【書籍版打ち切り爆死】悪役令嬢と石田三成 作:RYUZEN(孔明)
放課後。トーマス会長、カシム副会長にヴェロニカの集まった生徒会室でアナリーゼは自分が生徒会選挙に立候補する旨を話した。
話を聞いた皆は仰天していた。特にトーマス会長とカシム副会長の衝撃は大きかったようで、二人とも思わず椅子から立ち上がってしまうほどだった。
「せ、生徒会長に立候補しただって!? ど、どういうことだ!」
「本気なのか?」
トーマス会長とカシムの視線に、アナリーゼは力強く頷いた。
「本気も本気、命懸けで本気! オネスティ!」
「アンタって、そういうものに立候補する奴だったっけ?」
二人程ではないが驚いた様子のヴェロニカが言った。幾らなんでも生徒会長になった者を殺す犯人Xが潜んでいることなどは言えないので、代わりにアナリーゼは「絶対に生徒会長になるって決めたの!」ともう一度力強く宣言した。
するとカシムは、
「本当ならもっと後になって、信頼関係を確かに結べてから言うつもりだったが、今言うぞ」
雰囲気の変わったカシムに、察した様子のトーマス会長が生徒会室に防音の魔法をかけた。瞬時にヴェロニカがいつでも魔法を発動できるように魔力を張って、背中に手を伸ばす。もしかしたら短剣でも隠し持っているのかもしれない。
「アナリーゼ、ヴェロニカ。お前たちも今の王政の腐敗っぷりは知っているだろう? 俺たちは政治の実権を王から奪うつもりでいる」
「っ!」
「……反乱を起こすつもりか?」
これまで黙っていた三成が口を開いた。
「いや『なるべくなら』この学園で行われている生徒会選挙。これと似たようなものを王政にも導入する方向でいきたいと思う」
なるべくなら。軽いようで重い言葉である。つまりは武力によるクーデターも想定していると、カシムは言外に告げていた。
「副会長は王政を立憲君主制にして議会を作りたいんですか?」
「俺の話を聞いてすぐそういう発想が出てくるのか。ますます……得難い」
アナリーゼは前世の一般常識から導き出した答えを言ったつもりだったが、そんな事を知らないカシムはアナリーゼが深い知見を持っているのだと勘違いをしたようであった。
「アナリーゼ、三成……。二人だけではなくヴェロニカ、君もだ。君のことは父親同士の因縁で誤解していたが、今はアナリーゼと同じく次世代を担うべき人材の一人だと確信している」
「……!」
「俺に力を貸してくれ! 国政を王族の専有物から、国を憂う志士たちの共有物としよう! 他のだれでもない俺達で国を変えるんだ!」
カシムはアナリーゼを遥かに超える強い言葉で言い放った。きっと歴史に名を残した偉人たちは、カシムのような強い言葉で人々を熱狂させてきたのだろう。
アナリーゼはカシムの言葉に従いたくなる感情を抑え込むと、カシムの目を真っ直ぐ見ながら言う。
「(中身現代JKの)私としては絶対王政とかそういうのより立憲君主制のほうが親しみがあるわ」
「ならばッ!」
「でも決めたんです。カシム副会長の考えはいいと思いますし、頑張れとも思います。けど国政じゃなくて、シリウス学園の生徒会長は……私がやります」
「そうまでして生徒会長になって、なにをする気だ?」
「私は人が死ぬようなことは避けたいんです」
学園内で起きる殺人事件を防ぐ、アナリーゼの中にあるのはその一念であった。だがアナリーゼの言葉を聞いたカシムは別のことを思ったらしい。どこか納得したような顔で言った。
「……そうか。君は、そういう人間だったか。ヴォーティガンの奴も似たようなことを言っていたよ。俺は例え血が流れようとも、果たすべき志はあると思うが、そういう考えも否定はするまい」
カシムは椅子を机に戻すと、
「話は、終わりだ。この生徒会室は『次の会長』のものだ。選挙が終わるまではお互い来ないことにしよう」
「……はい」
そう言い残しトーマス会長……いやトーマス元会長と共に生徒会室を出ていった。
後にはアナリーゼ達だけが残される。
アナリーゼはヴェロニカの横顔を見ると、意を決して口を開いた。
「ねえヴェロニカ」
「なによ?」
「私、トイレに行きたくなってきたわ!」
「行けばいいんじゃないの?」
「一緒に行きましょう! 友情の連れションよ!」
「つ、つれ!? 普通そういうのって男同士でやるもんじゃないの?」
「いいじゃない女同士でも! さぁさぁ!」
そう言ってアナリーゼは強引にヴェロニカを引っ張っていった。
残された三成はそんなアナリーゼ達を少し羨ましそうに見送っていた。
そうして女子トイレに二人っきりになったアナリーゼは、開口一番で恥も外聞もなくヴェロニカに頭を下げた。
「お願い生徒会選挙に協力して! ヴェロニカが敵対して、貴族票が割れて、ヴォーティガン委員長かカシム副会長に流れたら負け確実って三成さんが言ってたのよ!」
「んなことだろうと思ったわよ」
ヴェロニカは呆れたように言った。
「……カシムにはああ言ってたけどさ。実際のところアンタってなにがやりたいの? 生徒会選挙云々じゃなくて、卒業したその先で」
「私はただ生き残りたいの! 死にたくないの!」
アナリーゼは自分のハラワタをぶちまける。実にシンプルでなんでもないような願いだが、それはこの世界に転生したその日からアナリーゼが抱き続けてきた思いそのものであった。
「生き残りたいって、そんだけ? 生きて何をしたいとかはないの?」
「もちろんあるわ! 生きて幸せになりたい!幸せっていうのはつまり住む場所があって食べるものがあって、 三成さんがいて、ヘンリーやアスールがいて、アガレス領の皆がいて、マルグリットやヴィクトリス殿下に、ヴェロニカたちも、カシム副会長も、ヴォーティガン委員長も皆が平和でいることよ!」
「ふーん」
ヴェロニカは少しだけ考える仕草をして、直ぐににやりと笑った。
「ま、いっか! 選挙、協力したげるわよ! カシムともヴォーティガンとも特別親しいってわけじゃないし、なら友達のアンタに加勢したほうが楽しいわ!」
「ほ、本当!? やったぁ!」
ヴェロニカの手をとって感謝をする。アナリーゼはこのまま踊り出したい気分であった。
ともあれこれで第一関門は突破である。