【書籍版打ち切り爆死】悪役令嬢と石田三成 作:RYUZEN(孔明)
時間はテレーゼがマルグリットにヴィクトリスの死を報告した時から、少しだけ遡る。
敗残兵……いや逃亡兵を纏め上げたユージーンは、テレーゼより少し遅れて王都シリウスへ帰還した。
「反徒共の軍勢を前にした時は肝を冷やしたが、どうにか戻ってこれたな。おいヴィクトリスはどうなった?」
「はっ。どうやら殿下は賊軍に突撃し、戦死なされたとか」
ユージーンの問いにルフェーブルが答える。
「戦死! ヴィクトリスが、戦死だと?」
腹違いとはいえ実の弟が、結果的に自分たちを逃がすための殿軍となって死んだと聞かされたユージーンは驚きで目を見開いた。そして徐々に口端が吊り上がっていく。
「あははははははははははっはははははっ! 王位継承の最大の目の上のたん瘤が消えてくれた! 喜べルフェーブル! 創世神ソロモンは私を愛してくれているぞ!」
もしユージーンの言葉を創世神が聞いていれば、
『まったく愛してないよ』
という神託を告げていただろう。しかし創世神はユージーン一人の呟きを聞き届けるほど暇ではなく、仮に聞いていて神託を出したとしても、神の声を聞ける巫女もこの場にはいなかった。
「長男でありながら妾腹と蔑まれ、王位継承など半ば諦めていたが、ここにきてツキが回ってきた。後はエミリーさえどうにかしてしまえば、もはや私の王位継承に異議を唱えられる者は誰もいない」
そして王都シリウスへ戻ったユージーンは、
「城門を開け。新たな王の門出だ!」
そうして意気揚々と宮中に入ると、いけしゃあしゃあと、のたまった。
「ヴィクトリスは私の制止も聞かなかったばかりか、私の指揮下に入ることを拒み、あろうことか我が軍に牙をむいた。挙句の果てには反乱軍に無謀な突撃をして戦死した。だが幾ら愚かであろうとも我が弟……ルパートに続きヴィクトリスまで失ってしまい、胸が張り裂けそうだ本当に……。この上は一刻も早く反徒共を打ち倒し、弟たちの仇をとらなければならん。この国の新たな王としてな!」
それを聞いた反ユージーンの群臣達と、今や唯一残った正妻の子たるエミリーが激高した。
「ほう、それはそれは。私がヴィクトリス殿下の従者から聞いた報告とはずいぶん違うようで」
そうベルナールが言えば、
「お前がヴィクトリス兄上の足を引っ張った上に、盾にして一人とんずらしてきたのは、もう分かってるのよ。この恥知らずの薄汚い劣等が!」
エミリーが口汚く罵ると、ユージーンも顔を歪め怒鳴り返した。
「なんという事実無根の侮辱! その従者を連れてこい! 不敬罪で打ち首にしてくれる!」
「司法卿! ルパート殿下亡き後、王位継承権最上位にあったヴィクトリス殿下が亡くなられた! なら王位継承権はどうなる?」
ユージーンを無視してベルナールが言うと、司法卿のレイノルズが淡々と言う。
「はっ。王位継承権第三位であったエミリー殿下が第一位、ユージーン殿下は第二位となります」
「ふん、十四の小娘がこの動乱の時代に王が務まるはずがないだろう」
「卑しい妾腹と同じにすんな。お前と違ってエミリーには混じりけのない高貴な血が流れてる。お前とは違う」
宮中はユージーン派とエミリー派で真っ二つに別れてしまい、議論の終わりは見えなかった。本来ならこの場を纏めなければいけない宰相ドラコリスは、絶対の後ろ盾であった王と王太子を失ってしまったことで発言力を失い右往左往していて役に立たない。革命軍が正にこの王都に近づきつつあったというのに撃退も籠城も、逃げる準備すらせず誰が王になるかの不毛な議論をし続ける。
そして革命が起きても他人事だった王都シリウスの住民も勇猛果敢なヴィクトリスが死に、十万の革命軍が向かっている事を聞いて、大混乱に陥っていた。
王都シリウスの繁華街にキャンドルウィックベーカリーというパン屋がある。英雄イスマイル・エリゴスの参謀だったローワン・キャンドルウィック退役准将の父が開いた店で、ローワンが碌な退職金も与えられずに軍を追い出されると、新たに店を継いで二代目店主となった。ローワンは職人としての実力は父親の足元にも及ばなかったが、経営手腕と頭の良さは父親の遥か上をいっていたので、売り上げは嘗ての五倍となっている。
だがキャンドルウィックベーカリーには裏の顔がある。イスマイルの参謀であったローワンは現王政府に対して反抗的であり、カシムがリーダーを務める改革派のメンバーであるのだ。そのためこの店は改革派の拠点の一つとしても機能していて、シリウス王立学園にいたカシムを始めとするメンバーはここに潜伏していた。
そして宮中のぐだぐだな大混乱っぷりを聞いたカシムはといえば、
「嘘だろ……なにをしているんだ、王政府の連中は!?」
あまりの無能っぷりに吐き気を堪えながら、怒鳴り声をあげた。
「なにをしているというか、なにもしてないというか、余計なことばかりしているというか」
騎士部副部長だったリュミナ・ローウェンが遠い目をしながら言った。
「カシムくん、まだ準備は万端とはいえないが、もう動くしかないんじゃないかな」
店のサンドイッチを食べながら現れたのは、店主であるローワンだった。穏やかで朴訥としているが、瞳には軍人らしい怜悧さが光っている。
「……もし俺たちの決起が長引いて、騒ぎが起きている最中に革命軍が仕掛けてきたら最悪だぞ」
「それなら安心していいと思うよ。なにせ既に状況は最悪だ。これから何をやろうと、これ以下に落ちることはない。革命軍が近づいてきているのに何もしない無能な王政に、政府たる資格はないと、そう考えているのは私だけではないと思うのだがね」
ローワンが辺りを見回しながら言うと、そこかしこから「そうだ!」という声が返ってきた。
「カシムくん……いや、カシム・エリゴス閣下。後は民衆の混乱を、王政府への怒りに転じさせれば、我々は兵力を得られます。ご決断を」
「やるべきだカシム。このまま座してやられるのを待つより、俺たちで王政府をぶんどって、迎撃の指揮をするほうが王都陥落って最悪の事態を防げる公算は高い!」
ローワンの発言に前会長のトーマス・ディーンも同意する。一年間、軍大学で揉まれただけあって以前よりも精悍な顔つきになっていた。
目を瞑り数秒、カシムは考え込む。風雲急を告げる情勢でより大勢の人間に相談して熟考に熟考を重ねるのは愚行だ。それは王政府の者達が証明している。
「迷っている時間はないな。よし、やろう!」
そしてカシムは決断した。
リーダーが決断すれば、後はそれに従うだけである。王都のパン屋で密かに国家転覆の計略が即席で練られていった。
王宮の評定の場にカシムが至急の進言があるので、会議に参加させて欲しいと要求をしてきたのは、僅か二時間後のことだった。宰相ドラコリスにとってイスマイルの子息であるカシムは潜在的政敵であるのだが、会議がまるで進まないことに嫌気を差していた彼はそれを受け容れた。他の会議参加者もこれにはドラコリスと同意見だったらしく、反対意見はなかった。
「カシム・エリゴス公爵、参上いたしました。今は新たな王を選定する会議の真っ最中であることは承知しておりましたが、どうしても進言せねばならぬことだったのです」
「前置きはいい、用件を言え」
「次なる王を決めるのは国家の大事ではありますが、今この時も反乱軍はこの王都に迫っており、その対処も急務でありましょう。そこで私、カシム・エリゴスが亡き父イスマイルがそうしたように、自爆作戦を決行し、革命軍に大打撃を与えて参ります。さすれば革命軍は王都陥落を断念し退かざるをえなくなるでしょう。つきましてはその作戦を決行する許可を頂きたいのです」
カシムの進言を聞いた会議参加者の表情が途端に明るくなった。
エリゴス家の"自爆"の力はバエル王家が一番知っている。過去の歴史でもエリゴスの自爆で、バエル王国は何度も窮地を乗り越えてきたのだから。
「それはいい提案だ! なぁドラコリス!」
「ええ、ユージーン殿下。正に起死回生の一手かと」
ドラコリスは言われるまでもなくエリゴスの自爆は方策の一つとして考えてはいたが、イスマイルの政敵であった自分が頼んでも――イスマイルの最期の頼みもあって――確実に断られるであろうことは明らかであったので、言い出せなかったのだが、カシム自身が自分から言い出してくれたのは渡りに船であった。
「いや、しかしヴォーティガンのテロにナディア・エリゴスが巻き込まれ死んでしまった以上、彼を失えば我らはエリゴスという切り札を永遠に喪失することになる」
「それならご安心ください。余り言いふらすようなことではないので黙っていましたが、去年の春休み中に実家のメイドに手を出し……その、孕ませてしまったのです。なのでその子供をエリゴス家の新しい当主に据えればよいでしょう」
ベルナールの懸念に対して、カシムは即興で嘘を吐くが効果は覿面だった。
「なら問題ないわね。生まれてくる子供が男なら種馬、女なら種牝馬にして爆弾を量産できるわ」
「エミリー殿下、流石にその言い方は……。ですがカシム殿の提案には賛成です! 現状を打開する唯一の方法かと!」
「わしも賛成だ!」
「私も!」
エミリーが真っ先に賛同すると、群臣たちもこぞって同意を示した。
(…………王と父の約束を持ち出して、止めようとする風を装う者すらいない、か)
そんな彼らに王政府を切り捨てることに対して、ほんの僅かに残っていた後ろめたさもカシムから消えた。そしてカシムはチェックメイトをかけるべく、自分にとっての本題を切り出す。
「ありがとうございます。しかし自爆作戦を成功させるには、父がそうだったように、軍内から決死隊を募る必要があります。その選抜の権限を頂けませんか?」
「分かった。ほら、命令書だ」
「宰相閣下、命令書に閣下のサインも頂きたいのですが」
「細かい男だな。ほら」
頭を下げて恭しく命令書を受け取る。
これでカシムの目的は全て達成された。誰にも見られぬよう頭を下げたカシムの表情は、不甲斐なさ過ぎる王政府への憤怒に染まっていた。
宰相ドラコリスのサイン入り命令書を受け取ったカシムは、直ぐにバエル王国軍から選抜の決死隊を選ぶために広場へ集めた。カシムの隣には改革派の同志達も集結していた。
これから自分の行動によって世界の歴史を大きく動かす事に、今更ながらカシムの足が竦む。しかしライバルであったヴォーティガンがやってのけたなら、自分にできないはずがないと己を鼓舞すると、カシムは大きく空気を吸い込んでから、ありったけの大声で兵士たちに話し始めた。
「王の代理人たる宰相より、決死隊の選抜とその統率を任せられたカシム・エリゴスだ! 急を要すること故、この場で直ぐに決死隊に選抜する者を告げる!」
ごくりと兵士たちの息を呑む声が聞こえる。決死隊に選ばれれば名誉は得られても、命は間違いなく失うのだから当然であろう。だがカシムの次の一言で緊張は仰天に代わった。
「決死隊に選抜されるのは――――王軍全てだ!」
「え!? ど、どういうことですかカシム・エリゴス公爵!」
「我ら決死軍は国家の敵を討ち滅ぼす。それは王都に迫りつつ革命軍か? それもある。だがそれより先に滅ぼすべき者がいる。ドラコリスを筆頭とする王家を蔑ろにし、国政を思うがままにする寄生虫共。これを滅ぼさずしてバエル王国の未来はない!」
カシムの叫びは瞬く間に兵士たちに伝播した。彼らは仕事だから王政府に忠実でありはしたが、別に好きで王政府に従っている訳ではない。カシムが『宰相のサインがされた命令書』という従うに足る正当な理由を持って現れたならば、彼に反対する者は皆無であった。兵の一人が進み出て、カシムに跪く。彼はユージーンに従い出撃し、ヴィクトリスが殿軍になったお陰で命を拾った一人だった。
「公爵閣下、我等一同! 閣下に従います!」
「よし! いざ出陣、敵は王宮にあり!」
こうして王都シリウスのほぼ全軍をカシムにより掌握された。掌握された王軍は外の革命軍に対するよりも先に内部の寄生虫を除くため、王宮へと進軍した。
「み、皆さま! 一大事でございます! 王都の軍を全て掌握したカシム・エリゴスが、この王宮に雪崩れ込みました! 謀反です!」
「な、なにぃ!」
王宮付きの近衛兵が事態を告げるが、時すでに遅しであった。
ヴォーティガンのテロの時と同じようにドラコリスは真っ先に逃げ出そうとしたが、カシム達も最優先排除対象であるドラコリスだけは逃がすまいと、彼が逃げるであろう逃走経路全てに兵を伏せていた。
「……やはりお前ならいの一番に逃げてくると思っていた」
「げぇ! カシム・エリゴス!」
そして最悪なことにドラコリスが逃げたのはカシムが待ち構えていた経路だった。
「むっ、謀反人だ! 誰か、誰かこやつを殺せ!」
「謀反人は貴様だ、寄生虫め!」
カシムは素早く護衛兵を斬り伏せると、悲鳴をあげて逃げるドラコリスの首を刎ねる。
宮廷傀儡師という悪名で知られ、バエル王国の歴史に冠たる佞臣の呆気ない最期であった。他に司法卿として法を盾にドラコリスと散々悪事を働いてきたオズウェル・レイノルズが兵士によって殺害された。軍務卿だったルフェーブルは兵士たちも自分たちのトップをその場で殺すことに抵抗感を覚えたのか、その場では殺されずに拘束された。また悲劇としてドラコリスの息子で、父と違って清廉で有名だったビリー・ザ・ドゥルも、そんな事を知らない兵士たちによって惨殺された。
一方で第一王子ユージーンと、第一王女エミリーは其々王族しか知らない秘密の脱出口を使い逃亡に成功して、商務卿ベルナールも侍女に変装することで運良く逃亡に成功した。
こうしてカシム率いる改革派は即席の計画でありながら、クーデターを成功させたのだが、王族を二人とも逃がしてしまったのは誤算であった。
「いかんな。君側の奸を除くという大義名分でクーデターを起こしたのに、王族に二人とも逃げられては大義が死ぬぞ……」
どうしたものかとカシムが悩んでいると、危機でありながら何故か笑みを浮かべているローワンが言ってきた。
「王子と王女がいない? 結構なことではありませんか、エリゴス閣下」
「なに? どういうことだ?」
「よいですか? 王族はこの国難にあって、無意味な議論でなんの対処もしてこなかったばかりか、王都の民衆を捨てて、自分たちだけ逃げ出したのです」
「王子と王女は革命から逃げたのではなく、私たちから逃げたのでは?」
「事実はどうでも宜しい。要は民衆がどう思うかが大事なのです。もはや王家の権威は地に落ちました。新しい秩序を構築する、チャンスです」
リュシエルの正論にも、ローワンは淡々と返した。ローワン・キャンドルウィックは朴訥とした雰囲気に反して過激な思考の持ち主だった。
「待て! 我々の目的は貴族院議会の設立と、王に憲章に署名させ、立憲制へ移行することではなかったのか! これでは革命軍とやっていることが同じではないか!?」
改革派の中でも王家よりの将校が反論する。しかし過激派ローワンの弁舌は止まらない。
「憲章に署名する王がいないのですから仕方ないでしょう。それに革命軍と違い、王族がそれを望むなら、王という地位は残しても構いません。あらゆる権限を剥奪した飾りとして」
「しかし我等は王家の軍で――――」
「もうやめろ二人とも。俺も議会の設立を目指していたが、革命が始まってからの王政府の無能さに、怒りを通り越して、吐き気を催した……いや、吐いたよ。バエル王家の勇壮なる血筋は、ヴィクトリスという英傑を最後に絶えた。そういうことだよ」
もしもヴィクトリス・バエルが生きてさえいれば、カシム達改革派は最高の神輿と錦の御旗を得られたことだろう。実権のある王としてはヴィクトリスは失格だが、なんの実権もないお飾り君主としてはヴィクトリスは最高の素質を持っていたのだから。
「おいカシム……いやエリゴス閣下、朗報だ!」
そんな時、トーマスが駆け込んでくる。
「どうしたトーマス?」
二年前は生徒会長で自分の目上の人間だったトーマスに、カシムは改革派のリーダーとして敢えて敬語を使わず答えた。
「王子と王女を捕えることは出来なかったが、彼女がベルナールを捕えてきた……きました!」
「初めまして、おに……カシム様」
そうして現れた女性は足から頭のてっぺんまで、カシムが理想とする女性像をそのまま具現化したような姿をしていた。
「傭兵をしているシーリン・ハーフィズと申します。カシム様の決起を聞いてなにかお手伝いできることはないかとはせ参じようとした途中、偶然この女を見つけ捕えてまいりました。褒めてください」
「え、あ、ああ。よくやってくれた、ありがとう。褒美は後で必ず」
「でしたら私をカシム様の部下として働かせてください」
「分かった、善処しよう」
改革派の若きリーダーとはいえ、カシムも十八の男である。あまりにも自分好みの女性の願いを、安請け合いしていたことに気付いたのは返事をしてしまった後だった。
「ふふふっ」
自分好みの女性の正体が、そのように整形した妹のナディアであることをカシムは知らない。
その後、ユージーンとエミリーの二人の王子と王女は、革命軍を前に臆病風に吹かれたと発表。王家に代わり貴族による共和制国家としてバエル共和国の建国が慌ただしく宣言された。
王都シリウスで起きた政変は、スパイであるレオン・ジュストによって革命軍にも伝わった。
「やってくれたな、カシム! 王政府は無能でも、お前がいたか!」
ヴォーティガンは嘗てのライバルの台頭に歯噛みする。カシムが将来の難敵になるであろうことはヴォーティガンも分かっていた。しかしエリゴス家の宿命故に常に暗殺を警戒しているカシムを謀殺することは、リスクが大きすぎて出来なかったのだ。
「だが所詮はまだ発足したばかりの共和国! こちらには勢いがある! このまま押し切ってやろう!」
ヴォーティガンは新たにバエル共和国を名乗った改革派に向かって、決戦を挑むことを決めた。対するカシムは、
「くそっ! もっと早くに王都を掌握していれば、こんな崖っぷちの防衛戦をしなくても済んだものを!」
決断は迅速だった。
籠城を想定されていない王都シリウスでは持ちこたえられないと悟ったカシムは自爆の超魔法をもつ自分が殿軍となり革命軍を牽制しながら王都シリウスの民衆を、エリゴス公爵領にも近い副首都アルデバラン市へ避難させた。
ヴォーティガンからすれば王都の占領こそできたものの過去千年間で最も武功をあげたと評判のエリゴス家の厄介さを思い知らされた一幕だった。
だが王権の象徴たるシリウスを陥落させた政治的意義は大きい。
王都に突入した革命軍は、残された財産を略奪し国王像を叩き壊し、王家の肖像画を焼き払った。その一方で残されていた資料などに手を出したものや、王都脱出を拒否して残っていた民衆などに手を出したものは容赦なく処断された。
「革命論53ページ12行目。『法より上はなく、元首であろうと法の下に存在する』だ。要するに掟を破る奴は、同志だろうとなんだろうと死ねってことさ」
侠客の親分であったエカテリーナ・グラズノフは、革命軍内の内部粛清役を買って出て、多くの軍紀違反した革命軍兵士が彼女によって処断されていった。
そしてヴォーティガンはイジドール自由連邦の建国を宣言。
また逃げたエミリーやユージーンも其々の地で王を自称した。王族だけあってそれなりの貴族がその下に集い勢力を築いたが天命というものがあれば、既に二人からは失われていただろう。
簡単である。
ヴェロニカとアナリーゼ、二人の少女から見切りをつけられていたからだ。