君のココロを守るため 作:一般魔法少女
「変身道具なかったらやばいんじゃねーの?」
「やばい……指ないのまどか達に何て言おう……」
「そっちかよ」
「誤魔化せると思う?」
「できるかバーカ」
「杏子、本当にありがとう。きっと一人じゃ倒せなかった」
力強く握手する。
指がないため不恰好な形ではあるが、それでもいいだろう。
本当に感謝してもしたりない。
彼女がいなければ、勝つことなど不可能だっただろう。
「礼を言うのはアタシもだ。アンタのおかげで、また目指すことにしたよ。
本当の魔法少女ってやつを」
ニッと快活に笑う。
太陽のような笑顔が、彼女のこれからを表している様に思えた。
きっと、もう大丈夫だ。
「さ、帰ろうか。みんなが待ってる」
「だな〜。流石に寝てーわ。何時間戦ってたんだ?」
「うわ、一日経ってるよ。ほむちゃん達無事かな?」
最短を目指していたとはいえ、流石に時間がかかりすぎた。
しかし、これ以上はどうしようもなかった。
しょうがない、というやつだ。
「アタシ達は何とでもなるだろ。それよりアンタ、その体の誤魔化し方でも考えときな」
「…そう…だった……」
静かな絶望。
まどかに物凄く詰められる未来が見える。
まどかはああ見えて怒ると怖い。
最近はほむちゃんも一緒になって怒ってくるので、これからの未来が憂鬱だ。
まぁでも、こんな馬鹿なことを思えるのはいいことか。
いや、光で誤魔化せるか……?
「大地ー!」
別れ際に杏子からうまい棒を投げられ、咄嗟に受け止める。
何だこれ?
「食えよ!ダチの証だ!」
ダチの証って…。
杏子はこういう所がカッコいいよね。
「またね!友達!」
目が覚める。
暗い部屋の中で、ソウルジェムが胸元で輝いていた。
きっと、私との約束で顔を見ないようにしてくれた配慮だろう。
それでも、近くにいてくれてる気配を感じる。
「……ぁり、がと。だい、くん」
舌が上手く回らない。
直前まで死んでいたのだ。
死後硬直で体全体が動かせない。
それでも、自分の口で伝えたかった。
「よかった……本当に……」
暗くてよく見えないが、声色から安堵した表情を想像する。
きっと、優しい顔をしているのだろう。
私の大好きな顔を。
ブリキのように錆びついた体を精一杯動かす。
ソウルジェムを大君の胸元に押し当てた。
どうせこの人のことだから、また無茶をしたのだろう。
暖かな光が、体を癒してくれる。
「……ちょっと……休ませて……」
ベッドに倒れ込むように横になる。
ほぼ丸一日戦っていたのだ。
あまりの疲労感に立っていることすらままならない。
ほむちゃんの目が覚めた瞬間、緊張の糸が切れたのか睡魔に襲われる。
僕は簡単に意識を手放し、深い眠りへと落ちた。
「おかえり。ほむらちゃん」
「ぇ、え。た、だいま」
電気の付けられた部屋で二人で話す。
安堵した顔のまどか。
また話すことができて嬉しい。
もしかしたら、もう二度とできなかったかもしれないのだ。
改めて大君と杏子に感謝する。
そういえば。
「美樹、さん、た、ち」
「さやかちゃん達?杏子ちゃんがソウルジェムとグリーフシード持っていったて言ってたから大丈夫だと思うよ」
そうか、杏子も無事なようだ。
よかった。
これで、不安の種はない。
美樹さやかと巴マミも、死んでいた反動で今日はどうせ動けない。
これで何の心配も────
違う。
彼女は癒しの願いで魔法少女になった。
他の魔法少女とは違い、肉体の治癒力が一線を画している。
美樹さやかだけは動けるのだ。
「ま、ず」
体を起こそうと必死に力を込める。
ダメだ、起きれない。
ソウルジェムの治癒で────
いや、大君の傷が思ったよりも深い。
治療を辞めたら死んでしまうかもしれない。
「ダメだよほむらちゃん!まだ寝てないと!」
まどかに体を抑えられる。
それでも立たなくては。
美樹さやかが今の状態に気づかず上条恭介の所に向かったとしたら、きっと魔女になってしまう。
ここまでの努力が全て水の泡になる。
まどかの静止の声を聞かず、立ち上がること力を込める。
そして、気付かれてしまった。
「もしかして、さやかちゃんが危ないの?」
「────!」
ダメだ。
それだけは絶対にダメだ!
まどかの性格なら、きっと助けに行くはずだ!
「……ち、が……う」
「そうなんだね……。私、さやかちゃんの所に行ってくる!」
「だ、メよ。行って……わ」
掠れた声しか出ない自分が恨めしい。
もしも、まどかの目の前で美樹さやかが魔女化してしまったら。
もしも、まどかが魔法少女になってしまったら。
そんな最悪がいくつも頭に浮かぶ。
だが、体は動いてくれない。
「ごめん!ほむらちゃん!」
扉を勢いよく飛び出してしまい、まどかは行ってしまった。
「だ、いく、ん……。起き、て……」
必死に力を込めて揺さぶるが、起きる気配はない。
あまりの疲労に、誰も彼もが動くことができなかった。
真っ暗な部屋の中、目が覚めた。
(ここ、どこ?今何時?)
部屋をぐるりと見回すと、マミさんの部屋にいることに気付く。
マミさんと杏子は死んだように眠っていた。
(あれ?あたし何でマミさんの部屋にいるんだっけ?)
大地と戦ってて、それで……。
ダメだ、思い出せない。
最後に何かあった気がするんだけど……。
(って!もう土曜の19時じゃん!告白は!?
恭介と仁美、付き合っちゃったのかなぁ!?)
何でこんなに寝てたのわたし!?
今から行っても遅いのはわかっている。
それでも走り出さずにはいられなかった。
(ごめん!マミさん!鍵開けっ放しだけどアタシ行かないと!)
妙に重たい体を引き摺りながら、必死に走り出した。
恭介の家に向かって走る。
降り続く雨が顔に当たって鬱陶しいが、そんなのに構ってられない。
1秒でも早く着くために必死に足を回している。
すれ違う人が妙にギョッとした顔で見てくる。
雨の中走ってるとはいえ、そんな変な格好してるかな……?
いつもの制服なんだけど……。
恭介の家の道中で、あたしの大切な人達が相合傘で寄り添うように歩いているのが見えた。
「恭、介。仁美」
自分の声とは思えないほどガラガラの声が出る。
風邪でも引いたかな?
それより、やっぱり付き合っちゃってたか。
あたしが寝過ごしたのが悪いよね……。
しょうがない、素直におめでとうと祝おう。
向こうもあたしに気づいたのか、声をかけてくる。
「さやかさん。実は私達付き合うことに────」
何かを言おうとして、二人の顔が驚愕に染まる。
「バ、バケモノ!!!」
えっ?
「お前はさやかじゃない!誰だ!!」
何を言っているの?
私だよ?さやかだよ?
一歩近づくと、二人が距離を離す。
また一歩近づく。
「仁美さん!逃げて!」
雨の中、逃げるように駆け出していく仁美。
何で?どうして?
まるで怪物を見たみたいに逃げないでよ。
少しずつ恭介に近づいていく。
「こっちへ、来るな!!!」
明確な拒絶と共に、あたしが治した腕から石が投げられる。
ぐちゃり、と頭から音が響く。
腐って柔らかくなっていた頭に、沈むように埋まった。
あれから逃げるようにして街を走った。
何だこれは?
何でバケモノなんて……。
頭が混乱している。
恭介達が付き合ったと思ったら、化け物って言ってきて…。
そういえば、顔。
石当たったのに痛くなかったな。
どうなってるかな?
ショーケースのガラスで顔を確認する。
石でぐちゃぐちゃになった顔。
土気色をした肌。
腐っている皮膚。
およそ、生きている人間がしていい色ではない。
「い、いや!嫌ぁぁぁぁああああ!!!!!」
あたしの絶叫が、一人寂しく響いていた。
バス停で降り続く雨を避けながら、感傷に浸る。
あたしの人生ってなんだったんだろう……。
いつの間にかゾンビになっちゃって、好きな人に振られて……。
馬鹿みたいだ……。
「こんな所にいたんだ。探したよ、さやかちゃん」
「………………まどか」
傘を差したまどかが現れる。
どうしてここに?
「もー、心配したんだよ。さ、帰ろう?」
そうか。
きっと、学校を休んでいたから探してくれてたんだ。
あたしの家からも連絡がいってるのかもしれない。
迷惑をかけてしまった事に申し訳なさを覚えつつも、少し嬉しい。
あたしにもまだ友達がいるんだ。
「……来ないで」
それでも口からは拒絶の声が出た。
まどかにまで拒絶されたら、あたしはもうダメだ。
こんな姿のわたしを見ないで……。
「大丈夫、一緒に帰ろう?私はどこにも行ったりしない。
私はさやかちゃんの味方だから」
あたしの、ブヨブヨになった手を取ってくれる。
こんなゾンビの腐りかけの体なのに、手を引いてくれる。
その行動が嬉しい。
暖かい手が、わたしを救ってくれた気がした。
やっぱり、まどかはあたしの一番の親友────
違う。
怖いものが苦手なまどかができる訳がない。
今のあたしは土気色で、顔がぐしゃぐしゃで、とてもではないが人間には見えない。
あたしがさやかだとわかる訳がない。
でも、まどかはあたしだと一発でわかった。
なんでだ?
手だって気色悪い感触のはずだ。
その手を握って何の反応もない?
おかしくないか?
知っていた?
そして、今までの違和感が全部繋がった。
「知って……たんだ。あたしのことも。大地のことも……」
「…………ごめん」
しおらしい顔で謝られる。
その態度が、何だか癪に触った。
「全部知ってたんだ!
魔法少女のことも!ウルトラマンのことも!
あたしのゾンビも知ってて黙ってたんだ!
馬鹿な奴だって笑ってた!?
魔法少女なんてやってる馬鹿だって!
大地のことも見抜けないマヌケだって!」
「ああ、だから魔法少女にならなかったんだ……!
あの転校生に聞いてたんでしょ?
何で誰よりも才能あるのにキュウべぇが誘わないのかって思ってたけど、そりゃなる訳ないよね!
人間辞めたくないもんね!!」
通りでキュウべぇが魔法少女にしないわけだ。
全部知ってる相手をペテンで騙せる訳がない。
あたしみたいな奴しか騙されない。
あたしみたいな馬鹿なやつしか。
「違う!違うよ!笑ってなんかない!
ただ、さやかちゃんが傷ついちゃうんじゃないかって……!」
あたしが傷付く?
何様のつもりだ!!!
「うるさい!!
言い訳なんか聞きたくない!!
あたしゾンビなんだよ!!
好きな人に石投げられて、顔がぐちゃぐちゃになってるんだよ!!
あたしの気持ちなんかわかんないでしょ!!」
「でも、さやかちゃんの力になりたいんだよ!」
あたしの力になりたいってなにさ!
じゃあ人間に戻してよ!
魔法少女になって、わたしを助けてよ!
「昔から好きな人に想われてたアンタにだけは言われたくない!!!
あんた達がどれだけ妬ましかったかわかる!?!?
あたしがどれだけ羨ましかったか想像したことある!?!?
あたしの恋愛が上手くいかないの、見て笑ってたんだろ!!!」
そんなことないってわかってる。
まどか達はそんなこしとないってわかってる。
本当は、わかってるのに……!
止まらない。
止められない。
頭にカッと血が上る。
ゾンビなのに、もう人間じゃないのに。
まるで、人間みたいに怒ってる。
「そんなこと……!!」
「黙れ!!!!もう喋るな!!!!」
否定の言葉を遮る。
うるさい口を閉じてやりたい。
何も言わないでほしい。
そう思ったら自然と首に腕が伸びていた。
「さ、やか……ちゃん」
その細い首を、手が締め上げる。
まどかの顔がどんどん赤くなっていく。
「あんたなんか……!あんたなんか……!!!」
ずっとずっとずっとずっとずーーーーーっと。
あたしは羨ましかったんだ。
あんなカッコいい幼馴染にずっと一途に思われているまどかが。
ずっと幸せそうに笑ってるまどかが。
転校生が大地に言い寄ってるのを見て、まどかでも不安になるんじゃないかって思ってた。
でも、まどかは何も気にしてない様に笑っていた。
その信頼が、思いが、あたしには眩し過ぎた。
なんで?
なんで不安にならないの?
なんで私は、恭介と一緒になれないの?
同じ幼馴染なのに、なんで?
どこでこんなにも差がついたの?
そんな思いだけが、ずっと降り積もっていた。
あんたはいいよなぁ!いつも一緒にいてくれて!
いいよなぁ!拒絶なんかされなくて!
あたしなんか、いつも空回りして!拒絶されて!目さえ合わせて貰えなくって!!
仁美に奪われて終わったってのに!!!
ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい!
思わないようにしていたのに、一度漏れてしまったら心が止まらなかった。
瞳から水が伝う。
もう雨なのか涙なのか、私にさえわからなかった。
こんなことしたくないのに。
したくないはずなのに。
体が止まってくれない。
あたし、惨めだ。
より一層手に力が入る。
そして、ぐちゃりと手元から音がした。