【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~   作:病んでるくらいが一番

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アンケートへのご参加、ありがとうございました。

第3回の結果は、全8票でした。
・父について家や土地の仕事を学ぶ:6票
・柴田家との交流と武芸の基礎:0票
・読み書きや算用を学ぶ:2票

最多票の「父について家や土地の仕事を学ぶ」を採用します。
父との同行や家の仕事を中心に描きながら、普段の稽古や読み書きも続けていきます。


第7話「数えた先の、家の仕事」

「父上。またお供をさせてください」

 

 書き終えた手本を差し出して、俺は言った。

 父は紙を受け取り、字を見て、それから俺の顔を見た。

 

「今度は、どこへ行きたい」

「父上がお仕事をするところへ」

 

 少し考えた父が、紙を脇へ置く。

 

「途中で飽いても、勝手に帰るなよ」

「はい」

 

 それからは、父が許してくれる日に、外へついていくようになった。

 

 道の話。木を渡す話。約束した日に人が来なかった話。

 一つずつ聞いていると、同じ名前が何度も出てくる。家で呼ばれる名と、よその人が呼ぶ名が違っていて、別人だと思っていたこともあった。

 顔と名前が結びつくにつれて、父の話も少しずつ分かるようになった。

 

 筆の練習も、権六(ごんろく)に教わった足運びも続けている。

 ただ、今は朝になると、父がどこへ行くのかを先に確かめた。

 

 そうして何度か外へ出たあと、初めて仕事を渡された。

 

「貸していた鍬(くわ)が戻った。弥助と一緒に、数と傷み具合を確かめておけ」

 

     *

 

 庭の端に、返された鍬が並んでいた。

 父は奥へ戻る前に、そばにいた男へ声をかけた。

 

「弥助(やすけ)。竹丸に持たせるなよ」

「承知しました」

 

 弥助は、以前に木片を削ってくれた男だ。

 父を見送ってから、俺は鍬を数え、紙へ五と書いた。

 次は傷み具合だ。弥助に一本ずつ持ち上げてもらい、刃と柄を見比べる。

 

「こちらもご覧になりますか」

 

 持ち上げた一本の柄が細く裂けている。

 

「力をかければ、ここから折れましょう」

 

 刃の近くにも土が残っている。ほかの四つを見比べると、まだ使えそうな物と、手を入れたほうがよさそうな物があった。

 

 表面の傷なのか、使えば折れる傷なのか。

 鍬を使った経験のない俺には、その見分けがつかなかった。

 

「これは別にしておくのですか」

「はい。柄を替えるまでは」

 

 弥助が、傷んだ一本を横へ寄せた。

 俺は紙の五を見た。

 

 受け取った数。

 使える数。

 

 この二つは、分けて書いておこう。

 数は自分で確かめられる。使えるかどうかは、慣れた人に聞く必要がある。

 

「ほかのも見せてください」

 

 弥助は残りを一本ずつ持ち上げた。

 俺は触らず、どこを見るのかを聞いた。

 

     *

 

 父に報告するときは、少し緊張した。

 

「五つ戻りました。そのうち一つは、柄を替えないと使えません」

「誰に貸した物だ」

 

 持ってきた男の名を答えた。

 その人に貸した物で間違いないことは、先に弥助へ確かめてある。

 

 父が紙を見る。

 受け取った数と、傷んだ一本のことを、短く分けて書いておいた。

 

「これは弥助が見つけたか」

「はい。傷は見えましたが、使ってよいか分からなかったので、教わりました」

 

 父は弥助へ目を向けた。

 

「貸す前には、傷んでおらなんだか」

「そのときは、見当たりませなんだ。ただ、古い柄ではございます」

 

 父はうなずいた。

 

「まず替えておけ。古い柄は、見せられるよう残しておくのだ」

 

 壊した者を呼べ、とは言わなかった。

 

「誰が直す分を出すかは、まだ決めないのですか」

 

 尋ねると、父は俺の紙を指した。

 

「ここに、誰が傷めたと書けるか」

 

 書けない。

 戻ってきたときに傷んでいたことしか、確かめていない。

 

「聞いてからですね」

「そうだ。だが、聞き終えるまで使えぬままにしておくこともない」

 

 父は俺の紙を、ほかの覚え書きと一緒に重ねた。

 書き取りの手本とは、扱いが違った。

 

     *

 

 昼を過ぎる前に、門のほうが騒がしくなった。

 

 弥助が顔を上げる。

 俺もそちらを見たが、誰が来たのかは、庭からでは分からなかった。

 

 父を呼ぶ声がする。

 続いて、早足で廊下を渡る音がした。

 

 俺は立ちかけた。

 

「若様は、こちらへ」

 

 弥助の手が、俺の肩の前に出た。

 さっきまで鍬を見せてくれていたときとは、声が違う。

 

 父が来客を迎えるのは、珍しいことではない。

 それなのに弥助は、俺を戸口から遠いほうへ座らせた。

 

 奥から、切れ切れに声が聞こえる。

 

「……三河の」

「守山へ……」

 

 守山。

 父について歩いたときにも聞いた、近くの地名だった。

 

 俺は耳を澄ませた。

 声は低くなり、それ以上は聞き取れない。

 

 しばらくして、父が庭へ出てきた。

 

「今日は、もう外へ出るな」

 

 俺ではなく、弥助に言っている。

 

「出ている者を確かめろ。近くなら、人をやって戻してくれ。遠くまでは行かせぬように」

「はい」

 

 弥助が立ち上がった。

 父は俺を見て、横にある鍬へ目を移す。

 

「使える物は、すぐ出せるところへ。直す物は混ぜるな」

 

 さっきの五本が、急に違う物に見えた。

 

「戦ですか」

 

 父の目が、俺に戻った。

 

「まだ、確かなことは分からぬ」

 

 否定は、してくれなかった。

 

     *

 

 家の中を、人が行き来し始めた。

 

 父は来た男をもう一度呼び、どこで誰から聞いたのかを尋ねている。

 別の男には、家に戻っていない者の名前を言わせていた。

 

 俺は敷物の端に座り、足の指を曲げた。

 

 三河から、守山へ。

 織田と松平が戦ったのだろうか。そこに今川も関係するのか。

 

 桶狭間なら知っている。

 だが、信長が大人になる前、この辺りで何があったかと聞かれても、答えられない。

 守山という名前から、勝つ側も、逃げるべき方角も出てこなかった。

 

 俺は父のほうを見た。

 

「何か、手伝えますか」

 

 声をかけると、父は少し眉を寄せた。

 

「ここにおれ。呼ばれても、一人で門へ行くな」

 

 俺はうなずいた。

 ここで勝手に動けば、誰かが俺を探すことになる。

 

 廊下を戻ってきた弥助に、父が声をかけた。

 

「縄も見ておいてくれ。荷をまとめるのに使える物が、どれだけある」

 

 弥助が奥へ向かいかけたとき、俺は口を開いた。

 

「見た物を書くのは、俺がしてもいいですか」

 

 父が足を止めた。

 

「弥助に見てもらって、使える物と、直す物を分けます。さっきのように」

 

 数えるだけなら、弥助一人でもできる。

 それでも、確かめた分を俺が書けば、父へ伝えるために何度も行き来しなくて済む。

 

 父は弥助を見た。

 

「ここへ運べる分だけだ。竹丸は動かすな」

「承知しました」

 

 紙と筆が、俺の前に置かれた。

 

 弥助は持ってきた縄をほどき、途中がほつれている物をよけて、使えそうな物を確かめていく。

 俺は言われた数を書き、用途を聞いた。短い縄と、長い縄を、同じ一つとしてまとめないようにした。

 

 いつもより、筆を握る指が冷たかった。

 それでも、書き慣れた字の形は崩れない。

 手が覚えている動きに任せられる分だけ、弥助の言葉を聞く余裕があった。

 

「短いほうは、三つですね」

「はい。こちらは、荷を結ぶには足りましょう」

 

 紙へ書く。

 まだ、ここで使うのか、どこかへ持ち出すのかも分からない。

 

 父が戻り、俺の書いた数を弥助と確かめた。

 

「分かった。これを使おう」

 

 紙を取り上げる父に、俺は尋ねた。

 

「父上は、どこかへ行くのですか」

 

 父の手が止まった。

 

「話を聞きに行かねばならぬかもしれぬ」

「帰ってきますか」

 

 聞いてから、自分でも驚いた。

 父は俺の前にしゃがみ、筆を持っていないほうの手を握った。

 

「そのために、今、支度をしておる」

 

 必ず、とは言わなかった。

 

 父は男を一人連れ、門を出ていった。

 俺は追わず、弥助のそばへ座り直した。

 

     *

 

 日が傾いても、外の仕事は再開しなかった。

 

 出先から戻った男たちが、門の内側で言葉を交わしている。

 大勢来ると言う者もいれば、道でそれらしい人影を見ただけだと言う者もいた。

 俺には、どこまで本当か分からない。

 

 家の者が荷をまとめ始めると、いよいよ胸が冷えた。

 普段なら気にも留めない器や布まで、持っていく物と置く物に分けられている。

 俺の木片は、部屋の隅にあった。

 

 持っていく余裕は、あるのだろうか。

 そう考えてから、膝の紙に目を戻した。

 

「荷に使う縄を、二つ」

 

 戸口から声がかかった。

 弥助は今、傷んだ柄を外すために別の男と手を動かしている。

 

「長いほうですか」

「そうだ」

 

 俺は紙を見て、確かめ終えた束を指した。

 

「それなら、そちらにあります」

 

 弥助が顔を上げ、うなずいた。

 男は縄を取ると、礼を言って戻っていく。

 俺は渡した分を紙に書き添えた。

 

 誰かを助けたとか、戦に役立ったとか、そんな大きなことではない。

 ただ、忙しい弥助が作業を止めずに済んだ。

 男も、傷んだ縄を持っていかずに済んだ。

 

 次に声をかけられたとき、俺はさっきより早く顔を上げられた。

 

 父が戻ったのは、外が暗くなってからだった。

 門で声がした途端、俺は立ち上がる。

 

「父上」

 

 駆け寄りかけた俺のほうへ、父が先に来てくれた。

 袖の端をつかむと、土と外の冷たい空気の匂いがした。

 

「変わりはないか」

「はい」

 

 弥助が答え、その日の出入りを伝える。

 父は聞き終えるまで、俺の手を袖から外さなかった。

 

     *

 

 そのあとも、落ち着かない日は続いた。

 

 俺が「何か分かりましたか」と尋ねても、父は確かめているところだと答えるばかりだった。

 明日は外へ行けるか、とは聞かなかった。

 

 やがて、家に入ってくる話が変わった。

 

「松平の清康殿が、亡くなられた」

 

 父がそう言うと、弥助の手が止まった。

 

「討ち取られたので」

「身内の者に斬られたという知らせだ。詳しいことは、まだ分からぬ」

 

 松平清康(まつだいらきよやす)。

 俺は、その名前を頭の中で繰り返した。

 

 松平なら知っている。

 けれど、清康という人が今ここで死ぬことは、知らなかった。

 

 父と男たちは、道の様子や、外へ出していた者が戻ったことを確かめ合っていた。

 清康の死を聞いただけで、すぐ荷をほどいたわけではない。

 それでも、話す声からは、最初の日の硬さが少し抜けていた。

 

 俺は父がひと息つくのを待って、尋ねた。

 

「もう、逃げなくてもよいのですか」

「今すぐ家を出る支度は、解いてよい」

 

 父は、そう答えた。

 そして弥助へ、借りて集めた物を返すように言いつけた。

 

 家の中から、誰かの長い息が聞こえた。

 俺もようやく、膝の上で握っていた手を開いた。

 

     *

 

 荷を解く日、俺はまた紙を前に置いて座っていた。

 

 出した縄が戻ってくる。

 使った物、使わずに済んだ物。借りた先へ返す物は、家の物と分けておく。

 弥助が確かめ、俺が書く。

 

「こちらは、どこから借りたのでしたか」

 

 男に尋ねられ、俺は父が残しておいた覚え書きの、読める名前を指した。

 弥助に確かめてもらってから、声に出す。

 

「こちらへ返す分です」

 

 紙の上の名前には、顔が浮かんだ。

 父について外へ出なければ、まだ知らないままだった人だ。

 

 俺は刀も振らず、敵の姿さえ見なかった。

 それでも、父が門を出てから戻るまでの時間は、もう一度味わいたいものではなかった。

 

 父が、使わずに済んだ縄を手に取った。

 

「無駄になりましたか」

 

 聞くと、父は首を振った。

 

「使わずに済んだなら、それでよい」

 

 俺は紙の端に、返した分を書き足した。

 次に必要になったとき、どこへ頼めばよいのかも、今なら少し分かる。

 

 庭では、柄を替えた鍬を男が確かめていた。

 あの日から止まっていた仕事が、一つずつ動き始めている。

 

「父上。次に外へ行くときも、お供をさせてください」

 

 父がこちらを見た。

 

「また、行きたくなったか」

「はい。今度は、返すところも見たいです」

 

 父は、俺の書いた紙を持ち上げた。

 

「では、これを持って来い。途中で落とすなよ」

 

 俺は両手で受け取った。




お読みいただき、ありがとうございます。

今回は、父の仕事を手伝い始めた竹丸が、守山方面の騒動を家の中から経験する回でした。
背景に置いたのは、天文四年(一五三五年)、松平清康が守山で家臣に殺害された「守山崩れ」です。
榎並家へ届く知らせ、その順序や日数、父の外出、道具の貸し借りと家の備えは創作です。史実の軍勢が架空の集落を通ったという設定ではありません。

弥助は、以前に竹丸の木片を削ってくれた男として名前を出しました。
今回は新しいアンケートはありません。次話では、その後の成長もまとめながら、家や土地との関わりを先へ進めていきます。
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