君のココロを守るため 作:一般魔法少女
重たい。
死んだ人がこれほど重たいとは。
物理的な重さと、精神的な重さがのしかかってくる。
僕の責任だ。
僕がもっと上手くやれば、二人とも死なずにすんだはずなのに……。
僕がさやかを、巴先輩を佐倉さんが運ぶ。
「じゃあ、なにかい?アタシ達はキュウべぇに騙されていたって?」
「そうだよ。現に二人は死んでしまった」
「……ッ!」
死んでねぇ!と叫びたくて、背中の重さが否が応でも現実を伝えたくる。
「……冷静じゃん。アンタ、さやかのダチだったんじゃねーのかよ」
その冷淡な声に、思わず責めるような口調になってしまう。
なんだよコイツ。
友達が死んだってのに冷てぇな。
「友達だよ。大切な友達。
大切な……友達……なんだ……」
10年だ。
さやかと出会って、友達になって10年経つ。
その友達が背中で死んでいる。
時に笑い、時に泣き、時に喧嘩した。
今でこそ戦うはめになっていたが、それでも大切な友人だった。
思わず涙が出てしまう。
血が出るほど口を噛み締める。
胸にぽっかりと穴が空いたような感覚。
母さんは物心つく前に死んでいた。
物心ついてからの、始めての人の死。
身近な人の死がこんなにも辛いだなんて、思いもしなかった。
完全に手がない訳ではない。
二人はまだ、生き返るかもしれない。
それでも、死んでしまったのは事実だ。
冷静に見える?
こんなにも、胸の内が暴れているというのに。
こんなにも、胸が張り裂けそうだというのに。
どんなに大きくなれたって、どれほど強くなれたって、大地はまだ14歳の少年でしかなかった。
痛いことが嫌いで、魔女が怖くて、友達の死に涙する。
そんな普通の男の子だった。
「悪い、嫌なこと聞いた。アタシも冷静じゃなかった」
「いいよ、僕もごめん。冷たかったよね。
でも、二人はまだ生き返る。
冷静でいないと大事なことを見落としてしまう」
怒りはある。
頭が沸騰して、今にも爆発しそうだ。
それでも、冷静でいなくてはならない。
本当に二人を助けたいのなら。
巴先輩の家にお邪魔する。
僕の家でも構わなかったが、佐倉さんからしたら敵地だ。
あまり気は進まないだろう。
二人をベッドに並べた。
遺体の鮮度を保とうとして、ソウルジェムを取り出した佐倉さんの手を押さえる。
「なんだよ?」
「ソウルジェムをしまって。
僕の考えが正しければ────」
その時、壁から黒い影がすり抜けてきた。
咄嗟に指輪へと戻すことで奪われずに済んだが、間一髪だった。
奪えないとわかったのか、ソウルジェムを見失ったのか、黒い影はその場で霧散していく。
「これで確定した。相手はソウルジェムを狙っている」
「そんな……」
これでは死体が腐ってしまう。
ソウルジェムさえ使えれば、死体の鮮度を保つことができたのに。
死体は個人差はあるものの、死後48時間もあれば腐敗が本格化する。
さらに、死体には虫が寄ってくるのだ。
ハエなどは数時間もあれば寄って卵を植え付けてくる。
半日もすれば、蛆虫が湧き全身を食べ始めるだろう。
生き返れたとして、全身を虫が食い尽くしてしまうなど、どれほどの恐怖が襲うか想像もできない。
「僕の光で全身を覆う。腐敗は防げないけど、虫が湧くのは防げるはずだ」
淡い光が二人の全身を包む。
これで、一旦は安心だ。
だが、時間はない。
可及的速やかに根本的問題を解決する必要がある。
「今回のは、魔女なのか?」
あまりにも異質。
人を襲うわけではない。
だが、ソウルジェムを探知すると何処からともなく現れる。
「多分、使い魔だと思う。何処かに魔女結界を張っているんだとは思うけど……」
場所がわからない。
二人の間に静寂が訪れる。
手詰まりだ。
街中を無闇に探り回るしかないか?
「ほむちゃんを呼ぼう」
彼女なら何か知っているかもしれない。
「なるほど、ソウルジェムを狙う敵ね……」
顎に手を当てて考え込む。
しかし、その表情は優れない。
「ごめんなさい。記憶にないわ」
「アンタ、時間遡行者なんだろ?未来知識でなんとかならないの?」
「私はあくまで同じ一ヶ月を繰り返すだけ。そこに無い事態には弱いわ」
しょうがないか……。
「僕、探してくるよ」
「何処を?」
「わからないけど、しらみ潰しに行く。その間に何か策を考えといて」
ジッとなんてしていられない。
見つけられる可能性は限りなく低いだろう。
そんなのは重々承知だ。
それでも、何もしないでいる事なんてできない。
「まどか……」
「さやか、ちゃん……」
さやかの遺体に縋りつき、静かに泣くまどか。
この涙は、僕のせいだ。
さやかが魔法少女になった時から、こうなるかもしれないことはわかっていた。
あの時、さやかと佐倉さんを天秤にかけて
信じてくれないかもしれないという理由でさやかを助けるのを諦めたのだ。
どうにかできたのは僕で、どうにもできなかったのは僕だ。
僕が、さやかを殺したんだ。
降り続く雨の中、街中を駆け回る。
人通りの少ない所や、自殺のスポット。
怪しい箇所は重点的に探したが、どれも外れだった。
「クソッ!」
焦燥感ばかり胸に積もってくる。
ここまで探して手掛かりがないなんて……。
その時、草場の影から一匹の白い獣が飛び出してきた。
『やあ、ウルトラマン。こうしてキミと会うのは二回目だね。もっとも、あの頃はキミがウルトラマンだとは思っていなかったけれど』
「キュウべぇ……いや、インキュベーター」
『その名前で呼ぶということは、暁美ほむらが時間遡行者という説は当たりだったみたいだね』
種族名を言い当てられたというのに、まるで動揺した様子はない。
この程度は予想の範囲内か。
「今回の魔女、お前達が原因か?」
『そうだね。そもそも、全ての魔女は僕達が魔法少女を作らなければ発生しないんだ。それならば、今回のも僕たちが原因と言っても過言ではないね』
「この魔女、怪しい点が幾つもある。そもそもソウルジェムを狙うのであれば、あのタイミングで使い魔が現れるのがおかしい。もっと前から、誰か奪われていないとおかしいはずだ」
『……』
「お前達、
『否定はしないよ。全てはキミが知恵の魔女を倒してしまったのが原因さ。
あの魔女は、僕達の管理するグリーフシードの中でも特別強い個体だったんだけどね。キミは死んでくれなかった。
おかげで僕達は魔女でウルトラマンを倒す事を諦め、魔法少女達に頑張ってもらおうとした』
『およそ14年は前かな。彼女が産まれたのは。
当時の魔法少女達のソウルジェムを奪っていってね。
僕達は彼女達が魔女になる際のエネルギー回収が目的であって、殺したい訳ではないのさ。
彼女がソウルジェムを奪うと魔女化はするものの、エネルギー効率が悪かったから封印することにした。
単純に邪魔だったからね』
『まさか、今になって役に立つとはね。
僕達も予想していなかったけれど、彼女は大いに貢献してくれた。
特に、キミの変身アイテムを奪ってくれたことには、感謝してもしきれないよ』
「さやか達を巻き添えにしたのは?」
『キミの注意が逸れるのを狙ってたからね。
あの三人は良い仕事をしてくれた。
さやかとマミは少々勿体無いけど、ウルトラマン一人と引き換えならむしろプラスだ』
『さやかはキミを倒したがっていたし、きっと本望だろう』
「お前がそう仕向けたんだろうが……!」
コイツと話していると虫唾が走る。
どこまでも人類とは相容れない存在であると実感する。
コイツらには自分がない。
だから、自分が死んでも何とも思わないし、一人二人死んだところで、必要な犠牲と割り切れるのだ。
『ところで、今日はキミに相談があったんだ』
「相談?」
どんな話か知らないが、碌な話ではないだろう。
『キミ達が確保している鹿目まどか。アレを僕達に譲ってほしいんだ。キミ達が何を企んでいるのかは知らないが、僕達が有効活用したほうがよっぽど宇宙のためになる』
「……それを聞いて、僕達が渡すと思うのか?」
『思わないよ。キミ達ウルトラマンはいつだってそうだ。高々一人の命のために、全てを賭けている。宇宙の寿命より、一個人のほうが大切だなんてどうかしてるよ』
他のウルトラマンが何故人を助けるのかは知らないが、僕は
宇宙よりも世界よりも、まどかの方が僕にとっては大事だ。
だから、全てを賭けれる。
命を燃やせる。
恐怖を乗り越える勇気を、愛から貰っているんだ。
インキュベーターには決してわからないだろう。
「失せろ。これ以上お前と話していると、何をするかわからない」
『まあいいさ。まどかを宇宙のために捧げたくなったら、いつでも言ってくれ。僕達は歓迎するよ』
時間を無駄にした。
探索を再開しよう。
夜明けまで駆けずり回ったものの、手掛かりは何一つ見つけられなかった。
逆に言えば、見つけられないのを見つけれた。
普通の魔女なら、人を襲ったりして痕跡を残すはずなのだがその形跡がない。
つまり、今回の魔女は人を襲わずソウルジェムのみを狙う。
よって、痕跡など残るはずもなかった。
「酷い顔ね」
玄関のドアを開けると、ほむちゃんが立っていた。
どうやら、僕が帰るまで待っていてくれたみたいだ。
「そうかな……?そうかもね」
ずぶ濡れの子犬より酷い表情をしているのだろう。
そんな僕の頭をタオルで優しく拭きながら、一筋の希望を告げてくれた。
「作戦を思いついたわ」
「ッ!本当!?」
さすがと言うべきか、いつも頼りになる友に感謝する。
「そのためにも一回寝なさい。あなたが作戦の鍵なのだから、体調を整えた上で挑みましょう」
4時間ほど仮眠を取り、目を覚ますと佐倉さんが居た。
僕達が生き返った二人に鉢合わせすると再び争いになるかもしれないので、僕の家で作戦を開始するらしい。
「状況を整理するわ」
「今回の魔女はソウルジェムのみを狙う。故に本体の居場所がわからない。
ソウルジェムを察知すると、何処かから使い魔が現れて回収してくる。
使い魔は回収に失敗すると、その場で霧散してしまう。
回収した場合のみ、実体を持って帰っていく」
そうか。
最初に出会った時は二人のソウルジェムを回収していたから、霧散せずに帰っていったのだ。
即ち誰かのソウルジェムを渡せば、本体の居場所がわかるはず。
まさか────。
「私のソウルジェムを餌に使い魔を誘き出す。あなた達はその後を追いなさい」
「ダメだッ!」
つまり、ほむちゃんは自分を犠牲に相手を倒せと言っているのだ。
失敗した場合のリスクは測り得ない。
「じゃあ、どうすると言うの?二人の腐敗はどんどん進んでいるわ。他に方法はないはずよ。
杏子のソウルジェムを渡す?
私達が無事に取り返せるかの保証もないのに?
杏子も信じられないでしょう?」
「あー、そうだな。悪い。
命預けれるほど信じてねーわ」
その通りだ。
頭ではわかってる、この方法が最善だ。
少なくとも、ほむちゃんか佐倉さんのどちらかが死なねば、敵の位置はわからない。
それでも。
「それでも、僕は君に死んでほしくない……。
君に苦しみから解放されてほしいのに、死という一番の苦しみを味わってほしくないんだ……」
結局、この作戦に反対なのは僕の我儘だ。
自分勝手、身勝手な振る舞いに嫌気がさす。
でも、心の底から死んでほしくないのだ。
「違うわ。
死にたくて死ぬんじゃない。
生きるために死ぬのよ。
この山場さえ越えれば、きっと全員でワルプルギスの夜に挑める。
終わらない時に終止符を打てるのよ」
手を重ねられ、視線が絡み合う。
まるで心配していないように、僕の失敗を疑わないように、微笑む。
「あなたを信じてるわ」
反論しようとして、ほむちゃんの手が震えているのに気づいた。
死ぬのが怖くない人間などいない。
僕達はインキュベーターとは違い、一人一人、確かな自分を持っている。
怖くて当たり前なんだ。
その上でなお、僕を信じると言ってくれる。
これに応えなくて何が男だ。
何がウルトラマンだ。
「〜〜〜〜〜ッ!あーもう!わかったよ!この頑固者!お姫様みたいに眠って待ってなよ!」
「ええ。目覚めのキスを期待して待ってるわ」
床にソウルジェムを置く。
間もなく使い魔が現れるだろう。
僕はほむちゃんの体を光で包み、万全の体制を整える。
名残惜しみながら顔を見る。
これが最後かもしれない。
最後にする気はないが、今回の魔女はどこか異質だ。
どんなイレギュラーが待ち受けているのか、予想もつかない。
その時、ふわりと花のような香りが鼻をくすぐった。
強く、とても強い力で、どこにも行きたくないと言わんばかりの力でほむちゃんが抱きしめてきた。
「お願い、聞いてくれる?」
「私の死んだ顔、見ないでほしいの」
「きっと、すごくみっともないから。あなたには可愛いところだけを見ていてほしいから」
「だから、お願い」
「……わかった。約束する」
「ありがとう」
ぎゅっ、と力一杯抱きしめ、離れる。
大丈夫、きっとまた会える。
使い魔が窓から現れた。
一目散にソウルジェムを取り込み、外へと抜け出して行く。
「行こう、佐倉さん」
「ああ、ムカつく野郎をぶっ飛ばしに行こうぜ」
佐倉さんを背負い、使い魔の後を追う。
徐々に遠のいていく家を背中に、前だけを向く。
ソウルジェムの射程圏内から出た時、花びらが舞うのが見えた。
ルミナスの花が、散った。
「────ぶっ殺してやる」
「そんな顔しないで、まどか」
「あなたを見て死ねるなんて、これで終わりだとしてもきっと悪い最後ではないわ」
「大丈夫、大くんと杏子を私は信じてる」
「少し眠るだけよ……だから、安心して」
「……おやすみ、ほむらちゃん」