君のココロを守るため 作:一般魔法少女
「寂しいの?」
「じゃあいつか家族になろう」
「たくさん家族ができたらきっと寂しくなくなるよ」
────助けて
────助けてまどか
頭の中に響く謎の声。ずっと助けを求めている。
どこからだ?
時間にして5分程度ではあるが、助ける声は鳴り止まなかった。
幻聴かと疑うが、必死な訴えが心につっかえる。
外着に着替え、玄関の扉を開ける。
同時に隣の家から出てくる人影。
寝巻きにカーディガンを羽織っただけの薄着でまどかが家を出てきた。
いつもはツインテールで纏めている髪を下ろしている。
「大地くんも聞こえた?」
「まどかも聞こえたのか」
二人して顔を見合わせ、苦笑する。
どうもこの幼馴染とは変な所で似ているらしい。
「とりあえず探そうか」
「よく詢子さんが許してくれたね」
暗い夜道を二人で歩く。
時刻は夜中の十時を超えており、中学生が出歩くには少々遅い時間だ。
豪胆なようで意外と心配性な詢子さんが、夜間外出を許してくれるとは思えなかった。
「こめんなさい。ママには大地くんの家に泊まるって言って出てきちゃったの」
なるほど。
今までも何回か突発的なお泊まりはしていたから、不思議がられることはあっても怪しまれはしないだろう。
どうにも最近、詢子さんは僕とまどかの仲をどうにかしたいようだし。
「わっ、とと」
「大丈夫?足元気をつけてね」
転びそうになったまどかの腕を支える。
ありがとう、と笑う顔は月夜に照らされ、いつも以上に美しく見えた。
いつもは可愛いけど微笑む顔は美人さんだなぁ。
「でもさ、夜中に歩くなんてドキドキしちゃうね」
「そうだね」
声の主には申し訳ないが、不慣れな夜中を出歩いているため、早歩き程度のスピードで探索を行った。
しばらく探索していたが、声の主は見つからなかった。
これ以上出歩くと厄介な事に巻き込まれるかもしれないため、引き返そうとした。
その瞬間、
「何?」
先程までは普通の民家だった場所が、次の瞬間には不気味な家になっていく。
絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜて、そのままぶち撒けたような世界に不快感を覚える。
沢山の人形が飾られたメルヘンチックな家が並ぶ。
可愛いデザインをしているが、どこか不気味な雰囲気だ。
まどかが手を繋いでくる。
じっとりとした感触は、彼女が感じている恐怖を伝えてきた。
「か、帰ろう?」
「……そうだね。明らかにおかしい」
帰ろう、と背を向けたその時、背後に白い小動物が転がりこんできた。
「助……けて」
きっと白かったであろう体毛は傷から流れた血に濡れている。
片耳は千切れ、片脚も折れており、満身創痍だ。
「酷い怪我…」
まどかが思わず駆け寄り、腕の中に抱え込む。
白い生物は息も絶え絶えに告げ出した。
「僕の名前はキュウべぇ。
ここは、魔女結界と呼ばれる魔女のテリトリー。
一般人がいるには危険な場所だ。
まどか、僕と契約して魔法少女になって戦ってほしい。
その変わりに、君の望みを何でも叶えてあげる」
矢継ぎ早に告げられるが、状況を飲み込めない。
魔法少女?魔女?一体何を言っているんだ?
「とりあえず病院に連れて行こう!」
まどかは立ち上がり、走り出そうとする。
しかし、キュウべぇは、いけないと言うように身を大きく震わせた。
「ダメだ!来るよ!使い魔だ!」
背筋に氷柱が入ったような悪寒。
奥の道から多様な人形が姿を見せる。
ハサミを持ったうさぎ、針を持ったライオン、麺棒を持つ羊、どれもこれも、尋常じゃない雰囲気を纏いながら向かってくる。
生存本能が、全力で警鐘を鳴らしている。
まどかの目の前までうさぎが迫る。
大きく振りかぶられたハサミ。
最悪の未来を防ぐため、体が動き出していた。
「まどか!」
咄嗟にまどかを押し倒し、初撃を躱す。
倒れた拍子にキュウべぇが転がり出てしまう。
追撃に備え、まどかに覆い被さる。
だが、目の前にいる僕達を無視して
磔にされるキュウべぇ。
呆然と見ることしかできない僕達の前で、惨劇が始まる。
「ま、まどか……契や……く」
捕まったキュウべぇの口が切り裂かれた。
普通なら喋れなさそうだが、それでもなお、うわ言のように契約を迫る。
「ぎゅぽぇ」
キュウべぇが切られていく。
腹を開かれ、切り刻まれ、全身をぐちゃぐちゃにされる。
そして再度縫い合わされ、はぎつぎ人形のような見た目に変わり、物言わぬ骸へと成り果てた。
辺りに血の匂いが漂う。
咽せ返るような臭いに吐きそうになるが、何とか堪える。
「走れ!まどか!」
咄嗟にまどかの手を取り、走り出す。
突然の死に動揺してるまどかの手を引き、来た道を引き返しながら走る。
「だ、大地くん!あれ、な、なんなの?」
あまりの衝撃に声も体も震えている。
僕もありえない光景にパニックになりそうになるが、右手から伝わる彼女の熱が、何とか僕の心を保ってくれる。
「わかんない!とにかく逃げろ!」
走る。走る。走る。5分、10分。
息が切れ、体は酸素を求める。痛くなるほど足を回すが、一向に出口はない。
おかしい。
既に家に着いてもおかしくない距離を走っているのに、家一つ見えない。
まさか、出口がないのか。
絶望が心を覆い始める。
「も、もう無、理」
まどかが根を上げる。
無理もない、普段から運動を特にしている訳でもないのに長距離を全力で走っているのだから。
気持ち悪い感覚、後ろに何かがいる気配を感じた。
咄嗟にまどかを突き飛ばす。
振り返った先、使い魔と呼ばれた存在がすぐそこにいた。
こいつら、いつの間に────
左右から掴まれ壁に押し付けられる。
「離、せ!」
万力のような力で固定され、声を出すことしかできない。
そんな僅かな抵抗を笑うようにウサギが血濡れたハサミを近づけてくる。
脳裏に浮かぶは先程のキュウべぇの惨劇。
ゾッと背筋が凍る。
何とか逃げようと全力で踠く。
転倒から立ち上がったまどかもウサギの背中を引っ張り引き剥がそうと懸命に力を込めている。
そんな抵抗虚しく、ハサミが腹に差し込まれ、切り裂かれた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛痛痛痛い痛痛血血血血血血血血血血
「ああああああああああああっ!!!!!!!」
人生で初めて感じる程の痛み。
熱い鉄棒を直接突っ込まれたような感覚。
腹を裂かれ、ぐちゃぐちゃと内臓を掻き回される。
あまりの痛みに悲鳴が上がり、意識が飛びそうになる。
やめて、辛い、痛いよ、くるしい、何でこんなこと。助けて、誰か。
ぐちゃぐちゃになる身体にバラバラになる思考。
まともな考えなんか、できるはずがなかった。
口から血と涎が絶えず出る。
全身の穴という穴から、全て出ている。
早く終わって 助けて
まどか 逃げて
まどか 助けなくちゃ まどか
走馬灯が見える。
まどか。
僕の大切な人。
幸せになってほしい人。
昔、思っていた。
どうして僕にはお母さんがいないんだろう。
みんなが、お母さんと手を繋いで帰っているのをずっと羨ましかった。
一人寂しくて、寂しくて、ずっと泣いていた。
そんなひとりぼっちの僕に、どうしたの?って声を掛けてくれて、手を引いてくれたのが、まどかだった。
初めて友達になってくれた。初めて手を引いてくれた。
初めて遊んだ、初めて喧嘩して、初めて、初めて、初めて。
色々な初めてを君に教えて貰った。
僕が十四年の間にどれだけ助けられた事か、きっと君は知らないだろう。
いつだったか、まどかは運動も勉強も得意じゃないことを気にしていたことがあった。
でも僕は知っている。
彼女の『優しさ』は、他の欠点を補って余るほどだったのだから。
そんな彼女を僕は────。
ああ、幼い僕達が話している。
思い出の約束。
まどかしか知らない、二人きりの約束。
まどかが自分の嫌いな所を話してくれた日。
指切りを交わした日。
「じゃあ約束だ」
「約束?」
「まどかはまどかのまま、自分のことを好きになること」
そうだ。
僕は彼女が自分を卑下するのが嫌だったんだ。
彼女の優しさが僕を救ってくれたから。
だから、彼女が自分を嫌だと言うのならその分僕が思い切り好きになってやろうって。
「じゃあ大地くんは、私が、私を好きになるまで一緒にいてくれる?」
「約束する。これから何があっても絶対────」
ベチャリ、ベチャリと内臓が零れ落ちる音がする。
声が、聞こえる。
死なないでと必死に叫ぶあの子の声が。
自分も死にそうな目にあってるのに最後まで僕の心配をするキミ。
桜色の双眸から、涙が溢れ落ちる。
掠れた視界の中で、まどかが壁に押さえつけられているのが見えた。
「絶対、助、ける」
拘束を外そうと何とか身動ぐ。
しかし、血が抜けすぎたためか、どれだけ体に力を入れても指一本動かない。
ダメなのか?ここで死ぬのか?
もう意識が────
「大地くん!!!」
悲痛な声が心臓を叩く。
まどかの声で、消えかけた意識が戻ってくる。
──諦めるな!
────諦めるな!
──────諦めるな!!!!
体が、細胞の一片にいたるまで諦めるなと叫ぶ。
そうだ!まどかを諦めるな!あの子はこんな所で死んでいい子じゃない!彼女の未来を!
渾身の力を込め、腹をかき混ぜてる奴を蹴り飛ばす。
しかし、腹を切り開かれ内臓を掻き回された状態では両腕を固定する奴は振り払えない。
無力な自分を許せない。
あの日の約束は、そんなに軽いものだったか?
彼女の想いを否定なんかさせない。
願う。
力を!あの子を守れるだけの力が欲しい!理不尽を跳ね除ける力を!あの子が日常で笑い続れる力を!
きっと、産まれて初めて力を求めてる。
誰かを傷つけるためじゃない。
これからもまどかを幸せにするための力を。
未来を切り開くために。
魂の底から願った瞬間、その瞬間、場に光が満ちた。
ポケットから溢れ落ちた光が、両腕を固定してた敵を溶かし、目の前に浮かぶ。
「スパークレンス……」
心に呼応するように謎の棒、『スパークレンス』が光の中から現れる。
きっと……きっと握った瞬間、僕の人生は全て変わる。
取り返しがつかないことが起こる。
だが、構わない。
どんな姿に成ろうとも、あの子を守れるのなら。
光り輝くスパークレンスを、躊躇いなく握る。
本能は、使い方を理解していた。
光の遺伝子の覚醒。
世界で一番大切な子を守れと叫ぶ。
血反吐を吐きながら魂で叫ぶ。
そうだ、僕は、僕の名前は────
「ティガァァァァアァァァァア!!!!」
ウルトラマンティガ
異なる宇宙、異なる地球において3000万年前より存在する謎多き光の巨人。
光の巨人でもあり闇の巨人でもある存在。
その本質はいつだって変身者に委ねられている。
だが彼はいつだって信じている。
人は自らの力で光になれることを。