君のココロを守るため 作:一般魔法少女
「チッ!マミがいる間は戻ってくる気なかったんだけどなぁ」
『すまないね、こっちとしても緊急事態なんだ』
「まあいいさ。それより約束のグリーフシード10個、ちゃんと寄越しなよ」
『もちろん、働きに対する報酬は支払うさ』
魔法少女修行明けの翌朝。
大地のことで悩んでいたけど、マミさんのお陰で重かった心が少しだけ軽くなった。
そうだ、魔法少女は一人じゃない。
大地のことだって、マミさんと一緒ならきっとなんとかなるはず。
「おはよー、仁美」
「おはようございます、さやかさん」
いつも通りの朝。
仁美と話していると心が軽くなる。
そうだ、この笑顔を守りたい。
マミさんの様にみんなを守れる正義の味方になるんだ。
「でさ〜恭介のやつがさ────」
「ええ、本当ですの?信じられません────」
たわいもない雑談に花を咲かせる。
あたしの見る世界は変わったけれど、いつもと変わらない光景を見れると安心できる。
「あら、まどかさん達ですわ」
仁美に釣られて視線を向ける。
あれは、まどかと大地と転校生?
一体どうして?
『どうやら、彼らは手を組んだみたいだね』
脳内にキュウべぇの声が響く。
魔法少女同士が行えるテレパシーを利用した通信方法。
きっと、何処かから見ているのだろう。
『キュウべぇ?どういうこと?』
『僕を襲った暁美ほむらと、取り憑かれたかもしれない円大地。それに魔法少女としては最高峰の才能を持つ鹿目まどか。怪しい二人が、最高の素質を持つまどかと一緒に行動しているんだ。恐らく、まどかを利用して何かを企んでいるんじゃないかな?』
奥歯が鳴るほど噛み締める。
大地の体でまどかを利用する?
そんなこと、許していいわけがない。
『どうにかならないわけ?』
『残念ながら僕では無力だ。君たち魔法少女に期待するしかないのさ』
二人の間で何も知らない顔でまどかが笑っている。
許せない。
あたしの憧れた二人の関係を壊す奴は、誰であってもあたしが許さない。
「昨日、三人でお泊まりしたんだ〜」
大地がまどか以外を家に泊める?
今までそんなことしたことなかったでしょ。
やっぱりおかしくなっているんだ。
「あたし……先にいくわ」
このまま此処にいたら、切り掛かってしまう。
怒りと悲しみを抱えながら、四人を後に走り出した。
必死に走る。
息が切れ、汗が吹き出してくる。
走っているうちに何だか涙も出てきた。
「おはよう、美樹さん」
「マミ……さん」
校門前でたまたま出会ったマミさん。
尋常じゃない様子のあたしに気を遣ってくれる。
「どうしたの?大丈夫?」
「マミさぁん……」
思わず抱きついてしまい、今起こっていたことを全て打ち明ける。
「そう、そんなことが……。わかったわ、私も話してみる」
「……お願いします」
あたしにはもう、マミさんしか頼れない。
「もう、そんな顔しないで。そんな顔だと笑われちゃうわよ?」
「それは、いけませんね」
何とか笑顔を作る。
顔が引き攣っているのがわかるが、上手く笑えているだろうか。
「ほら、教室に行って休んでなさい」
「……はい」
何だか教室が騒がしい。
「上条、退院おめでとう!腕良くなったんだな!」
「ああ、ありがとう。もうダメかと思ったけど、奇跡って起こるんだね」
「上条くん。また、ヴァイオリン弾けるの?」
「リハビリ中だから前みたいにとはいかないけど、直ぐに腕前を戻してみせるよ」
「恭介……退院できたんだ」
そっか、もうそんなに時間経ってたんだ。
ここ2、3日魔法少女の忙しさでお見舞いに行けていなかったから、退院している事を知らなかった。
教室のドアから恭介を眺めていると、視線が合う。
「あ、あのさ、恭────」
視線を、逸らされた。
────さやかは僕のことが嫌いなのかい?
違う、嫌いな訳ない。
あたしはこんなにも思っているのに、アンタのために魔法少女になったのに。
なんで?どうして?あたしのこと、やっぱり嫌いなの?
呆然と立ち尽くしてしまう。
足元がガラガラと崩れ落ちる感覚、膝から崩れ落ちそうになる。
その時、背後から声をかけられた。
「おはよ〜さやかちゃん」
「……まどか」
まどか、あたしの一番の親友。
昔からずっと一緒にいる、大切な友達。
同じように男の子の幼馴染がいて、あたしと同じ様に恋をしている女の子。
同じ立場なのに何でアンタはあんなに想われて────
あたし、今何考えて……。
「大丈夫?顔色悪いよ?」
「あ……うん。へーきへーき。あたしはいつだって元気一杯さやかちゃんだよ?」
「そう?本当に体調悪かったら言ってね。私、保健委員なんだから」
「ありがとう。まどか」
「上条くん、もう治ったんだね。よかったね」
「そう……だね」
よかった。
よかったはずだ。
あたしは、間違ったことなんてしていない。
「……本当に、これでよかったんだよね?」
放課後、再度マミさんの家に集まる。
「さあ、魔法少女修行2日目、張り切っていくわよ!」
「……はい」
あたし、どうしたんだろう?
昨日はあんなに晴れやかな気分で終われたのに、今日は全然気持ちが上がらない。
「……さん!美樹さん!」
「は、はい!」
「ボーッとしないで。気を抜いたら死んでしまうかもしれないのよ?」
「そう、ですよね。ごめんなさい」
頭を下げる。
「……朝の彼のことね」
それもあるけど、少し違う。
「軽く話してみたけれど、人を襲うつもりはないみたいよ。だから少し安心したわ。一般の人も容赦なく巻き込むつもりだったら、あそこで殺し合いになってもおかしくなかったわ」
「鹿目さんは素敵な子ね。柔らかい態度だけれど、自分に一本の芯を確かに持ってる素敵な人。魔法少女の勧誘もしてみようかと思ったけれど、あんな顔されたら誘えないわ。とっても素敵なパートナーがいるみたいだし、危険には巻き込めない」
素敵な、パートナー?
まどかは、大地が乗っ取られてる事にも気づかないのにどの口が……。
ダメだ。
今日のあたしはどうにも可笑しい。
大切な友達に対してこんなことを思うなんて、どうかしている。
止まっていると、変な考えばかり浮かぶ。
そうだ、魔女狩りで体を動かそう。
体を動かせば変な考えも消えるだろう。
「うあああああああ!!!!!」
殴る。
ひたすらに殴り続ける。
ガムシャラに、怒りをぶつけるように刀を振り下ろす。
最早刃物ではなく鈍器の様な使い方だが、構わない。
「美樹さん!落ち着いて!」
マミさんの声が聞こえる。
そうだ、落ち着かないと。
頭では理解できるのに、できているのに心が許してくれない。
何度も、何度も振り下ろす。
どれだけ殴ろうと怒りも、悲しみも一向に減らない。
それどころか、虚しさが広がるだけ。
とっくに動かなくなった魔女を、それでも殴り続けた。
「ハァッ……ハァッ……」
「……もう今日は終わりにしましょうか」
「ッ!あたしはまだできます!」
「ダメよ。明らかに冷静さを失ってたわ。そんな精神状態で戦ってたら、死んでしまうわよ」
「でも!」
パシン!
頬が熱い。
じんわりとした痛みが顔に広がり、呆然としてしまう。
叩かれた……の?
「落ち着いたかしら?」
「……はい」
「私達の仕事は魔女を倒すこと。それには、いつだって危険が付き纏うわ。次の瞬間には死んでしまうかもしれない」
「魔女は普通の人達には見えない。だからこそ、私達が生きてないと魔女を倒せる人はいなくなってしまうの」
「あなたの大切な人も、友達も、家族も守れるのは私達だけということを、心に留めなさい」
「大丈夫。焦らなくても美樹さんなら立派な魔法少女になれるわ。私が保証してあげる」
抱きしめられる。
マミさんの温かさが、体温を通じて心に沁みる。
後悔と、情けなさ、それと嬉しさが胸の中でぐちゃぐちゃに混ぜ合わさる。
「ごめん、なさい。ごめんなさいマミさん……」
「大丈夫、大丈夫よ」
涙が枯れるほど泣いて、少しスッキリした。
「ありがとうございます、マミさん。今度こそ本当に落ち着きました」
「そう?それならよかったわ。でも、今日はもう引き上げましょう」
「はい!!」
少々早いが今日はもう終わりにしよう。
二人並んで帰宅する。
「やっぱり、マミさんはかっこいいです」
「いいえ、私もごめんなさい。もっと早く美樹さんを止めておくべきだったわ」
「いや〜私が変な意地張ってたのが悪いんですよ!マミさんは悪くないんです!」
「そう言ってもらえると助かるわ。次はもっと気をつけるわね」
歩いていると視界が歪むことに気づく。
いや、視界というより空間そのものが歪んでいる。
「マミさん、あれ」
「魔女結界……ね」
マミさんが心配そうに此方を見てくる。
そりゃあさっきの醜態を見たらそんな視線にもなるか……。
でも。
「行きましょう、マミさん。だって私達は魔法少女なんだから」
「ハァッ!」
使い魔を切り裂く。
先程とは違い、動きに迷いはない。
(これなら心配いらなそうね)
すっかり持ち直した美樹さんに安心する。
私自身、人付き合いが多いから方ではなかったから対応があっていたか不安だったけれど、どうやら間違いではなかったようだ。
一騎当千の働きをしてくれる美樹さんのお陰で道のりに不安はなく、順当に魔女部屋まで到達する。
「あれが、今回の魔女」
キャンディの袋ような赤い頭に子供のような体躯。
マントをたなびかせながら高台の玉座に座っている。
お菓子に囲まれた部屋に、その魔女はいた。
【charlotte】
「行くわよ!美樹さん!」
「はい!」
まず、前衛のさやかが飛び出した。
魔女に向かって一直線に駆け出す。
すると、お菓子の陰から単眼のナースキャップを被った使い魔が出現し、襲いかかってきた。
「そのまま行って!」
その全てを撃ち抜く。
神技のような精密射撃。
現存する魔法少女の中でもトップクラスの実力を持つ少女。
それこそが巴マミなのだ。
「せいッ!」
高台の脚を切り、魔女を引きずり下ろす。
ふわりふわりと舞い降りる魔女に刀を突き刺す。
(何?なんでこんなに無反応なの?)
今までの魔女は、敵対すると同時に攻撃を仕掛けてきた。
しかし、今回の魔女は何をしようと無反応。
そこはかとない不気味さに、不安を覚える。
(関係ない!頭を刎ねれば終わりだ!)
「これで、終わり!」
一閃。
振るわれた刀は魔女の首を刎ね、その命を終わらせた。
ゴロリと転がる首。
もう動かない体を確認して、マミさんに振り返る。
「いや〜楽勝でしたね!」
「そうね、でも油断は────」
その時、さやかの背後から黒い影が伸び出した。
真っ黒な体に赤い斑点、とんがった鼻。
白い頭に大きな口が見える。
私の目の前に広がる大きな口。
大きくて何でも食べられそう。
その瞬間、頭に走馬灯が流れる。
生きていた両親の記憶。
事故の瞬間。
魔法少女になった時。
キュウべぇ。
葬式。
戦いの日々。
佐倉さん。
美樹さん。
あっ死んだ。
体が動かない。
脳も働かない。
もう、ダメ────
死んだ、と全てを諦めた瞬間。
横から飛び出した赤い影がその巨体を吹き飛ばした。
「何やってんだ!マミ!油断してんじゃねぇ!」
「佐倉……さん」
思わずその場にへたり込んでしまう。
変身が解除され、元の制服へと衣装が変わった。
「チッ!……おいそこの新人!手を貸しな!」
「アンタ誰よ!マミさんは無事!?」
「あー無事だよ無事。速攻倒すから手ぇ貸しな」
くるりと槍を回す。
にやけ面にポッキーを咥えた少女。
真っ赤な衣装に身を包んだ謎の女。
「ま、アタシ一人でも十分だけどな」
その言葉にムっとする。
あたしだって魔法少女としてやっていくって決めたんだ。
なら、戦うに決まってるでしょ。
「ポっと出のアンタに全部やらせる訳ないでしょ!」
「じゃあ、遅れんなよ!」
同時に駆け出す青と赤。
巨大に伸びた真っ黒な体を二人で刻んでいく。
「おいおい!そんなもんか!」
「うっさい!アンタのほうこそ手ぬるいじゃない!?」
徐々に加速していく二人。
視認も難しいほどのスピードになり、あっという間に魔女を解体してしまった。
「「これで、終わりだぁぁぁぁあ!!!」」
真っ白な頭を真っ二つにし、その存在を終わらせる。
二人を祝福するように魔女結界が砕け散った。
「マミさん!」
へたり込んでいるマミさんに駆け寄る。
死にかけたショックからか少々放心気味だ。
「おいおい、無事か?そろそろ引退した方がいいんじゃねーの?」
そこにグリーフシードで穢れを除去しながら歩いてくるさっきの女。
「アンタ……!」
「ほらよ、グリーフサードだ」
ポトリと地面に刺さるグリーフシードを思わず見てしまう。
「いいの?」
「元はと言えばアンタとマミが狩っていたのをアタシが横取りしたんだ。だったらアンタ達が使うのが筋ってもんだろ?」
口は悪いけど、悪いヤツじゃないのか?
だけど、見知らぬ魔法少女だ。
警戒は解けない。
「佐倉さん……どうして此処に?」
『それは僕が呼んだからさ』
路地道から現れるキュウべぇ。
その足取りは軽く、佐倉と呼ばれた少女の肩に乗る。
『彼女は佐倉杏子』
『さやか、キミの友達と戦うための助っ人が彼女だ』
『今こそ話そう。僕達と、彼らウルトラマンとの歴史を』
箱庭の魔女 シャット・イン
その性質は拒絶。
この魔女は部屋から出たくなどなかったのだ。
その祈りは遂げられ最後の最後まで部屋から出ることはなかった。
変わることを許さない。
変わろうとする願いすら最後には拒絶された。