君のココロを守るため   作:一般魔法少女

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人魚姫

 

 ぐちゃり、と手元から音がした。

 

「ゲホッ……!ゲホッ!」

 

 まどかが咳き込みながら、地面に座り込む。

 力を緩めていないのに、まどかは解放された。

 

 どうして?と手を見ると、そこにある筈の物が無くなっていた。

 

「あ、あたしの指……。指とれちゃった……」

 

 締め付ける力に、腐った肉が耐えられなかったのだろう。

 プラプラと指が二、三本だけ皮一枚で繋がっていた。

 

 落ちた指を必死にポケットにいれる。

 何をしているのか自分でもよくわかっていない。

 でも、拾わなきゃ。

 

「……さ、さやかちゃん」

「ひっ……!」

 

 まどかの瞳があたしを貫く。

 思わず一歩引いてしまう。

 

 ピシリ、とヒビが入る音がする。

 

「や、やめて!アタシを見ないで!

 そんな目で、アタシを見ないで!」

 

 あたし、最低だ。

 友達を殺そうとするなんて、許される訳がない。

 

 ピシリ、と何かが割れる音がする。

 

「大丈夫!落ち着いて!深呼吸して!

 私は何ともないから!」

 

 ピシリ、ピシリとヒビが大きくなっている。

 

「ごめん!ごめんなさい!許して!」

「さやかちゃん!」

 

 そして、何かが砕ける音がした。

 

 

 

 

【Oktavia】

 

 

 

 

 

「きゃあああ!!」

 

 魔女化の衝撃で、ゴロゴロと地面を転がされる。

 

 西洋の鎧にマントを着飾った半人半魚の異形。

 

 人魚の魔女。

 ほむらちゃんが言ってた、さやかちゃんの魔女。

 

 大きなコンサートホールで演奏が聞こえる。

 使い魔による壮大な演奏。

 かつて、さやかちゃんが夢見た上条くんの演奏を再現するように、使い魔の演奏は終わらない。

 

「あ、ああ……」

 

 逃げなきゃ。

 そう思っても足がすくんで動いてくれない。 

 それでも、動かさないと。

 

 逃げようとして、オクタヴィアの足元にさやかちゃんの死体があることに気づいた。

 

 震える足を必死に叩き、魔女の足元に滑り込む。

 そのままさやかちゃんの死体をそっと抱き寄せ、少しずつ足音を立てないように距離を取る。

 

 確か、この魔女は演奏の邪魔をすると襲ってくると言っていた。

 なんとかバレないように逃げないと……。

 

『やあ、まどか。大変な事になってしまったね』

 

 キュウべぇ!?何でここに?

 

 タイミング良く現れるキュウべぇ。

 きっとどこかから様子を伺っていたのだろう。

 でなければ、あまりにもタイミングがいい。

 

 キュウべぇの思念波に、オクタヴィアが反応する。

 

『さやかを救いたいかい?だったら方法は一つしかない』

 

 お願い!お願いだから黙って!

 

 必死の願い虚しく、キュウべぇは止まらない。

 

 オクタヴィアの怒りが徐々に高まる。

 演奏中に話す不届者に怒っているのだ。

 

『僕と契約して、魔法少女になりなよ。そしたらどんな願いでも叶う。キミなら死者の蘇生だって可能だ』

 

 そして、怒りが爆発した。

 オクタヴィアがブチギレたのだ。

 

『さあ、早く!』

 

 人魚の腕が振り下ろされる。

 その一撃でキュウべぇはすり潰された。

 

「きゃあああ!」

 

 衝撃でまたも転がるまどか。

 さやかの体だけは離さないと抱きしめていたため、一緒に転がっていた。

 

「さやか、ちゃん」

 

 オクタヴィアの怒りは収まらない。

 何度も何度も、キュウべぇがいた場所に向けて刀を振り下ろす。

 そして怒りは、話相手だったまどかにも向けられる。

 

 人魚の三つ目がまどかを見据えた。

 

「ひっ……!」

 

 オクタヴィアは演奏の邪魔をする者を決して許さない。

 ましてや、大事な演奏中に話す奴などもっての外だ。

 

 魔女の巨体がまどかに近づいてくる。

 

「さやかちゃん!辞めて!

 私だよ!まどかだよ!わからない!?」

 

 わからない。

 最早、そんな事どうでもよかった。

 演奏さえあれば、それでよかった。

 

「さやかちゃん!」

 

 うるさい奴だ。

 早く叩き潰してやろう。

 

 刀が持ち上げられ、そして────

 

 

 

 振り下ろされた。

 

 

 

 景色がゆっくりになる。

 迫る刀が視界いっぱいに広がる。

 これから起こることを想像して、目を瞑った。

 

 これは、罰なんだ……。

 さやかちゃんを傷つけていた私への罰。

 

 傷つけてごめんなさい、さやかちゃん。

 私のせいでそんな姿になっちゃって、ごめんなさい。

 

 忠告を聞かなくてごめん、ほむらちゃん。

 やっぱ私はダメダメだ。

 戦うことはできなくても、友達を連れ帰るくらいはできると思ってたのに。

 そんなこともできなかったよ。

 

 大地の顔が浮かぶ。

 

「会いたいなぁ……」

 

 涙が落ちる。

 最後にもう一回だけ会いたかった。

 会って、抱きしめて欲しかった。

 

 そんな儚い願いは、もう終わる。

 

 オクタヴィアの手によって、まどかの愛は終わるのだ。

 

 

 

 

 

 いつまで経っても刀が落ちてこない。

 予想してた痛みが降ってこない。

 

 不思議に思い顔を上げると、黄色いリボンが刀を受け止めていた。

 

「間に、合ったようね」

「マミさん!?」

 

 どうしてここに!?一日死んでいたほむらちゃんは立ち上がれなかったのに。

 マミさんは二日は死んでいたはずだ。

 なのにどうして動けるの?

 

「鹿目さん。ここは私に任せて」

 

 マスケット銃を五丁取り出し、オクタヴィアを撃つ。

 しかし、その動きはどこか鈍い。

 体全体が上手く動いていないようだ。

 

 オクタヴィアは弾丸を切りながら怒り狂う。

 銃声が、演奏の邪魔をしているからだ。

 

 マミさんは諦めず、何度も撃つ。

 撃つたびに、オクタヴィアの攻撃は苛烈さを増していった。

 

 マミが効いていない銃を撃っていたのは攻撃するためではない。

 相手を挑発するためだ。

 

 頭に血が昇った相手ほど、誘導しやすいものはない。

 マミはとある地点に罠を仕掛ける。

 そしてまんまと引っかかり、リボンがオクタヴィアを拘束した。

 

「これで、決める!」

 

 マミの最大火力。

 今までも何体もの魔女を葬ってきた自慢の技。

 

「ティロ・フィナー……ッ!」

 

 一瞬、体が硬直する。

 痛みが全身を走った。

 

 その隙を逃さず、オクタヴィアはマミを吹き飛ばした。

 そして、リボンの拘束を解き追撃に走る。

 

「マミさん!」

 

 思わずマミさんに駆け寄る。

 傷は酷くない。

 それでも立ち上がれないみたいだ。

 

 マミさんの体を抱き起こした時、体の下にリボンが巻かれているのが見えた。

 

 そっか。リボンで体を無理矢理動かしてるんだ。

 こんな体で、無茶をしてくれてる。

 

「逃げましょう……!マミさん!」

「……そうね。無理する場面じゃなかったわ」

 

 リボンの結界を発動させ、オクタヴィアの行動を制限する。

 そう長くは持たないだろう。

 だが、時間さえ稼げればそれでいい。

 

 そのまま二人は魔女結界から脱出することに成功した。

 

「ありがとうございます。マミさん」

「驚いたでしょう?怪我はない?」

 

 そっか、マミさん私が魔法少女のこと知ってるって知らないのか。

 

「ほむらちゃんから事情は一通り聞いてたので、大丈夫です。怪我もあまりないです」

「そういえば、あの二人と友達だったわね……」

 

 少々気まずそうな様子だ。

 二人とは敵対関係にあったらしいから、その友達である私に負い目があるみたいだ。

 

「その、美樹さんは……?」

「……ちょっと眠っちゃってるだけです。だから、心配しないでください」

 

 私は嘘をついた。

 嘘をつく事に心が痛む。

 それでも、本当のことを言ってしまうと、とんでもないことになってしまうかもしれない。

 

 マミさんには申し訳ないが、しばらく黙っておこう。

 

「そう?それならよかった。家まで送っていくわ」

 

 歩き出そうとした時、マミさんが足から崩れ落ちる。

 

「マミさん!」

「ちょっと……無茶しちゃったわね……」

 

 やっぱり、死んでいた後遺症が治ってないんだ。

 それなのに助けてくれた。

 

「ありがとうございます。マミさん」

「構わないわ。私は魔法少女だもの」

 

 

 

 

 あの後、さやかの死体を連れたまどか達は僕の家にやってきた。

 目が覚めた時、誰の姿もなかった杏子が僕達を訪ねていたので丁度よかったのかもしれない。

 

 僕達は今までの経緯を全て巴先輩に伝えた。

 

「そう、そんな秘密があったのね……。

 じゃあ美樹さんは────」

 

「……死んでいます」

「ごめんなさい、マミさん。嘘ついてました」

 

「いいのよ……それで、美樹さんが助かる可能性はあるの?」

 

 ここからは慎重に答えなくてはいけない。

 ほむちゃんの話によると巴先輩は別の時間軸で魔女化の真実を知った時、杏子達を殺したらしい。

 

 念の為、全員僕の後ろに下がってもらっているが、いつでも光の壁を出せる心構えでいた。

 

「……僕の力で穢れを吸収して────」

『出来もしないことは口にしないほうがいいよ。ウルトラマン』

 

 僕の言葉を遮るように、思念波が割り込んでくる。

 

「キュウべぇ……」

「テメェ、どの面下げて来やがった!」

『やれやれ、嫌われたものだね』

 

 キュウべぇは杏子の怒声を浴びても、まるで意に介していない。

 いや、事実気にしていないのだろう。

 自己がないとはそういうことだ。

 

「キュウべぇ、できないってのは?」

『言葉の通りさ。魔女となった魔法少女を元に戻す方法はない。事実、宇宙警備隊……ウルトラマン達の本元でさえ、最後には倒すしかなかったからね』

 

『まして今の君はスパークレンスもない、ただの地球人の一個体でしかない。どんな奇跡も起こせやしないさ』

 

 淡々と伝えられる事実。

 キュウべぇは嘘はつかない。

 ウルトラマンでもどうしようもなかったのは本当なのだろう。

 

「そんな……」

「じゃあさやかを殺せってのかよ!」

 

『方法はたった一つだ。まどかが魔法少女になればいい。

 そうしたら、全部解決だ』

「…………」

 

 みんなの視線がまどかへ向いた。

 いきなり見られたら怯みそうなものだが、視線を受けてなお、堂々とした顔をしている。

 まさか……。

 

「……私のせいで、さやかちゃんは魔女になったんだ。じゃあ、責任取らないといけないよね」

 

 最悪の宣言。

 ほむちゃんの顔が青ざめている。

 彼女の願いを、まどかは無為にするつもりだ。

 

「ねえ、キュウべぇ?

 私が魔法少女になれば、絶対にさやかちゃんは助かるんだよね?」

『君の素質ならどんな荒唐無稽な願いであっても叶うだろう。それだけの力が、君にはある』

 

 キュウべぇは止まらない。

 千載一遇のチャンスが巡ってきたとばかりに、畳み掛ける。

 

『君なら絶対にさやかを生き返らせられる。何なら上条恭介の彼女にしてあげることも可能だろう』

「じゃあ、答えは一つだね」

『その通りだ。さ、僕と────』

 

 キュウべぇの顔面を掴み、黙らせる。

 

 ベラベラと好き勝手言いやがる。

 奇跡を起こせない?地球人が何もできないとでも思っているのか?

 ふざけるな。

 

「お前が僕の限界を決めるな。

 僕は諦めない。

 例え、それしか方法がないのだとしても、最後の最後まで諦めない」

 

 ウルトラマンとは奇跡を起こす者ではない。

 力ある者ではない。

 決して最後まで諦めない者達なのだ。

 

 諦めない者にこそ、奇跡は輝く。

 

「僕を、ウルトラマンを舐めるなよ」

 

『……ふうん。出来るとは思えないけどね。

 ま、頑張るといいさ。

 まどか、僕はいつでも歓迎する。

 その気になったら言ってくれ。待ってるよ』

 

 するりと手から滑り抜け、尻尾を振りながら去って行った。

 

 そして、僕はまどかにデコピンをぶち当てた。

 

「イタッ!」

「この、馬鹿。バカバカバカ。

 何の相談もなく決めようとするんじゃない。

 魔法少女になる前に、もっと考えようよ。

 奇跡ってのは何もしない人にはやってこない。

 最後まで頑張った人にこそ与えられるものなんだ」

 

 キュウべぇの起こす奇跡は確実なのだろう。

 少女であれば誰でも簡単に起こせる。

 それは甘美で、とても優しい奇跡なのかもしれない。

 でも、そのせいで歪みが生じる。

 魔女化なんていう悲劇が起こっている。

 

 そんなもの、僕は奇跡なんて呼びたくない。

 

「でも、私がさやかちゃんを魔女にしちゃったんだよ。私が傷つけなければ、まだ人間でいられたのに……」

 

 涙が溢れる。

 あの時、ほむらの忠告を聞いておけば。

 もっとさやかの心に寄り添っておけば。

 

 そんな後悔ばかり、降り積もる。

 

「わかるよ。僕も後悔してばっかりだ。

 失敗なんて沢山した。

 さやかを死なせたって言うなら僕も死なせてしまった。

 監獄の魔女の使い魔の時、さやかを見捨てたんだ」

 

「傷つけたなら謝ろう。

 僕もまだ、さやかに謝れてないんだ。

 許されないかもしれない、喧嘩別れになるかもしれない。

 それでも、こんな最後には絶対にしない。

 これで終わりになんてしない。

 彼女の結末が魔女だなんて、僕は納得できない。

 僕が絶対なんとかする」

 

 見る人を安心させる笑顔を浮かべる。

 この人なら何とかしてくれる。

 きっと大丈夫、と思ってもらえる笑顔を。

 

「それともまどかは僕を信じられない?」

 

 ズルい聞き方だ。

 そんな風に聞かれてしまったら、答えなんて一つしかない。

 

「……信じるよ、いつだって信じてる。

 大地くんが信頼を裏切ったことなんて、一度もないもん」

 

 出会った時から、今まで。

 疑ったことなんてない。

 いつも変わらない笑顔で、私を見ていてくれてた。

 私以上に、私を信じてくれる大好きな男の子。

 

 彼が言うのなら、きっと大丈夫だ。

 そう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあほむちゃんに怒られてきてね」

「えっ!?」

 

 ほむらちゃんを見るともの凄く怒っていた。

 怒髪天を衝くという言葉がこれほど似合う顔もそうはないだろう。

 美人が起こる姿はとても怖い。

 

「助けてくれたりは……?」

「しない。行ってらっしゃい」

 

 う、裏切り者ー!

 

 





人魚の魔女 オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ
その性質は恋憧。

いつかあんな風になりたいと夢見た少女の成れの果て。
終わらない演奏で自分自身を慰めている。
好きな人の腕を治したいと願い、最後には自身の手すら無くなった。

迎えに来る王子はなく、泡となって消えるばかり。
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