君のココロを守るため 作:一般魔法少女
「ちょっと出かけてくるね」
「いってらっしゃい。くれぐれも気をつけて」
夜の街並みを一人で歩く。
人々の喧騒が沸き、魔女なんて存在しないように感じる。
いや、魔女なんて知らない方がいいのだろう。
意外とこの世界は血生臭かったのだから。
人々の営みを背に路地裏に入る。
今日一日、僕達を付けていた相手を誘い出すために。
「出てきなよ」
「気づいてたのかい?色男」
現れるは、一人の魔法少女。
ワインレッドの魔法少女の衣装に、大柄の槍。
ほむちゃんから事前に聞いていた特徴に当てはまる。
彼女が佐倉杏子なのだろう。
「何か用?」
「キュウべぇの野郎に頼まれてね。アンタが邪魔らしいから消してくれってよ」
キュウべぇが?
前々から気づいていたが、余程邪魔に思われているらしい。
ウルトラマンと何かあるのか?
「アンタに恨みはないが、仕事なんでね!」
地面が割れるほどの踏み込みで放たれる突き。
咄嗟に両腕に光を纏わせ、軌道を逸らした。
「待ってくれ!話を聞いてくれ!」
「殺し合いやってんだ!後にしな!」
次々と打ち込まれる槍を必死に捌く。
腰を据えての話し合い、というわけにはいかなかった。
まあいい。
このまま一方的に語らせてもらう……!
「二週間後に、ワルプルギスの夜がやってくる!」
「へえ!ほむらって奴の情報かい!」
僕じゃなく、ほむちゃんの名前が出るってことは恐らく時間遡行の魔法がバレているな。
「そうだ!協力はできないのか!?」
「ワルプルギスが来るってんなら、その前に変なイレギュラーを潰しとくべきじゃんか!」
ごもっとも!
突き出された槍を踏みつけ、地面に埋まらせる。
槍というリーチの長い武器に対して距離をとっても不利になる一方だ。
あえて相手の懐に飛び込むことで、武器の有利を潰す。
心苦しいが、気絶してもらう!
魔法少女の多くは、唯の少女が変身した姿だ。
武器も魔法もなければ、なす術がないはずだ。
手加減した拳を突き出す。
完全に不意を打ち、意識を刈り取れる一撃。
当たった、はずだった。
突き出した拳が空を切り、腹にカウンターを打ち込まれた。
「武器がなけりゃ何もできないと思ったか?
魔法がなけりゃ何もできないと思ったか?
舐めんじゃねぇ!
こちとらマミに仕込まれてんだ!
武器がない程度でやられるほど、柔じゃねえんだよ!」
魔法少女とは儚い生き物だ。
ただ生きるだけでも僅かに魔力を消費し、魔女に勝ち続けなければいずれ死ぬ運命にある。
数多くの魔法少女が願いを叶え、そして魔女になっていった。
その中で、ベテランとまで呼ばれるほど生き延びれる杏子とマミは本当に強いのだ。
「うおおおおお!!!」
「おらおらぁ!そんなもんかよ!」
互いにその場に留まり、超接近戦での殴り合い。
的確に拳を逸らされ、少しずつではあるが攻撃を当てられる。
一発一発は軽いものの、徐々にダメージが蓄積してくる。
このままでは敗北は必至だった。
どうする?ウルトラマンの技を使うか?
しかし、手加減をミスれば杏子を跡形もなく消してしまうだろう。
倒したいが、殺したい訳ではない。
それにワルプルギスの夜に向けての貴重な戦力。
みすみす死なせていい相手ではない。
「光よ!」
手の光を強く発光させ、杏子の目を潰す。
さやかにも通じた、初見殺しじみた奇襲戦法。
一気に決めさせてもらう!
そして、懐に潜り込まれた。
「!?」
「素人相手じゃねーんだ!そんなん効くかよ!」
なんで?ああ、片目を瞑って守ったのか。
鳩尾を全力でぶん殴られ、壁まで弾き飛ばされた。
光が放たれる瞬間、1秒にも満たない間に片目を瞑り目を生かす判断力。
瞬時の行動が、常に最善手である戦闘センス。
僕や、さやかみたいに最近戦い始めた者では届きえない経験の差。
これが、ベテランの魔法少女。
これこそが、佐倉杏子なのだ。
「アタシは殺す気でやってんだぜ?舐めたままで勝てるかよ」
舐めたまま、ね。
確かに舐めていた。
本気でやったら殺してしまうと。
知らず知らずのうちに、慢心していた。
使い魔に勝った。
人形の魔女に勝った。
知恵の魔女にも勝った。
どれもギリギリの戦いではあったが、負けることはなかった。
心のどこかで思っていた。
所詮は魔法少女だと、魔女よりかは弱いだろう、と。
違う。
僕が勝った相手に勝ち続けているのが、魔法少女なのだ。
舐めていい相手じゃない。
油断していい相手じゃなかった。
本気でやろう。
(なんだ……?)
ゆらり、とめり込んだ壁から這い出てきた。
先程までと纏う雰囲気が変わっている。
不気味な気配。
首筋の辺りが妙に落ち着かない。
負ける────?
いや、と被りを振り嫌な考えを払拭する。
流れはアタシにある。
様子見だったが、このまま決めさせてもらう!
大地に向けて、全力で走り出す。
普通の人間には見えない速度で駆け出し、全力を込めた上段からの振り下ろし。
スピードと全体重を乗せた、今回の戦いで初めて出す本気の一撃。
頭を割られ、呆気なく死ぬのだろう。
そんな未来を夢見て。
そして、未来はぬるりとした感触で覆された。
「!?」
外れた訳ではない。
当たりはしている。
ただ、完全に見切られ受け流された。
「まだだ!」
突きの連発。
普通ならチーズのように穴だらけになっておかしくないはず。
その全てを最小限の動きだけで躱される。
普通なら当たる攻撃がまったく当たらない。
「何でだ!?」
「脳を光で強化した。つまり、さっきまでの僕より遥かに早く判断できるし、認知能力も上がっている」
槍の柄を握り締められる。
「だから見える」
当然ながら、人間体でそんな強化は危険が伴う。
脳が沸騰するほど熱くなる感覚。
もって、およそ5分といったところだろう。
構わない。
いつもの三倍もあるのだから。
(そんな強化ができたなら最初からやっているはず!なら時間制限があると見るべき!)
杏子は抜けない槍を手放し、全力でバックステップを踏む。
判断は間違ってない。
読みも間違ってない。
それでも相手はウルトラマンだ。
手を擦り合わせ、光がスパークする。
「ハンドスラッシュ」
威力を落とし、連射速度を重視した光線が多量に吐き出される。
一撃の威力は大したことない。
だが、当たるたび衝撃で少しずつ体を動かされる。
まるで特定の場所に誘導されているように。
杏子をとある地点にまで追い込む。
そして懐からこれみよがしにスパークレンスを取り出し、大きく手を広げた。
すると、杏子の動きが変わった。
先程までは付かず離れずの距離を保っていたのに、急に距離を詰めてきたのだ。
なるほど。
スパークレンスのことは知っているのか。
直線距離を全速力で走る杏子。
当たるハンドスラッシュをお構いなしに遮二無二突っ込んでくる。
だが、もう遅い。
既に目的は達せられている。
天高く掲げ、スパークレンスが輝く。
そして僕は、
「ミラクルバルーン光線!」
シャボン玉状の光線が発射され、杏子に当たる。
まさか変身せずに攻撃してくるとは思ってなかったのか、避けるのが間に合わなかった。
痛みはない。
体に異常もない。
ただ、シャボンの中に閉じ込めるだけの技。
しかし、決して傷つけない為の技だった。
「クソッ!出れねえ!」
暴れようと、中から槍で刺そうとも破れない。
「スパークレンスは囮だよ。僕が変身することを知ってるなら、止めに来ると思ったからね」
「あそこまで誘導したのは?」
「光線を溜める時間が欲しかったのさ。初めて撃つから少し手間取ったけど、効果はこの通り」
ふわふわとシャボン玉が浮かぶ。
中で杏子がどれだけ抵抗しようとも絶対に割れない仕組みになっていた。
「さらに」
杏子の胸元から深紅の宝石を奪う。
すると、魔法少女の衣装が解けパーカーにホットパンツ姿へと変わった。
「これでようやく話し合いができる」
「人から奪っておいて、話し合いかよ」
「殺しに来たんだからトントンでしょ。こっちはむしろマイナスじゃない?」
舌打ちをされ、忌々し気に睨まれる。
やたら敵視されているし、話すのは無理そうだ。
しょうがない。
そんなことより、注目すべきは手元のソウルジェムだ。
見るのは3個目、触るのは2個目だ。
ジッと観察する。
ソウルジェムとは何か?
それは魔法少女達の命、魂が具現化した宝石。
見た目は色以外は同じだが、その中身はまるで違う。
同じ魂、同じ精神が存在しないように、同じソウルジェムも存在しない。
よって、ほむらと杏子のソウルジェムは中身の構造がまるで違った。
だが、同じ部分もある。
それは魔力を生み出す部分だったり、穢れを発生させる部分だったりする。
以前グリーフシードを触っていても、闇に覆われすぎて穢れの発生がわからなかった。
ほむちゃんのソウルジェムでも、それが本当にあっているのか確証がなかった。
でも、今回杏子のソウルジェムを観察することで確信が持てた。
僕はソウルジェムの穢れを吸収できる。
もっと深くまでソウルジェムを調べることができれば、間違いなく。
「なあ」
「ん?」
しばらくソウルジェムを観察していると、杏子から話しかけられる。
「何で、さやかのダチの体を乗っ取ったりしたんだ?こんだけ強けりゃ必要ねーだろ」
体を乗っ取る……?
「何それ?」
「は?」
「僕、別に乗っ取られてないけど……」
「だってキュウべぇが……」
「乗っ取ったって?あの白うさぎ、何か勘違いしてるんじゃない?」
勘違い?
いや、あの映像では確かに少女を乗っ取っていた。
同じ種族らしいコイツも乗っ取れるんじゃないのか?
違和感。
「信じられねーな」
「何でキュウべぇの言うことは信じられるの?」
「それは……」
「願いを叶えてもらったから。でも、君達は終わりなき闘争に身を投じる羽目になっている。現にウルトラマンという魔女以外の相手もさせられるようになっている」
違う!アタシは、アタシのために戦ってきたんだ!
「アタシ達は、願いの対価に戦っているんだ!戦わされてる訳じゃ……!」
「本当に?キュウべぇに違和感を持ったことは?」
ある。
あの映像、ウルトラマンは確かにキュウべぇを殺していたり
だが、それ以上に無垢な人々を守っていた。
どうにもチグハグな印象で、違和感を感じたのは確かだ。
まるで、思考を誘導されるみたいに。
「気をつけて、敵は僕だけじゃない。たとえば────」
「それはどういう────」
その時、飛来してくる二つの物体と物陰から飛び出す一人を知覚する。
狙いは腕。
おそらく杏子のソウルジェムを取り返すための射撃と救出のためのさやかだろう。
躱せはする、があえて受ける。
「ぐっ」
熱い棒を突っ込まれたような痛みが走る。
痛い。
何回やっても慣れるものではない痛みに悶えそうになる。
だが、悶えるよりもソウルジェムを返すことを優先した。
弾丸が当たった瞬間に、思わず手放してしまったと思われるようにソウルジェムを杏子に投げ返す。
「杏子!」
ミラクルバルーンのシャボン玉が切り裂かれ、杏子を連れ出したさやかが撤退していく。
僕の腕を撃った気配も消え、完全に撤退したのだろう。
先程の喧騒とは打って変わって、静寂が場を包みこんだ。
「まどか達にバレないようにしないとなぁ……」
腕の傷を光で抑えながら、帰り道を歩いていった。
杏子を抱えながら、ビル群の間を飛び抜ける。
夜も遅いため、人に見つかる心配はないだろう。
「ドジってんじゃないわよ、無事?」
「……悪いな。助かった」
「そ、そう?変に素直で気持ち悪いわよ」
突っかかってくるかと思っていたが、感謝されてしまい思わず面食らってしまった。
そんなに負けたことがショックだったのだろうか?
杏子らしくない態度に、こちらのテンポも崩されてしまう。
いけない。
こんな時こそ元気出せ、あたし!
「まあ、相手の手の内も見えてきたし三人なら大丈夫でしょ。マミさんと合流して作戦会議といきますか!」
早く合流するため、ビルを跳ぶ速度を上げた。
アイツが言った一言が、妙に心に引っかかる。
「ソウルジェムが……」
穢れきったらどうなるか、だって?
そんなの────
どうなるんだ?
「ただいま〜」
「…腕を出しなさい」
「えっ何が「腕を、出しな、さい」
「……はい」