君のココロを守るため 作:一般魔法少女
両隣で眠るまどかとほむちゃんの頭を一撫でし、ベッドで横になる。
「もうすぐだ……」
僕達の全てが決まる日。
ワルプルギスが、間も無くやってくる。
運命の日が訪れる。
「勝てるかな……」
一人で考えると不安に襲われる。
やはり、スパークレンスが奪われてしまったのが痛い。
監獄の魔女の時に確実に取り戻さなくてはいけなかった。
いや、そもそも奪われてはいけない物だった。
それを奪われた僕の落ち度だ。
情けない。
ほむちゃん達には謝ったが、誰も僕を責めなかった。
きっと何とかすると信じられている。
その信頼に応えたいが、どうにもならない現実に不甲斐なく思う。
やはりスパークレンスがなければ、僕は半人前以下のウルトラマンだ。
きっと本物ならこんな事態どうとでとなるんだろう。
それができない僕は、やはり本当のウルトラマンではないのだ。
みんなの前では無敵の男でいたい。
それでも、一人だと弱さがどうしても出てしまう。
どっちつかずの中途半端が、僕だ。
考えれば考えるだけ最悪が浮かぶ。
嫌な考えから逃げるように、意識を手放した。
「……きて。起きて大地くん」
体を揺さぶるまどかの声が聞こえる。
「な、に?もう、朝?」
寝惚けながら瞳を擦ると、
「は?」
大きなスクリーンに大量に連なった座席。
どこをどう見ても、映画館だった。
観客は誰もなく、僕達だけが座席に座っていた。
「ここ、どこなんだろう?」
「わからないわ。誰も気づかない内に移動させられていたの」
誰も気づかない?そんなことありえるか?
それに、三人纏めて移動させる意味はなんだ?
ただの誘拐なら、映画館なんかに置き去りにする意味がない。
「まさか……」
唯一の出入り口であるドアを本気で押す。
普通なら壊れてしまう程の力を込めているのに、まるで壊れる気配がない。
「ハンド・スラッシュ!」
光刃がドアを焼く。
ただの扉なら簡単に壊れるだろう。
しかし、少し焼け目が付いただけで壊れることはなかった。
「魔女結界か?」
「なるほど。私達が移動したのではなく、魔女が私達を閉じ込めているのね」
つまり、僕の部屋に魔女結界が発生したということか。
だが、何の気配も感じなかった。
「ほむらちゃん達、あれ」
館内が暗くなったかと思うと、スクリーンに映像が流れ出す。
「……大人しく、見るしかなさそうね」
幸い、攻撃するような意思は感じられない。
何の思惑があるか知らないが、今は従うしかないか……。
座席に着き、二人の手を握る。
少しでも不安を和らげるため、固く握った。
【Never forget me,】
魔女文字が画面に映される。
読めない文字なのに、頭は理解している。
Never forget me?
私を忘れないで、か?
続けて文字が流れ出す。
『ここは、貴方達の過去の行いを思い返させる場所』
『良い思い出も、悪い思い出も貴方達にはあるでしょう?』
『貴方達が望むなら、良い思い出の中で浸らせてあげます』
『どうでしょう?』
「………………」
それも、幸せなのかもしれない。
勝てるかわからない未来が僕達には待ち受けている。
最強の魔女が、もうすぐ来る。
特に、ほむちゃんは辛い経験を沢山してきたのだ。
彼女のためを思うなら、辛い未来に連れて行くことは正しいのだろうか?
弱気が僕を襲っている。
その時、ぎゅっと強く手を握られた。
隣のほむちゃんが、力強く答える。
「私は、私達はみんなが幸せになる未来を目指しているわ。
良い思い出も、悪い思い出もある。
それでも、過去だけを見るのはやめたの。
現在を大切に、三人で歩いていける未来を見ている。
過去に浸る気はないわ」
『そうですか。交渉は決裂ですね』
『それでは、最悪の過去へ誘います』
文字が消えると同時に、スクリーンがぐわっと迫ってくる。
「ほむちゃん……」
「いいのよ。あなた達と一緒なら、乗り越えていけるわ」
「私も、力にはなれないけど、一緒にだけはいれるから。
だから、乗り越えよう?」
両サイドの温もりが、心を温めてくれる。
それでも何故だか、胸の不安は消えなかった。
黒猫が死にかけている。
車によって轢かれたのだろう。
その命は、もう尽きる。
『ひどい怪我……』
まどかは服が汚れるのも構わず、猫を抱きしめる。
必死に、だが猫の体を労りながら、動物病院に向かって走り出す。
「これは……」
「私の記憶、だね」
まるで、実際にそこにいるみたいだ。
記憶体験、とでも言えばいいのだろうか?
見ているというより、自分がその場にいる感覚に襲われる。
まどかの悲しみ、辛さ、どうにもならない無力感が伝わってくる。
『頑張って……!もうすぐだから!』
必死に走るが、命の火が少しずつ消えていく。
そして、最後にまどかの腕を一舐めし、呼吸を止めた。
『ダメダメダメ!死んじゃ、ダメだよ!』
だが、死んだ命が蘇ることはなく。
病院に付いた頃には物言わぬ骸へとなっていた。
『うわあああん……』
まどかの泣き声が聞こえる。
見ていられず、思わず目を逸らしてしまった。
そして、場面が変わる。
ぐちゃり、ぐちゃりと僕が刻まれている。
人形の魔女の、始まりの時。
さやかに首を絞められ殺されかけている時。
人生において辛かった、悲しかった場面を体験させられた。
「まどか……」
「ん、大丈夫。どれも辛かったけど、もう乗り越えたから」
辛かっただろう。悲しかっただろう。
それでも、今強く立っている彼女が、とても眩しい。
場面は移り変わり、とある病院へと立つ。
「ここは……」
誰もピンときていない。
だが、僕には見覚えがあった。
ここは、監獄の魔女の結界があった場所だ。
しかし、あの時とは違う。
廃病院だった現在ではなく、もっと前。
まだ、病院として機能していた頃の記憶だ。
「誰の……誰の記憶だ?」
恐る恐る、病室のネームプレートを確認する。
そこに書かれていた名前は────
────
僕の、母さんだ。
幼い赤子を抱いた一人の女性。
優しい微笑みで、赤子の僕を見つめている。
「あの人、大地くんのお母さんだよね?」
「僕も初めて生で見た。ずっと写真ばっかりだったから……」
「確か、原因不明で亡くなったのよね?大くんを産んだ直後に……」
そうだ。
母さんはこの後亡くなる。
原因不明で、何故死んだのか誰もわからなかった。
それが、わかるのかもしれない。
『レナ、体は大丈夫かい?』
一人の男性。
僕の父さんである、円 大吾が声をかけている。
こちらも若い。
十八歳の頃の父さんを見ることになるとは……。
『うん、平気。それよりもこの子が無事産まれてよかった』
『そうだね、ありがとう。よく頑張ってくれたね』
『んーん。大くんとの子供だもん。痛かったけど、平気だったよ』
『そっか……。それでも、ありがとう。二人が無事で、僕も嬉しい』
僕の小さな手と母さんの手を握る。
幼い僕は、きゅっと力一杯握り返していた。
『抱いてあげて』
優しく、宝物を抱き上げるように抱く。
その温かさが、命の温もりが、生きていることを大吾へと伝えている。
『はぁっ……。言葉に、ならないな』
『だよね。私も泣いちゃったよ……』
ポロポロと、父さんが泣いていた。
両腕は僕を抱いているため、拭くことはできない。
そんな父さんの顔を、優しく母さんが拭ってあげていた。
『名前、決まってる?』
『うん。
誰かを大きく受け止める人になって欲しい。
優しさで人を包める人になって欲しい。
いつか、この星くらい大きい人になって欲しい。
そんな思いを込めて、大地。
この子の名前は、円 大地』
『大地……。良い名前だね。この子にピッタリだよ』
僕の名前、そんな意味でつけられたんだ。
初めて聞いた。
僕は、名前に相応しい男になれているのか?
未来に恐怖している僕が……。
『おっと、お義父さん達に連絡しないと』
『大丈夫ー?また、怒られるんじゃない?』
『うへぇ、勘弁。まあ、大丈夫だと信じたいなぁ』
『ふふふ、いってらっしゃい』
扉を静かに閉じ、病室を出ていく。
きっと、部屋の外で電話でもしてくるのだろう。
「優しいご両親ね」
「うん……優しい二人に愛されていたんだ」
「大地くん、お母さんにずっと会いたがってたもんね。よかった……」
よかった……?
おかしい。
あの魔女は最悪の記憶を見せると言っていた。
この後、何が起こった?
『あれは、何?』
黒いモヤが漂っているのが見えた。
尋常ならざる気配に、レナの背筋が凍る。
『早く、逃げないと』
しかし、新生児である大地を置いていけない。
どうしたものかと悩んでいると、一匹の獣が現れた。
『やあ、僕はキュウベぇ』
珍妙な生物に警戒心が湧く。
『誰?あなた……』
『僕は魔女と対抗できる人を探している。
円レナ。
君なら、あの魔女と戦うだけの素質がある。
僕と契約して、魔法少女になってくれないかい?』
「────!」
息が止まった。
まさか、母さんが死んだのって────!
「ダメだ!母さん!」
必死に呼びかける。
しかし、声は届かない。届けられない。
『わかった。この子を守れるのがそれしかないなら、私、魔法少女になる』
『それじゃあ、願い事を言って。君の祈りが、君の強さへと変わるだろう』
私の、願いか……。
『この子が、大地が健やかに生きていってくれることかな?
怪我なく、病気なく、いつまでも元気一杯で生きてくれたら、それ以上はないよ』
願いを言った瞬間、胸から光が浮かび上がり、宝石が形作られる。
黄金の宝石。
ソウルジェムが現れた。
『円 レナ。契約は交わされた。
君の祈りはエントロピーを凌駕した。
さぁ、解き放ってごらん。君の新しい力を!』
服が変わる。
入院着が純白の衣装へ。
どこかのお姫様を思わせる、純白のドレスへと変わった。
そして、僕と視線が合う。
『誰……?まさか、大地?』
「母、さん……」
たった一つの奇跡。
二度と話すことなどできないと思っていた人と、繋がる。
過去と現在が、キュウベぇの奇跡で繋がる。
『……よかった。あなたが生きてるってことは、私はあなたを守れるのね』
「行ったらダメだ!行ってしまったら、貴女は……」
死んでしまう……。
『それでも、あなたが生きていてくれるなら、私はやる』
「なんで……。なんでそこまで……」
涙で前がよく見えない。
母さんの顔が、よく見えない。
そんな僕を、母さんは優しく抱きしめてくれた。
『だって私は、あなたのお母さんだから』
「母さん!」
窓から飛び出し、結界の中へと突入する。
後を追いたいが、病室から出ることはできない。
その記憶を僕は持っていない。
ただ、見送ることしかできなかった。
待つこと十分。
ボロボロになった母さんが帰ってきた。
『イェーイ……勝ってきたよ……』
「よかった……」
母さんはなんとか、帰ってきてくれた。
僕はてっきり、魔女にやられて死んでしまうのではないかと思っていた。
しかし、予想に反して母さんは帰ってきた。
じゃあ、なんで────?
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『およそ14年は前かな。彼女が産まれたのは』
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まさか、まさかまさかまさか!
今までの違和感が繋がっていく。
監獄の魔女がいた104号室。
寂れた廃病院。
14年前。
そして、外傷のない母さんの遺体。
ソウルジェムが穢れている。
黄金だった色は黒くなり、元の色がわからないほどに。
「母さん!グリーフ・シードは!?」
『グリーフ、シード?何それ……?
母さんは強い魔法少女ではなかった。
魔女に成りかけの使い魔相手でも、全魔力を使い切ってしまうほどには。
使い魔からグリーフ・シードが落ちる確率は稀だ。
落ちない場合の方が多い。
三滝原組の魔法少女が強すぎるため忘れてしまいそうになるが、本来一人で倒せるような相手ではないのだ。
その代償が、支払われる。
『キュウベぇ……これ、どうなっちゃうの?』
告げる。
『キミは今から魔女になる。呪いを振り撒く存在として、新たに産まれ直すんだ』
『嘘、でしょ……?』
『さようなら、円レナ。短い間だったが、君の祈りは興味深い結果だったよ。まさか、未来の我が子と繋がるなんてね』
ソウルジェムが真っ黒に染まる。
僕は穢れを吸おうと、ソウルジェムを握った。
しかし、吸えない。
あくまで過去の映像を見てるにすぎないのだから。
「母さん!」
『嫌……嫌だぁ。大地……大くん……』
母さんの涙が、ソウルジェムへ落ちる。
そして、宝石が砕け散った。
『へえ、これは興味深い!』
「インキュベェェタァァァア!!!!!!!」
心の底からの憎悪。
しかし、キュウベぇには届かない。
願ったのは母さんなのだから。
『通常の魔女ならそのまま呪いを振り撒く存在へとなる筈だが、願いの影響かな?
我が子のために自分自身を閉じ込めるなんて。
魔女としては弱いかもしれないが研究材料としては興味深いね』
一人の女性が、嘆きながら結界を作り上げる。
【Jail・Jewel・Jem】
魔女と化した母さんは、誰も襲わず、自分だけの世界に閉じ籠った。
使い魔が一体だけ飛び出し、ソウルジェムの回収に向かう。
きっと、あの五体の魔女となった魔法少女の元へ行ったのだろう。
幼い僕の声が聞こえる。
────どうして、僕にはお母さんがいないの?
────殺したのは、僕だ。
劇場の魔女 Never forget me,
その性質は哀愁。
現在と過去に存在する魔女。
どちらも倒さなければ、真の意味で倒したとは言えない。
彼女はいつも夢に浸っている。
幸せだった頃の記憶の海で。