君のココロを守るため 作:一般魔法少女
「走って!」
まどかが連れ去られた。
掴んだ腕の後を追うように、必死に足を回す。
「何でまどかなんだ!?」
「握って!時を止めたらまだ追いつける!」
手を握った瞬間、ほむらの時計盤が止まり世界を停める。
絶対無比の時間停止が全てを止める。
だが、モノクロの視界の中で動く一体の魔女。
「嘘でしょ!?」
いついかなる時も頼りになった魔法が効かない。
救済の魔女が、時間停止など許すものか。
これが鹿目まどか。
これがクリームヒルト・グレートヒェン。
暁美ほむらとは、格が違うのだ。
「な、何!?」
その瞬間、背後に現れた魔女にほむらが飲み込まれる。
ゴシックドレスのような真っ黒な服に身を包み、魔女帽を被った魔女。
劇場の魔女がほむらを捕らえた。
「ほむちゃん!」
即座に腕をL字に組み、光を放つ。
「スペシウム光線!」
青色の光線が一直線に魔女に走る。
0.1秒以下の即決。
避ける暇などある訳がない。
当たった────!
だが、
逆再生のように、光線が巻き戻る。
ぐるりぐるり。
巻き戻されたことにより、光線を撃った事実は消滅する。
そして、何事もなく魔女は立ち去った。
「クソッ!逃げるな!」
後を追おうとして、クリームヒルトが天高く、どこまでも伸ばした腕で何かを突き破る。
そして、
バラバラとガラスのような破片が落ちてくる。
割れた空の隙間から、天使のような使い魔が降ってきた。
目まぐるしく変わっていく。
状況は悪化する一方だ。
これを打破できるのはウルトラマンしかない!
「頼む……!スパークレンス!今だけでいい!今だけでも来てくれ……!」
祈る。
この時だけでいい!
今後の人生で奇跡が起こらなくたって構わない!
だから、力を!
しかし、何も起こらない。
スパークレンスが現れることもない。
何もしない者に奇跡など降ってくるものか。
「うわぁぁあああ!」
その時、遠くで使い魔にぶら下げられる人が見えた。
「ああっ……!もういいよ!自分でやる!」
走り出すと同時に手の平を擦り合わせ、光をスパークさせる。
「ハンド・スラッシュ!」
吊り下げていた部分を狙い、光刃を放つ。
切ることはできなかったが、衝撃で解放される。
「おおおおお!」
地面に着く前に滑り込み、床に降ろす。
間一髪だったが、何とか間に合った。
「ここにいて!」
怪我の心配をしてる暇はない。
敵に向き合い、駆け出す。
「八つ裂き光輪!」
羽が生えた天秤のような姿をした使い魔。
弱そうな翼の付け根に光輪を飛ばし、切断を目論む。
だが切れない。
ギギギと嫌な音を立て、光輪の刃が削られていく。
「固すぎるだろ……!」
大きく翼を羽ばたかせたと思うと、羽が矢のように降り注ぎ視界を埋め尽くす。
「ウルトラ・シールド!」
羽が弾丸のように突き刺さる。
壁を削る音。
あまりの威力に掘削機のように、みるみる内に光を削り取っていく。
一枚一枚が魔女の一撃に匹敵するほどの威力を秘めている。
なるべく体を小さくし、光の密度を上げることでやり過ごした。
「八つ裂き光輪!」
バラバラに放ってもダメだ。
三つの刃を一つに束ね、一点に集中させろ!
胴体を切り付ける。
黒板を引っ掻いた音を百倍大きくした音が辺り一面に響き渡る。
今度は、ほんの僅かではあるが擦り傷をつけれた。
全力で駆け抜け、使い魔にこれでもかと密着し、傷に向けて光を放つ。
「スペシウム光線!」
ゼロ距離での光線が使い魔の表皮を突き抜ける。
内部で乱反射した光が使い魔の全身を焼き、殺し尽くす。
やっとだが、一体の使い魔をした。
一体でこの強さ。
最悪の魔女の強さは伊達ではない。
いや、それより助けた人だ。
「大丈夫?怪我はない?」
「あ、ありがとう!」
「────!」
振り返ると、
ほむちゃんは僕のことを今までの時間軸で見たことがないと言っていた。
だから、どの世界線にも僕は存在しなくて、たまたま僕が居たのだと思っていた。
違った。
僕がいないんじゃない。
僕がまどかと出会っていないのが、大半なんだ。
「……避難所に走るんだ」
「あっ!おい!」
『彼』をその場に置き、逃げるように走り去った。
嬉しい。
僕の、僕だけのまどか。
全時間軸でまどかと出会えたのは僕だけ。
それが、とても嬉しい。
こんな醜い思いを抱えてるなんて、君は思いもしていないだろう。
他の世界の僕になんかやるもんか。
助けさせてやるものか。
彼女は、彼女達は、僕が助ける。
街のあちこちで吊り上げられた人々が見える。
避難所から引きずり出された人達。
その全てを撃ち抜き、人々を解放する。
「狙うなら僕を狙え!」
「まどかに人を殺させるものか!
世界を滅ぼさせるものか!
魔女なんかに、僕の大切な人達を奪わせるものか!」
百を超える瞳が大地を貫く。
あれは敵だ。
我々の罪の計量を邪魔する謀反者だ。
大罪人である。
罪の重さを暴かねば。
魔女からの深い慈悲が必要である。
裁きの時だ。
全ての使い魔が大地に狙いを定める。
一体一体が並の魔女を超えている。
強さ、速さ、固さ。
全てが揃った使い魔が、大地をすり潰さんと飛翔を開始した。
「来い!!!」
街中を疾走する。
両手に光輪を構え、飛んでくる羽を切り落とす。
一体、吹き飛ばす。
五体に増えた使い魔が、大地を吹き飛した。
地面を何度もバウンドしながら体勢を立て直し、スペシウム光線を撃ち放つ。
体表で受け止められ、他の十体が大地の体を羽で撃ち抜く。
「まだだ!!!」
血だらけの体で蹴り飛ばす。
怯んだ様子などまるでなく、大地を羽で殴り飛ばした。
それでも立ち上がる。
脇を締め、腰で握り拳を構える。
手の平を水平に交差し、紫のエフェクトが色濃く煌めいた。
L字に組まれた腕に、全ての光を集中させる。
「ゼペリオン光線!!!!」
溜めに溜め込んだ全ての光をゼペリオンに込める。
かつての魔女の時より数段上の威力。
両の腕が威力に耐え切れず千切れ飛んでいく。
だが、決して緩めない。
コイツらを倒しきるまで、緩める気はない。
百を超える数の使い魔が消滅していく。
全身が沸騰する。
脳が茹でられ、血管は直接熱湯を注いだような激痛が走り続ける。
力を込めて、込めて、込めて。
そして、千を超える使い魔により、ゼペリオン光線はすり潰された。
「ち……くしょう……」
その場に崩れ落ちる大地。
光線の反動で、小さくなった命が尽きかける。
叛逆の目は潰えた。
一体の使い魔が大地を持ち上げる。
罪深き反逆者を裁くのだ。
心臓を秤に乗せようとして────
────止まった。
誰かに引き留められたかのように、使い魔が止まる。
大地の心臓を抉り出そうとしていた使い魔は、興味をなくしたように大地をその場に捨てていく。
「な……にが……」
なぜ、捨てていった?
わからない。
わからないが、まだ戦える。
無くなった両の腕を光で補おうとして、倒れ込む。
光が、足りない。
限界ギリギリまで絞り出した反動で光が使えない。
地面に頭を擦り付けながら、なんとか立ち上がる。
口は土で汚れ、苦い敗北の味がした。
それでも鈍くなった足を動かし、廃墟と化した街中を歩き続けた。
ふらふらと街中を歩く。
何度か瓦礫につまづき転ぶが、何度でも泥に塗れながら立ち上がる。
諦めない。
決して諦めてなどやらない。
歩き続ける内に、人が倒れてるのが見えた。
転びながら必死に駆け寄り、無事を確かめようとする。
「ま……どか?」
それはまどかの遺体だった。
魔女が抜けていったため、魂のない空っぽの肉体。
ゴミのように道に捨てられていた。
違う。
僕の知ってるまどかじゃない。
まどかじゃ、ないのに……!
心が折れそうになる。
「もう、大丈夫だから……。
こんな所で一人寂しく死なないでよ……」
顔を撫でてやりたくて、腕がないことを思い出した。
それが悲しくて、辛くて、負けそうになる。
腕がないことじゃない。
君を撫でてあげれないことが、とても辛い。
遺体を何とか背負い、廃墟を歩く。
行き場のない思いが背中にのしかかる。
その足取りは、とても重たかった。
避難所が見えてきた。
雨が止んだことで、中にいる人達が出てきたのだろう。
詢子さんと知久さんが、心配そうな顔で空を見上げていた。
「おーい!君、大丈夫か!?怪我してないか!?」
僕は知っているが、向こうは知らない。
他人だ。
ギョッとした顔で僕に駆け寄ってくれる。
今の僕は両腕がなく足に穴が空きまくり、顔面が熱で溶けている。
とても生きている人間には見えないだろう。
「酷い怪我じゃないか!早く治療を……」
そして、僕が背負っている人物に気がついた。
「ま、どか……?」
「…………」
信じられない者を見る目で見つめられる。
信じたくないだろう。
認めたくないだろう。
だが、現実だ。
「まどかぁぁぁあああ!」
駆け寄ってきた知久さんが、まどかを抱き上げる。
反応はない。
脈も、体温も、何もない。
「まどか!しっかりして!まどか!」
知久さんの悲痛な叫び。
大切な娘がいつの間にか死んでしまった。
その悲しみを想像することなんて、僕にはできない。
「だから、行くなって、あれほど……!」
「まろか、おきて……おきてよ……」
詢子さんもタツヤくんも泣いている。
特に詢子さんが泣いてるのなんて初めて見た。
いつだって強くてかっこいい、弱みを見せない人だと思っていたから。
その詢子さんが、泣いている。
「……大丈夫です。まだ、何とかなります」
ほむちゃんはいない。
スパークレンスもない。
頼れる仲間なんて一人もいない。
それでも。
「僕が何とかしてみせます。
みなさんは僕が誰か知らないでしょう。
初めて会った、赤の他人でしょう。
でも、僕にとっては実の家族のように、大切に思っている人達です。
絶対にまどかを取り返します。
どうか、信じてくれませんか?」
この人達を涙でお別れになんてさせない。
僕が辛い時にはまどかだけじゃない、鹿目家のみんなが助けてくれた。
知久さんは美味しいご飯で、僕の心を温めてくれた。
詢子さんはその厳しさで、僕を鍛えてくれた。
タツヤくんは僕にとっても弟のような存在で、僕に家族の暖かさを教えてくれた。
そんな人達を悲しませたままにして良いものか。
「君は……?」
決意を胸に高らかに、大きく、勇気を与えるほど堂々に宣言する。
「僕は────ウルトラマンだ」
戦力差は絶望的。
光もない。
それでも、とクリームヒルトへ向かって駆け出す。
「うおおおおおお!!!」
なぜ、あの時僕が殺されなかったのか。
それはきっと、まどかが内側から止めているんだ。
人を殺すのを必死に抵抗している。
まどかはまだ、諦めてなどいない。
それなのに僕が先に諦められるものか!
使い魔達が道を塞ぐように重なり合う。
足になけなしの光を込め、三角跳びのように使い魔を足場に飛び抜ける。
「まどかぁぁぁあああ!!!」
羽虫のようにうろちょろする僕に、いよいよ使い魔が痺れを切らし計量に取り掛かる。
僕が本格的に目障りになったのだろう。
まどかの意思を無視して、僕の心臓を抉り出そうとした。
そして、
「どうして、お前が……?」
ゴシックドレスをたなびかせ、髪をかきあげる。
ほむちゃんを取り込んだはずの劇場の魔女が僕を助けてくれた。
『あなたも一緒に夢に浸らせてあげるわ』
コイツは一体何が目的だ?
最初から僕達を攻撃する意思はなく、夢に浸らせようとしてくる。
訳がわからない。
魔女の行動からあまりにも逸脱しすぎている。
「何なんだ……お前は……」
『私は劇場の魔女。
終わらない幸せを繰り返す。
あなたも幸せがお好きでしょうに、何故抵抗するの?』
『辛い現実など見たくないでしょう?
誰かが死ぬところなんて見たくないでしょう?
あなたを終わらない過去へ連れていくわ』
「五月蝿い。僕の幸せをお前が決めるな。
僕が諦めたら、誰がまどかを幸せにする。
ほむちゃんを幸せにできる。
二人を幸せに導くのは僕だ。
決して、幸せな過去なんかじゃない。
辛いかもしれない未来で、僕が幸せにしてやる」
未来を見る大地。
過去に縋り付く劇場の魔女。
二人は決して分かり合えない。
『あなたは……自分が死ぬことを勘定から外しているわ。
あなたが死んだ後のことを考えているの?
残された人はどうすればいいの…?
愛をどこに向かわせたらいいの…?
わからない……。
私には、わからない』
それは、一人の女の嘆きだった。
愛する者に先立たれ、未来を見ることを諦めてしまった者の嘆き。
「お前……」
『わからないから、閉じ込める』
綺麗な黒髪をたなびかせ、帽子の下で怪しく目が光る。
その瞬間、一筋の極光が天を貫く。
その光はどこまでも気高く、みんなをどこまでも連れていってくれそうな導き。
まさか。
「ティガ……?」
僕の口から信じられない言葉が漏れる。
ありえない。
ティガは僕だけだ。
他に現れることなんて、ない。
光の柱が収まり、奥から一体の巨人が現れる。
銀の頭、赤と紫が混ざり合った体色。
胸に輝くカラータイマー。
その輝きが世界を照らす。
クリームヒルトによって覆われた天の雲を割り、人々の心に光を差す。
紛うことなく、本物のウルトラマン・ティガが世界を救うべく現れた。
は?
その感情の名前は嫉妬。
誰にも向けたことがないほど怒りを、自身に向ける。
あまりの感情に大気が震え上がり、空間が裂けていく。
ふざけるな……!
「まどかを助けるのは、僕だ!僕以外の光の巨人に譲ってなどやるものか!!!」
僕以外が、まどかを助けるだと?
そんなことは許さない。
それは大地の逆鱗。
魔法少女が助けるのはいい。
他の誰かが助けるのはいい。
だが、ウルトラマンが助けることだけは許さない。
許せない。
彼女を救う光の巨人は僕だけでいい。
「僕の愛を、僕以外が救うな!」
心で闇が渦巻く。
光が来ないというのなら、僕の中の闇を吐き出すまでだ。
今まで魔法少女達から貰っていた心の闇。
僕がキュウべぇに抱いた本気の憎悪。
その全てを解き放つ。
「闇よぉおおおおお!!!!」
スパークレンスの変身プロセスとは真逆。
闇が体内から溢れ、漆黒の殺意を辺りに振り撒かれる。
天高く登る闇の柱。
闇の柱が消えた時、奥から一体の巨人が現れた。
漆黒の肉体。
灰色のラインが全身を巡った、3000万年前、多くの巨人達を殺した姿。
『僕は、ティガダーク』
『祈りを砕いて、闇を奪う』
ティガダーク
3000万年前、数多くの巨人を殺した者。
変身者は円 大地。
光の巨人に対する嫉妬。
助けられない自身への怒り。
魔法少女達の呪いが融合した姿。
光を捨て、闇を受け入れた。
たった一人の孤独な巨人。