【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
今回は幼少期の時間を進め、四歳になった竹丸が父について家の外へ出ます。
後書きの下に、今後の成長や交流の重点を選ぶアンケートを設けます。
四歳になった。
こちらの数え方では五つだと、父は言う。
自分の足で歩き、自分の口で物を頼める。腹が減っただけで泣かずに済むし、眠くなる前に、もう少し起きていたいと思えるようにもなった。
それでも、門の外へ出るには、父の許しが要った。
「今日は、ついて来てもよい」
朝、その一言を聞いた俺は、持っていた筆を置いた。
「本当に?」
「途中で疲れたからと、抱けとは言うなよ」
俺は勢いよくうなずきかけ、やめた。
「遠いですか」
父が笑った。
「歩けるところまでだ」
*
木片を積んでいた頃から、できることはずいぶん増えた。
走る。転びそうになれば踏みとどまる。布を畳み、紐を結ぶ。
前世なら何でもなかった動きに、この身体がようやく追いついてきた。慣れてしまったことを、いつまでも毎日の課題にする必要はない。
筆の扱いも、ずいぶん上達した。
父の手が空いたときにせがみ、使い終えた紙の空いたところで、少しずつ教わってきた。
筆先を押す強さや持ち上げる頃合いは、何度か試すと手になじむ。一度うまく書けた線は、次もほとんど同じように引けた。
教わった字なら、手本と並べても大きく形は崩れない。
前世の俺は、筆でここまで整えて書けなかった。
字の形を知っているだけでは説明できない上達だった。技を覚える身体は、こういうところで遠慮なく役に立つ。
ただし、父の書状を広げると、話が変わる。
知っているはずの字がつながって、見知らぬ形になる。ひとつ読めたと思っても、その前後が分からない。
筆を動かせることと、何が書いてあるか分かることは別だった。
今朝も父が紙を出したので、横からのぞいた。
ところどころの数字しか拾えずにいると、父は俺の書いた「竹」の字に目をやった。
「昨日教えたばかりだぞ。もう、こんなに整えて書くか」
名前の字は、前から知っている。
けれど、この家で誰にも教わっていない字まで次々に書くのは、さすがに説明がつかなかった。
まずは父の手本を真似る。それだけでも、父は俺の指と紙を交互に見ていた。
「竹丸は、筆を持つのがうまいな」
褒められるのは悪くない。
ただ、父の見ていないところでも何度か練習したのだ。その分まで、全部生まれつきだと思われるのは少し惜しい。
父親について来たときには顔を見せ、俺が話せるようになると、前より長く相手をしてくれた。
この前は、庭で足の運びを見せてもらった。
棒を振り回したかった俺に、まず足だと言い張ったのだ。
「手ばかり動かしても、身体が残っておる」
権六はゆっくり足を運び、どちらの足から動かすかを見せてくれた。
最初は一歩を広く取りすぎたが、自分の足に合わせて狭めると、三度目にはつかえずに動けた。
続けて試しても、足は絡まない。止まるところで、ちゃんと止まれる。
「……もう一度やってみよ」
言われたとおりに繰り返すと、権六は俺の足元をじっと見た。
「そうだ。それを忘れるな」
少しうれしくなって、次は動く権六についていこうとした。
だが、横へ抜けられると、こちらが向き直ったときにはもう手が届かない。
足の順番は合っている。それでも、一歩の長さも速さも違った。
追いつけないのは悔しい。
けれど、教わった動きがすぐ自分のものになるのは、もっと面白かった。
木片で張り合っていた少年は、少し背が伸びた。
俺が真似をしたがると、得意そうになるところは変わっていない。
筆も、身体を動かすことも面白い。
ただ、家の中で試せることが増えるほど、門の外が気になった。
父はどこへ行き、誰と何を決めて帰ってくるのか。
今日は、それについていける。
*
門を出ると、道は思っていたより細かった。
父と、家から一緒に出てきた男が前を歩く。
俺の後ろにも一人いる。父についていくつもりが、気づけば大人に挟まれていた。
家から見える木立の向こうには田があり、その先にまた人家があった。
遠くからだと一続きに見えた田も、近づけば
道端にいた男が、父に頭を下げる。
俺の顔を見て、もう一度、少しだけ頭を下げた。
「若様も、ご一緒で」
「今日は歩かせておる」
散歩をさせてもらっているような言い方だった。
実際、その程度の役にしか立っていないので、何も言えない。
「おはようございます」
挨拶をすると、男の顔がほころんだ。
「よう、お越しになりました」
そのまま話しかけられそうになったが、少し先から別の声が上がった。
「殿。こちらでございます」
父の歩く速さが変わった。
俺も足を速める。
田の脇に、二人の男が立っていた。
近くには切った木が数本置かれ、その向こうで道の端が崩れている。土はまだ湿っていて、踏んだ足跡に水がたまっていた。
「このままでは通せませぬ」
一人が、木を指した。
「こちらを少し通るだけでございます。運び終えれば、すぐ戻しますゆえ」
「少しと言うて、先には畦を崩された」
もう一人が言い返す。
父はすぐに口を挟まず、まず道を見て、それから田のほうへ顔を向けた。
俺にも、何でもめているかは分かった。
道の悪いところを避けて、木を運びたい。そのために、田の縁を通らせてほしいのだ。
少し避けるだけなら、通してあげればいい。
そう思って足元を見ると、靴なら一歩で越えられそうな溝があった。
今の俺の足では、少し遠い。
そして運ぶのは、俺一人ではない。
地面に置かれた木は、父の背よりも長かった。
「先に崩したのは、誰だ」
父が尋ねた。
「うちの者でございます」
「直したか」
木を運びたいと言っていた男が、黙った。
なるほど。
通れるかどうかだけの話ではなかった。
*
俺は父の脇で、口を閉じていた。
前世の知識で、うまい解決を。
そういう出番かもしれないと、一瞬くらいは思った。
だが、目の前の男の名前も、前の約束も知らない。
ここで「通ればいい」と口を出したら、たぶん、揉め事を増やす。
「今日中に運ぶのか」
「できれば。向こうで待っております」
「ならば、人を戻せ。先に崩したところを直せ」
父は田の男へ向き直った。
「直ったところを見てくれ。それから、今日通す場所を決めよう。勝手に入らせはせぬ」
田の男は、木と父を交互に見た。
「また踏み崩されては、同じことで」
「運び終えるまで、一人残す。崩れたまま帰さぬ」
父は、家から来た男に目を向けた。
男がうなずく。
「私が見届けます」
すぐに二人が笑って仲直り、とはいかなかった。
どこまで通るのか、どこには足を入れないのか。父たちは場所を変えながら話し、田の男がようやく指を差した。
「通すなら、こちらからにしてくだされ」
木を運ぶ男が頭を下げた。
人を呼びに戻る背中を見て、俺はようやく息をついた。
父がこちらを見下ろす。
「退屈か」
「……ううん」
俺は、田の男に聞こえないくらいの声で尋ねた。
「父上が通ってよいと言っても、駄目なのですか」
父はすぐには答えなかった。
俺を道の乾いたところへ寄せてから、腰を落とす。
「通せとは言える」
それから、田を見た。
「だが、傷めたところも直さず、また通せでは、次も揉める。困るたびにわしが来るのか」
それは、困るだろう。
父の仕事は、この道一本だけではない。
「約束を守ってもらえないのが、嫌なのですね」
「そうだな。お前も、権六殿が遊びに来ると言うたきり来ねば、待つであろう」
俺にも分かる話にしてくれたらしい。
少しだけ扱いが幼いが、その喩えなら、確かに分かる。
父は立ち上がり、俺の肩を軽く叩いた。
「向こうで休むぞ。まだ歩けるか」
俺は足に力を入れ直した。
「歩けます」
*
休ませてもらった家では、年配の男が父を待っていた。
父が座ると、男は脇に置いていた紙を広げた。
今度は、木を何本渡したかの話だった。
「先の分と合わせて、こちらになります」
男の指が、墨の列をたどる。
父は途中で聞き返し、別に運んだ分があることを確かめていた。
数えるだけなら、俺にもできる。
けれど、目の前の木を数えるのと、もう運び終えた木まで間違いなく勘定するのでは、必要なものが違った。
誰が、いつ、どこへ運んだのか。それを読めなければ、俺の知っている足し算にも出番がない。
紙を見つめていると、年配の男が気づいた。
「若様も、字を習われておいでですか」
「少しだけ」
「それは結構なことで」
男は父を見てから、紙の端を俺に近づけた。
「これは、三とございます」
三本線ではなかった。
言われてみれば、そう見えなくもない。
俺は指で触らないように気をつけて、その字を見た。
「これも、三?」
「さようで」
答えを聞いてから見直すと、ただの曲線だったものに、少しだけ形が見えた。
こういうことは、誰かに教わらなければ分からない。
「また、教えてもらえますか」
男は目を細めた。
「殿のお許しがあれば」
父は俺の顔を見て、笑った。
「まずは、わしの書いた手本を仕上げてからだな」
覚えられていた。
今朝、途中で筆を置いて飛び出してきたのは、俺だ。
*
帰り道は、行きより長く感じた。
足は疲れたが、抱いてほしいとは言わなかった。
父は何度かこちらを見て、そのたびに歩く速さを緩めてくれた。
「また、ついて来たいか」
「はい」
答えると、父は前を向いたまま言った。
「いつでも連れては来られぬぞ。家で覚えることもある」
それも分かっている。
権六に教わった足の運びは身についた。次は、動く相手に合わせて使えるようになりたい。
父の手本も書き終えていない。今日見た紙には、読めない字がいくつもあった。
そして父について歩けば、家で待っているだけでは知らない話を聞ける。
どれも少しずつ、はできるだろう。
ただ、父にも、権六にも、あの男にも、それぞれの用事がある。俺が習いたいと思ったときに、いつでも相手をしてもらえるわけではない。
次に頼むなら、何を教わろう。
門が見えたところで、父が振り返った。
「よく歩いたな」
俺は返事をしようとして、あくびをした。
父が笑う。
眠くなるのは、まだ仕方ない。
けれど、今日は寝る前に、父の手本をもう一度見ておこうと思った。
あの門の中で覚えたことは、外でも使える。
使えるようになれば、次はもう少し先まで、ついていけるはずだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
竹丸は満年齢で四歳、この土地の数え方では五つになりました。これまでの練習や交流は続けながら、ここからは家の外の人や出来事にも話を広げていきます。
今回の道をめぐる相談や人物、榎並家の仕事は創作です。
今回のアンケートでは、竹丸が今後、特に力を入れることを選んでいただきます。
・父について家や土地の仕事を学ぶ
父の外出に同行し、土地の暮らしや、人との約束・交渉を知っていきます。
・柴田家との交流と武芸の基礎
権六たちとの関わりを増やし、年齢に合った稽古に取り組みます。
・読み書きや算用を学ぶ
文字や記録の読み方、勘定を教わる機会を増やします。
選ばれなかったことを一切しなくなるのではなく、次の数話で重点的に描く活動と人間関係に反映します。普段の運動や基礎的な読み書きは、どの選択でも続けます。
第6話の投稿から約24時間後の最多票を、第7話以降に反映する予定です。同票の場合は、最多票の候補から作者が選びます。
投票は下のアンケートからお願いいたします。
竹丸が今後、特に力を入れることは何でしょうか。選ばれた活動や人との交流を、次の数話で重点的に描きます。第6話の投稿から約24時間後の最多票を第7話以降に反映します。同票の場合は最多票の候補から作者が選びます。
-
父について家や土地の仕事を学ぶ
-
柴田家との交流と武芸の基礎
-
読み書きや算用を学ぶ