君のココロを守るため 作:一般魔法少女
廻天放映記念作品です。
※作者はまどマギ本編と映画のみ履修。
────夢を見た。
まるで
────夢を見た。
天高く手を上げ、全てを救わんと空に向かう魔女を。
────夢を見た。
全てが荒廃した中で、たった一人で立ち向かう黒髪の少女を。
────夢を見た。
高く、気高く、
ピピピピピピ!
鳴り響くアラームを止め、凝り固まった背筋を伸ばす。ぼんやりと霞がかった頭に先程まで見ていた夢がフラッシュバックする。
「夢……か」
しかし、夢にしては妙にリアリティのある夢だった。逆さ吊りの化け物に、黒髪の美少女、光の巨人。そして天高く手を掲げる彼女。不思議と
「気にしてもしょうがないし、学校行くか」
ベッドから降りようと手を着くと、何かを持っているのに気付く。硬く、ゴツゴツとした感触が手にある。
「なんだこれ?」
いつのまにか握られていた短い杖のような物。謎の杖が非日常の開始を告げているような気がした。
「それじゃ、行ってきます」
母の遺影に手を合わせ、家を出る。家の施錠をした時、隣の家からいつも通りにまどかが出てきた。ピンクの髪を赤いリボンでツインテールのように結び、変わらない笑顔を浮かべる。
「おはよう、まどか」
「大地くんおはよ〜」
「リボン変えたの? 似合ってるね」
「う、うん。ママがこっちの方が似合ってるって」
「可愛いよ」
「ありがとっ」
軽く挨拶を交わした後、少し頬を赤らめたまどかといつもの通学路を二人並んで歩く。さやか達と合流するまでの短い時間ではあるが、二人にとって大切な朝の時間に顔が緩む。
彼女の笑顔を見ていると不思議と心が温かくなる。
「そういえば、タツヤが遊びたがってたよ。パパもご飯食べに来てって」
「本当か? 嬉しいな。知久さんのご飯美味しいから好きなんだよね」
「ママもどんな良い男になったか見てやるーって」
「詢子さんの審査いつも厳しいよね。この前も色々言われちゃったよ」
「それだけ好かれてるって事だよ」
鹿目一家には本当に良くしてもらってる。若くして母が亡くなり、男手一つで僕を育ててくれる父は中々家に帰れず、僕は幼少期から一人で過ごすことが多かった。そんな僕を見かねた鹿目夫妻は昔から家に招待してくれており、家族ぐるみの付き合いを続けていた。
ありがたい事だ。
「そういえばね。今日不思議な夢を見て────」
「二人共、同じ夢見るなんて不思議なこともあるのですね」
「まさに愛がなせる奇跡と言ったところかね〜。朝からお熱いことで」
頬に手を当てて不思議がる仁美と、からかいの表情でニヤけるさやか、顔を赤らめ否定するまどか。お嬢様、からかい好きな元気娘、温和で優しい子。こうして見るとタイプの違う三人だなと思う。
「もう、そんなんじゃないよ。さやかちゃん」
「そうそう、偶然でしょ」
夫婦いじりも小学生の頃から繰り返されると少々辟易してしまうが、さやかが言うとそこまで不快感がない。それも彼女の性格によるものだろう。
「それで、その棒がいつの間にかあったって言ってたやつ?」
鞄から取り出した棒を三人に見せる。今朝、初めて触ったのに妙にしっくりくる感触を確かめつつ、問う。
「ああ、三人とも見覚えあるか?」
「ないかなぁ」
「ないですわ」
「やっぱりそうか」
誰からも良い返答はなかった。あまり期待はしていなかったが、やはり誰も知らない様だ。見たことないのに見たことがある不思議な感覚がずっとある。
「ここ、ボタンみたいなのがあるよ」
「本当だ」
今まで気づかなかったがスイッチのようなボタンが付いていた。しかし、不用意に押すべきか? ここは慎重を期して「えい」
「さやか……もう少し慎重さを持つべきだと僕は思うよ」
「悩んでても仕方ないっしょ。こういうのは度胸よ、度胸」
手元に視線を落とすと────
「……開いたね」
「……開いたな」
I字だった杖が開き、Y字に変形する。しかし、それだけだった。光ることも音が鳴ることもなく、謎の杖がもっと謎になっただけだった。
「まあ何かで使えそうだから持っとけば?」
「そうだね、そうするよ」
通学路を半分行ったところで、中沢くんの後ろ姿を見つけた。手に持っていた棒を鞄に仕舞い、三人に別れを告げる。
「じゃあ、またあとで」
「また教室でね」
「おはよう中沢くん」
「おはよう」
二人でたわいもない雑談をしながら歩く。あの宿題が難しかった。あのドラマが面白かった。そんな何でもない会話をしながら歩いていると、ふと思い出したかのように中沢くんが言い出した。
「今日転校生が来るらしいぜ。先生が言ってた」
何故か妙に先生と仲がいい中沢くんの情報だから信頼性は高い。
「そうなんだ。珍しい時期に転校して来るんだね」
「なんでも長い間入院していて、ようやく退院できたらしいぞ」
入院か…。あまり想像できないが、きっと不慣れな事もあるのだろう。何かあれば手助けできるようにしておきたい。
「って噂をすればあの人がそうじゃないか? 見たことないし」
「かもね」
後ろ姿を少し眺めていると、ひらりと一枚の布が落ちる。紫の布地に黒猫の後ろ姿が刺繍されたハンカチだった。
「届けてくるよ」
中沢くんにそう告げ、前を歩く少女に足早に駆け寄る。
「ハンカチ落としましたよ」
そう話しかけると少女が振り返る。通った鼻筋、綺麗な黒髪に少し吊り上がった目。
『立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花』
そんな言葉が似合う様な儚さを伴った印象を強く受ける少女だった。
「……ありがとうございます」
彼女は丁寧にハンカチを受け取ると、綺麗なお辞儀をし、その黒髪を翻しながら歩いて行った。
「すっげー美人だったな」
「ん……そうだね」
確かに美人ではあった。しかし、彼女とは
「今日はみなさんに大事なお話があります!心して聴く様に!」
あぁ、このパターンは……。
「卵焼きは砂糖派ですか?塩派ですか?中沢くん!」
「えぇ!?どっちでもいいんじゃないかと……」
「そう!どっちでもよろしい!女子の皆さんは甘口の卵焼きじゃないと食べれない〜とか言う男とは交際しないように!そして、男子の皆さんは絶対、卵焼きの味付けにケチをつけるような大人にならないこと!」
先生は捲し立てながら言い切った後、指示棒を圧し折る。どうやら今回の彼氏とも上手くいかなかったようだ。残念。
「ハァ……本日は転校生を紹介します。入ってきて」
教室のドアが開かれる。つい朝見たばかりの少女が綺麗な黒髪を靡かせながら教室に入ってくる。予想通りではあったが、彼女のことを知らないクラスメイト達はざわざわと話し始める。
「暁美ほむらです。よろしくお願いします」
「暁美さんは長い間入院していたので困っていることがあればーーーー」
ぼんやりと彼女を眺めれていると視線が合う。まどかを見ていると思っていたら、今度はこっちを見てきているな。昔、会ったことでもあるのか?あと、隣のさやかがすごい顔でこっちを見て来るのを止めてほしい。身に覚えないから。
まどかは暁美さんに連れられて保健室へと向かった。暁美さんは退院したばかりと言っていたし、恐らく体調があまり良くないのだろう。心配だ。
「それで大地、まどかという者がありながらあの転校生とどういう関係なの?」
取り調べ人の様に僕を詰め寄るさやか刑事。いつもの五割り増しで視線が鋭い。
「関係っていっても朝ハンカチ拾ったくらいだよ」
「それであんなガン見するか〜〜?」
「…一目惚れかもしれませんわ」
天啓を得たかのように言ってくる仁美。九分九厘違うと思うよその推理。
「一目惚れぇ?そんな漫画みたいな事ある?」
「あら、さやかさん。愛に時間は関係ないと思いますわよ」
二人の意見は恋愛のほうで決定されたようだ。女子はいくつになってもこの手の話題が好きらしい。そういえばーーーー
「後は夢で見たくらいかな」
「夢で…」
「…見た」
そう言うとさっきまで堂々と話していた二人がコソコソと話し始める。一体何なんだよ。
「少しいい?朝の事でお礼がしたいから付き合ってくれないかしら?」
昼の休憩時間、授業終わりのチャイムの直後、彼女は一直線に僕の机まで来てそう言った。彼女は今日一日で文武両道、才色兼備っぷりを見せ、時の人になっているのだが、周りの視線は気にならないとばかりに話しかけてくる。
さやかは飲み物でむせていた。
「そんな、気にしなくて大丈夫だよ」
別にお礼を貰いたくてした訳ではない。彼女が後で困らないといいなと思ってやったことなのだから。
「いいえ、それじゃあ私の気がすまないわ。ちゃんとお礼をさせて頂戴」
どうも彼女は引く気がないようだ。まあそこまで言うのならお言葉に甘えるとしよう。
「そういうことなら」
「じゃあ付いてきて」
スタスタと歩き始める彼女の背を追う為、早歩きで追いかけた。
お礼に飲み物を買ってくれると言うので、お気に入りの飲料を選択する。
「マドカダイチ、貴方は一体何者?鹿目まどかの何なのかしら?」
「何って……幼馴染だけど?」
僕とまどかは幼馴染だ。十四年前産まれた日から、今日に至るまでずっと一緒に過ごしてきた大切な人。
「幼馴染?いったいいつから?」
「えーと生まれてすぐ?」
答えると少し考える素振りを見せる。何か違和感でもあるのだろうか?
「……そう、ならあの子のことしっかり見ておくことね。変な勧誘に惑わされない様に」
「待って」
髪を掻き上げ立ち去ろうとする暁美さんを呼び止める。
「暁美さんは普段何飲む?」
「そうね…缶コーヒーかしら」
「そっか」
自販機で缶コーヒーを購入し、手渡す。その行動に怪訝な顔をされるが、まあいいだろう。
「これはお礼のお礼ね」
「意味がわかないわ………飲み物ありがとう」
颯爽と立ち去っていく暁美さん。少々不思議な所はあるが悪い人ではないようだ。
放課後、授業から解放された生徒達が各々下校を始める。
「まどかー、今日音楽ショップ寄らない?」
「ごめん、さやかちゃん。今日パパが大地くん連れてきてっていうから真っ直ぐ帰るね」
「かーっ、熱い!熱すぎて火傷しちゃいますな!」
「本当にごめんね」
「いいーって、じゃあパパさんによろしく。大地も変な事するなよー」
「もう、さやかちゃんたら…行こ、大地くん」
トントンと包丁がまな板を叩く音が台所に響く。知久さんと並んで台所に立ち、お互いに料理をしていく。
「手伝ってくれてありがとう」
「いいえ、僕も勉強になりますから」
我が家では父の負担を減らす為、基本的に僕が料理を担当している。何もできなかった昔、何とか父さんを助けようと家事だけでも引き受けようと思い、知久さんに教えを請うたのが始まりだった。
コトコトと煮込まれる野菜の奥で、まどかが柔らかに微笑みながらタツヤくんと遊んでるのが見え、顔が緩む。昔から彼女が笑う姿は魅力的だったが、タツヤくんが産まれてから見せる笑顔が僕は好きだった。
ふと、視線を感じたのでそちらを向くと知久さんが微笑みながらこちらを見ていた。その笑顔がまどかによく似ている。
「まどかをよろしくね」
「え?」
「いや、何でもないよ。後はやっておくから、まどか達の方に行ってあげて」
「お疲れ様〜。料理ありがとう」
「ダイチ!ダイチ!」
「お、タツヤくんは今日も元気いっぱいだね。遊ぼうか」
タツヤくんの頭を撫で、ボールで軽く遊ぶ。少し前まで歩く事もできなかったのに子供の成長は早いな。
しばらく遊んでいると玄関の鍵が開く音が聞こえる。
「ただいま〜」
「ママ、おかえり」
「お帰りなさい詢子さん」
「それじゃあみんなご飯にしようか」
「今日はありがとうね」
「ううん、タツヤも喜んでたし私も嬉しかったよ」
「じゃあね」
「大地くん」
「ん?」
玄関の扉を開けようとしたら、名前を呼ばれたので振り返る。
「えいっ」
ふわりと女の子特有の香りが鼻を擽る。首に巻かれる腕、胸に感じる柔らかな感触に混乱するが、視界の端で詢子さんがニヤけながら見ているのがみえる。また、変なことを吹き込まれたのだろう。
そっと背中に腕を回して抱きしめ返す。
「まどか。また明日」
「おやすみ、大地くん」
ベッドで横になりながら謎の棒を見上げる。結局1日持ってみたが何の変化もなかったな。手の中でしばらく弄った後、枕の横に落とす。明日も早いしもう寝よう。そう思い瞼を落とし眠りに入ろうとした時、
────助けて
声が聞こえた。