【読者参加型】戦国の弱小武家に転生しました~転生先も特典もその他いろいろ、アンケートで決まります~ 作:病んでるくらいが一番
守山の騒動から時間を進め、六歳になった竹丸の話です。
今回は、父についていく立場から、父の用向きを伝える立場へ、一歩進みます。
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こちらは人間が追記。
二話連続投稿のこちらが1話目です。
六歳になった頃、父に代わって用向きを伝えることを許された。
もちろん、一人ではない。
後ろには
それでも、家を出る前に紙を渡されたのは、俺だった。
「板を四枚。長さと幅は、弥助が持っていく物に合わせてもらう。いつ渡せるか聞いてこい」
「銭の話は?」
「そこは、わしが話してある。違うことを言われたら、そのまま持ち帰れ」
俺は用向きを繰り返した。
父は最後まで聞いてから、うなずく。
「頼んだぞ」
いつもの「ついて来い」とは、少し違った。
*
どこで曲がれば弥助の知り合いがいるか。誰の家なら、昼に行っても田へ出ていて会えないか。
そういうことを覚えるほど、父に聞き返す回数は減った。
家の覚え書きも、よく出る名前なら読める。
知らない字は教わり、書き写す。筆の動きでつまずくことがほとんどないので、読むほうに時間を使えた。
算用も、今のところは前世の知識で足りている。
ただ、頼まれてもいない帳面を勝手に作り替えるようなことはしていない。父が見慣れている書き方に合わせて、俺の書いた物も使ってもらうほうが早かった。
教わった足運びや棒の扱いは、試すたびに手応えが増す。権六が直したところを次にも直されることは、めったになくなった。
それでも、間合いを詰められると負ける。
「そちらへ逃げると思うた」
そう言われるのが悔しくて、今度は逆へ動く。
その逆も待たれていると、なお悔しい。
俺の技が身につく速さと、権六が相手を見るうまさは、別のことだった。
だから稽古は面白いし、外の仕事も見ていたかった。
今日は、板を受け取る話をつける。
家の物置の床が傷み、父が替えを頼んでいたのだ。
*
訪ねたのは、木の仕事をしている
庭へ入る前から、木を削る音がする。
軒の下に長い板が重ねられ、その前で男が手を止めた。
「おや。殿はご一緒では」
「今日は俺が来ました」
答えると、庄助は俺の後ろを見た。
弥助が頭を下げる。
「殿のお使いでございます」
ようやく、庄助の目が俺へ戻った。
子供が遊びに来たと思ったのかもしれない。
父から聞いた用向きを伝え、弥助に持ってきてもらった細い板を見せる。
そこには、床へ入れる板の長さと幅が分かるように、印が付いていた。
「四枚とも、これに合わせていただきたいのです」
庄助は印を見て手近な板を動かし、その下も確かめた。
「二枚なら、すぐにお渡しできますが」
俺は顔を上げた。
「四枚はまだですか」
「残りは、これからでございます」
庄助は手の甲で額を拭った。
「先に別の仕事が入りましてな。殿には、二日ほどでと申したのですが」
二日は、もう過ぎている。
父も、それで俺を寄越したのだろう。
「いつなら四枚そろいますか」
庄助は答えかけて、口を閉じた。
俺ではなく、軒の下の板を見ている。
あまり、よい返事は期待できなさそうだった。
*
前世なら、納期が遅れているという話だ。
催促したくなる気持ちは分かるが、強く言ったところで板が二枚増えるわけではない。
俺は父の言いつけを思い出した。
いつ渡せるか聞いてこい。
できないことを、できると言わせてこい、ではない。
「今ある二枚を、見てもよいですか」
庄助が板を並べ、弥助が印の付いた板を当てた。
長さは足りている。幅も、頼んだとおりらしい。
「これは、持って帰ってよい物ですか」
「はい。そちらは、仕上がっております」
弥助が俺へ顔を寄せた。
「この二枚なら、踏むと沈むところから替えられましょう」
物置の床は、端から端まで腐っているわけではない。
父が言っていたのも、重い物を置く場所と、通る場所を先に直したいという話だった。
全部がそろうまで待つ必要は、あるだろうか。
俺は庄助に残りの見込みを聞き、弥助には二枚を先に運べるかを尋ねた。
「人を呼べば、今日にも。ただ、四枚まとめて受け取るというお話でしたので」
弥助はそこで止めた。
俺に決めろ、とは言わない。
俺も、父の代わりに約束を変えるところまでは任されていない。
「父上へ聞いてきます」
庄助が、少し身を縮めた。
「申し訳ございませぬ」
「二枚はできていることも、伝えます」
怒られないように隠す話ではない。
できている分まで、できていないことにする必要もなかった。
*
戻って話すと、父は最初に、残りがいつになるかを尋ねた。
「あと三日、欲しいそうです」
「三日で間違いないか」
「それでも足りなければ、明日のうちに知らせるよう、お願いしました」
父が俺を見た。
俺は続けた。
「二枚だけ先にいただけば、通るところは直せると弥助が言っています。待つあいだも、床を気にせず運べます」
父は弥助に確かめ、しばらく考えた。
「よし。先に二枚、受け取ろう。残りの支払いは、残りを見てからだ」
紙を出すと、父は俺の手を止めた。
「何を書く」
「二枚受け取ることと、残りは三日後ということです」
「それに、次は遅れる前に知らせよと。お前から、もう一度伝えよ」
俺はうなずいた。
父に言われた文を書き、声に出して確かめる。
筆は、考えたとおりに動いた。
字を一つ書くたびに形を気にしなくて済むので、相手へ伝える内容に集中できる。
父が紙を読み、うなずく。
「これでよい」
その日のうちに、俺はもう一度、庄助の家へ行った。
*
今度は、父の返事を待っている人として迎えられた。
俺が話し終えると、庄助は深く頭を下げた。
「残りも、必ず」
「難しくなったら、先に知らせてください」
父の言葉をそのまま伝える。
庄助は返事をしてから、少し困ったように笑った。
「若様に、二度も足を運ばせてしまいましたな」
「俺は歩けます。四枚の板は、持てませんけど」
後ろで弥助が笑った。
庄助も笑い、運ぶ男たちのほうへ回った。
板を渡して、それで終わりにはしなかった。
弥助が二枚を確かめ、俺は庄助の前で受け取った数を読み上げた。
残りのことも、もう一度確かめる。
子供に伝えたから知らない、にはされたくない。
俺が聞き違えた、と家で思われるのも嫌だった。
帰り道、俺は荷を運ぶ男たちの後ろを歩いた。
朝に来た道を、今日だけで何度も行ったり来たりしている。
「疲れましたか」
弥助に聞かれ、俺は首を振りかけた。
「少し」
「では、ゆっくり参りましょう」
父と同じことを言うので、笑いそうになった。
けれど、今日は父がいない。
俺が伝えた話で、この二枚が動いている。
そう思うと、足の疲れは少し気にならなくなった。
*
残りの板は、約束した日に届いた。
庄助は、運んできた男に俺への言づても持たせていた。
今度は間に合った、と。
父がそれを聞いて笑う。
「お前に返事をよこすようになったか」
俺は、手元の紙へ残りの二枚を書き足した。
父の代わりにすべてを決めたわけではない。作ったのも運んだのも、大人たちだ。
それでも、父へ話を持ち帰り、返事を届け、最後まで確かめるところは、俺がやった。
床を直したあと、父は物置の入り口で足を止めた。
「踏んでみよ」
新しい板へ片足を載せる。
きしむ音はしたが、前のようには沈まなかった。
「これで、しばらくは使える」
俺はもう片方の足も載せた。
紙に書いた四という数字が、今は足の下にある。
父がこちらを見た。
「次も、頼めるな」
「はい」
今度は、外へ連れていってほしいと頼む前に、用事をもらえた。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回の用向きや庄助とのやり取りは、架空の榎並家をめぐる創作です。庄助は木の仕事をする架空の人物として登場しました。
父が任せた範囲で伝え、判断が必要なら持ち帰る。竹丸が身近な人たちとの間で、少しずつ仕事を任されていく回でした。
今回は新しいアンケートはありません。