君のココロを守るため 作:一般魔法少女
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「なあ、キュウべぇ。ソウルジェムが完全に穢れたら、どうなるんだ?」
マミの家に着くやいなや、キュウべぇに問いかける。
いきなりの問いだったので、さやかもマミも困惑する。
だが、必要なことだった。
「佐倉さん……?どうしたの?急に」
「答えてくれ」
アタシの問いかけ。
キュウべぇは動揺していない。
『そうだね。それについては余り話したことがなかった。ソウルジェムが完全に穢れると、君達は魔法少女じゃなくなる。つまり、魔法少女の宿命から解放されるんだよ』
嘘を言っている感じはしない。
それでも違和感を感じる。
「魔法少女を辞めたかったら、グリーフシードを使わなければいいってこと?」
『そうだよ。でも、今までのようにはいかないし、魔法少女にはもう二度となれない。よく考えるべきだ』
魔法少女を辞めれると知って、安心したようなさやか。
確か惚れた男がいるんだったっけ?
「なーに変なこと気にしてんてのさ、杏子」
「うっせぇよ!ちょっと気になっただけだ」
それでも、胸の棘は抜けてくれない。
何故かキュウべぇが本当のことを話していないように感じてしまう。
……考えても仕方ないか。
「それよか、さやか!修行だ、修行!アンタが強くならなきゃ、勝てるモンも勝てやしねーよ!」
「うげっ、やっぱそーだよね」
「やはり襲撃されたのね」
撃ち抜かれた腕を手当てしてくれる。
くるくると包帯を巻きながら、ソウルジェムの光を当てて傷を癒してくれる。
「佐倉さんが思ったよりも強かった以外は予定通りだったよ。キュウべぇに対する不信感も植えれたと思う。でも、よかったの?」
ソウルジェムの穢れについては慎重に取り扱われないと危険だ。
そのため、あまり口外してはいけない。
今回も襲撃相手が佐倉さんだったら話していいとほむちゃんから言われていたため話したが、大丈夫だっただろうか。
「ええ、佐倉杏子はメンタルが強いもの。ちょっとやそっとじゃ魔女化しないわ。他の二人は怪しいけれど」
何故だか佐倉さんへの扱いが雑な気がする。
雑というか信用というか、何というか。
それだけ、信頼しているのだろう。
「はい、終わり。いつも怪我を隠そうとするの止めなさい。悪い癖よ」
「女の子の前でカッコつけようとしてるだけ。もうやらないよ」
「そうしなさい」
開いたら、閉じたりして腕の調子を確かめる。
思ったよりも平気そうだ。
「ありがとう、ほむちゃん」
「ええ、気をつけてね」
「本格的に襲われてきたわね」
「そうだね。キュウべぇはよっぽどウルトラマンが邪魔らしい」
次の襲撃では、巴先輩含めて三人で来るのかもしれない。
それまでに対抗策か、説得材料を作っておきたいところだ。
「佐倉さんは仕事だって言ってた。何か報酬があると思う?」
「……そうね。佐倉杏子が動くとなればグリーフシードが報酬の可能性が高いわ。それも複数個渡すとか、かしらね」
グリーフシードか……。
「キュウべぇが複数個用意できる物なの?アイツら穢れたやつは持ってそうだけど、穢れてないグリーフシードとかも持ってるの?」
キュウべぇは使い終わったグリーフシードの回収を担っているが、直接魔女をどうこうするとは思えない。
「別にキュウべぇが狩らなくても手に入る方法はあるわ。
それこそ魔女と魔法少女が相打ちになれば、誰も使っていないグリーフシードが手に入るもの」
それを回収していたら、用意するのは簡単か。
「じゃあ僕が穢れを無くせたら、交渉材料になるね」
理論上は無制限に使えるグリーフシードの代替え品だ。
魔法少女にとっては喉から手が出るほど欲しいだろう。
「そうね。でも、できるの?」
「僕も成長してる。何とかしてみせるよ」
一晩経った次の日、体調もコンディションもベストに整えた上で挑む。
文字通り命を預かるのだ。
生半可な覚悟では行えない。
「じゃあほむちゃん。借りるね」
「ええ、よろしくお願いするわ」
手渡されたソウルジェム。
ほむちゃんの、命。
死ぬかもしれない挑戦に、僕の手が一瞬震える。
僕が、殺してしまうかもしれない。
怖くないはずがない。
恐れないはずがない。
それでも、彼女達の未来のために覚悟を決める。
なにより、僕を信じて渡してくれたほむちゃんのためにも、絶対に成功させてやる。
意識を全て目の前のソウルジェムに集中させる。
紫色の美しい卵型の宝石。
今は僅かに穢れてしまっているが、すぐに美しさを取り戻してみせる。
光を集中させ、意識を中に入り込ませた。
揺蕩うようにソウルジェムの中を彷徨う。
ふわりふわり。
どこか現実味がない空間を浮くように進む。
「ここが、ソウルジェムの中」
一面、真っ白な空間が広がる。
とても幻想的で神秘的な空間。
悔しいが、やはりインキュベーターは技術力が違う。
僕達が追いつくまでにどれほどの途方もない時間が必要か、想像ができない。
何もない道を進み続ける。
考え事をしていた。
何故、インキュベーター達が願いを叶えるのか。
ずっと不思議に思っていた。
エネルギー回収だけを目的とするなら、必ずしも願いを叶える必要はない。
なのに、何故?
効率的だから?
きっとそれもあるだらろう。
願いが叶う、という最上級の幸せを与えることで、絶望した時の感情の振れ幅がより大きくなる側面があるのは否定しない。
僕は一つの仮説を立ててみた。
もしかして、願いを叶えなければ魔法少女にできないのではないか?
だからこそ、願いを叶えているのではないのだろうか。
その答えがここにある。
「これは、ほむちゃんの魂と願いだ」
一つの大きな光。
それを中心に様々な装置が取り付けられており、稼働している。
魔法少女、というには機械的な方式で動いている光景に思わず苦笑してしまう。
もちろんこれは僕のイメージが具現化した存在だ。
実際の仕組みはもっと、抽象的で概念的なのだろう。
僕の脳が理解できるように補完された存在にすぎない。
それでも何となくの仕組みは理解できた。
まず、中心の光。
これは願いと魂を核にした動力源のような物。
この二つが絡み合うことで、魔力を生み出している。
次に魂と直接繋がっているライン。
これは肉体との結びつきを表している。
恐らくこれが繋がっていることで肉体を操作しているのだろう。
最後に周りの装置。
魔力を燃焼させ、魔法へと変換させている。
その際に排出されるのが穢れだ。
車でいうガソリンと二酸化炭素のような関係。
それが、一つの容器に注ぎ込まれていた。
その穢れが限界まで溜まると魔女へと変換させるのだろう。
さて、おおよその仕組みはわかった。
僕は容器に溜まった穢れを手に取り、そっと蓋を回す。
中には、ドス黒く蠢く黒い液体。
怒り、嫉妬、恨み。
人が持つ負の感情の集合体。
「いただきます」
それらを全て飲み干した。
前に、闇の操り方がわからないと言った。
今もそうだ。
だから、直接吸い取ることでその問題を解決する。
味はない。
あくまでもイメージだから。
だが、食道、胃を通るたびに焼けつくような痛みが走り出す。
「グ、ウゥゥゥ!」
痛い、痛い、痛い。
人の負の感情を取り入れることが、こんなに辛いとは。
無性に腹が立ち、やり場のない怒りに胸がムカムカする。
周りに当たり散らしたくなり、破壊衝動に襲われる。
今まで思いもしていなかった考えがいくつも頭に浮かんだ。
ふざけるなぁ!
何で僕がこんなことしなくちゃいけない!
何で僕が魔女なんかと戦わなくちゃいけない!
違う。
僕がやりたいからやってる。
誰に強制された訳じゃない、僕自身の意思で。
あんな女ども、死んだところで誰も悲しまない!
自業自得の馬鹿女どもだ!
そんなことない。
僕は悲しい、僕は辛い。
だから助けたいんだ。
みんなのために。
ハッ!お前、本当はまどか以外どうでもいいんだろう?
────ッ!。
それは紛れもない図星だった。
どうでもいいわけじゃない。
それでも、まどかの命が何よりも大切だった。
何よりも、誰よりも、この世界よりも。
反論がねえなぁ!やっぱそうなんじゃねえかよ!
まどかが一番大事!まどかの幸せを願ってるのがお前だ!
ほむらのことだって、本当はどうでもいいんだろう?
ほむらがまどかを助けようととしているから、利用したいだけだ!
確かに、そうかもしれなかった。
それでも。
それでも僕は、彼女の眉間の皺をとってあげたい。
彼女が未来に行けるようにしてあげたい。
荷物を背負ったままの彼女を解放してあげたい。
ずっと、まどかのために戦っている彼女を幸せにせてあげたい。
まどかが救ってくれた僕が、まどかを救おうと頑張る彼女を助けてあげたい。
僕は、僕のために頑張ってる。
誰かのためじゃない。
ほむちゃんのためじゃない。
世界のためじゃない。
僕自身がそうしたいと思ったから、僕は走り出すことを決めたんだ。
全ての選択は僕の責任だ。
僕の選んだ道だ。
僕の歩むべき未来だ。
後悔なんてあるわけがない。
オマエの心が折れるのを楽しみしてる。
意識が、現実へと戻ってきた。
天井の明かりが、やけに眩しく感じる。
「ソウルジェムは!?」
恐る恐る手元を見ると、穢れ一つない完璧な状態で輝いていた。
「やった……!成功した!」
時計の針を見ると既に1時間以上経過している。
思ったよりも時間が掛かってしまった。
だが、今回でやり方は確立できた。
次はもっと短くできるだろう。
「これでみんな助かる。魔女にならなくて済むんだ!」
いつまで?
心の中で、声が聞こえる。
こんなのは対処療法でしかないでしょ。
根本的な解決になってない。
それとも、一生穢れを吸い続けるつもりなの?
これから何人現れるかわからない魔法少女のために。
わかってる。
それでも、何もできなかったところから一歩前進だ。
今はそれを喜ぼう。
「ほむちゃん無事!?身体に異常ない!?」
「────」
「ほむちゃん?」
呆然としたまま動かないほむちゃん。
どうしたのだろう?
「本、当に穢れがない」
「そうだよ!できたんだ!グリーフシードが無くたって、魔女にならなくて済むよ!」
まるで実感がないように、ソウルジェムを持つ。
そして、魔法少女の姿へと変身した。
「魔法少女システムにも異常無さそうだね。無事成功してよかったよ」
「私の未来を作ってくれるって言ってくれたの、覚えてる?」
最初の約束。
ほむちゃんの未来を作るという、始まりの約束。
「もちろん、ちゃんと覚えてるよ。大切な約束だったからね」
「あなたは、守ってくれたわ。私との約束を。ちゃんと、守ってくれたの……」
一筋の涙が頬を伝う。
「本当は疑ってた。無理なんじゃないかって。誰も彼も、最後は魔女になってしまうと、どこかで思っていた」
「私、生きていけるのね。未来を見てもいいのね」
涙が止まらない。
ずっと、ずっと、待ち望んでいた。
絶望が覆る瞬間を。
奇跡が起こる瞬間を。
止まらない涙にアタフタとしてしまう。
涙を止める方法がわからなくって、背中を摩って、ルミナスの花飾りをほむちゃんの頭につけた。
新たな門出を祝うように、花を贈る。
「君の未来はこれからだ。この先もずっと続いていく。これはその第一歩」
「まだまだ、終わりじゃない。もっと、もっと、信じてよかったって思わせてみせる」
「だから、そんなに泣かないで」
くしゃくしゃになった顔で、笑顔を作る。
きっと、涙でボロボロになって綺麗ではないのだろう。
それでも、笑顔で伝えたかった。
「ありがとう。本当に、ありがとう」
「うん、頑張ってよかった。君が笑ってくれて、本当によかった」