで待ち、若様が俺へ一歩近づいた。

 

「わしが弟を殺すと、お前は申すのか」

「……はい」

 

 若様の顔を見ながら、俺も声を落とした。

 

「若様に弟様を殺してほしくありません。その前に止めたいんです。表には出されませんけど、そうなれば若様も傷つくでしょうから」

 

 若様が口を開きかけた。

 何も言わずに閉じ、俺から目をそらす。しばらく敵の退いた方を見ていたが、やがて小さく息を吐いた。

 

「……余計なところまで気を回す」

「友ですから」

 

 若様がこちらを向いた。

 俺はその目を見て続けた。

 

「権六殿とも話したいです。今日のように槍を向け合うのも、もう御免です」

「弟がまた背くと、あれにも申す気か」

「まず若様と相談させてください。俺の知っている話と、今の権六殿が同じように動くかは分かりません」

 

 若様は俺の槍の傷へ目を落とし、それから俺の顔を見た。

 

「城へ戻ったら残れ。二人で話す」

「はい。それと、人を取り立てることについても、お話ししたいです」

「誰か推したい者でもおるのか」

「これからです。家柄が低くても、役に立つ知恵や腕を持つ者がいたら、話を聞いていただきたい。俺もそういう者を探します」

 

 若様が俺の顔を見直した。

 

「弟の話から、そこまで飛ぶか」

「つながっているかもしれません。俺の覚えている若様が、どうしてそうなったのかという話です」

「……ますます聞かねばならぬな」

 

 若様は俺のそばから離れる前に、声を落とした。

 

「お前が何を覚えておるのか聞かせろ。わしを案じておるなら、今度は途中でごまかすなよ」




やっと未来の知識を使って、本格的に動き出しました。(前回も動いてたけど)
レジギガスかよ。

信長にぶっちゃけたのは、友に親族殺しをさせたくないのと、自分一人で抱えるより、信長に話した方がうまく活用できると思ったからですね。
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