君のココロを守るため 作:一般魔法少女
「たくっ、ここも久しぶりだな。変わんねー」
「ええ、また来てくれて嬉しいわ。佐倉さん」
「別に来たくて来た訳じゃねーよ。キュウべぇの野郎がアタシに頼んできたからさ」
三角テーブルを中心に三人で座り、マミさんが用意してくれた紅茶と茶菓子をいただく。
彼女の名前は佐倉杏子。
どうやら一時期マミさんと行動を共にしていた魔法少女らしく、普段は風見野市を中心に活動しているようだ。
今回はウルトラマン討伐のため、この三滝原にやってきたらしい。
『それじゃあ話すとしよう。僕達と、彼らウルトラマンとの歴史を』
「ちょいと待ちな。そもそもそのウルトラマンってのは何なんだ?」
『ウルトラマン。彼らはM78星雲に存在する光の国の住人だ』
M78星雲?
それって確か宇宙のどっかの場所じゃなかったっけ?
「それって宇宙人ってこと?」
『そうだよ。君達人類が存在するよりも遥か昔から存在している、謎の多い種族さ』
「アンタは何でそんな事知ってんのさ。アンタも宇宙人だって言うのかい?」
『その通りさ。でも君達地球人だって、僕達から見たら宇宙人だ。そんなに驚くことでもないだろう?』
それは、そうかもしれない。
でも、何だかスケールの大きい話になってきて頭が混乱してきた。
キュウべぇ、あんた魔法少女のファンシー生物じゃなくてエイリアンだったのかよ。
『これが、ウルトラマンだ』
キュウべぇが背中から一枚の写真を取り出す。
「これ、最近話題になってた巨人ね」
「なんだそれ?」
「知らないの?結構噂になってたんだけど?」
「アタシ携帯持ってねーもん」
『ここからは、見たほうが早いね』
キュウべぇの赤い瞳が輝く。
私達はその瞳に魅入られるように、意識が吸い込まれた。
『彼らと僕達の種族が出会ったのはおよそ今から1万年前、此処ではない別の星なんだ。
僕達はそこに住む生き物と共存し、繁栄の手助けをしていた』
誰も彼もが、幸せそうに笑っている。
今の私達と同じように、魔法少女として人々を守りその生命を繁栄させていた。
争いは時々起こっていたが、おおむね平和と呼べる世界。
『そんなある日、彼等が現れた』
空から降って来た一体の怪物。
黒い体に、黄色く点滅する水晶体。
ピポポポポポと低い電子音のような鳴き声が聞こえてくる。
アルファベットの終わりのゼットに、日本語のンを付け足された恐るべき存在。
全てに終焉も齎らす者。
その名を、宇宙恐竜ゼットン。
その姿を見た時、映像越しだと言うのに背筋が凍った。
あまりの恐怖、あまりの存在感に体の震えが止まらない。
こんな者が来たら、この星ごと終わりだ。
そんな怪物の後を追うように、一筋の光が降り立つ。
銀色のフォルムに赤い体色。
胸には光り輝く青色のカラータイマー。
全てを包んでくれそうな大いなる光。
『彼こそがウルトラマンだ』
そこからの戦いは壮絶だった。
人々は逃げ惑い、大地は焼け、空は割れた。
多くの魔法少女が加勢しようとしていたが、彼等の移動スピードは魔法少女達を遥かに凌駕しており触れる事さえも叶わなかった。
だが、才ある一人の魔法少女が全ての魔力を燃やし、ゼットンの水晶体を破壊することに成功した。
普通の人間ではなしえない、奇跡の一撃。
そこからはウルトラマンの形勢が優勢になり、見事討伐。
世界に平和は訪れた……はずだった。
『彼は死んだ少女の肉体を奪い取って、活動を始めた』
先程の一撃で死んだと思われた少女が起き上がる。
今まで通りの生活に紛れ込む異物。
周りの友人達は気づかず、普段通りの生活を送っている。
変わった点は、時々空から降ってくる怪物達を相手に巨人になって戦うこと。
そして、僕達に気づいたこと。
『彼は僕達に気づいた時から、僕達の種族を虐殺し始めたんだ』
数多のキュウべぇ達が殺されていく。
逃げても、隠れても、何処にいても見つけ出し、殺してくる。
『僕達はその星を離れた。それでも彼等は追ってきた』
どの星に居ても、必ず現れる。
最初のウルトラマンだけじゃない。
青い体色、銀、赤、紫。
多種多様なウルトラマンが現れ、キュウべぇ達を襲う。
死んだ数は既に百万体を超える。
それでも彼等は、僕達の追跡の手を緩めることはなかった。
逃げても逃げても、その宇宙にいる限りどこまでも追い続けてくる。
『そこで僕達は宇宙間移動の技術を発達させ、何とかこの星に逃げ込んだという訳さ』
意識が体に戻ってくる。
じんわりと嫌な汗が背中を伝った。
「なん……というか壮絶な話ね」
「あんなんに勝てってのかよ。無茶言いやがるよ」
紅茶で渇いた喉を潤す。
とてつもない映像だった。
今でも手の震えが止まらない。
確かにウルトラマンとキュウべぇの歴史は壮絶だった。
でも、あたしはウルトラマンなんかよりもっと重要なことを聞きたかった。
「あの怪獣は私達の星にも来るの?」
もし、来るのであれば勝ち目なんかない。
魔女とは比にならないほどの力を、あの命から感じ取れた。
『心配いらないよ。この星には周りから見えないように常にシールドを張っている。つまり誰にも見つからない、はずだったんだけど……』
「ウルトラマンが現れた」
コクリ、と頷く。
その身体はとても小さく、どこか恐怖しているようにも感じた。
『どうか、僕達のために戦ってくれないか?お願いするよ』
必死の懇願。
だが、杏子はどうにも引っかかる点があった。
「そもそも何でアンタらは狙われたのさ?ウルトラマンは一応人類?を守っているように見えたぜ。戦う相手は怪獣とか魔女の方が多く見えたけど?」
ウルトラマンは現れた時から人々には手を出さず、常に怪獣を相手に戦っていた。
それは死した少女の肉体に乗り移ってからも変わらず、人々の盾となり続けていた。
『彼等の行動原理は、僕達の種族に理解できる物ではなかった。認識の齟齬、価値観の違い、見解の相違。君達人類も、そういったことが原因でよく争いを起こすじゃないか。それが宇宙人同士の争いの原因であっても、不思議ではないと思うよ』
確かにそうかもしれない。
私の目には争いというより、一方的な虐殺に見えた。
どんな理由があったか知らないが、あそこまで痛めつける必要があるのだろうか。
『それでどうだい?マミ、杏子、さやか』
「て、言ってもよー。あんな化け物に勝てる気しないぜ?」
「そうね、情けない事を言うようだけど不可能じゃないかしら」
そうだ。
先程の景色が間違っていないのだとしたら、とても勝てるような相手ではない。
生物としてのスケールが違いすぎる。
『そうだね。変身した状態だと万が一の可能性もないだろう。でも変身前なら』
「勝てるかもしれない……」
大きな沈黙。
時計の針の音だけが、静かな部屋に響く。
誰もがこれからについて思いを馳せていた。
「チッ!こんなんグリーフシード10個でやってられっか!20にしろよ」
『構わないよ。それで彼を倒してくれるならいくらでも渡すよ』
佐倉杏子は了承した。
『マミはどうだい?』
「私は……キュウべぇに救われた命だもの。あなたの身に危険が迫っているといのなら戦うわ」
巴マミも覚悟を決めた。
あたしは……。
「キュウべぇ、殺す寸前まででいいんだよね?そうすれば、大地の身体からウルトラマンは抜けるんだよね?」
『その可能性は多いに高いよ。彼等とて死にたくはないはずだからね。事実、死した少女から抜け出して僕達を追ってきた』
「じゃあ、あたしもやる。友達を、助けてやる」
三人が三人とも別々の理由だが、やることを心に決める。
自分のためだったり、恩人のためだったり、友人のためだったり、バラバラの思惑だが向かう方向は一致した。
『ありがとう、三人とも』
「それで、人間体の時の勝率ってのどんなもんよ?」
『一対一なら10%とかかな。三対一なら50%』
「以外といけそうじゃん」
『ただし、もう一人のイレギュラー。暁美ほむらがいない場合だ』
もう一枚出される写真。
隠し撮りされ、横顔だけが写った転校生。
「誰だこれ?」
「三滝原中にこの間転校してきた、キュウべぇも知らないの謎の魔法少女よ。キュウべぇを狙っているの」
「はぁ?何でアンタが知らないのさ」
『わからない。でも、予測はできるよ。さやかのお陰でね』
あたしのお陰?
「何で?」
『キミは彼と一戦交えただろう?その時、彼は突如として消えた。同時刻に暁美ほむらを監視していた僕の仲間も、彼女が消えるのを確認したんだ』
「つまり?」
『彼女はテレポーテーションの能力か、時間操作の魔法をおそらく使える。僕の知らない魔法少女であれば、時間遡行の線が濃厚かな』
「反則だろ。時間操作って」
『そうだね、確かに強力な魔法だ。でもその分制約も多いはずだよ。例えば他人に触れるとその人も動けてしまうとか、停止時間に限りがあるとかね』
「なら、暁美さんがいたら私が相手をするわ。私ならリボンの応用で突破できるかもしれないし」
「いなかったら三人で囲んで大地をボコしますか」
「ケースバイケース。柔軟に対応していこうぜ〜」
今後の作戦を頭を突き合わせながら、三人で話し合う。
「ま、最初は小手調べでアタシ一人でやってみるよ。相手の戦力の確認は重要だろ?」
「そんな、危険よ。佐倉さん」
「じゃあどーすんだよ。さやか、アンタ魔法少女になってまだ日が浅いんだろ?それにマミも白兵戦は向いてないじゃねーか。手の内晒すこともないし、アタシが単騎でぶつかって様子見したほうが良くねー?」
確かにあたしは魔法少女になって日が浅い。
さっきの戦いでも思ったけど、杏子の戦いは洗練されていて悔しいけど参考になった。
「あんた一人に任せっきりにしろって?」
「そうじゃねーよ。撤退の時は手を借りるし、倒せそうだったら加勢に来いよ。あんな化け物に一人で勝てると思うほど、アタシは自惚れちゃいないんでね」
「アタシの戦いで相手の手の内を探れって言ってんの。わかった?」
ぐうの音も出ないほどの正論。
この中で一番生存能力が高いのは、多分杏子だ。
あたしは力不足だし、マミさんの援護があれば撤退はいける。
「あんた、死ぬんじゃないわよ」
「誰に物言ってんだ?ひよっこのくせに」
「あんたねぇ!」
やっぱりコイツ、気に食わない……!
最初からどこか下に見る感じが特に!
「決行はこの土日。一人になったタイミングを狙っていくよ。それでいいか?」
「しょうがないわね。無茶はしないように」
話も一区切りし、空気が弛緩する。
突如、杏子が話を切り出した。
「マミ。あんたまだあのティロ・フィナ〜レ!とかいうの叫んでんの?」
小馬鹿にしたように笑いながら聞く。
その言葉に少しムッとしたマミさんはスマホを操作し出した。
「佐倉さんのロッソ・ファンタズマも可愛いじゃない。ほら」
今より2、3年ほど幼い杏子が画面の中でロッソ・ファンタズマ!と叫んでいる。
かわいい。
「何で撮ってんだテメー!消せ!」
「嫌よ!私の大切な思い出なのよ!」
ロッソ・ファンタズマ……ロッソ・ファンタズマて。
「あはははは!お腹痛い!杏子、あんたその感じでロッソ・ファンタズマ!って叫んでんの!?あはははははは!」
「笑ってんじゃねぇ!昔、マミが無理矢理言わせてきたんだよ!今は言ってねーよ!」
「あははははは!死ぬ!死んじゃう!笑い死ぬ!あはははは!」
こんな一匹狼みたいな態度の癖に技名叫ぶなんて、面白すぎる。
しばらく笑い転げていると、癪に触った杏子が最悪な提案をする。
「……なあマミ。コイツだけ必殺技ないってのも、どーなんだ?必要だと思わない?」
「そうね、確かに美樹さんにも必要よね。今考えるわ」
目を閉じて難しそうな顔で考え込むマミさん。
嘘でしょ……!?
「え゛っ!?あたしは別に大丈夫かなーって」
「遠慮すんなよ、さやか。わかってる。ひとりぼっちは寂しいもんな」
「寂しいとかじゃなくて本当にいらないんだけどっ!?!?」
必死の抵抗。
このままでは14歳にして必殺技を叫ばさせられる醜態を晒してしまう!
だが時既に遅し。
マミさんの目がカッ!と開かれた。
「美樹さんの必殺技はスクワルタトーレよ!」
「へー、どんな必殺技なんだ?」
「刀の連撃を持ってして、相手を切り刻む技よ。相手は死ぬわ」
「いいね!いいね!さやか!やってみろよ!」
コイツ!他人事だと思って適当言って!
「ほ、本気?」
「本気だよ。見ろよ、マミの期待した顔」
ものすごくワクワクした表情のマミさん。
その手にはカメラが起動されたスマホが握られていた。
い、いや!
嫌だーーー!!!!!
あたしはその日、一歩大人になった。
人の言動を馬鹿にするのは良くないことだと。
特に、人の黒歴史を笑い転げることは本当に良くない。
「スクワルタトーレ!!!」
「あっはっはっはっ!!!!おもしれー!!!!!」
「カッコいい!カッコいいわよ!美樹さん!」
もう二度と、人を馬鹿にすることは辞めよう。
グスン。
インキュベーター
1万年前に別地球でエネルギー回収を行なっていたところ、宇宙警備隊に目をつけられた。
どこまで逃げようと追いかけてくるウルトラマン達を振り切るため、多元宇宙間移動の技術を発明、逃走。
当時の光の国技術では追いかけることが出来ず取り逃がすことに。
現地球には別星人から目を付けられないようシールドが貼られている。
『彼等人類は大切な資源だからね。怪獣なんかに殺されるなんて勿体無いじゃないか』