【書籍版打ち切り爆死】悪役令嬢と石田三成   作:RYUZEN(孔明)

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第54話  海藻と生徒会選挙

 冬休みが終わるとシリウス王立学園では直ぐに生徒会選挙シーズンとなる。

 王立学園の生徒会長を務めることはバエル王国で立身出世する上で、重要なステータスになるが、バエル王国最高の格式のあるシリウス王立学園の生徒会長は特別だ。歴代の生徒会長経験者には錚々たる面子がずらりと並ぶ。例えば209年前に滅亡寸前に追い詰められたバエル王国を救った救国の英雄ヘルムートも、シリウス王立学園の生徒会長を二年に渡って務めている。他にも歴史に名を残す文官武官を容易く見つけられるだろう。

 ともあれシリウス王立学園生徒会長というのは、将来の宰相や元帥を目指す者には絶対に手に入れておきたい経歴なのだ。

 

「もっとも出世するということは妬みを買いやすいことでもある。元生徒会長の中には逆賊として処刑された者や、罪を犯して投獄された者、国を追われ亡命した者も成功者と同じ数存在するがな。トーマス会長もどうなるものやら」

 

「縁起でもないこと言わないで三成さん」

 

 生徒会選挙について三成と話し合っていたアナリーゼは、恐ろしいことを言い始めた三成を嗜める。

 

「それで今年の生徒会選挙に立候補するのは誰なの?」

 

「英雄イスマイル・エリゴスの息子で特に武門に絶大な人気のあるカシム・エリゴスと、平民から下級貴族層に絶大な人気を誇るヴォーティガン・リドルの一騎打ち……と俺も予想していたのだが、ここに挑む三人目がいるようだ」

 

「へぇ、三人目ね。どういう人?」

 

「二年のアルガ・マリーナ・ナベリウスだ。ソロモン七十二名家の一つ、ナベリウス侯爵家の次期当主だ」

 

「あのヴォーティガン委員長とカシム副会長の対抗馬になるんだから凄い人なのかしら?」

 

「いや貴族派に擁立されただけで大した人物ではない。ヴォーティガンが生徒会長になるのもカシムが生徒会長になるのも気に入らないが、かといって二人に対抗できる候補もいない、しかし不戦敗も癇に障るということで二年生で一番爵位の高い者が擁立されたわけだ」

 

「な、なんだか可哀相な人ね」

 

 完全にただの神輿だ。それも勝ち戦ではなく負け戦での敗戦処理のための神輿である。アナリーゼは顔も知らないアルガ・マリーナなる人物に同情した。

 

「まあ擁立した者たちは擁立した手前、彼に投票するだろうから、余り悲惨な結果にはならんだろう」

「そ、そう。良かったわ」

 

 神輿として担がれたのに投票数が一桁だったら、侯爵家の次期当主としてかなりの汚名になってしまうことだろう。三成の話だと取り敢えず面子が保てるだけの票が入るようなので、アナリーゼは安心した。

 

「といっても過半数以上の票がとれるほどでもないから、やはりヴォーティガンとカシムの一騎打ちだな。ヴォーティガンは初日の変態教師追放、カシムは副校長追放。功績の大きさでは後者だが、後者にはヴォーティガンも一枚噛んでいる。今のところ人気はほぼ互角だな」

 

「そういえばヴィクトリス殿下は? 王子だけど生徒会選挙はノータッチ?」

 

「のーたっちがなんなのかは知らんが、ヴィクトリス殿下は生徒会選挙には出ないし、そもそも殿下に生徒会長をやる気があるなら選挙にならん」

 

「やっぱり殿下が出馬すると、みんな遠慮しちゃうの?」

 

「いや、そもそも学園の校則に『生徒会長は王族で序列の高い者がやる』と書いてある。生徒会選挙とは生徒の中に王族がいない場合に『王族の代理たる生徒の代表者』を選ぶものでしかない。事実、第一王子や第二王子は、入学したその日から生徒会長をしていたそうだからな」

 

「そ、そうだったの? じゃあなんでヴィクトリス殿下は生徒会長を――」

 

 言いかけてアナリーゼの脳内に野生の熊と格闘しながら、サムズアップするヴィクトリスの姿が浮かび上がった。常日頃から自分は王に相応しくない、それより戦場で一介の将として暴れまわりたいなどと公言するヴィクトリスが、果たして生徒会長なんてやりたがるだろうか? 答えはNOだ。

 

「あ、ごめん。予想できたわ。すっごい予想できた」

 

「察しの通り殿下は『面倒臭いし、他にやりたいことがある』と言って、生徒会長になることを断った。学校の校則にも在校生に王族が存在している場合でも、その王族が生徒会長職につくことを拒否した場合、生徒会長職は生徒会選挙で選ばれた生徒の代表者に委任されるものとすると書いてあるからな」

 

 書記としてこの半年間生徒会業務に携わったアナリーゼなので、生徒会の大変さは分かっている。あの頭がお馬鹿なヴィクトリスにはとても生徒会長の職務が果たせるとは思えないので、ヴィクトリスが生徒会長職を辞退したのは英断だったといえるだろう。

 

「アナリーゼ、どうする?」

 

「どうするって、何が?」

 

「分からんのか? まったく自覚がないようなので説明するが、バエル王国の封建貴族筆頭であるお前は、この選挙の勝敗を左右できる立ち位置にいる」

 

「え!?」

 

「アルガ・マリーナ・ナベリウスを擁立している者たちも、お前が強く言えばアルガ・マリーナの立候補を取り下げて、ヴォーティガンかカシムかに転がせられるだろう。他に票を分けるヴェロニカ、ディアーヌ王女、ヴィクトリス殿下といった有力者にもお前は強い影響力をもっている。その気になればアルガ・マリーナ・ナベリウスに代わり、第三極として登板もできるだろう」

 

「わ、私まだ一年生よ?」

 

「一年生は会長選挙に立候補してはいけない法はない。そして貴族にとって重要なのは学年ではなく爵位だ」

 

 アガレス家はバエル王国において(自爆の超魔法を持つ故の特例により常に序列零位に置かれているエリゴス家を除けば)序列第一位の大貴族だ。王族を除けばアガレス家に匹敵するのは二大公爵家の片割れたるヴェロニカのウァレフォル家しかない。

幸いにしてヴェロニカ自身は生徒会選挙に出馬するつもりはないようなので、彼女を説得して味方に引き込むことが出来れば、アナリーゼはカシムとヴォーティガンに匹敵する有力な会長候補に躍り出る事ができるだろう。

 

「ヴォーティガン委員長にエリゴス副会長か。取り敢えず私が出馬しない場合、三成さんはどっちが会長になるほうがいいと思う?」

 

「忌避のない意見を言うなら、どっちも危うい臭いがする。かといってお前自身が生徒会長に立候補するのも、それはそれで危ういかもしれん」

 

「どっちも駄目じゃない!」

 

「お前の頼みの綱のネタバレ糞レビューアーはなにか言っていないのか?」

 

「ネタバレ糞レビューアー? ちょ、ちょっと待って。思い出すから!」

 

 目をぎゅっと瞑って前世の記憶を手繰り寄せる。すると『生徒会』というキーワードに引っかかる記憶が、段々と鮮明に浮かび上がってきた。

 

『学園編での今後を左右する重大イベントの一つ、生徒会選挙! 基本これはカシムとヴォーティガンの一騎打ちで、ヴィクトリスルート限定で王族としての自覚が芽生えたヴィクトリスが生徒会長になります。しかし隠し要素としてカシムとヴォーティガンの好感度と人気がまったくの同数だと『ワカメ先輩』がまさかまさかの生徒会長就任します!

 やったー! ワカメパイセン大勝利ぃ~! と盛り上がるワカメファンの皆さん。悪いこと言わないからやめときましょう。ワカメ先輩が会長になると一週間後にワカメは死体で発見されます。

 階段から落ちて死んだ事故死ということで処理され、作中でもはっきりと真相は明かされませんが、ゲームをクリアしたプレイヤーなら、誰が犯人なのか一目瞭然ですね。

 ちなみにワカメ先輩が死ぬと、某国の大統領よろしく現職が死ぬか退学するかすると、副会長が会長職に繰り上がるようになっているので、ワカメ政権の副会長がそのまんま生徒会長になります。この生徒会長ですが一年生の男子生徒であることしかわかりません。立ち絵も用意されていなければ名前すら設定されていない所謂モブですね』

 

 というような内容をアナリーゼは捲し立てた。そうして気になったことを三成へ尋ねることにした。

 

「ねえこのワカメ先輩っていうのって、三人目の生徒会長候補の……えーと……」

 

「ワカメが渾名だというのならアルガ・マリーナ・ナベリウスで間違いないだろう。一度顔を見たことがあるが、確かに海藻類を頭に被ったような頭をしていた」

 

「って、それじゃアルガ・マリーナって人が生徒会長になったら死んじゃうなら、絶対にこの人だけは生徒会長にするわけにはいかないじゃない!」

 

「敢えてこのアルガ・マリーナを生徒会長にして、囮にするという手がある。それで殺害犯の尻尾を掴めればよし、失敗しても赤の他人のアルガ・マリーナが死んだところでこちらにはなんの痛手もない」

 

「私の心が痛むの! ハートがブロークン!」

 

 一つだけ確かなことは、この学園内にアルガ・マリーナが生徒会長になった場合、殺害しようとする危険人物――犯人Xが存在しているということだ。それが生徒なのか教師なのか、或いは外部犯なのかは不明であるが。

 

「……」

 

 アナリーゼは熟考する。アルガ・マリーナを生徒会長にしない方法は簡単だ。自分がカシムかヴォーティガンのどちらかに大々的に肩入れすればいい。ヴェロニカも説得すれば勝利はより確実なものとなるだろう。

 だがそれでカシムかヴォーティガンのどちらかが生徒会長になったとして、犯人Xが生徒会長になった者の命を狙うかもしれない。攻略キャラの二人が共通ルートの学園編で死ぬはずがない、なんていうのは早計だ。世の中には正規のEND以外に、40ものバッドエンドが存在するゲームだってあるのだ。ホロスコープ・クロニクルがそうではない保証なんてどこにもない。

 だとすればカシムもヴォーティガンも、そしてアルガ・マリーナの死も確実に回避できる方法はたった一つだけだ。

 

「…………や、やるわ」

 

「なに?」

 

「私が立候補するわ! 生徒会長!」

 

「……分かっているのか? 生徒会長になった場合、死体で発見されるのが、お前になるかもしれんのだぞ」

 

「私だって嫌よ! でもでもワカメ先輩が会長になると死んじゃうんだし、ヴォーティガン委員長とカシム副会長も危ういなら、私がやるしかないじゃない! もちろん暗殺対策はガッチガッチにやるわよ! トイレは一人じゃ行かないし、お風呂はアスールと一緒に入るわ! 寝る時もアスールを抱き枕にする! これでパーフェクトブロック!!」

 

「確かに有効な対策ではあるが……」

 

 アスールは最強クラスの護衛だ。雑兵相手なら一人で百人は軽く薙ぎ倒せる。もしかしたら千人だって倒せるかもしれない。歴史上の伝説的な殺人鬼だって、アスールの鉄壁の護衛を突破することはできないだろう。

 

「じゃ、じゃあそういうことで……」

 

「待て。協力するにあたって一つ条件がある」

 

 無条件で自分の味方をしてくれると確信していた三成が、いきなりそんなことを言い出してアナリーゼは驚いた。だが三成の言う条件を聞いて更に仰天した。

 

「もしもお前が暗殺で死ぬようなことがあれば、俺も腹を切って死ぬ」

 

「そんな! し、死ぬって……どうして……」

 

「お前が生きろと遺命を残そうと無視する。お前の仇討ちだってしない。お前の死が確定したその瞬間、俺はその場で腹を切る。刀がなければ舌を噛んで、猿轡もされているなら頭を壁に叩きつけて、絶対に死んでやる。それでもいいなら、やれ」

 

「要するに絶対に死ぬなってこと?」

 

「そうだ。アナリーゼ、お前が命を賭けるということは、この三成の命を賭けるということだ。決して忘れるな」

 

「ええ、忘れないわ。ずっと」

 

 絶対に死なせない、そして絶対に死なない。

 ずっしりと重くなった自分の命を感じながら、アナリーゼはそう気持ちを新たにした。

 

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