君のココロを守るため 作:一般魔法少女
僕は、最低だ。
父さんの背中が脳に浮かぶ。
いつも一人で泣いていた。
泣かしていたのは僕だった。
知らなかった。
キュウベぇのせいだ、と言うのは簡単だろう。
だが、以前言ったようにその人の行いはその人本人の責任だ。
誰かのせいにすることなど、できやしなかった。
だって母さんを殺した時、僕は母さんが憎くて殺したんだ。
ほむちゃん達のソウルジェムを奪った母さんが憎かった。
許せなかった。
だから殺した。
その思いは、誰に何と言われても本当だ。
「大くん……?」
この場で監獄の魔女が母さんだと知る人はいない。
杏子しか見ていない。
知られることはないだろう。
それがどうした?
こんなにも汚い奴が、ウルトラマンで良いわけがない。
二人の隣に居て良いわけがない。
「大地くん。どうしたの?」
もはや、全てがどうでもよかった。
目の前で僕が魔女に切られているが、どうでもいい。
何もかも、どうでもいいんだ。
「大地くん。どうしちゃったんだろう?」
「やはりお母様が魔女になってしまったのがショックだったのよ」
「そうだろうけど、それだけじゃない気がする」
やはり、相手を気遣うのはまどかには敵わない。
「この魔女強いわね」
「そうだね。杏子ちゃんと二人がかりでも勝てないなんて……」
どうにも時間感覚が不安定だ。
5分しか見ていないようにも感じるし、20時間は見ているようにも感じる。
『ゼペリオン光線!!!』
光線の威力に耐えられず、指がブチブチと千切れていく。
あまりの痛みに、二人とも叫びそうになった。
「……大、丈夫?まどか?」
「何、とか……」
大地くんの記憶はずっと痛いことの連続だった。
彼が、どれほどその身を捧げてきたのか。
どれほど痛みに耐えてきたのか。
ずっと辛い思いを、無敵の仮面の下に隠していた。
その思いを、一端は知ることができた。
だから、少し嬉しい。
痛みが嬉しかった。
『ここだね』
大きな扉。
その先に座っていたのは一人の女性。
ついさっき見たばかりの、一人の魔女。
「あれ、まさか!?」
「大くんのお母様!?」
何も知らない大地が、光線を構える。
「ダメ────!」
『八つ裂き光輪』
叫び虚しく、円盤状の光線が空を舞う。
一直線に魔女に向かい、呆気なく頭を切り落とした。
『愛、してる』
魔女の頭が落ちる瞬間、最後に残した言葉は我が子への愛だった。
「…………」
「大、くん」
言葉にならない。
なんと、声を掛けたら良いものか。
景色は移り変わり現在が流れている。
母親を殺したことへの罪悪感。
インキュベーターへの憎悪。
そして、自己嫌悪。
「見ないで……。僕を見ないでくれ……」
顔を覆い、子供のように隅に蹲る彼。
いつもの格好よくて、優しくて、頼りになる彼はどこにも居なかった。
「……見ていただろう?僕が、母さんを殺したのを」
「でもそれは、みんなを助けるためで────!」
「助けるためだったら、親を殺してもいいのか?」
「ッ!」
良い訳がない。
それでも、あの魔女はもう手遅れだった。
大地の母親の肉体は、とっくの昔に火葬されている。
グリーフ・シードだけあっても、さやかのように復活はしない。
そもそも、監獄の魔女はグリーフ・シードを落とさなかった。
弱すぎた。弱っていた。
封印により、自らのグリーフ・シードを消費することで存在を保っていた。
どう足掻いても助けられない。
それでも、大地は後悔に包まれている。
まどかの声が届かないほどに。
「大地くん……」
抱きしめようとした手を振り払われる。
「もう、放っておいてくれ。僕はまどかに優しくされていい人間じゃない。君に助けてもらって良いやつじゃないんだ」
「────」
初めて、拒絶された。
14年間、何があっても優しく受け止めてくれた彼に。
初めてのことに息が詰まる。
なんて声を掛けていいのか、わからない。
どうすれば、いいんだろう────?
ずっと沈黙を保っていたほむらが、口を開く。
「……これから、私の過去が始まるわ」
「何の過去が流れるか、大体想像がつく」
「本当は、二人に見て欲しくない。
墓にまで持って行きたかった私の秘密」
「それでも、見てほしい。本当の私を」
『暁美、ほむらです』
三つ編みに、赤縁の眼鏡を掛けた大人しい印象を感じさせる女の子。
もじもじと人前での自己紹介に恥ずかしがる普通の女の子。
これは、以前見たほむちゃんの擬態の変装。
今の堂々とした印象とはかけ離れた姿に、驚きを隠せない。
『暁美さん、どこから来たのー?』
『髪サラサラだね!何のシャンプー使ってるの?』
『てか、肌キレー!どうしたらそうなるの?』
『いや、あの……』
矢継ぎ早にくる質問に、言葉を返さない。
ずっと入院生活だったから、人混みに慣れていないのだ。
あたふたしていると、一人の少女が声を掛けてくれた。
『ダメだよ、みんな。暁美さんお薬飲む時間決まってるから、あんまり引き留めたら』
『そうなの?ごめんね?』
『悪いことしちゃったね』
蜘蛛の子を散らすように、クラスメイト達が離れていく。
残った一人の少女は、私の手を引いてくれた。
『私、鹿目まどか!』
「私、ほむらちゃんとこうやって出会ったんだ……」
「ええ、素晴らしい思い出よ。そして、最悪の始まりでもあるわ」
一人、帰り道を歩く。
久しぶりの学校はとても疲れた。
勉強も運動も、私にはできない。
ついていけない。
情けない自分に、嫌気が差す。
そこに、一匹の使い魔が現れた。
『じゃあさ、生きててもしょうがないよね?』
『そうだ。生きてたって、良いことない』
『死んだ方がいいよね』
『そうだ。死んじゃえば……』
そして、我に帰る。
先程まで歩いていた景色とまるで違う。
キャンパスに滅茶苦茶に絵の具を塗りたくった景色に、不気味さを覚えた。
『なに、ここ?』
その時、奥の凱旋門かは顔面をぐしゃぐしゃにされた木偶の坊が迫ってくる。
恐怖のあまり足が動かない。
もう駄目だ。
ここで死ぬんだ。
そう諦め掛けた時、空から何本もの矢が使い魔を撃ち抜いた。
『えへへ、いきなり秘密がバレちゃったね』
『クラスのみんなには、内緒だよっ!』
凛々しい姿。
あんな化け物に立ち向かっていける鹿目さんに、私は憧れた。
優しくて、堂々としてて、凛と立ち向かっていける、そんな鹿目さんに。
そして、死んだ。
『うっ……ううっ……』
ワルプルギスの夜と呼ばれた魔女は、とても強かった。
巴さんを殺し、一人立ち向かった鹿目さんも殺された。
『どうして……?死んじゃうって、わかってたのに……』
何でかなんてわかってる。
それでも、言わずにはいられない。
『暁美ほむら。君の願いは何だい?』
キュウべぇの問いかけ。
そんなの、答えは決まっていた。
『私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい!
彼女に守られる自分じゃなくて、彼女を守れる自分になりたい』
繰り返す。
『鹿目さん!私も魔法少女になったんだよ!』
修行も沢山した。
魔女も倒した。
今度こそ勝てる!三人なら、きっと!
そう思って挑んだ戦いで────
みんな、死んだ。
繰り返す。
『食うかい?』
繰り返す。
『あんたさぁ、その情報正しい訳?』
繰り返す。
『みんな死ぬしかないじゃないっ!』
繰り返す。
『お願い、ほむらちゃん。私、魔女にはなりたくない』
繰り返す。
殺す。
繰り返す。
殺す。
繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。繰り返す。殺す。
ずっと繰り返した。
その数だけ、死体は積み重なっていった。
私はまどかを諦められない。
だが、何度も繰り返すたび、みんな死んでしまう。
つまり、殺しているのは私だ。
私が繰り返さなければ死なない命はあった。
それでもまどかを諦められない。
諦められないのだ。
『そいつの話を聞いてはダメ────!』
しかし、無情にも魂の輝きが辺りを照らす。
百通りのまどかがいた。
百通りの死に方をした。
中には、ほむら自身で殺したまどかもいた。
さやかも、マミも、杏子も。
魔法少女の運命からは逃れられない。
直接、何度も殺してきた。
何度も、何度も、何度も。
終わらない迷路を繰り返す。
いつか来ると信じてる、終わりまで。
「あなたがお母様を殺したように、私も友達を殺してるわ。それも、一人二人じゃなく、沢山。
あなたが助けてもらっていい奴じゃないなら、私の方がどうしようもない」
「でもそれはみんなを守るためで────!」
パシリ、と頬を叩かれる。
「あなただって、同じじゃない!」
「何で、そう言ってくれたあなたが自分を否定するの!?
私に未来を見せてくれると言ったあなたが、自分を諦めるの!?」
「────!」
「私は、こんな私でも幸せになっていいって、あなたが言ってくれたから未来へ行こうって思えたのに……。
どうして、その思いを否定するの……?」
幼子のように泣き、吐き出される叫び。
そうだ。
僕は、彼女が何をしたのかなんて知らなかった。
それでも、その寂しそうな体を、小さな背中を助けたくて、手を伸ばしたんだ。
その思いは決して嘘なんかじゃない。
彼女の過去を知った今でも、幸せになってほしいって思ってる。
「あなたが泣いてるなら涙を拭いてあげたい。
あなたが苦しんでいるなら、苦しみを取り除いてあげたい。
あなたが悲しむなら、笑わせてあげたい」
ぎゅっと、抱きしめられる。
優しい、僕を思い遣ってくれる手つきで。
「あなたが自分を好きになれないのなら、好きになれるまで私が愛すわ。
ずっと、ずっと。
いつか自分を好きになれるその日まで」
それは、いつの日かまどかへ送った言葉だった。
優しい彼女が自分を卑下するのが嫌で、どうにかしたくて言った言葉。
彼女もきっと、同じなのだ。
大地に救われたのに、その大地が自分を嫌いになっている。
そんな大地を見るのが嫌で、どうにかしたいと思っている。
だって、大地のことが大好きなのだから。
男の子の中で、一番。
「ごめん……ごめん、ほむちゃん」
涙が溢れる。
止めようとしても止まらない。
「いいのよ。私はどこにもいかないから」
優しく、幼い子を慰める手つきで背中を叩く。
その感触に、何故だか母さんを思い出し、更に涙が流れてしまった。
「よかったね……大地くん」
目尻に溜まった涙を拭いながら、二人を見つめる。
大地は、まどかでは助けられなかった。
同じ経験を沢山してきたほむらにしか、今の大地は救えなかった。
優しさと弱さを兼ね備えた、ほむらにしか。
その事に少し嫉妬してしまうけれど、二人が幸せならいいかと思えてしまった。
天高く、手を掲げる超巨大の魔女。
過去の映像だというのに、見ているだけで背筋が寒くなる。
「あれが、私……」
私の結末。
願いの果てが、あんな者だなんて……。
「え?」
目が、合った……?
いや、これは過去の映像だ。
合うはずがない。
合うはずが、ないのに。
何故だか嫌な予感が止まらない。
世界がガラスのように割れた。
二人の間を隔てていた世界の線が粉々に砕け散った。
「きゃああああ!!!」
巨大な手に掴まれる。
これは、吸収されて────!
「まどか!」
「なんで!?過去の映像なんでしょ!?」
そう。
過去の映像のはずだった。
しかし、この場に鹿目まどかがいたことが不味い。
『鹿目まどか』が、『鹿目まどか』を観測していたのがいけなかった。
宇宙の概念改変を行えるほどの因果律を持つ二人が、互いを認識したのだ。
異なる世界線を繋げることなど、造作もない。
【Kriemhild_Gretchen】
最悪の魔女が、出現した。
救済の魔女 クリームヒルト・グレートヒェン
その性質は慈悲。
この星の全ての生命を強制的に吸い上げ 彼女の作った新しい天国(結界)へと導いていく。
この魔女を倒したくば 世界中の不幸を取り除く以外に方法は無い。
もし世界中から悲しみがなくなれば 魔女はここが天国であると錯覚するだろう。
通常ならば、世界を滅ぼすだけだった。
しかし、鹿目まどかが観測してしまった。
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。