【書籍版打ち切り爆死】悪役令嬢と石田三成   作:RYUZEN(孔明)

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最終話  マイ・ネーム・イズ……

 アナリーゼと三成の結婚披露宴は、内乱終結の翌年の吉日を選んで執り行われた。

 アガレス朝としては即位式以来の、そして天下統一後の初めての大々的な行事ということもあって、バエル王国中の封建貴族の当主は、一人の例外もなく全員出席していた。もし病気などを理由に披露宴に不参加となれば、たとえ病気が本当だろうと、アナリーゼに叛意があるから仮病を使ったと見られて粛清リストに名前がのりかねないからである。

 動乱以降の数々の行動によって氷の女帝アナリーゼは、今やバエル王国中から畏怖される存在となっていた。

 そして全封建貴族の当主が出席しているということは、当然ヴェロニカもいた。爵位を侯爵へ落とされ王位継承権も失ったヴェロニカだが、元々の領地を全て安堵された事で、依然としてバエル王国内では侮りがたい実力を有していた。

 

「女王陛下、この度はご結婚おめでとうございます」

 

 ヴェロニカは他人行儀で恭しく挨拶を述べた。

 

「ありがとう。ウァレフォル侯も長旅ご苦労だったわね」

 

「そのお言葉を頂けただけで、長旅の疲れも吹き飛ぶというものです」

 

 もうアナリーゼとヴェロニカの二人の間に、嘗てのような親しいやり取りはなかった。お互いに寂しさを押し殺しているが、アナリーゼは今やバエル王国の女王で対等な者など存在しない権力者。その仲を取り持てる人間などいるはずがない。

 

「そう。もう下がっていいわ。次は……」

 

「ヴェロニカァァアアアアアアアアア! アナァアアアアアアアアアアアア!」

 

 だがここに例外がある。

 堂々とアナリーゼとヴェロニカの二人の間に割って入ってきたのは、ベリアル王国の新女王として即位したディアーヌだった。

 

「でぃ、ディア!?」

 

「ど、どうしたのかしらディア……じゃなくてディアーヌ女王」

 

「二人とも! 折角の結婚式なのになんでそんなに他人行儀なんですか! スマイルが足りませんよ!」

 

 そう、バエル王国にアナリーゼと対等な人間など一人としていない。三成ですらそうだ。しかしベリアル王国の女王でありディアーヌだけは、アナリーゼもヴェロニカも堂々と友と言っても許されるのだ。

 

「ディア、私はレグルスの戦いに敗れ、女王陛下に臣従した身よ。公の場で女王陛下に親しげに声をかけるなんてできないわ。あの頃とは違うのよ」

 

「それは分かってますけど……こういう時は……三成さん!」

 

 ディアーヌが無茶ぶりすると、三成は応えた。

 

「参列者の皆々。女王はウァレフォル侯と急に内々の話がしたくなったそうなので、暫く防音の魔法をかける。如何なる理由があろうとも、盗み聞く事はまかりならぬ。もし禁を破り盗み聞きを企てる者がいたら、謀反人として一族郎党処刑するものとする」

 

『は、ははーっ!』

 

 周囲の貴族達は一人の例外もなく従った。

 アナリーゼはやると言ったら躊躇わずやる人物である事を、この場の誰もが知っていた。

 そしてアナリーゼが防音の魔法を自分たちの周囲にかける。これまでも三成と内密の話をする時に何度となく使っていたので慣れたものだった。

 

「……まったくディアもお節介ね。けど折角だからありがたく受け取っておきましょうか」

 

「ええ」

 

「名前も知らないアンタ。私はもうアンタの友達ではいられないわ。それはもう、分かるわね?」

 

「……分かってるわ、勿論」

 

「私はアンタのやっていることを認めたわけじゃない。監獄島は取り潰してさっさと革命軍幹部は処刑するべきだと思うし、いくら平民に落としたとはいえ、カシムに監視もつけずに自由にさせておくのは危ういと思う。私がアンタに臣従しているのは、アンタを倒すことで流れる血が、アンタが王であり続けることで流れる血より多いから。もしその天秤が崩れるようなことがあれば、その時、私は改めてアンタを殺しに行くわよ」

 

「肝に銘じるわ」

 

 繰り返すが依然としてヴェロニカは西部に大勢力を維持している。ヴェロニカが共和国残党や革命軍残党を結集させ反乱を起こせば、バエル王国は再び内乱に逆戻りだろう。

 

「だからこれが最後よ」

 

 ヴェロニカはそう前置きすると、最高の笑顔で言った。

 

「結婚おめでとう!! 三成と末永く幸せにやりなさい!」

 

「……っ! そういうヴェロニカこそ、バジルと幸せになってね」

 

「ちょ、なんでそこでバジルが出てくるのよ!」

 

 顔を真っ赤にしたヴェロニカが反論する。しかしそれは図星だと白状しているようなものだ。アナリーゼはにやにやと笑いながら揶揄う。

 

「おやおやぁ~。満更でもなさそうなリアクションいただき♪ グッド!」

 

「まぁ……あいつが私の隣にいないことなんて考えられないし、満更でも……ないかなぁ……」

 

「ふふふ。お互い末永く、ね」

 

 そして暫しアナリーゼとヴェロニカは見つめ合う。

 永遠のような数秒の後、アナリーゼは口を開いた。

 

「『         』」

 

 それはこの世界でアナリーゼと三成だけが知っている、日本のとある女子高生の名前だった。

 

「それがアンタの名前? いい名前じゃない」

 

 そう言うとヴェロニカは教えられた名前を大事に心のポケットにしまいこむと、アナリーゼに背中を向けた。

 

「さようなら。もう二度とこうして話すこともないでしょう」

 

「ええ、さようなら、ヴェロニカ。私の、最後のお友達」

 

 ディアーヌがしまいこんだ名前を刻みつけるように、左胸に手をあてるヴェロニカに声をかける。

 

「もう、いいんですかヴェロニカ?」

 

「十分よ」

 

 言葉通りヴェロニカがアナリーゼと友達として会話する事は、一生なかった。

 ウァレフォル侯ヴェロニカはアナリーゼに終生臣従を続けたが、一方で他の外様貴族とも積極的に交流し人材収集にも余念がないなどアガレス朝にとって油断ならない味方であり続けた。その姿勢はまるで豊臣政権における家康の如しであり、三成は終生彼女への苦手意識を捨てきれなかったという。

 病没した父にかわりベリアル王国の王位を継承したディアーヌは、弟のレイヴェンと二人三脚で等級制度や魔法至上主義の悪しき風習を消し去り、ベリアル王国を学術国家として生まれ変わらせた。女王ディアーヌはベリアル王国の中興の祖として名が伝わる。残念ながらアナリーゼと三成の間に挟まるという野望は成就することはなかったが、彼女はアナリーゼと唯一対等な友人としてあり続けた。

 

「マイ・ロード・ヴェロニカに天下をとらせられなかったのは、悔しいけど、あの二人が殺し合うことがなくなったなら、そっちのほうが良かったかもなぁ」

 

 アナリーゼとヴェロニカの二人だけのやり取りを眺めていたセシルが呟いた。バジルが同意するように頷く。

 

「同感だぜ。きっとあのザリガニ姫さんを殺して天下をとったら、ヴェロニカのほうが笑えなくなっちまっていただろうしな」

 

「そうでもないぜ。確かにマイロードは他の誰かの前で笑うことはなくなるだろうけど、一番信頼する人と二人っきりの時だけは、笑うことを自分に許すさ。たぶんアナリーゼと三成が影でそうしているようにな。なあウァレフォルの婿様?」

 

「……俺でいいのかねぇ」

 

 元伯爵とはいえバジルは元奴隷である。自分のような身近にいて、態々結婚しないでもずっと側にいる人間より、もっと選ばれるべき運命の相手が他にいるのではないか。そういう悩みがバジルにはずっとあった。

 しかし話を聞いていたミランダが、小馬鹿にするように言う。

 

「アンタで、いいじゃないだろ。アンタが、いいんだよ。たぶんな」

 

 ミランダにあっさり反論されて、バジルにあった引っ掛かりが消えた。

 

「そうか、あいつは結婚相手に妥協するような奴じゃねえもんな」

 

 バジルは年齢相応の笑みを浮かべると、ヴェロニカにプロポーズする事を決めた。

 セシル・アルカディアは男の娘アイドルとしてソロモン大陸に旋風を引き起こした。バエル王国とアスモデウス王国はそれから幾度となく戦を繰り広げることになるが、アイドルに国境はないのである。

 バジルはウァレフォルの領土を割譲する形で、フェニックス伯爵家の復興を認められた。ウァレフォル侯ヴェロニカとの間の婚姻が発表されたのは、間もなくのことである。幼馴染、戦友、保護者、親友、悪友、主従に加えて夫婦という関係性が加わったが二人の付き合い方が変わることはなかった。

 ミランダは戦後もヴェロニカ、エドムンドなどと友達づき合いを続けた。入学当初の独りぼっちの少女はもうどこにもなく、老いた彼女が永眠する際、そのベッドの周りには老若男女百人以上の友達がいたという。

 エドムンド・サブナックは正式に父ジョージより当主を継承。一度も戦わずに降参したという汚名を消すため誰より熱心にアガレス朝のために働き遂にはアガレス朝十三名臣の一人に名を連ねることになる。

 三成、クロムウェルと共にアガレス朝三傑に名を連ねたオリヴィアはクロムウェルと同じく元帥号を与えられると北方方面軍司令を任せられた。アスモデウスの南方方面軍司令であるオルランド・マルコシアスとは、敵同士という立場を超えた奇妙な友情で結ばれオルランドが先に寿命で陣没した際には号泣し弔問の使者を送ったという。そして同じようにオリヴィアが病に倒れるとオルランドの息子が、亡き父にかわって見舞に訪れたとも伝伝わる。オリヴィアが引退を決めたのは、それから直ぐのことであった。

 バルドゥス・グランドールは無事にラウラと結婚し、自身最大の野望を成就した。それからはラウラの尻に敷かれ続け、トリスタンを除く家臣たちがグランドールではなくラウラに従うようになるまで時間はかからなかった。

 なおアガレス朝十三名臣にトリスタンやラウラの名前はあるがグランドールの名前が刻まれることはなかった。が、それでグランドールが不満を露わにすることはなかったという。何故なら彼は最愛の妻というもっと価値のあるものを手に入れていたからである。

 旧共和国のメンバーのうち降伏組は、国軍に編入されアスモデウス王国との戦いで活躍していった。特にリュミナ・ローウェンは文武において活躍し旧共和国の人間としては唯一アガレス朝十三名臣に名を連ねた。

 十三名臣において序列二位とされた謎多き男ノア。彼はアナリーゼにより創設された秘密警察ヒュドラの初代長官となり、アスモデウス王国の諜報機関や地下に潜った旧共和国や旧革命軍と暗闘を繰り広げることになる。怜悧な秘密警察長官という印象が強いノアだが、一方で家庭では良き夫であり良き父だったらしく、引退後は穏やかな老後を送った。

 戦時中ずっとテグミン要塞を死守し続けていたせいで出番も武勲もなかったカーナ・ドーリッシュだったが、それでもテグミン要塞に侵攻する隙すら与えなかったという事が評価され男爵位を得た。また三成が王配となった事を機に石田家家臣からアガレスの直臣に移った。公人として一度も間違いを犯すことはなかったのでアガレス朝十三名臣入りすることになるのだが、目立った事績がまったく残らなかったせいで後世の歴史家の頭を大いに悩ませることになり、歴史小説などでは空っぽであるが故にどんな役でもやらせられるフリー素材として扱われることとなる。

 メイドからアガレス朝初代親衛隊長となったアスールは当然のように十三名臣入りした。アナリーゼの側には常にアスールが侍り、暗殺者がアスールを見た途端に失敗を悟り断念したという逸話が残っている。

 アガレス家執事長からアガレス朝初代宮内卿となったヘンリーは、それからも宮廷内の一切を取り仕切り続けた。十三名臣の中では堂々の序列一位。三傑を除けば女帝アナリーゼが最も信頼した人物として伝わる。成人後は幼馴染のユメリアと結婚。またどうやら晩成型だったらしく年をとってから才能が開化し、晩年には絡んできた暴漢100人を一人で殲滅したという武勇譚が伝わる。後年老いてますます盛んの代表例的人物となった。

 ハレーは旧王都シリウスに赴任し、その復興に努めた。二十年後は老齢を理由に引退し、以後はご意見番としてアガレス朝を見守っていくことになる。

 こうしてバエル王国の内乱は完全に終結した。だが戦いは終わらない。

 アスモデウス王国を統一し強力な中央集権国家を築いたジゼルとの長い長い戦いが始まったからだ。

 そして百年の時が過ぎた。

 

 

 

 百年後、王都アルタルフの宮廷にて一人の老婆が報告書を読んでいた。大分視力が弱まっているのか目を細めながら老眼鏡を覗き時間をかけて内容を確認する。

 そして内容を全て読み終わると、ほっと一息ついた。

 

「やっとアスモデウスとの戦いも一段落したね」

 

 彼女こそアガレス朝バエル王国に百年君臨し続けた百年女帝アナリーゼ・アガレスその人であった。既に年齢は百十八歳を数えるが、未だに杖が必須とはいえ、自分で立って歩く頑強さを見せていた。しかしここ一カ月で急激に体力が低下して、最近はもう自室から出る事もなくなっている。

 

「グランドールとラウラの孫がよく働いてくれたな」

 

 もはやバエル王国のみならず、ベリアル王国や敵国であるアスモデウス王国からすら敬称をつけられる存在となったアナリーゼに、気安い口調で話しかける老爺。だがここが公共の場でもそれを咎める者は皆無だろう。何故なら彼は女王アナリーゼより唯一公の場でも対等に会話する事を許された彼女の夫である石田三成なのだから。異世界転生の影響で肉体が二十歳まで若返ったとはいえ、肉体年齢だけでも百二十三歳。実年齢でいえば驚異の百四十四歳であった。

 

「二人の美点だけが遺伝したようだ。逆であれば悲惨なことになっていただろう」

 

「これでまた少し……平和が続くわね……今度の平和は五年か……できれば十年以上は続けたいけど」

 

「大丈夫だ。今度の平和は十年、いや二十年は続く」

 

「そう。三成さんが、断言するなら、きっとそうなのね」

 

 安心したアナリーゼは思い出したかのように言う。

 

「ああ……そうだ……大臣たちが監獄島の閉鎖を……求めていたでしょう……。しつこいようなら……また何人か見せしめを……」

 

「監獄島なら、既に閉鎖している。収容されていた囚人たち全員が天寿を全うしたからだ」

 

「ヴォーティガン先輩……カシム先輩……先生閣下……ヴェロニカ……ディア……」

 

「全員死んだ。当時を生きた者で、まだ生きているのは俺とお前だけだ」

 

「そう、だったかい……じゃあ政務を……」

 

「政務なら、今はもう王太孫に任せているだろう」

 

「それじゃえーと……やることが、なくなっちゃったじゃないの」

 

「そうだな。お前にやることはもうなにもない」

 

 百年間、アナリーゼはずっと走り続けてきた。

 王権を絶対化するための自身の神格化、革命の芽を断つための共和主義思想の撲滅、農業と商業を充実させる事で国内の安定化、南下してくるアスモデウス王国への防戦と制裁のための出兵。暗殺者に命を狙われた事もあるし、逆に暗殺者を差し向けた事もあった。健康を維持するために常に医者と白魔法使いを側に起き、食事と睡眠には人一倍気を使い続けた。

 だが三成にそう言われた途端、張りつめていた力が消えていくのをアナリーゼは感じた。

 

「ふふ……あの内乱から、やることがなくなるなんて、初めてのことよ」

 

「なら、そろそろ休むといい。とても……疲れただろう」

 

「そうねぇ……なんだかとっても眠たいよ……ああ……」

 

「よく……頑張ったな」

 

 三成からの労わりの言葉をかけられ、心の中に暖かい気持ちが広がる。穏やかな充足感に満ちたまま、アナリーゼは睡魔に誘われるがまま瞳を閉じた。

 

「…………―――――――」

 

 そして、その瞳が開かれる事は二度となかった。

 

「ゆっくりと……休め」

 

 ソロモン歴1293年1月14日。

 女帝アナリーゼは長い生涯を漸く終えた。

 そしてその一か月後。後を追うように――――或いは安心したように石田三成は息を引き取った。

 

 

 

 アナリーゼが次に目覚めると、そこには一面の田んぼが広がっていた。

 何処かで見た覚えがある大切な場所の筈だが、あまりにも古い記憶のせいで思い出せない。

 

「あれ……ここ、は? どこ、だったかしら……?」

 

「まったく。できるだけゆっくり来て欲しいと願っていたが、流石に遅すぎだろう」

 

「!」

 

 懐かしい声がして振り返ると、そこには百年前に死んだ筈のヴィクトリスとマルグリットが並んで立っていた。

 

「一番遅刻した罰ゲームとして、後片付け役は君に決めた!」

 

「駄目ですよ殿下。アナリーゼ様はすっごくお疲れなんですから」

 

「ヴィクトリス殿下! マルグリット!?」

 

 夢ではないかと目を擦り頬を抓るが、二人の姿は消えてなくなったりはしない。確かな現実としてそこにいた。

 そこに更なる驚きがアナリーゼを襲う。

 

「一つ訂正があるぞ。一番遅刻したのはアナリーゼではない。一カ月ほど俺が遅かった」

 

 そう言って現れたのは百年生きて老人となった三成ではなく、学園に通っていた頃の若々しい三成だった。

 

「ああ三成様ってば『絶対あいつより先に死なん』って頑張ってましたからねぇ」

 

「ふっ、一カ月なら俺の勝ちだな。俺はヴェロニカが死んだ後、一年生きたからな」

 

「変な勝負しないの」

 

 アスール、バジル、ヴェロニカが次々に現れる。やはり三人共、学園に通っていた頃の若い姿だった。

 その時、田んぼの水面に映る同じように若々しい自分の姿を見て、アナリーゼはここが何処なのかを理解する。もしこの世に神様がいるなら、最高のプレゼントを与えてくれたらしい。

 

「ナディアァ。俺とシーリンの間に生まれた子は、本当にお前そっくりでなぁ……! あいつが嫁に行くときは……うおおおおおおおおおお! お前にもウェディングドレスを着せてやりたかった!」

 

「あ、あはは。お気持ちだけで嬉しいです、お兄様」

 

 アナリーゼを置いてけぼりにしてカシムとナディアは、百年ぶりの再会を喜んでいた。

 だが感動にむせぶカシムに対して、何故か居心地悪そうにしているナディアを見て"同じ"ヴォーティガンが何かを察する。

 

「…………もしかして、あいつ」

 

「どうしたんですか、ヴォーティガンくん?」

 

「いや……世の中には明らかにするべきではない真実もあると思ってな」

 

「?」

 

 ロウィーナがきょとんとする。

 ヴォーティガンはカシムの死後の魂の安寧のため、気付いた真実を黙っている事に決めた。

 

「それよりアナと三成さんの二人も来たし、始めましょう!」

 

 気を取り直すようにディアーヌがパンと手を叩いて宣言する。

 

「始めるって、なにを?」

 

「決まってるでしょ! 幻で終わった100年ぶりの第三回シリウス王立学園ザリガニ釣り大会よ!」

 

 アナリーゼの疑問にヴェロニカが言った。

 内乱終結後、アナリーゼは孤独だった。三成だけが夫として寄り添ってくれていたが、それだけでは孤独は埋められない。それはアナリーゼ自身が選んだ、絶対的な王が背負わなければならない業である。

 しかしなにも死んだ後にまで、業に縛られる必要はないだろう。

 

「さぁ、行くぞ」

 

「うん!」

 

 三成の差し出した手を握る。

 アナリーゼはもう、自由だった。

 

 

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